第22章 選択

フェンリスとメイジ二人は、セバスチャンがマリアンに腕を取らせて居間へ入ってきたのを見て立ち上がった。彼女が癒されてから既に数日が経ち、ようやくある程度の感情の抑制を取り戻していたが、まだ以前と比べると遙かに激しい感情の発露が、彼女の表情にも姿勢にも現れていた。だがセバスチャンとフェンリスにとっては、何年もの間、何の表情も見せない空虚な顔を見てきた後で、彼女の顔によぎる感情の波を目にするのはひときわ嬉しかった。

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第21章 感情

フェンリスがリリウムを輝かせて素早く二人の間に立ち、大きく両手を広げたとき、フェンリエルはまだアンダースの反応にただ驚いたまま、セバスチャンと年長のメイジとの間をせわしなく見比べていた。
「待て!彼は友人だ。アンダース、今君はスタークヘイブンに居る――もう何年にもなる、彼と俺が、君とホークを見つけてから」

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第20章 感謝

最後の夜、フェンリエルは彼らが見つけた欠片をすぐには送り返さず、腕に抱え持って歩いた。彼の腕の中は様々な物の断片で埋め尽くされ、見上げるような大きさの物さえ、不思議なことにその腕の中にするすると容易く収まった。
虫食いのある革装の小さな本、暗赤色の液体が入った小さなバイアル、様々な羽根の取り合わせ、喉をごろごろ鳴らす、片目の無い茶トラ猫。その顔には大きな傷跡が残り、耳も二つに裂けていた。破れたズボン、素焼きの壺に入った萎れた花束、乾燥させたハーブの束、空っぽのガラス瓶、猫目石のように明るい筋の入った、流れが磨いた黒羽色の丸石。

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第19章 追憶

さらに多くの包帯と布きれ、革紐、荒いロープ、絹布を撚った紐。次から次へと現れる羽根は、全て集めれば外套一着分になるのではないかと、フェンリスは時折考えた。杖もあった。あるものは部屋の隅で埃を被り、あるものは路地裏の汚い石の上に転がっていた。あるいは壮大な大理石の暖炉の上に戦利品として置かれ、あるいは折れたまま薪の山の上に積まれていた。

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第18章 記憶

アンダースの欠片の二つ目は、ずっと判りやすかった。ウィスプ達は彼らを、どこか洞窟めいた、かつてのアンダースの診療所に似た大部屋へと連れて行ったが、床の真ん中に転がる、半分解けた包帯の一巻き以外は空っぽだった。フェンリエルがその側にしゃがんで指先で軽く触れると、包帯はその場から消え去った。彼は親指で指先を撫で、微かな笑みを顔に浮かべた。これらの欠片に触れることで、このメイジは何か感じられるのかも知れない、突然フェンリスはそう思った。欠片の示す思考や記憶から、フェンリエルがなにがしかの印象を得るというのはあり得そうだった。

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第17章 羽根

彼らはその日のほとんどを会話に費やした。フェンリスは若いメイジに自らを正義の精霊と呼ぶスピリットについて話して聞かせ、彼がいかにして現実世界に姿を現し、それからアンダースと一体となったかについても、僅かながら知っている事を語った。そして彼らが共にカークウォールで行った、チャントリーの爆破以外にも彼が見聞きした全てのことについて。

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第16章 欠片

「どういうことだ?」とフェンリエルは、剣を構えるフェンリスに低い声で尋ねた。

フェンリスはフェンリエルをちらりと見ると、また彼の注意をその存在に――スピリットかディーモンか何であれ――に戻した。
「アンダースはただのアポステイトではなく、アボミネーションだった。彼はあの、自らを正義の精霊だと主張すると、彼の身体を共有していた。そもそも彼がカークウォールのチャントリーを爆破したのも、この化け物に唆されてのことだ。ずっと以前から俺は、やつがスピリットなどでは無く、単なるディーモンだと疑っていた、もしその二つに違いがあるとすればだがな」

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第15章 知己

だだっ広い平面に、様々な石や岩が顔を覗かせていた。平面の表面は波のような色模様に覆われ、大部分は灰色と青から緑色で彩られていたが、時にクリーム掛かった白や、青白い月光のような輝きが差すこともあった。フェンリスとフェンリエルが足を踏み入れたその夢の持ち主は、何か大きな湖か、あるいは海の夢を見ているようだった。

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第14章 捜索

次の晩、フェンリエルはアンダースの心を癒やすために何か出来ることは無いか、手がかりを探ってみることに決めた。彼を夢の中で探しあて、フェイドの中で彼がどのような姿でいるのかを見つける、まずそれが最初に為すべきことだった。
彼はフェンリスとセバスチャンに、あるいはフェンリスを先に見つけて、それから二人で共にアンダースを探す方が簡単かも知れないと話した。このウォーリアーは遙かにアンダースのことを良く知っていたから、彼の手助けが得られれば、捜索もずっとはかどるだろうと思われた。

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第13章 少女

風呂に入って頭のてっぺんから足の先まで綺麗になるのは、実に良い気分だとフェンリエルはしみじみと思った。フェンリスが、彼の部屋にある服の中から何枚か貸してくれて、身体だけでなく服の方も綺麗になった。エルフの部屋には、美しい服がぎっしりと詰まったクローゼットがあり、どれも高価な布地で、手の込んだ刺しゅうや美しい細工が施されていた。

「セバスチャンからの贈り物だ」とフェンリスは、これといって気に掛ける様子も無く言った。
「彼と会う時に、服装で気後れするような事があってはいけないと言ってな。ここに全部残してある。旅の間に着るには上等すぎる」

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