第41章 更なる避難民

第41章 更なる避難民


その翌日、彼らに新たな差し迫った危機が近付いているという知らせを受け取ったのは、セバスチャンとアンダース、それにフェンリスが共に昼食を取っている時だった。大公の昼食を妨げることも厭わずセリン自らが訪れ、西の国境を巡回していた巡視隊が、多数の避難民の一団が、スタークヘイブンに向かって徒歩で旅をしているとの知らせと、その代表者を伴って戻ってきたと彼に告げた。

「テンプラーです‐彼はカークウォール時代にあなたとは知り合いだったと言っています」と衛兵隊長は続けた。「騎士隊長カレンという名前の者です」

「カレン!」セバスチャンは驚いて叫ぶと、歯を見せて笑った。

「ああ、もちろん知っている‐優れたテンプラーで、かつ立派な男だ。もし必要なら彼に休憩と食事の時間を取らせるようにして、それから私の執務室に連れてくるように」

彼はアンダースとフェンリスの方をちらりと見た。

「君たちにも同席して貰いたい」と彼は言った。

アンダースはその見通しに少しばかり不安げだったが、フェンリスは彼にしては随分愛想良く頷いた。彼らは手早く昼食を済ませると、セバスチャンの執務室‐彼個人の書斎では無く謁見室の近くの、より公式な部屋‐に移動した。すぐにセリンが、疲れた様子のカレンを連れて現れた。

セバスチャンは椅子から立ち上がると、そのテンプラーを温かく出迎えた。カレンはフェンリスの姿を認めて会釈すると、それからアンダースもそこに居るのに気付いた。彼は一瞬凍り付いたが、それから彼の方にゆっくり頷いて見せた。
「そのアポステイトがここに居るという話は、少し前に聞いていました」カレンはセバスチャンの方に向き直りながら冷静な声で言った。

「しかしながら、カークウォールでの最後の日の後で、あなたが感じたであろう感情から考えれば、彼を助命したことには何か真っ当な理由があるだろうと想像はしていましたが」

「ほう?誰からどうやって聞いた?」とセバスチャンは尋ねると、彼の席にまた座りながら、カレンと衛兵隊長にも椅子に座るよう促した。

「私がカンバーランドに居た時に、そこを通り掛かったシーカーからです」

「シーカー・レイナード?」セバスチャンは鋭く尋ねた。

「はい。私が生き残りのメイジと部下達をまとめてカークウォールから引き上げた時に、元々私共はカンバーランドのサークル*1を目指していました。そこで私の保護下にあるメイジ達を引き渡すことが出来ればと思っていたのですが、しかしオーレイとの戦争が起きそうな気配が……」

「オーレイと戦争?その話はまだ何も聞いていない」とセバスチャンは顔をしかめると言った。

Nevala_Orlaiss「もう数年の間ごたごたしている話です。ネヴァラがブラステッド丘陵を先の小競り合いで勝ち取ってからと言うもの、オーレイはずっと取り戻したがっていました。明らかに連中は、ペレンディルの反乱勢力に援助をしていたようです‐あそこはネヴァラ領となる前は、ずっとオリージャンの街でしたからね。そこの征服に費やした費用を回収しようと、ペンタガスト家が地域一帯に課した、かなり過酷な税に憤激した者達と、無論古くからのオーレイに忠実な者達の間には、まあ、オーレイの助力を受けて反乱勢力となり得る者は大勢居たでしょうな。オーレイが昨今の騒動に乗じて、ネヴァラから相当むしり取ろうとしているのを疑う者はおりません……」

「ともかく、戦火に巻き込まれる可能性の有る所にメイジ達を残すのは良くないと私は考えました、仮にそこのサークルタワーに十分な余裕があったとしてもですが。実際はほとんど無く、地元の出身であると主張する僅かなメイジ達を受け入れるので精一杯で、ほとんどの者は私の保護下に残ることになりました。到達可能な目的地について討論した結果、ほとんどの者はフェラルデンへ行くことを望みました‐お聞きになっているかどうか判りませんが、先のブライトでの激戦の際の助力に対する、メイジ達への感謝の印として、アリスター王の正式な保護下にあるサークルが設立されています。しかもそのサークルは、アルドレッドによる反乱の後で収容できる人数にまだかなりの余裕があるため、多くのメイジの避難民を受け入れて貰えることになりました」

セバスチャンは頷いた。

「まだカークウォールに居た時、そこのサークルが彼の保護下にあるという話は聞いたことがある。すると、君が保護していたメイジのほとんどはフェラルデンに向かったのだな?」

