第53章 気詰まりな昼食
いつものテーブルに椅子が二つしか用意されていないことに気付き、アンダースは立ち止まった。「今日はフェンリスは居ないのか?」と彼は驚いて尋ねた。
セバスチャンは料理を取る手を止め顔を上げると、彼に向かって首を振った。
「居ない。彼はゲヴィンとカイラと同行してサークルに行き、彼女があちらで落ち着く所を見届けて、兄と一緒に戻ってくることになったから、早くとも明日の午後までは戻らないだろう」
アンダースは頷くと、この二日間ほど子供達と一緒に居ることですっかり消えていた居心地の悪さを、また唐突に感じながら彼の席に着いた。彼は急いで自分の食事を取り分けると食べ始めた。
今日は実際の所、フェンリスがやって来てから始めてセバスチャンと二人だけで摂る昼食だった。それにその前には、正確に言えば二人が共に昼食を摂る習慣は無かった、アンダースがセバスチャンの寝室の片隅に置かれたベッドで寝起きして、彼の体調の回復を待った短い期間以外は。彼が特別に思い出したい記憶ではなかった、もちろん多少は強く印象に残った場面もあるが……例えば風呂から上がったセバスチャンが着替える所を見て……メイカー、それもまた今この瞬間心に思い描くに相応しい映像では無かった。
彼は食事の皿と、アッシュに心を集中させた。今日はあいにく魚料理は無かったが、雄猫は鶏肉の細切れを代わりに喜んで食べていた。しばらくして彼が顔を上げると、セバスチャンが彼に注目していることに気付いた。彼は顔を真っ赤にして慌てて目線を反らせながら、心の中で自分の色白の顔を罵った。再び彼がそっと眼を上げた時には、セバスチャンは難しい顔をして自分の皿を見つめていて、ほとんど彼と同じくらい居心地が悪そうに見えた。
「それで、えーと……この前のギルドマスター達との会合はどうだった?」
アンダースは二人が話せる安全な話題を探して尋ねた。
「ああ、腕の良い職人にここで再出発する機会を与えるという話か?実に上手く行ったよ、ギルドマスター達は、既に片手に余る数の練達した親方と、中堅から徒弟に至るまで幅広い職人を見つけていてね。彼らが腕前と人柄を判断した上で、必要な道具や資金を援助するという手はずになっている。それにここのマスター達も、避難民の中に腕の良い中堅どころが大勢居ることが判ったので、彼らを雇い入れたがっている」セバスチャンはにこやかに答えた。
「もちろんここで再出発しようという親方が、一番彼らを必要とする訳だから真っ先に選択権が与えられることになるが。一人の建具屋は既に小さな出張店舗を開いていて、春先には他の親方も何人か、店を開けられるようになりそうだ。現時点での一番の問題はどうやら、彼らが店を開く物理的な場所が見つからないということのようだ。街は既に人で溢れていて、店を開くに充分な大きさで、かつ空いているような場所はほとんど無い」
「私の市街拡張計画に入っている新しい区画は、そういう人々の役に立つことになるだろうが、そちらに実際引っ越しして人が住めるようになるのは、どんなに早くてもこの夏以降のことだろう。ようやく下水道を敷いて道が出来て、建物の幾つかの基礎工事を始めたという所で冬が来てしまったからな。作業の続きは雪が溶けるまでは再開出来ない、とはいえありがたいことに春ももうそこまで来ている。普通より長い冬で無い限り、後2,3週間で雪解けの季節になるはずだ」
アンダースは頷き、彼の提案が上手く運んでいるのを聞いて喜んだ。再び二人の間に沈黙が訪れた。
「診療所の様子はどうだ?」しばらくして、今度はセバスチャンが尋ねた。
「ああ、上手く行ってるよ。冬にありがちな病気の患者が少し居るだけだ‐風邪とかそういった類の。それとひどく脚を折った患者が一人、凍り付いた段ばしごから滑り落ちたそうだ。彼はしばらく診療所に留まることになるだろうね、彼が動き回る前にきちんと骨がくっつき出していると確認しておきたいから」
再び沈黙。アンダースは彼の大量の食事を終えると、皿を横に押しやった。
「さあ、もう行かないと。フェンリスが出かけている間は、昼からは昔の様に僕一人ということになるね」
セバスチャンは頷いた。アンダースは立ち上がるとアッシュを抱き上げ、席を離れた。
