「セバスチャン」ホークは慎重な声で言った。
「そう。アンダースの救出は俺が計画した。彼が君の囚人となっていると聞いたのでね」と彼は言うと、表情を硬くした。
「カークウォールでの脅迫の後で、君の手に彼を委ねておく訳にはいかなかった」
セバスチャンはゆっくりと頷いた。
「無理からぬことです」と彼は言って、他の座っている二人と、意識不明の一人の方を見やった。
「それで、この方達は?」
「ソリア・マハリエル、ナサニエル・ハウ。それと彼がゼブラン・アライナイ」
ホークは短く紹介し、名を聞いた二人は頷いて見せた。
セバスチャンは驚いて目を見はった。
「フェラルデンの英雄が?ここスタークヘイブンに?これは、光栄です」
と彼は言うと身軽に馬から飛び降り、改めて彼女に向かい礼をすると、不安と安堵の入り交じった心境でアンダースの顔と彼女を見比べた。
「すると、ここにはアンダースの上官としていらっしゃた?」
彼女はゆっくりと頷いた。
「彼は私の監視下にある囚人です、彼を連れて行かれるのでしょうか?」
彼は心が沈み込むのを感じ、アンダースの方を見ながら両手で固く手綱を握りしめていた。
「それはこれから決めることです」とソリアが言うと、彼女も立ち上がった。
「あなたとお話する必要がありそうですわね。一緒に少し辺りを歩きませんか?」と彼女は声をかけた。
彼はフェンリスと、それからホークの方をちらっと見てから、再び彼女に向き直るとゆっくり頷いた。
「光栄に存じます」と彼は言うと、彼の衛兵隊長に振り返った。
「しばらく馬と部下達を休ませても良いだろう、セリン。今すぐの危険は無いようだ」
「はい、閣下」セリンは彼に慎重に頷きかえすとそう言って、部下達と更に数フィート下がってから馬から下り、休憩のためのキャンプを設置するよう命じた。
セバスチャンはしばらくじっとアンダースを眺めていたが、それから振り返ってソリアと一緒に立ち去った。
アンダースは二人が立ち去るのを見つめていたが、それからそわそわとホークの方を見た。ホークは落ち着いた様子で彼の目を見つめると、傍らのナサニエルに振り向いた。ナサニエルは唇を軽く引き結ぶと唐突に立ち上がった。
「君の馬を見せてくれないか、フェンリス?これほど立派な馬はフリーマーチズを離れてからと言うもの、滅多に見たことが無かった」
フェンリスはちらりとアンダースを見たが、それからゆっくりと頷いた。
「いいとも」と彼は言うと、彼の二頭の馬を繋いであるスギの木立の方へ歩き去り、ナサニエルが後に続いた。
「座ってくれ」ホークが静かに言った。
アンダースは頷くと、再びさっきの丸太の上に座った。彼らはしばらくただ座ったまま、お互いの顔をじっと見つめていた。
漸くホークが小さく溜め息を付くと、微かな笑みを浮かべた。
「元気そうで……良かった。俺が想像していたよりずっと」
そう彼は言うと、彼の唇の隅が微かに上がった。
「君も、元気そうだ」アンダースは静かに答えた。
「フェンリスは、イザベラが君とベサニーをアマランシンへ送り届けたと言っていたが……ベサニーはどうしてる?」
「上手くやってるよ……ヴィジルズ・キープのウォーデン達と、地元の村に住むその家族達の中にも彼女は大勢友達を作っていた。みんなベスのことが大好きだ」
ホークは言うと暖かな微笑みを浮かべた。
「彼女があそこで、みんなに認められ上手くやっているのを見ることが出来て、本当に良かった。彼女は……カークウォールの後、人が変わったようになってね。トラスクとブラッドメイジの一味に誘拐された時、彼女がどれ程怒っていたか覚えているかな?まあ、オシノが俺達に刃向かった時の彼女の反応と来たら、あれどころじゃ無かった。以前は彼のことをむしろ崇拝していたとさえ言っても良かったからね、彼女は」
アンダースは顔をしかめた。
「彼がブラッドマジックに手を染めたというのが今でも信じられないよ。それとフェンリスは、彼が何らかの形でリアンドラを殺した狂人とも関わっていたとか言っていたが?」
「ああ」ホークは頷くと、蘇った怒りに唇を堅く引き結んだ。
「あの鋳物工場の地下で見つけた、”O”とだけ署名されたメモを覚えているか?あれが、オシノだったらしい」
アンダースは強い嫌悪感と共に、静かに罵り声を上げた。
ホークも頷くと、視線をそらせた。
