第2章 旅路

彼にはその会話がただの夢だとしか思えなかったが、しかしフェンリエルはそれから度々彼の夢に登場するようになった。毎晩ではないにせよ、数日に一度は必ず、フェンリスは夢の中にその若者が座って、彼を見つめている姿を見つけた。そしてフェンリエルがそこにいる時には、ディーモン達は姿を消した。

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第1章 遭遇

彼はヴァリックに会いに来たのだった。

だがあのドワーフは、もはやハングド・マンの住人ではなく、彼のスイート・ルームの扉は固く閉ざされ、新しいバーテンダー――コルフはあの日、アボミネーションに殺されていた――は、彼のバーにエルフは入れないと鋭く言い放ち、ここに立ち入ることを許されるエルフはメイドと男娼のみで、彼はそのどちらでも無かったため、用心棒が彼を表の通りに放りだした。

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"In Dreams" 翻訳開始。

Fenris~ フェンリスの身体に刻まれたリリウムの紋様を、彼にとって無害なものとしていた魔法は、今や消え失せようとしていた。死に瀕した彼に、遙か彼方から助けの手が差し伸べられる。 ~

静かな文体で綴られたDragon Age2の後日談。MsBarrowsさんが書かれた同人小説 “In Draems” を日本語に翻訳したものです。ご本人からはPrivate messageにて翻訳の許可を頂いております。

— 警告! —
この小説には同性愛に関する間接的な表現、または過去における暴行の示唆が含まれる事があります。ご自分のご判断のもとでお読み下さい。


ぼちぼちと更新開始。

「アンダースが欠けた指を治せないのは、非常に(魔法的に)正しい」という話を、原作者のMsBarrowsさんとしていた。死者を蘇らせられないのと一緒で、無くなった物を創り出すのは無理だろうと。さすがに再生治療まで出来たらメイジ万能過ぎる。

それからメイジは栄養失調による不調は治せないだろうねえ、という話になった。たとえば表に現れた症状(歯茎から血が出る、関節が痛む、等々)は一時的に対応出来ても、栄養素を補給するのは無理だろうからね。だから作中ではアンダースも「ライムの塩漬け」という得体の知れない食べ物を食べる。元々は東インド会社がインドからイングランドへ持ち込み、船乗りの常備食となったらしい。

それにしてもセバスチャンが頭の禿掛けた中年ってw可哀想過ぎるww
まあ金持ちだし権力者だし美人の奥さんも貰ってるから、良いかな。それでもまだ40にはなってないと思うんだけどなー?

ともかく、そんな世界の、ゲーム本編から数年後のお話。どうぞお楽しみください。

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60.メレディス、最後通牒

俺達は偵察のため、ヴァリックを先に広場へと行かせた。彼は疑いの目を向けられる恐れが一番少なかった。周囲にはテンプラーはもちろん、警察に記者達が至る所に居て、それ以外にも平日の昼間にすることのない連中が、面白そうな事がありそうだと集まってきていた。

「リリウムは感じられないわね」とメリルが、俺達の乗った車を近づけながら言った。

「あのトリックをまた使おうとは思わないだろう」とオシノが言った。
「少なくとも、こうもすぐには。何か他の目論見があるに違いないな」

「俺にも何か良い目論見があればな」と俺はぼやいた。
「準備は良いですかな、ファースト・エンチャンター?」
彼が車を出れば、記者達が俺達に殺到するのは間違いなかった。

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59.ファースト・エンチャンター、行方不明!

その夜、ラジオから聞こえてくる知らせは悪くなる一方だった。オシノ側の発表が無い以上、メレディスの見解が公式のものと扱われ、デュマー市長が彼女の側に並んで会見に臨み、逃亡メイジが捕縛されるまで、市当局は全力で騎士団を支援すると語った。ヴァリックはちょっとの間下町に戻り、俺の家が捜索された知らせを持って戻ってきた。
ギャムレンも少しだけ尋問を受けたが、テンプラーもこれと言って決め手は無かったらしく、さっさと釈放されていた。俺はきっちり口を閉じていたことに、叔父貴にキスしたい思いだった。

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58.脱獄事件発生!地下組織関与か

俺はアンダースを瞑想するに任せて、台所の皆の所へ戻った。フェンリスの台所と言えば彼自身の腹を満たすのが精一杯だったから、すぐにでも余分の食料を買って来る必要が有った。俺達がまるで普通の友人の集まりのように、どこに昼飯を食いに行くか話し出した時、玄関の扉が開く音がした。

ヴァリックはビアンカを構え、メリルはパラソル剣を手に持ち、俺とフェンリスは開きっぱなしの台所の、扉の両側に貼り付いた。

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57.市庁舎の不発爆弾:容疑者拘束さる

俺は親指で、彼の手の甲のリリウムに沿って撫で下ろしたが、やはり何の反応も無かった。

「ふん。たいしたもんだな」

フェンリスは首を振った。
「どうと言うことではない」

俺はゆっくりと彼の手を引き寄せ、彼の残りの部分もそれに付いてきた。それから彼が椅子から身を乗り出して、俺にキスをした。数回心臓が拍つ間ためらったあと、彼は俺の髪に指を差し入れて頭を引き寄せ、唇を軽く歯で噛んだ。俺は大きく息を飲んだ。

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56.警察、市庁舎から退去命令

市庁舎前での騒ぎから数日が過ぎた。新聞は結局ギャロウズでの捜索では何も見つからなかった事を、警察の無能をからかう調子で書き立て、そして次第に記事の扱いは小さくなっていった。
まだ寒さの厳しいある朝、フェンリスが大きな段ボール箱を抱えて仕事場に入ってきた。ホースはそれに大いに興味を示し、フェンリスがその箱を床に置くやいなや側に座って、彼の顔と箱を交互にじっと見つめた。

「一体何を持ってきたんだ?」と俺は尋ねた。

「君の物ではなかったのか?」とフェンリスが答えた。
「ここの階段の下に置いてあったぞ」

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55.市長、市庁舎での騒動収拾

かんしゃく玉を破裂させるには、実に最悪のタイミングを選んだものだ。アンダースを追いかけて慰め、元気づける時間は俺には無かったし、ドゥ・ロンセが危険に晒されているということを理解しようとしない彼に、俺は失望していた。

ドゥ・ロンセについてオシノがくれた情報はといえば、彼の両親が住まう上町の屋敷の住所だけだった。この街の住民なら誰でも知ってる上流階級が集まる地区で、封筒に書いてあれば自慢出来ただろう。メリルが上町まで俺達を車で運び、俺達はロンセ伯を寝床から叩き起こした。

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54.市長語る:エイリアネージに潜む犯罪者

エイリアネージの夜は実に静かだった。とりわけ、冬の終わりかけのこの季節には。全ての扉と窓は暖気を逃がさないよう固く閉じられ、暖かい季節には大きなオークの木陰で、手回しオルガンやフルートを奏でる街の音楽家も、物語を語る詩人も、今は皆室内でより少ない聴衆を相手にしていた。俺の耳にも時折フルートの音や笑い声が届いた。月がビルの影から影へと移りゆくなかに夜が更けて、それらの音も消えていった。

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