「アンダース……?」男の姿が寝室の扉の向こうに消える直前、セバスチャンが呼び止めた。
「うん?」と彼は振り向くと尋ねた。
セバスチャンは少しばかり難しそうな顔つきをしていた。
「今晩の夕食も付き合ってくれるか?話し相手が居るとありがたいからね」
アンダースは瞬きをした。「ああ、もちろん」と彼はためらいがちに言うと、背を向けて立ち去った。
セバスチャンは実際、どうして彼を夕食に招こうと思ったのか、よく判らなかった。もちろん話し相手が居る方がありがたいというのは嘘では無かった。フェンリスがここに来てからというもの、彼は食事の席で誰かと話すことに慣れてきていて、フェンリスが居ない間また一人きりで食事するというのは、あまり嬉しい考えでは無かった。しかしながら……とりわけ最近になってからは、彼とアンダースは特別気が合うという訳でも無かったし、今日の昼食もここ随分長い間で、ひときわ居心地の悪いものだったのは間違い無かった。
アンダースが彼の居室で寝起きしていた短い間、そしてその後も幾度となく共に過ごした食事の席上で、どれ程あの男が愉快で気楽な話し相手だったかを考えれば、それは随分と奇妙な話だった。最近でさえ、彼らがアヴェリンの妊娠の知らせを祝った際も彼はごく気楽な様子でいた。あの晩フェンリスが自室に戻った後、彼とアンダースの過ち多き青春時代に、いかに多くの共通点が二人に有ったことか。その僅かな部分を発見した、実に愉快だった会話を彼は思い返していた。
多分彼が望んでいるのは、寛いだアンダースが今晩また昔の姿に戻ってくれることだろう……もちろん、カークウォール時代の彼とは違い、あの晩に彼が僅かに覗かせた、もっと若い頃の幸せそうなアンダースの姿。ジャスティスと一体となってアンダースが変貌した、辛辣な狂信者に取って代わられる前の、彼が出会う機会があったならと願った男の姿に。
彼は溜め息を付くとテーブルから立ち上がり、もう少し仕事を片付けようと書斎へ向かった。最悪でも、また居心地の悪い食事となるだけのことだ。だがあるいは、二人がもう少し寛ぐことが出来れば、アンダースが彼の側で忌々しいほど神経質な様子を見せるようになってしまう前、二人の間にいつの間にか生まれていた友情らしきものを取り戻せるかも知れない。
そして彼の神経質さの原因が何であれ、それがたあいの無い理由であることを彼は心から願っていた。もしあのメイジが愚かにもかつての自らを正義と信ずる道に戻ったとき、罰を与えたり、さらには処刑したりする必要の可能性について気楽に構えるには、彼はあの男に愛着を持ちすぎていた。
机の上に待っていた書類の山を見て、彼は嫌な顔をした。大公の地位にあるということは儀礼と煌びやかなパーティが全てと考える者には、一つの国を切り回す際には、どれ程の殺伐たる実務が待ち構えているか到底理解出来ないだろう。ともあれスタークヘイブンは十分小さな国で ‐ 精々フリーマーチズの都市国家より少しばかり大きい程度で、四方ともに馬で数日走れば国境に辿り着く ‐ 例えばオーレイやフェラルデンが採用しているような、より手の込んだ統治機構に頼らずとも彼一人でかなりのことが出来た。
そう、もちろんこの国には他の貴族達も居たが、大国の基準からすれば彼らは精々下級貴族、例えばフェラルデンの男爵に相当する位だろうと彼は考えていた。各家の荘園にそれなりの大きさの邸宅を持ち、この国のあちらこちらで一つか二つの村を監督し、そして上町に小綺麗な私邸を持つという程度で、それより有力な貴族はほとんど居なかった。
彼は机の側にしわくちゃの紙の小さな束が置かれていることにも気が付いた。しばらくためらった後、彼は先に仕事を少し片付けてから、良い行いのご褒美としてその紙を見ようと決心した。
数時間経った後、彼は疲れた様子でその時までに片付けた仕事の束を横に押しやると、呼び鈴を鳴らしてお茶を持ってくるよう言いつけた。彼は椅子の背にもたれ掛かると大きく伸びをして眼を擦り、小さな紙の束のことを思い出してそれを手元に寄せた。何枚かの紙に見られる小さな穴ぼこや引き裂きから判断して、アンダースのコテージを掃除する召使いは、最近彼が与えた「家具の下も確認して、猫のおもちゃとして使われたような紙も回収するように」との言いつけをきちんと守っているようだった。
