第43章 冬の礼装
カレンやロレンス達と話し合っている間に空が曇ってきていたことに、セバスチャンは砦から出た時に気がついた。
「どうやら雪になりそうだ」と彼は皆に言った。
アンダースは、フェンリスと共にようやくセバスチャンに合流した後もいつになく静かだったが、同じように空を見上げて言った。「そうみたいだ」
カレンも空を見上げた。「この雪は残りますかね、それともちょっとの間積もるだけ?」
セバスチャンは肩を竦めると、彼の衛兵と馬たちが既に出発の準備を整えて待機している方へと階段を下りながら言った。
「多分残らないだろう。最初の雪が残ることは珍しい。しかしこの辺りで一度本格的に降り出したら、本当の大雪になる。大体1ヶ月か二ヶ月雪が降り続いた後、ぴたりと降り止むと、それから春の雨に変わる」
「短い冬だな」とアンダースが言った。「ともかく、フェラルデンに比べれば」
カレンも頷いた。フェンリスは不機嫌そうな声を出した。
「フェンリスは、雪が嫌いなのか?」とセバスチャンは馬にまたがりながら尋ねた。
「ああ」フェンリスも同時に騎乗しながら短く答えた。「俺が元々はセヘロンとミンラソウスの出身なのを忘れたのか。カークウォールに逃げてくるまで、俺は本物の雪を見たことが無かった」
ほんの数時間前に再会したテンプラー達に、セバスチャンが別れの挨拶に手を振ると、騎乗した一行は砦の門を通り抜けた。
「君は、以前ダナリアスに連れられてカークウォールに来たことがあるように言ってなかったか?最初にあの屋敷に入った時に、確かに君は中の様子を良く知っているようだったけど」とアンダースは指摘した。
フェンリスは嫌な顔をした。「一度だけだ、それも夏に‐その年は格別に暑い夏だったからな、テヴィンターの暑熱を避けるためだ。ダナリアスは俺よりまだ寒いのは嫌いだった」
「その鎧より何かもっと暖かいものを身に付ければ、まだマシになると思うけどね」とアンダースが指摘した。
「亜熱帯の気候に合わせて作られた鎧じゃ、温帯の冬の寒さはろくに防げないよ」
フェンリスは鼻を鳴らした。「俺はこの鎧に慣れている。これが一番上手く戦える」
セバスチャンは笑った。
「もし君が凍えていなければな、フェンリス。少なくとも私が作らせた鎧のどちらかを試してみろ。衛兵達とよく似た色の鎧は、少なくともずっと厚手の革で出来ているから暖かいだろうし、私の鎧と同じ色使いのもう一つの方は、ほとんど私のと同じくらい暖かいはずだ、腕を除いてはね」
「なんだいそれは?」アンダースが不思議そうに尋ねた。「君は彼が使いもしない鎧を贈ったのか?」
フェンリスは顔をしかめた。「贈り物ではない。俺の仕事への報酬だ」
アンダースはニヤッとわらった。「相変わらずの頑固者だな。とはいえ、君がその別の鎧を着た時にどういう風に見えるのか、急に興味が沸いてきたけど」
彼は言うと、眉をひそめて考え込んだ。
「君の鎧と同じ色使いだって、セバスチャン?つまりその……」
「ああ。白地に金ぴかだ」とフェンリスが噛みつくようにいった。
セバスチャンは微笑んだ。「それと黒地に銀色だよ。上質の暖かな鎧だ。ほら、フェンリス、君があの鎧を着たところを私は是非見てみたい。それに考えてみろ、あの鎧を着てアリに乗った姿がどれほど格好良く見えるか。外套も作らせた方がいいだろうな、乗馬に適当なフード付きの暖かなやつを。お前にも、アンダース‐ もし私達がこの冬こうやって始終出かけることがあれば、二人とも外套が必要だろう」
「僕は外套が必要ない方がありがたいな、もし良かったら」とアンダースは小さな笑みを浮かべて言った。
「どちらかと言えば雪は好きだけど、それも雪の中で長いこと外にいる必要が無ければの話だよ」
セバスチャンは笑った。「どちらかと言えば家の中の、暖炉の側で?」
「そう。面白い本と、何か温かい飲み物、あるいは温まる飲み物と一緒に。両方ならなお良いね」
「温めたリンゴ酒」とカレンはきっぱりと言った。フェラルデンについて懐かしく思う、数少ない思い出の一つですよ。凍えるような冬の日に巡回から帰って来た後に飲む、温かいリンゴ酒」
セバスチャンは声を出して笑った。
「城に戻ったら皆の分を用意させよう、それでどうだ?」
「美味しそうだ」とアンダースは言った。「ほら、降ってきた」
大きな雪片が最初はちらちらと、しかしすぐに本降りになって、地面を白く覆いだした。ハエリオニとガンウィンは雪を見て喜び、若い犬は雪片を追いかけて走り回って、ハエリオニまでしばらくの間彼を追いかける遊びに誘い込んだ。一方、アッシュといえばこれっぽっちも雪を歓迎する様子を見せず、さっさとアンダースが肩に掛けた袋の中に潜り込んで、一眠りすることに決めた。