「お前にも想像出来るだろうが……カークウォールの後、しばらくはメイジ達を応援する気にはなれなかった」
アンダースはゆっくり頷いた。
「判るよ」と彼は言うと、じっと彼の手を見つめてしばらくじっとしていた。
「ホーク……カークウォールで、あんな風になってしまったことは……本当に済まなかった」
長い沈黙。
「俺も、悪かった」
漸くホークは、微かにささやくような声で言った。彼らは長い間、お互いの顔をじっと見つめ合っていた。
「君とネイトは……?」しばらくしてアンダースが、ためらいがちに尋ねた。
ホークはニヤリと唇の片方を曲げた。
「ああ。驚いたどころの話じゃ無かったが……俺は最初、あいつがベスに興味を持っているものとばかり思っていた、俺じゃ無しに。とうとう彼は俺の無神経さにしびれを切らして、つまり、その……」
彼は言葉を切ると、嬉しげな様子で顔を赤らめた。
「その、彼は俺を壁にバンっと押し付けると思いきりキスをしてね、『君は盲か』と言ったと思うと、そのまま歩き去った。俺はしばらくしてから漸く立ち直ると、彼を追いかけた」
アンダースは短く笑った。
「彼がそうする所が想像出来るよ」と彼は言うと、再び横を向いた。
「彼はいいやつだよ、ただし、フェンリスの二倍のむっつり屋で、イザベラの二倍のこっそり屋で、アヴェリンの二倍の石頭で無い時は」
ホークはその描写に愉快そうに鼻を鳴らした。
「全くだ」と彼は同意すると、ソリアとセバスチャンが丘の斜面で並んで立ち、何か話し込んで居る様子を眺めた。
「それで、お前とセバスチャンは……?」
アンダースは頭を振った。
「いや。その……僕の方は引かれているのは確かだけど。知ってるだろ、いつも難しい相手ばかり好きになる」
軽い調子でそう言うと彼はホークを見つめ、再び落ち着かない様子で顔を背けた。
「彼は……いい人だ。彼は僕を単に殺すことだって出来たし、僕を暗い牢屋にぶち込んで、鍵をその辺に放り投げておいても良かった、あるいはチャントリーに突き出すことだって……だけどその代わりに、彼は僕に仕事を与えた、役に立てる仕事を。僕に生きるための理由をくれた。それに僕を護ってもくれた、単に僕を諦めて放り出す方がずっと簡単だった時でも。それで思い出したけど、君の後をシーカーが追いかけているというのは知ってるか?」
「ヴァリックがさらわれた話か?そのことはマイナンター川を遡る途中で聞いたよ――たまたまソリアの旧知のドワーフ商人と出会った時に、彼がそう言っていた。もっとも彼は、俺がヴァリックを知っているとは知らなかったんだけど。単に彼にとっては、ドワーフ商人ギルドのお偉いさんに関する噂話だった」
アンダースは頷くと、シーカーが彼も誘拐しようとした件についてホークに手短に話を聞かせ、その男についてその後彼らが聞いた僅かな話も伝えた。彼がちょうど話し終えた時に、ゼブランが身じろぎするとうめき声を上げた。
彼は素早く立ち上がると、エルフの側に屈み込んだ。
「やあ、生ける者の世界に戻ってきたかな?」と彼は尋ねた。
ゼブランは再び呻いた。
「多分ね。治療を始められる位に君の力が戻ってると良いんだけど?」と彼はごく僅かに不安げな響きを声に滲ませて尋ねた。
アンダースは頷いた。「とにかく、始めることは出来そうだ」
アサシンは周囲を見回すと、少し離れたところに居るセバスチャンの衛兵の姿に気付くや否や身を固くした。
「ソリアはどこに居る?」と彼は鋭く尋ねた、声は低く危険な響きがあった。
「あっちでセバスチャンと話をしている」とホークが答えて、ゼブランの背中側の丘を指さした。
ゼブランは彼女の姿を見ようと、ほとんど頭を逆さまになるまで傾け、傷ついた肩に触って痛みに息を飲んだ。
「良かった」彼女の姿を認めて、彼はほっとしたように頷いた。
「治療する前に準備して欲しいものがある――包帯と、副え木に使える滑らかな棒きれ、それと他にも幾つか……」
アンダースが口を切った。
ホークは頷いた。
「何があるか見てみよう」彼はそう言うと、身体の向きを変えた。
「ネイト!」彼は大きな声で叫び、手を振って男を呼び戻した。フェンリスも後に付いてきて、アンダースは手早く彼が必要な物品について説明した。
「セバスチャンの衛兵が持っていないか、見てこよう」とフェンリスは言うと、セリン衛兵隊長と話すために立ち去った。
