第14章 捜索

次の晩、フェンリエルはアンダースの心を癒やすために何か出来ることは無いか、手がかりを探ってみることに決めた。彼を夢の中で探しあて、フェイドの中で彼がどのような姿でいるのかを見つける、まずそれが最初に為すべきことだった。
彼はフェンリスとセバスチャンに、あるいはフェンリスを先に見つけて、それから二人で共にアンダースを探す方が簡単かも知れないと話した。このウォーリアーは遙かにアンダースのことを良く知っていたから、彼の手助けが得られれば、捜索もずっとはかどるだろうと思われた。

フェンリスはその意見に同意して、その夜二人は夢の中で出会えることを願いながらベッドに入った。

メイジにとってフェンリスをフェイドの中で見つけるのは、まるで着慣れた服を頭から被る位に簡単だった。彼ら二人は互いのことを充分良く知っていたし、既に幾度もフェイドの中で会っていた。彼はただ、自分の力を使って、フェイドの中の一部を占めるフェンリスの夢にひょいと手を伸ばすだけで良かった。そしてそこで、ギラギラと光る巨大な目と、数多くの不定形の触手を持つ、フェイド版ジャイアント・スパイダーとでも言うべき怪物と戦うウォーリアーを見つけた。その化け物共は、フェンリスがメイジの存在に気付くや否や消え失せた。

「さて、どうする?」とエルフは、その巨大な剣を軽々と背に納めながら尋ねた。

「もちろん、アンダースを探しにいこう。だけど僕には、あまり上手く出来ないと思う。誰か知っている人を見つける方がずっと簡単なんだ。知っていれば、僕はその人の記憶に集中して、どんな容貌で、どういうところに居て、どんな物が好きかを思い出せる。それからウィスプ達にそう言う物を探すように頼めるから。だけど、僕はアンダースのことをほとんど何も知らない」

「すると、俺がアンダースの記憶に集中すれば……?」

「そう、それで僕がウィスプに、君の思い描くその人物を見つけるように頼む。もっとも、すぐにというわけにはいかないだろうけど。ここは、フェイドはとても大きな場所だし、ウィスプ達はその至る所に散らばっている。彼らは例えばミツバチがお互いに花の場所を教え合うように、情報を交換しているみたいだ。だから僕の頼み事もいずれ伝わっていって、答えが戻ってくるだろうけど、何しろここは途方も無く広いからね」

フェンリスは頷いた。そして顎を引くと、あのメイジについて、彼が知っている事を全て思い出そうと目を閉じて心を集中させた。どんな容貌で、何を話していたか、様々なイメージが次々と沸き上がり繋がっていった。かつてのカークウォールにいた時代の、活気に溢れ、何かに突き動かされていた男と、その人物の壊れた成れの果ての姿と、両方を彼は思い描いた。

フェンリエルはその間に、何匹ものウィスプ――フェンリスのすぐ側を漂っている彼の5匹も含めて――を呼び出し、フェンリスの考えの中に居る男を捜すようにと頼んだ。ウィスプ達はフェンリスの廻りをしばらく飛び交い、まるでミツバチが花の蜜を味わうように彼の思考を味見し、匂いを記憶し、それから様々な方角へと飛び去っていった。

多くのウィスプは戻ってはこず、フェンリエルの問いかけを更に遠方の同類に知らせた後、彼ら自身の仕事に戻って行った。だがフェンリスの5匹と、他の数匹も戻ってきて、フェンリエルの近くで漂い、また彼が何か面白いことをしないかと待っているようだった。

彼らは待った。しばらくして、フェンリスの心は別のところへ漂い、彼自身の夢へ戻って行った。フェンリエルは静かに、エルフの夢に対するフェイドの反応を観察しながら待ち続けた。フェンリスの夢は、今度は平穏で、ただ遠くを過ぎ去る風景が見えた。地平線は熱帯のジャングルから大海へ、そして街並みへと、夢のみが持つ無秩序さで移り変わった。
時にその姿は彼にも馴染みのあるものとなった。ミンラソウスやカークウォールで見たことのある建物や風景、彼らのここへの旅路が、しかしどれもどこか現実とは異なり歪んで、時には互いに混じり合った姿をしていた。

更に時が過ぎた。急速に、そして緩やかに、夢の中でめまぐるしく変わる時の流れに沿い、現実世界の数分の内に数時間が、そして数年が流れたかと思うと、僅か数分が数時間に引き延ばされた。フェンリスの夢が再び陰に潜む怪しげな怪物と、暗い影を帯びて来た時、突然ウィスプ達の動きが、ただ無秩序に漂うだけのものから、興奮と満足感を伝える素早い動きへと変化した。

フェンリエルは短く彼らに問いかけの思考を送り、ある印象を彼らから得た。フェンリスの思考と合致する心を持つ者が見つかるかも知れない、その場所を指し示す道標が、まるで地図にピンを刺すように、広大なフェイドの中にその心の有りかを示す目印として与えられた。

メイジはフェンリスの心をつつき、彼の存在に気付かせて夢から呼び起こした。エルフは一瞬、何故フェンリエルがそこに居るのかを思い出すかのように、瞬きをしてあたりを見渡した。
「アンダースが見つかったのか?」とフェンリスは聞いた。

「そうみたい――後は僕達が、そこに行くだけでいい」

「長く掛かりそうか?」

「ううん……フェイドはとてつもなく広い場所だけど、見つけたいと思う夢の在処が僕に判れば、距離は問題じゃ無くなる。ただ僕はその人の居る場所へ、心を漂わせるだけでいいから。本当の動きも、距離も、時間さえここに無いんだ。だからある瞬間僕達はここに、君の夢の中に居て、次の瞬間にアンダースの夢の中に居ることが出来る。準備はいい?」

フェンリスは大きく息を吸うと、握りしめていた拳を開き、頷いた。
「ああ。行こう」と彼は言った。

フェンリエルは別の心へ辿り着き、二人をその夢の中へと導き入れた。

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