降り続く激しい雪の向こうにようやく街の門が見えてきた時には、地面にはふかふかの粉雪が少なくとも一インチは積もっていた。
彼らは皆城に戻ってほっと一息を付き、セバスチャンは彼の約束した通り、彼の居室に戻った四人に温めたリンゴ酒を持って来させて、さらに兵舎に戻った衛兵達にも送らせた。
カレンはリンゴ酒を一口啜ると、明らかに喜んだ様子でため息をついた。
「部下達や皆がこの雪で苦労している時に、私だけこう居心地良くしているのは何だか申し訳ないですな」
セバスチャンは笑みを浮かべた。「彼らもすぐに到着するだろう‐それに少なくとも、風も無ければ、まだ突き刺すような寒さというわけでもない。雨が降っているわけでも‐少しばかりのサラサラの雪の方が、ここの初冬に降るような冷たい雨よりずっと良い」
カレンは嫌そうな顔をした。「全くです、タンターヴェイルを出てから最初の数日はそんな感じでした‐もう充分過ぎる程、冷たい雨には降られましたよ。仰るとおり、この程度の雪はなんの問題にもなりますまい」
セバスチャンは頷いた。「ここに到着次第、君の部下とメイジ達を一日か二日休ませて、それから砦に出発できるだろう。君はどうするつもりだ?その後しばらくは留まるか、それともまたすぐに出発するのか?」
「また出発する?」アンダースは不思議そうに尋ねた。
「ああ、お前とフェンリスはその話を騎士団長としていた時には居なかったな」とセバスチャンは言った。
「あそこのサークルには、カレンの一行を加えても、メイジより既に十分過ぎる程多いテンプラーがいる。しかし恐らく、他にもまだ保護を必要としているメイジがいるのは間違いない、例えばタンターヴェイルから連れて来たアポステイトのように」
「ロレンス騎士団長の下に私の部下を一まとめにすることにした。それから私が志願者を募って、マイナンター河の下流と、それから上流にも旅をして、安全を必要とするメイジ達を集め、それからここに連れ戻ってこようと思っている」カレンが静かに説明した。
「カークウォールにいたメイジ達のように必要に迫られない限り、彼らがここに来たがりはしないだろうというのは判っている‐ 私の保護下のメイジ達は皆ここに来ることを自ら選んだのであって、捕まえられ強制的に連れてこられた訳では無い。しかし、どこかの街の牢獄に閉じ込められ惨めに弱り果てるか、あるいは怯えた人々の手による集団暴行の危機に直面するよりは、ここに連れて来られて、安全に、きちんとした保護を受ける方が遙かに良いだろう」
アンダースはゆっくりと頷いた。
「僕も……その理屈には反論出来ないな」声に微かに惨めさをにじませて彼は同意した。彼の一部は未だに、いったん自由を得たメイジ達は‐ともかく今ある姿での‐もし彼らがそれを望むなら、そのままでいることを許されるべきだと信じていた。しかしそれでも、セバスチャンとカレンが正しかった ‐普通の人々からの危険に晒されているメイジを救うために、何かしなければならない。メイジは恐るべき者であると長年教えられてきた人々を、更にひどく怯えさせてしまったのは彼のせい、彼がカークウォールでしでかしたことのせいなのだから。
まさに彼のカークウォールでの行いこそ、その恐れが正しかったことを証明した。普通の人々がメイジを怖れる理由としては充分だった。その結果は、彼が望んだ、あるいは彼とジャスティスが共に想像したものでは無かったにせよ。
彼らの計画が引き起こしかねない後の災いに対して、彼らはどうしてああも盲目だったのだろうかと、彼は考えていた。考えつく唯一の結論は‐ 何とも不快な、恥ずべきものだったが ‐二人共、意図的に自らを誤魔化して、彼らがそうあるべきと信じる通り、彼らの計画はメイジの自由を求めるときの声、堂々たる意思表示となると盲目的に信じていたというものだった。
あるいはジャスティスにとっては、人の世に対する無知から彼らの行いの結果がどうなるか、見えなかったかも知れない。しかし彼自身は見ることを拒んでいた。
「アンダース?」セバスチャンの、微かに心配したような声が響いた。
彼は顔を上げた。「すまない、考え事をしていた。何か言ったか?」
「リンゴ酒のおかわりは要るか、と聞いたのだ」とセバスチャンは少しばかり面白そうな声で言った。
「ああ。うん、頼むよ」
