第32章 相談

フェンリス達三人がイザベラの船に移ることについて、もちろんラヴェル船長に異議は無かった。それどころか、フェンリエルとアンダースが荷物を取りに戻る間にも、オーレイ船から奪い取った貴重品の数々を、彼の船員達が元船室に隙間なく積み上げていっていた。

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第31章 再会

ラヴェル船長は一等航海士と頭を寄せ合い、三隻目の船を避ける航路をどのように取るか、海図を睨みながら相談していた。フェンリスはメイジ達が肘をつつき合っているのに気づき、アンダースとじっと視線を交わした。やがてアンダースが唇を結ぶと、一つ頷いた。

近付くエルフの姿に気付いた船長は、苛立たしげな目を向けた。
「何か用か?」と彼は鋭く尋ねた。

「船長。俺の同行者について知らせておきたいことがある――彼はグレイ・ウォーデンのメイジで、ヴィジルズ・キープへ戻るところだ。あの船を片付ける上で何か出来ることがあるかも知れない、もし魔法の届く範囲に入ることが出来れば」

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第30章 追跡

ハルシニアからオストウィックまでの航海は何事も無く、ひときわ退屈に感じられた。毎朝船の調理場から沸かし立ての熱い湯が入ったポットを運んでくる船員に彼らは起こされ、フェンリエルが紅茶を淹れ、残った湯を使って出来る限り三人は身体を綺麗にした。フェンリエルは毎朝髭を剃ったが、アンダースは短い航海の間ひげ剃りを止めることにして、またざらざらと頬に無精ひげが伸び始めた。

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第29章 船室

フェンリスは素早く一行を脇道へと連れ込み、入り組んだ路地を早足で進みながら彼らを襲撃場所から遠ざけた。ようやく充分距離が取れたと判断したところで、彼は再び大通りへと戻り、そこから波止場はもう目と鼻の先で、到着するまでに何の問題も無かった。

今朝停泊中の三隻の内、二隻は彼らの目的地とは異なる方向――リアルト湾を北東へ向かう船、もう一隻はウェイキング海の海岸沿いを辿りながら、ハルシニアを経由してカンバーランド――へ向かう船だった。もう一隻の、少し沖に錨を降ろして停泊中の船から、小さなはしけ舟が波止場へと向かってくるのが見えた。はしけ船を操っていた船員が言うには、彼の上等の船は確かにフェラルデンに向かうが、三人が乗れるかどうかについては船長に尋ねないと判らないようだった。

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第28章 味覚

この数年の間にフェンリスはこのような雰囲気には慣れていたが、かつての彼であれば店に入った途端居心地の悪い気分を感じたのは間違い無かっただろう。あまりに大勢の人々、喧噪、馬鹿騒ぎ。しかし今の彼にはここがどういう場所か、すぐに見て取ることが出来た。混み合った酒場で、労働者から下級貴族まであらゆる階級の服装をした、忙しく飲み食いしては大声で喋るヒューマンでほとんどのテーブルは埋まっていた。無論奥の隅にはエルフ達の座るテーブルもあって、顔を寄せ合っては何事かを話し込んでいた。その隣で、分厚いキャンバス地のズボンと縄編みのセーターを揃って着込んだヒューマン二人にエルフ二人は、恐らく船員だろう。一人のドワーフがバーのスツールに腰をちょこんと降ろし、更に壁沿いのベンチには裕福な商人風の身なりをしたドワーフが三人、揃って座っていた。つまりどこの街でも同じ、酒場の普通の光景だった。

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第27章 気配

「あの男、僕達を見ている」とフェンリスの隣の席に座りながら、フェンリエルが声を潜めてささやいた。川沿いの宿屋での、二日目の夜のことだった。

「どこだ?」とフェンリスは同様に静かな声で、辺りを見渡すこと無く尋ねた。アンダースも、視線をテーブル上に落としたままだったが、その肩がシャツの布地の下で強ばるのがフェンリスにも感じられた。

「暖炉の左側の席。黒髪で、農夫みたいな服を着てるね、だけどあいつも、ここにいる友達と同じくらい、農夫じゃ無さそうだ」と親指の先でアンダースの方を示しながらフェンリエルが答えた。

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第26章 豪雨

旅の最初の数日は好天に恵まれた。アンダースの肌からは青白さの名残が消え、フェンリエルは二日目に丸一日、舷側から釣り糸を垂らしていたせいで、ひどい日焼けになった。上からの陽射しと、川面からの反射が合わさると、時には火傷のような症状を起こすことがあった。アンダースは密かに日焼けのひどいところを治したが、それでも若いメイジの頬と鼻頭は真っ赤に皮が剥けてしまった。フェンリス自身と言えば、元々人生のほとんどを屋外で過ごして来た事も有って、その淡い褐色の肌を少しばかり色濃くしただけで済んだ。

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第25章 川船

結婚式は、セバスチャンの言ったとおり、ごく小規模で形式張らない式だった。城の中の、大公一家の私的な祈祷に用いられる小さな礼拝堂で開かれ、参列者もごく控えめな数だった。二人を結婚させるために教母が一人、上町のチャントリーから呼び寄せられ、それと一組の貴族と街の有力な商人が二人、立会人となるために招待されていた。
それとフェンリス自身、アンダース、フェンリエルを入れても両手で数えられる数の招待客。彼らは礼拝堂の背後で目立たぬよう控えめに立ち、中でもアンダースはとりわけ聖職者との接近には用心深く振る舞っていた。

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第24章 準備

フェンリスは、彼の部屋に入ると驚いて突然立ち止まり、それからゆっくりと中に歩み行った。
「それは一体何を作っているのだ?」と彼は不思議そうに尋ねた。

フェンリエルは手元の細工物から顔を上げ――何かの根菜の塊をくり貫いたものらしく――それからニコリと微笑んだ。
「アンダースのために、ちょっとね」と彼は言って、ナイフを机に置くと、くり貫いていた野菜の切れ端をアンダースに差し出した。年長のメイジがそのへんてこな塊を手に取った瞬間に、その物体の目的が明らかになった。アンダースのねじ曲がった手の形に合わせて、彼が容易にしっかりと握りしめられる道具だった。

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第23章 変化

フェンリスは刺しゅう台に向かっているホークを見ながら、壁にもたれ掛かった。
「君は何故、まだそれを?」と彼は尋ねた。

彼女は彼の顔を見上げると微笑み、小さく肩を竦めて再び刺しゅう台に注意を戻した。
「こうしていれば手を動かしていられるでしょう。それに、今ではとても馴染んだ仕事だから。ほら、そこでぼーっと突っ立ってるのは止めて、座って。それか部屋から出て行くか。どっちでも良いわよ」

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