ナサニエルは適当な副え木となるような小枝を見つけて皮をはぎ、ホークはソリアの一行が持っていた小さな救急箱をテントから掘り出した。フェンリスも衛兵が携帯していたそれより大きめの箱と、誰かの寝袋に入っていた余分の毛布を一緒に持ってきて、それを応急の包帯にするため器用に細く切り分け始めた。
あっという間にアンダースが治療を始める準備が整えられ、最初にゼブランを魔法で再び眠らせてから、彼はようやく砕け散った骨を元の位置に戻し、周囲の引き裂かれ、あるいは押しつぶされた組織を治療する、長く手間暇の掛かる作業に取りかかった。
セバスチャンはもう数ヶ月も前となった、スタークヘイブンにアンダースが現れて彼に降伏してからの出来事を彼女に話し終えた。ソリアは重々しく頷くと、眉間に皺を寄せて考え込みながら再び丘の斜面をゆっくりと下り始めた。セバスチャンはこのエルフの女性を観察しながら、その側を歩いていた。
「あなたがアマランシンの当時に知っていた姿とは、アンダースは大きく変わったと考えていいでしょうな?」
彼はしばらくしてから、ためらいがちに彼女に尋ねた。
彼女は頷いた。
「ええ。彼の変化についてはジャスティスと同じくらい、私自身にも責任があります。彼はあの精霊と一体となるまでは殺人者ではありませんでした。彼らが共に行った最初の行為が、テンプラーの一群と彼を裏切ったウォーデンの仲間の一人を殺害し、その場から逃亡することだったと聞いた時に、彼にどれ程まずい事が起きているか気が付かなければいけなかったのに。それが自己防衛のためだったのはほとんど間違い無かったとしても」
彼女はそう付け加えると、片手で何か追いやるような仕草をした。
「何年か前に、アマランシンで彼と私がテンプラーに襲撃されたことがあって……私はそれと同じような物だろうと考えてしまったのです、それで彼が反撃せざるを得なかったのだろうと。それで、彼がカークウォールでとりあえず平穏に落ち着いて、人々の役に立っているという知らせを私が受け取った時、そのまま放って置いてしまった」
「すると、彼がカークウォールに居ることはご存じだった?」
「もちろん。彼は私の部下です……簡単に目を離しはしません。他のグレイ・ウォーデンや商人達から、何年にも渡って彼に関する報告は定期的に受けていました。だけど私自身で彼に会いに行くべきでした」
彼女はそう言うと顔をしかめた。
「ホーク達から、彼とジャスティスが何をしでかしたか聞いた時には、私は驚きと怒りを感じました。あの精霊は、彼に良くない方向の影響を与えてしまったようですね」
セバスチャンは頷いた。
「時々思うことがあります……今の彼は、精霊が居なくなった後、元の彼らしい姿に戻りつつあるのでは無いかと。彼は……良い人間のように思えます、過激な思想に追いやられることが無くなった今では」
ソリアは同意して頷いた。
「そうよ」と彼女は言うと、彼女の指揮下にあった当時のアンダースの逸話を、セバスチャンに幾つか話して聞かせた。その後しばらく彼女は黙り込むと、丘の斜面からキャンプを見おろして、アンダースがゼブランの側に屈み込み、治療をしている様子を眺めた。彼女は再び眉をひそめると、考え込む様子でセバスチャンに向き直った。
「あなたは、彼のことが好き?」彼女は唐突に尋ねた。
セバスチャンは少しばかり顔を赤らめると、彼女同様にアンダースの方を見おろした。その作業の様子を眺めながら、彼の答えについてしばらくの間考え込んだ。
「はい」と彼はようやく、ひどく静かな声で答えた。
「恐らく、私が本来そう有るべき範囲を超えて。色々……理由はあります、何故それが賢明で無いかについては。ですが私が彼に対してそう思っていることは否定できません」
ソリアは頷いた。
「時に心は自ら分別を持って動くものです」彼女はそう優しく言った。
「行きましょう、彼が私のアサシンを元通りに戻せるかどうか見てみないと」
彼らは共に丘を降りた。アンダースはちょうど最後の包帯を巻いて止め終えたところで、ゼブランの折れた腕を彼の身体の側面から腹に掛けてしっかりと固定し、砕けた骨を出来る限り動かさないようにしていた。ナサニエルとフェンリスが彼がその作業をする間、エルフの上半身を少しばかり上に持ち上げていた。
「どんな感じかしら?」とソリアが尋ねた。
アンダースは長い時間の掛かった治療の後で疲れ果てた顔を上げた。
