第46章 夢の話
あるいは、彼は当然予想しておくべきだったかも知れない。ブランディをたっぷり飲んで、しかも若い頃の放蕩ぶりについて語り合った後では、その晩の夢が普段より少しばかり華やかになるかも知れないと。最初は使い古されたいつもの、街の通りの暗がりを歩いて行く夢。通りの建物はよく似ていたがどこか見慣れない様子で、建物の並びも中の間取りも現実とは違っていた。
追跡。狭苦しい路地を走り抜け、酒場へと飛び込んで追っ手から逃れた。混み合った部屋で飲んで話している間にそこは酒場から寝室へと変わり、周りの人々は消え去って彼だけが別の人物と残った。
初めて買った娼婦、長い赤髪とガラスの切り口のように透き通った緑色の眼、小ぶりの鼻にはそばかすが有った。彼女のやはり小ぶりの胸にも。それから肩と、腕にも。熱のこもったキス……彼はエルフの少女と二人きりで、裸でベッドの中に居た。腰まである黒髪に瑠璃色の眼。その眼にいたずらっぽい笑みを浮かべると、彼女は頭を下げて彼の男根を口に含んだ。
ワイングラスを優雅な手で抱えて、誰かがベッドの側に立っていた。忘れもしないあの長く繊細な指、彼に信じられないほど素敵なことを教えてくれた。その方に顔を向けて話しかけようとした彼を、力強い腕が後ろから引き戻した。後ろから掻き抱く腕、四角く切り揃えた爪と浅黒い肌の手が彼の胸を押さえつけ、一本の指は骨折の跡で曲がっていた。
マイナンター川を遡る船員、顎ひげが彼の首筋の敏感な皮膚にちくちく当たり、こそばゆくて良く笑っていた。船員は彼の首筋を優しく噛んでは舐め、さらに片方の肩の線に沿ってキスをすると、力強い両手が彼の身体をくるりと返して押さえつけ、更に下の方へとキスを続けた。彼は快感に背を反らせ船員の茶色の巻き毛に両手を絡ませた、それからフェンリスが彼に何かを言うと部屋は消え去り、ベッドも消え去り、船員も居なくなった。彼は椅子に腰掛け、水で割ったワインを啜りながらフェンリスを見ていた、エルフは何か話していた、ひどく真剣な表情、しかし何を言っているのかは聞き取れなかった。
フェンリスが立ち上がると、テーブルの上の新しいボトルを取りに彼の側を通り抜けた、そして彼の方を振り向いたその時、また部屋が変わって彼は川沿いのあの売春宿にいた。古い宿屋、経営者の女性が嫉妬深い恋人達の争いに巻き込まれて悲惨な死を遂げる前の、僅か一冬だけそこにあった宿。上の階の部屋は全て濃い青とクリームに彩られ、彼はベッドの中で双子ともつれ合っていた、双子の姉弟、共に淡い金髪とミルク色の肌と、これまで見た中で一番薄い青色の眼、彼は娘の中に、双子の弟は彼の中に、互いに重ねた身体を動かし、互いに触れてキスをする度に次々に押し寄せる快感の波。彼は少女の長い金髪に覆われた耳に顔をすり寄せ、また頭を上げた、いや、そこに居たのは淡い金髪では無く赤みを帯びた金髪の、少女では無く男で、茶色掛かった蜂蜜色の眼と驚くほど素敵な笑顔をしていた。彼は驚きと快感に大きな叫び声を上げ……
……そしてセバスチャンは目覚めた。息を切らせ、ズボンの中の湿気った汚いものの中で、まだ彼の男根がひくついていた。彼は嫌な顔をして溜め息を付くと、染み通って寝具を汚す前にと慌ててシーツをまくり上げ、ベッドから滑り出た。彼はズボンを下ろして蹴飛ばすように脱ぎ捨て、身体を洗おうと大股で浴室に入って行くと、湿気った服のことをぼんやり考えていたが、それから窓の外が明るくなって来て、どのみちほとんど朝であることに気付いた。浴槽に熱い湯を張ってその中に滑り込んだ時には、彼の夢は、夢が普通そうであるように、既に脳裏から薄れていって、いつもの放蕩時代の夢のぼんやりした記憶だけが残り、そしてそれすらも昨晩の名残の微かな二日酔いの中で消えていった。
彼は髪と身体を洗うのに更に時間を費やした後、しばらく浴槽の中で寛ぎ、楽しかった前日のことを思い出して微かに笑みを浮かべた。それからフェンリスが朝から遠乗りに出ると言っていたことを思い出して、彼も同行しようと決めた。浴槽から立ち上がってタオルで身体を乾かすと、裸のまま寝室に戻って適当な服を探す彼の脳裏からは、夢は完全に忘れ去られていた。
あるいは、彼は当然予想しておくべきだったかも知れない。ブランディをたっぷり飲んで、しかも若い頃の放蕩ぶりについて語り合った後では、その晩の夢が普段より少しばかり華やかになるかも知れないと。最初は使い古されたいつもの、街の通りの暗がりを歩いて行く夢。通りの建物はよく似ていたがどこか見慣れない様子で、建物の並びも中の間取りも現実とは違っていた。
追跡。市場に立ち並ぶ商人の、屋台の下をくぐり抜けて、混み合った市場の真ん中を全力でエイリアネージへと走り抜け、背後のテンプラーを撒いた。移り変わる街路を長いこと歩いていた、時にはデネリムの市街地、時には小さな田舎町、時には曲がりくねった長い石造りの廊下で、古い石と湖水と魔法の匂いがしていた。