全体的に言えばその週は、驚くべき、そして厄介な知らせで始まったにせよ‐ さらに多くの避難民の到来、カレンの語るシーカー・レイナードの知らせ ‐実り多い週だったとセバスチャンは判断した。砦への往復では遠乗りを楽しめたし、フェンリスとアンダースも、彼らの短い滞在の間に数多くのメイジやテンプラー達と話をして、考えるべき材料を多く得たようだった。それからカレンの一行が、雪の影響にも関わらず予想されていたより半日も早い、次の日の夜分遅くに到着した。
ネヴァラからの避難民はキャンプに格段の問題も無く収容され、テンプラーとメイジ達は、城の古い兵舎に設えた宿舎に何日か泊まって休息し、それから天候の回復を待ってサークルキープに向かい、彼らの同輩と合流することになっていた。アンダースとフェンリスはこの機会を逃すこと無く、何人かのメイジやテンプラーと討論にしばしの時を過ごし、二人ともその対談の結果に随分喜んでいるように見えた。
セバスチャン自身も、到着したテンプラーの中にカークウォールで見知った顔を見つけて嬉しく思った。カレンの副官はサー・ケランで、ホークに同行した冒険の中で彼とは幾度か関わったことがあった。この荒れた天候の中、混在部隊を引き連れて成し遂げた移動速度について彼はケレンを褒め称えた。
雪はその次の数日間降り続き、アンダースがあのクローゼットの隠し通路を偶然見つけたのは、幾つかの意味で良いことだったとセバスチャンは思うようになった。メイジが毎日のように昼食をフェンリスと彼自身と共にすることになっても、延々と雪の中を歩かずとも済んだ。もっともアンダースは少なくとも雪に耐えられる服を着ていたが。セバスチャンは二人に暖かな外套を贈るという約束を既に果たしていた。彼はアンダースのためには、濃い茶色の毛織物に、つややかな赤狐の毛皮で縁取りをしたフード付きの外套を仕立てさせ、一方フェンリスには黒に近い灰色の毛織物に、縁取りは銀色の刺し毛が入った灰色狼の毛皮を取り合わせた。
それから次の教会の礼拝の日に、彼はフェンリスを上手く口車に乗せて、セバスチャン自身と同じ彩りの鎧を着させた。その礼装の効果はまさしく彼がそう有って欲しいと思った通りで、エルフはほとんど彼と同じくらい気品に満ちた姿になった。アンダースが自分は彼ら二人の前では見劣りすると冗談を言ったが、メイジの落ち着いた茶色と赤色の外套が、色白の肌と赤みを帯びた金髪を実に良く引き立たせ、エルフと同じくらい見栄えがするとセバスチャンは密かに考えていた。
フェンリスは実際、礼装が気に入った様子で嬉しそうに笑みを浮かべ、彼ら二人を従えていたら誰もセバスチャンに眼をやらないだろうと冗談を言った。それからセバスチャンが、漆黒の毛織物に白狐の毛皮の裏打ち、更に純白の白兎で縁取りをした実に印象的な外套を着て見せると、アンダースは声を出して笑い、結局のところやっぱり大公殿下が一番注目を浴びるだろうと認めた。揃って教会へと歩いて行きながら、セバスチャンは彼ら三人が描き出す絵のような風景に心から満足していた。
その日の礼拝は特に出席者が多かった。カレンの一行のテンプラーとメイジ達も全員出席していて、彼らはほとんど教会の一番後ろに近いところで極めて行儀良く四角い列を作ると、メイカーに彼らの長々しい避難行の後で、ようやく無事にスタークヘイブンへ辿り着けたことに感謝を捧げていた。ネヴァラからの避難民達も相当な数が出席していて、同じくらい熱心に祈りを捧げていた。
その翌日、彼らが砦から戻った日以来ずっと厳しくなっていた寒さと断続的に降り続いていた雪がようやく収まり、明るい日差しが戻ってきた。メイジとテンプラーの一団は追加の補給品を山積みにした荷車と連れ立って、早速サークルへと出発した。その日を逃さなかったのは幸いだった‐ まさにその翌日、その冬の最初の猛吹雪が始まった。結局、彼らが砦から戻る途中に見た初雪は溶けること無く凍り付き、その上に次々と雪が厚く降り積もっていった。
本物の冬の到来だった。セバスチャンはまだスタークヘイブンに辿り着こうと旅をしている避難民が居ないことを願った。一年の間でも、旅をするには向かない季節だった。
余裕のプリンス・ヴェイル、部屋で一人の時は
もらった外套をかぶって寝ちゃうフェンリス、んで
わんこ&にゃんこに外套わちゃわちゃにされて
「ダメーー---!」ってなるアンダースw
ゼブラン?彼は裸がフォーマルd(ry
コメントありがとうございます(^.^)
自分だけフランネルに毛皮で裏打ち、さすがプリンスやることがずっこい。
フェンリスは以外と(この小説の中では)几帳面なところ見せてますからねえ。アリの様に丁寧ーにブラシを掛けて、「セバスチャンに貰った外套だから」と大事に衣装棚にナイナイしてるかもw