第12章 悲嘆

フェンリエルはその場に凍り付いて、目を見張っていた。ホークの平静な視線が、フェンリスから彼の顔に移った。彼女の表情は、一切変わらなかった。好奇心も、疑いも、驚きもなく、彼を見ると言うより彼を通して背後の壁を見ているようだった。彼女の視線は、再びエルフへと戻った。

「こんにちは、フェンリス」と彼女は、奇妙に平坦な調子で言った。トランクィル特有の抑揚のない口調だった。そして彼女は振り向き、ふたたび彼を見た。
「こんにちは、フェンリエル」

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第11章 平穏

スタークヘイブンへの旅路は、たっぷり数週間掛かった。フェンリスとフェンリエルはまず最初の週にヴィンマーク山脈の山道を越え、ワイルダーヴェイルへと入った後は、高原を緩やかに流れ下る小川に沿って北上した。

カークウォールとの間には、古くから通商路として使われる道が通っていたが、そこは同時にテンプラーが関所を構える要所でもあって、通るのは避けたかった。
彼らは身の回り品を小さな袋に入れて片方の肩に背負い、それ以外の食料や寝具は、引き連れた一匹のロバの背に積んで、山道を乗り越えた。
それから彼らは北東へ向きを変え、最初はほとんど真東に向かい、行き止まりで北に進路を変えると、マイナンター河へ注ぎ込む支流沿いの村々や、大きな湖を避けて進んだ。二人のどちらも、より開けた旅の楽な地帯を進もうとは思わなかった。フェンリエルはアポステイトと見破られる恐れがあったし、旅人が多いことで知られる街道を二人だけで歩けば、常に獲物を探し求めるテヴィンターの奴隷商人と出くわすかも知れなかった。

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第10章 差異

実際の所、このウィスプを召還出来る力というのは、フェンリスにとって少しばかり気がかりだった。普通ではあり得なかったし、何しろ魔法は信用ならないものであったから。

しかしそれでも、いつの間にか、寛いだ時には頭の中のウィスプの歌に合わせてハミングするのが習慣のようになっていた。フェンリエルに言ったことは、嘘ではなかった――彼にも上手く説明出来なかったが、ウィスプ達の歌を聞き、あるいはその記憶と共にハミングするのは、とても心安らげる、魅力的な行いで、その歌が頭の中に蘇る時にハミングしないでいるのは難しかった。

そしてハミングすると、ウィスプが彼の元に現れた。

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第9章 興味

フェンリスは苛立たしげに顔をしかめて、ハミングを中断した。
「これでも駄目だ」と彼は言った。

フェンリエルは溜息を付いた。
「駄目みたいだね。ひょっとすると一回こっきりのことだったのかな。それか、君が半分寝ている時にしか上手く行かないとか」

「可能性は有るな」とフェンリスは答えた。
「だが俺達が今試せるのはこれだけだ」と彼は指摘した。まだ午後も早い時間で、しかも彼はすでにたっぷりと仮眠を取った後だった。

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第8章 比喩

「俺はメイジではない!」とフェンリスは怒って切り返した。

「君がそうだ、なんて言ってないよ」とフェンリエルは忍耐強く言った。
「僕が言いたかったのは、メイジじゃ無い者がウィスプを召還出来るなんて今まで聞いたことが無いってこと」

「彼が召還したというのは確かなの?」とアヴェリンが尋ねた。
「あなたが召還したうちの一匹ではなくて?治療の間にあなたが大量に召還した、その残りかも知れない」

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第7章 召還

彼らはその後数日間、共に寝たきりで過ごした。フェンリスの身体はまだ衰弱していたが、しかしすぐに回復を始めると思われた。一方フェンリエルは二日半に及ぶ覚醒と魔法の酷使の後で全精力を使い果たしていて、朝も夜も眠り続け、時折起き上がって食事と飲み物を詰め込み用便を済ませると、ベッドに倒れ込んでまた眠った。

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第6章 歌声

夢のようで、しかし夢ではなく、ただ緩やかに流れる時だけがあった。彼の視覚も、嗅覚も触覚も、味覚も、消え失せていた。彼は自分がまるで何か小さな、例えば生まれたての子猫のような、無力で盲目の存在に感じられた。しかし同時に彼は、奇妙な安堵感を感じていた。大きな手の様に感じられる何かが、注意深く、温かく彼を支え、包み込み、周囲を取り巻く全ての物から護っていた。彼をフェイドのどこかで護っている、フェンリエルの力だろう、多分。

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第5章 旧知

「一番心配なのは、邪魔が入ることだ」
次の日、フェンリスの部屋でアヴェリンが彼に夕食を食べさせている時に、ベッドの足下に脚を組んで座ったフェンリエルが言った。
「この魔法は、とても微妙なバランス調整が必要だから。火の玉を造って投げつけるような訳には行かない。もっとも、僕は元素魔法は不得意だけど」と言って若いメイジは肩を竦めた。
「ほとんどの課程がフェイドの中で進むことになるから、僕の意識も半ば以上、そこに飛んでいる。中断されるととても危険だし、一旦中断されたら、もう一度試してみるまでに、最低でも数日以上休息を取らないといけなくなるだろう。もし僕達双方が、最初の失敗を生き延びたとしての話だよ」

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第4章 解説

彼らはフェンリスの部屋で昼食を共に摂った。フェンリスは枕の山を背にして上半身を起こして貰い、アヴェリンとドニックが彼の両側に座って、自らの皿を片付けながら代わる代わるフェンリスに一口ずつ食べさせた。フェンリエルはベッドの端に脚を組んで座り、膝に皿を置いていた。

彼の少しばかり短くなったざんばらの髪は、入浴の後でまだ湿気っていて、ドニックの古いシャツの裾が彼の膝まで覆い、袖口は数回折り返してあった。フェンリエルは普通のヒューマンとして通る体型をしていたが、それでもドニックの肩幅は彼の倍ほどもあり、シャツの袖を折らないとメイジの指先まで覆ってしまっただろう。そのせいで、彼はどことなく父親の服に身を包んだ子供のように見えた。

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第3章 説得

「今日、俺を訪ねて来る者が居るはずだ」
階下から持って来た朝食――甘く、たっぷりクリームとナツメグの入ったポリッジと、温かなミルクティー――を彼に食べさせようと、テキパキと彼の頭を持ち上げて枕を背中にたくし込み、ナプキンを襟元に差し込んでいるアヴェリンに、彼はそう告げた。

「本当?誰が来るというの?」と彼女は訝しげに片方の眉を上げて尋ねた。

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