真珠亭、カウンターの後ろに立って、入れ替わり立ち替わり訪れる人々に酒を出していた。黒い目と黒い肌と長い黒髪のきらめく笑顔が、廊下の向こうから彼を呼び寄せた。大きな部屋に、彼がこれまで見た中で一番大きなベッド、既に大勢の人々がベッドの上と周囲でもつれ合っているのを見て彼は怯んだ、女は喜んで叫び声を上げ、走りながら上着を頭から脱いで放り投げると、重なる人の中に飛び込んだ。
彼が上着の行方を見守る内に、それは布から雌牛の長い尾の房飾りに変わり、愛らしい乳搾りの娘が居た、彼女が別の種類の絞り方を彼に経験させる間、雌牛は隣の仕切りの中で静かに反芻していて、それから娘は彼自身の指で彼女を同じだけ幸せにする方法を教え、二人は牛舎の木の床に敷かれた新鮮な藁の中でもつれ合い、夏の陽射しの甘い香りが彼の鼻腔一杯に広がった。それから娘は藁の中に消え去り、新鮮な甘い香りのする藁は、古く黴臭い藁に変わって、その下には冷たい石の床、高い石の壁が彼を囲んでいた。暗い夜、暗闇の向こうから近付いてくる、鎧を付けた男の足音、そして恐怖、恐怖……
……彼は半ば目覚め、半ば眠りながら不安げに何ごとか呟き、寝返りを打った。ガンウィンが鼻先を押しつけて匂いを嗅いだが、再び足下で丸くなると、共に再び眠りの中へ漂っていった……
「……上を見るんだ、もう暗い所に閉じ込められちゃいない」温かい声が言うのが聞こえた。驚くほど穏やかで優しい、彼が信頼出来る声に、彼は緊張を解いた。彼を抱く両腕が、安全と保護を約束していた。髪を後ろに撫でつけたカールが、温かく彼に笑いかけて、彼の顔を両手で包み込むと彼にキスをした、彼らの身体は差し迫った欲求に沸き立ち、木屑と膠とワニスとカールの匂いに包まれて、木工細工のために使っていた部屋の床に転がった。
カールは優しく彼に笑いかけた、いや、アリスター王だった、優しくソリアに笑いかけ、彼女のアンダースの徴用を承認していた、あの雌狐、ライロックが凍り付き、怒り狂って彼の側に立っていた。ソリアが止めを刺した時のライロックの衝撃を受けた表情、ディープ・ロードの暗闇の中でソリアの刀が滑るように鮮やかな弧を描き、ゲンロックの喉元を切り裂いた、シグルンが勝利の鬨の声を上げて、両手に斧を持って突き進んだ、身悶えする裸の身体に埋もれたベッドへ、振り向いた顔はイザベラのそれに変わっていて、黒い眼はいたずらっぽい輝きに満ち、無数の手が既に彼女の黒い肌を、完璧な形の大きな胸を、その下の脚の間をまさぐっていた。
「こっちに来ないの?」愛らしく官能的な唇をとがらせて彼女が尋ね、彼は当惑して首を振ると、それから笑い出してシャツを脱ぎ、残りの服も他の皆と一緒に床の上に脱ぎ捨てると、ベッドの上の人々に加わった。彼の体中をまさぐる手、彼が伸ばす手も温かな肉体に触れ、次々と押し寄せる快感……そしてただ一人だけがベッドの上に残った、しかし記憶にある暗い肌の女性の代わりに、彼の両手が触れる肌は色白の男性で、腕と脚と頭は赤茶色の毛に覆われ、鮮やかな青色の眼は明るく輝き、アンダースの触れる手の下で、興奮した声が言葉にならない快感に叫び声を上げていた……
……そしてアンダースは目覚めた。息を切らせ、石のように硬くなって崖っぷちを今にも越えそうだったが、しかしまだ完全に辿り着いていなかった。くそったれ!手を伸ばして彼自身に触れ、絶頂を迎えようとしたが、しかしその時、彼が目覚める前に誰の夢を見ていたか鮮明に思い出して、きまりの悪さに顔を赤らめた。セバスチャン。まさか、人もあろうにセバスチャン・ヴェイル大公の夢で彼自身を慰めると言うのは……全くあまりに馬鹿馬鹿しい話だった。彼は声を上げて笑い、犬二匹は当惑した顔を、アッシュは眠りを邪魔されて不満の眼を向けた。そして暫くするうちに彼の切迫した要求も次第に消え去り、彼はベッドから出て浴室によろよろと入ると冷水に浸した布でさっと身体を擦って、残った熱情を静めた。
彼は今日もフェンリスとセバスチャンと一緒に昼食を取る予定だった。心に鮮明に残る夢の記憶に顔を赤らめないようにするのは、随分難しいことになりそうだった。彼は適当な服を着ると裸足でコテージの居間に行き、動物達を表に出してやってから朝食を作り始めた。あるいはその頃には夢のことは忘れているかも知れない、一所懸命彼自身の気を散らすよう努力すれば……いや、もちろんどうやっても、セバスチャンの顔を見たら再び記憶が蘇るのは間違い無かった。メイカーは実に残酷なユーモアのセンスをお持ちだ、彼は時折そう思った。
えーとw
とりあえず心が折れそうになったらガムテと木工用ボンド
を持って駆けつけたいと思いますw
あとイザベラのOrginからの変わりっぷりは異常w
ガムテthx!プリンスエルフで復活しました!(^.^)呼び名はうーんと考えたけどこのままで行きます。下手に弄ると他のところも弄らないといけなくなって厄介。
イザベラはデュエリストでしたっけ?顔が随分変わっている見たいですが、性格はどうなんかな。