「まずまずだね。彼が焦らずに、充分治るまで我慢出来るなら、時間が経てばまたすっかり元通り使えるようになると思う。治る間も僕が見ていられるなら、その方が良いだろうけど」
ソリアは厳粛な顔で頷いた。
「あなたはそういうだろうと思ったわ。彼を目覚めさせられる?」
「もちろん」と彼は言うと、一瞬ゼブランの額に手を当てた。
ゼブランは再び目をぱっちりと開けながらうめき声を上げた。彼は縛られた腕を不安げに見おろすと、それからソリアの顔をじっと見上げた。
「さて、何でしょうか、ウォーデン」彼は率直に尋ねた。
彼女は深く溜め息を付いた。
「別れる時が来たということよ、ゼブラン」彼女は彼に告げた。
「最初からあなたには、私とホークに最後まで付いてくることは出来ないと言ったはずね。だから……単に少しばかり時期が早まっただけ」
ゼブランは彼女を長いこと見ていたが、それからナサニエルの方に目をやった。
「それで、ネイトは?」と彼は尋ねた。
「俺はホークから離れはしない」ナサニエルは静かに、しかしほとんど威嚇するような硬い声できっぱりと言った。
ソリアは彼に向かって僅かに微笑んだ。
「あなたがどうやっても付いてくるだろうと、とうの昔に諦めていたわ。そもそもアマランシンに司令代行として残りなさいという命令に背いた時点で、この件に関しても私に従わないというのは明らかだったし」
ナサニエルは微かに肩をすくめた。
「何にせよ、シグルンの方がずっと適任だ。それに、この件に関しては誰かがあなたとホークに付き添うべきだろう」
「僕についても諦めてくれないかな」ゼブランはいった。
「僕の誓約は知ってるでしょう、ソリア」
彼女は笑みを浮かべた。
「ええ。ついでにいうと、少なくとも十数回はその誓約は解除したはずよ」
「ついでにいうと、毎回解除される度に誓約し直したはずだけど、忘れたのかな」
「ほんとに強情なやつ」
「強情なクロウと言って欲しいな、ウォーデン」
彼女は長いことずっと彼を見つめていたが、やがて顔を横に向けると、表情を改めてアンダースに向き直った。
「ウォーデン・アンダース」突然彼女は良く通る、威厳に満ちた声で言った。
彼はまっすぐに姿勢を正した。「ウォーデン・コマンダー」と彼はやや神経質そうな表情で応対した。
「カークウォール教会の破壊に関し、殺人の罪においてお前を有罪と認める。グレイ・ウォーデンの指揮官として、私はお前への処罰について、自らの判断において決定する権限を有するものである。ヴェイル大公、あなたはスタークヘイブン国内あらゆる場所における司法権を有しておられますね?」
「その通りです」
「囚人アンダースに対する適切な処罰を、私が考慮する時間が取れるまで、あらゆる危害から安全かつ厳重に彼を護り、私が帰還するまでの間あなたの保護観察下に置くことをお願いします。私の名の下に、この男をあなたの囚人として受け入れて頂けますでしょうか?」
セバスチャンはいささか驚いたように見えた。
「私は……判りました。あなたがスタークヘイブンへ再び帰還され、彼の処罰を決定されるまで、この男を我が囚人として留置いたしましょう」
「結構です。ナサニエル、私の筆記用具を取ってきなさい、それからテントを片付け始めるように。既に許容出来ない程の遅れが生じています」と彼女は言うと、再びセバスチャンの方に向き直った。
「あなたに正式な委任状をお渡しします、あなたはこの囚人を私に代わって留置しており、なおかつ彼の処罰に関する決定権は私の手にあり、他の誰でも無いと証明するために。たとえ誰かが私の代理人と主張したとしても、私以外には決して彼を引き渡さぬよう願います」
「仰せのままに」と彼は言うと、彼女に向かって微かに格式張った礼をした。
ナサニエルが蓋の斜めになった箱を持って戻ってきた。ソリアは側の丸太に腰掛けて、箱の蓋を開けてインクと羊皮紙、ペンと封蝋を取り出した。彼女は箱の蓋を再び閉め、斜めになった蓋の上に羊皮紙を置くと、長々とした文面の文書を素早く書き記した。その後、彼女はセバスチャンに追加の証人として衛兵隊長と部下を二人呼びよせさせると、その場の全員の前で、文書を声に出して読み上げた。セリン隊長と衛兵二人、フェンリス、ホークとナサニエルがそれぞれ証人として署名した後、一番下にソリアとセバスチャンが署名し、それぞれの印章を下に添えた。彼女は手際よく紙を折り畳むとセバスチャンに手渡した。