カレンは頷いた。

「はい、フリー・マーチズに繋がりが深く、離れることを望まない者達以外は。それと私自身、フェラルデンに戻りたいとは思いませんでした」と彼は静かに言った。

「私は、アルドレッドの反乱の間あそこのサークルに居ました……あの場所には好ましくない思い出しか有りません。それで私は、ネヴァラ・シティのサークルに彼らの居場所が有ればと思い、カークウォール生き残りのメイジ達と共に北へと向かいました。帝国街道がマイナンター川と交差する地点で川船を拾い、上流へと向かうつもりでしたが、そこに到着した時にネヴァラが今や二つの国境で戦争に直面していることを知りました‐テヴィンター帝国が、再び北の国境を侵略しようとしていると。それで、代わりにアンズバーグあるいはオストウィックのサークルタワーへ向かうつもりで、マイナンター川を下る船を雇いました。タンターヴェイルまではともかく到着した時、アンズバーグの大火の話を聞いたのです」

セバスチャンは理解して頷いた。「それで、どうなった?」

「しばらくの間、タンターヴェイルに滞在して、ともかく下流へ進み続けるか、それともワイルダーヴェイルを踏破して南に向かい、既に状況が多少は落ち着いていることを期待してカークウォールに戻るかについて討議しました。しかしタンターヴェイルでも緊張が高まり始めていて‐あそこにはサークルはありませんし、アンズバーグで起きた事件の後では、私共の一行には実際のメイジの数よりも多いテンプラーが居たにも関わらず、滞在を続けることを街は歓迎しようとしませんでした」彼は渋い顔をしながら説明を続けた。

「そのうち、あなたがアンズバーグからのメイジをここで受け入れられたという話を聞いて、大法官*2とタンターヴェイルの教会が、私共の保護下にあるメイジと、彼らの領土内で最近捕縛され、受け入れ可能などこかのサークルへ送られるのを待っていた何名かのアポステイトを、共にここへ連れて行くようにと私に依頼しました。ちょうどその時、ネヴァラからの避難民も到着し始めて‐ほとんどが、テヴィンターとの戦争の脅威から逃れてきた人々でした。私共が下流へ旅を続けると聞いた避難民の中には、タンターヴェイルに留まるよりも、私共の保護を受けながら東へ逃れたいと希望する者も居ました。それでメイジと、テンプラーと、避難民からなる混成部隊を率いることとなりました‐これまでの一行の進み具合から判断するに、少なくともあと三日以内には到着するでしょう。道程の途中でスタークヘイブンの巡視部隊と出会って、私だけあなたの部下と馬でご一緒させて頂いたという訳です」

「各グループは各々何名いるのだ?」とフェンリスが尋ねた。

カレンは彼の方をちらっと見た。

「テンプラーが18名と、カークウォールからのメイジが11人、タンターヴェイルで同行したメイジが5人、ネヴァラ人の避難民達が40名を少し越える数です。さらに多くの避難民が私共の後に来るかも知れません。タンターヴェイルでは既に、街の門を閉ざす必要が有るかどうかについて議論していました」

彼はそう説明すると顔をしかめた。

「あそこには多くの人々を受け入れる余裕はほとんどありません、とりわけ冬が近付いているこの季節では」

セバスチャンは頷いた。

「連れてこられたその数なら、十分受け入れる余裕がある。もし本当に更なる避難民がここまでの道程を踏破して来るとすれば、彼らについても。それで、今すぐ君の一行に戻るのかな?それとも誰かしっかりした代理の者が居れば……」

「副官は私が居なくとも大丈夫です、ええ」とカレンは同意した。

「結構。なら今晩はここで休息して、明日馬に乗ってアンズバーグの騎士団長に会いに行こう」と彼は言った。

「君の一行が街に到着する前に、余裕で戻って来られるだろう」

カレンは頷いた。「大変結構です」

セバスチャンは二人の友人の方を見た。
「フェンリス、遠駆けに出かける言い訳が出来たぞ」

フェンリスは頷いて、微かに笑みを浮かべた。

「アンダース、診療所の方は忙しいか?お前にも同行して貰いたいが……」

「目立って忙しいことは無いな、けどドゥーガルとシスター・マウラには、もっと避難民が来ると知らせておかないと。だけどそれは今日の午後に出来るし、ここでの話が終わった後にね」と彼は言うと、カレンの方をそわそわと見つめた。

「君の長い旅路の話に逸れる前に、シーカー・レイナードと出会ったとか言いかけていなかったか?」

「ああ、そうだ、スタークヘイブンにしばらく前に来た時の、あの男の犯罪活動を思えば、その話には非常に興味がある」とセバスチャンは厳しい顔つきで言った。

カレンは頷いた。

「彼と直接会ったわけではありませんが、私があなたとアンダースの両方と知人であることを知って、カンバーランドの騎士団長が私を呼び、そのシーカーが話した件について意見を尋ねました」

「それで、どういう話が……?」

「騎士団長の話では、カークウォールにおける犯罪行為において、アンダースをチャントリーによる審判と処罰を与えるためにヴァル・ロヨーへ連行するとして、シーカーがあなたにアポステイトを引き渡すよう交渉した所、あなたがその申し出を拒絶したどころか部下を殺害し、彼を国境から追放したと言うことでした。あなたがそのメイジの愛人なのか、それとも精神を支配されているのかについて確信は持てないが、ともかくいずれにせよヴァル・ロヨーに戻り、次の捕縛の機会に備えてディヴァインにテンプラーの増援部隊を寄越すよう要請する、と言っていたと」