「私に代わって彼を大事にして下さい」と彼女は言った。「ゼブランに関しても、一時面倒を見て頂けますか?」
「もちろんです、ソリア様」セバスチャンは答えた。
「必要な間はいくらでも、彼を我が客人として喜んで迎えましょう」
「ありがとう」彼女は重々しく礼を言うと、辺りを見渡した。
ナサニエルとホークは、既に両方のテントを畳んで荷物を四つの山にまとめており、うち一つは明らかに他より小ぶりな――ゼブランの持ち物だった。後は彼女を待って、仲間二人が荷物を担げばすぐにでも出発出来る態勢だった。
「立たせてくれ」とゼブランが張り詰めた声で言った。アンダースは彼に向かって顔をしかめた。
「僕のウォーデンが出発するのに、ここに横になっているつもりは無い」
アサシンはそう切り返した。
「君たちが助けてくれないのなら自分一人でも立ってみせる」
アンダースはフェンリスに対して頷くと、二人で傷ついたエルフを両側から支えて立ち上がらせた。彼はフェンリスの方に重くのしかかると一瞬痛みに怯んだが、姿勢を正してソリアを見た。
彼女が近付いてきた。彼は自由になる方の片手を伸ばし、ためらいながら彼女の頬に触れた。
「かがむのを忘れないで」彼は大層優しい声でそう彼女に言った。
彼女は微笑むと更に近付いた。彼女は両手で彼の手を取り、唇に一度だけキスをした後で後ろに下がった。
「あなたも、忘れては駄目よ。強情なクロウ、ここにあなたの誓約を改めて解除します。二度と誓約してはなりません」
彼は何も言わず、強情そうに顎をずっと噛みしめていた。彼女はアンダースを長い間見つめたあと、彼に向かってごく微かに頷いて見せるとセバスチャンの方に向き直った。
「ヴェイル大公、この一件に関してあなたの助力に感謝します。それと私と仲間達の最近の行動が、あなたにご面倒をお掛けしておりましたら、改めてお詫び申し上げます」
彼は深々と彼女に向かい頭を下げた。
「どうぞお気になさらず」と、愉快そうに目を輝かせて彼は言った。
「あなたとお会いできて光栄でした」
彼女は微笑むと、身を翻して歩き去り、彼女の振り分け荷物を軽々と背負った。ホークとナサニエルも自分の荷物を背負った。ホークはナサニエルの顔をちらりと見てから、アンダースに向かって一歩進み出た。
「アンダース……」と彼は言ったが、言葉を切るとしばらく黙り込み、二人の男はただ黙ってお互いを見つめていた。
「幸せにな」しわがれた声で、彼はようやくそう言った。
「君も、幸せに」アンダースは、ひどく静かな声でそう答えた。
ホークは頷くと踵を返した。他の者達が静かに見つめる中、二人のグレイ・ウォーデンとチャンピオンは緩やかに広がる丘の斜面を西に向かって歩いて行った。丘の頂上でソリアが振り向くと、数歩後ろ向きに歩きながら別れの手を振り、再び前を向いて歩きだした。ホークもナサニエルも振り返らず、澄み渡った冬の青空の下、三人の姿はやがて頂上の向こうに見えなくなった。
アンダースはゼブランの顔を横目で見て、彼の眼に涙が溢れているのを見た。エルフは彼の方をちらりと見た。
「彼女と、再び会うことがあるとは思えないな」
彼はひどく静かに、しわがれた声で言うと、彼女が去って行った方向に背を向けた。
「さあて。スタークヘイブンまでは長い道のりだよね?それに僕は寒いし疲れたし。さっさと出発しよう。早いこと始めれば、早いこと終わる」
彼はどことなく哲学的な風で言った。
アンダースは頷き、片手でエルフの傷ついていない方の肩をしばらく握りしめたあと、セバスチャンとセリン隊長が怪我人を運ぶ担架をこしらえるための相談をしている方へ歩いて行った。
ゼブラン(;_;)
さすがにコレはツライ
とか思ってたけど
>彼はフェンリスの方に重くのしかかると
既にターゲットロックオン済ですかそうですかぬかり無いですね
フェンリス「寒い重い早くおうち帰りたい」
この後お昼ご飯までフェンリスが登場しませんから、城に戻った途端バタンキューでしょうw
(ありゃ、朝ご飯だった。そりゃアンダースも嫉妬するわな)
この人の作品はシリアスなシーンの直後に時々面白い、というか滑稽な場面が時々出てくるのが良いですね。続編”Birds before the Storm”でもフェンが足首掴まれて裸ですっころんでるし。可哀想です(ノД`)アチャー