セバスチャンは怒りに顔を曇らせた。「それは、実際に起きたこととは全く違っている……しかし本当の話は後で説明しよう。続けて」

カレンは頷いた。

「私は騎士団長に、あなたは立派な名誉を知る男で、しかも長きに渡ってチャントリーのブラザーであり、もしあなたが本当にそのメイジを拘留して引き渡すことを拒んだのであれば、そうするための申し分無い理由が有ったのは間違い無いと告げました。そして私も団長も、その男がディヴァインに会いに行く途中だと言っていたのにも関わらず、カンバーランドからヴァル・ロヨーでは無く、ジェイダーへ向かう船に乗ったことに関心を持ちました」

「ジェイダーだと!それではウェイキング海の、全く逆方向になる」とセバスチャンは驚いて叫んだ。

「一体何のために彼はそこに向かったのだろう?」と彼は言うと、当惑した顔をして、他の人々が何か思いつくことが無いかと見渡した。フェンリスは肩をすくめ、アンダースも首を振って、二人とも同じように途方に暮れた表情をしていた。

セリン衛兵隊長も眉をひそめていたが、それから咳払いをした。

「あるいは、彼はライダスへ行くつもりでは?」

「ライダス……もちろんそうだ、忘れていた!オーレイ全土で最大のテンプラーの部隊が配属されているところです」とカレンは説明した。

「もし彼がテンプラーの大部隊を編成しようとしているのなら、確かにそこに行くのが適切な行動です」

セバスチャンは顔をしかめた。

「素晴らしい。すると避難民同様、レイナードのアンダース強奪作戦にも再び直面するという訳か。しかしまあ、それほどひどくは無いか、私が思うには」と彼は言うと、唇を歪めて笑った。

「少なくとも聖なる行軍という訳では無い。さあ、どこかもっと居心地のいい部屋に戻って、何か飲みながら、シーカー・レイナードがスタークヘイブンを通過した時に本当に起きたことについて話をしよう」と彼はカレンに勧めた。

「もし良かったら、僕はこれで失礼するよ」とアンダースが言った。「診療所に寄ってこないといけないし」

「もちろん。明日またサークルキープに出かける用意をしておけよ?」と皆と一緒に立ち上がりながらセバスチャンは言った。

「ああ、判ったよ」とアンダースは諦めたように言うと、一瞬アッシュの毛皮を強く掴んだ。

「よし、では明日の朝また会おう」

アンダースは頷くと部屋から出て行き、彼の護衛がその後ろを扉のところから着いていった。カレンは彼が歩き去る様子を興味津々の様子で見ていた。

「長い話だ」とセバスチャンはカレンに静かに言った。

「その件も一緒に話そう‐どうやってアンダースが私の囚人となったか」

「楽しみですね」とカレンは言うと、セバスチャンとフェンリスに従って部屋を出た。


*1:グランド・エンチャンターが籍を置く、テダス全土でも最大のサークル。各サークルのファースト・エンチャンター達のフラクタリーは、ここに保管されている。

*2:”Lord chancellor”、カークウォールのヴァイカウント(子爵)同様、タンターヴェイルの最高権力者の役職名。アンズバーグは侯爵、オストウィックは公爵(Teyrn)であるらしい。

テヴィンター帝国の場合、最高権力者は執政官(Archon)となる。執政官は元老院議員(Senator)から選ばれ、元老院議員はマジスターから選ばれる。マジスターとなるためには、まずサークル・オブ・テヴィンター(魔法学校ですね)に所属するアプレンティスとなる必要がある。

この辺りは、サルバドーレの小説「ダークエルフ物語」で登場するドロウの故郷、メンゾベランザンを彷彿とさせる。一家の富と個人のメイジとしての実力が物を言う、壮絶な実力主義社会で有ることは想像に難くない。何せマジスター同士の決闘が認められているというのだから、飼い慣らされたサークルメイジでは到底、太刀打ち出来ないだろう。

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第41章 更なる避難民 への2件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    考えてみれば、カレンさんってどこいっても
    トラブルに巻き込まれてますねー。

    っていうか、なんだかんだ言って40章越えましたね!
    3分の1近くですよ!wこれからも楽しみにしてますw

  2. Laffy のコメント:

    いやーホントですね。先は長い。。。あの話やあの人達の台詞が本当に日本語で読めるのかと、自分で不思議に思うことも有りますが、読むんじゃないよ自分が書くんだよボケナスと言い聞かせつつ頑張ってます(w いつもコメントありがとうございます。
    カレンはゲイダーさんのインタビューにありましたが、人気が出るとは思ってなかったけど何故か人気のあるキャラみたいですね。そりゃ格好いいしねえ?うん。

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