彼は書き物の最初の数枚をめくって、フェンリスの書き方の練習やいつものへぼ詩以外に何も悪い物は見当たらないことに喜んだ。少なくとも詩の中には雪に関する美しい印象が綴られたものも有った。ちょうどその時召使いが紅茶を運んできて、彼は暖炉の近くのテーブルに置くように指示してから、残りの書き物を素早く確認し終え、彼自身の暖炉の火にそれらの紙を始末させた。彼は途中で立ち止まって紅茶を注ぎ、おつまみの盛り合わせの中からスパイスの利いた大きなクッキーを一枚取ると机に戻って、ゆっくりと残りのスケッチを眺めた。
いつものように数多くのアッシュと犬達の絵、それと同じくらいの数の、以前から登場している雄のトラ猫が描かれていて、側には凶悪な姿のかぎ爪と、凶悪な怪物‐恐らくダーク・スポーンの一種だろうとセバスチャンは想像し、彼自身その化け物については本当の経験を持っていないことに心から感謝した。かなり丁寧なフェンリスとアリの習作にセバスチャンは微笑んだ。彼らの頭から首筋に掛けて側面から描かれていて、相互の位置関係から、フェンリスがアリのすぐ側の地面に立っている姿を描いたものと思われた。
次の頁の、徹底的に猫の牙と歯で穴が開き灰で薄汚れた紙を見て、彼は顔が真っ赤になるのを感じた。その頁の中央に描かれていたのは、男性の胴体の太腿あたりから首筋に至るまでのスケッチで、その男性は明らかに……その、非常に興奮した様子だった。男の肩は幅広く、それがヒューマンの胴体の絵であることを示しており、より細身のエルフでは無く、そしてフェンリスの胴体のほとんどを覆っている、特徴有る曲がりくねった紋様の線はどこにも見られなかった。そうすると、恐らくホークだろう、あるいはあのメイジの、それ以前の恋人の誰かか。
彼はその紙を裏返そうとしたが、その代わりに紙を下に置き、じっと考え込んでいる自分に気付いた。それでその絵がフェンリスで無かったからと言って、彼は一体何故こうもほっとしたのか?アンダースが彼らの魅力的なエルフの友人に興味を持っているのでは無いかという疑いは、根拠の無い想像であるとして彼は既に片付けていたにも関わらず、アンダースの好みの方向がエルフでは無いとする更なる根拠を得たことに、彼は何故こうも安堵を覚えるのだろうか?
もしかすると……いや。彼はその一連の考えをきっぱりと心から追い払うと、その紙を裏返して次の最後の頁に進んだ。
左上の隅にはかなり上出来の彼自身の絵があって、椅子の背にゆったりともたれ掛かり、脚を足台の上に乗せて組んでいて、手は大きなグラスを抱えていた。一目でその場面がいつのことか判り、彼は笑顔を浮かべた ‐ 彼らが一緒に座って、遅くまで飲みながら話したあの晩だ。もちろん、頁の下にはフェンリスの姿も描かれていて、身体の横を下にして気楽に寝そべり、片肘を付いて、もう片方の手には赤ワインのグラスを抱えて、頭を少し後ろに傾け見る人の反対側に視線を向けていて、彼の顔に微かな笑みが浮かんでいるのがかろうじて見て取れた。残りの部分はいつもの猫と犬のスケッチで埋められていた。セバスチャンは彼自身の横顔を見つけると、再び微笑んだ。アンダースは本当に、ちょっとした絵を描く才能があった。遠近法に適った縮尺図法が実に上手く取り入れられていた。
彼はそれらの頁を机の中にしまい込むと再び仕事に戻り、とりわけ強情で反抗的な二人の貴族を彼に協力させるために必要となる複雑な策略に没頭するうちに、絵について彼が考え込んだことはすぐに忘れてしまった。
アンダース先生無修正ッスか流石っすパネェっすw
…置いときますねw (ノ゚∀゚)ノ【ガムテ】【ガムテ】【アロンアルファ】
コメントありがとうございます(^^
だいじょぶ、今回夢じゃないから!夢はね、日本語にならないんですwww当たり前か
無修正アンダース vs 自己検閲機能搭載セバスチャンとか、
「息をするように色目を使う」ゼブラン vs 「満遍なく地雷原」フェンリスとか、もう楽しすぎてw
すいません「満遍なく地雷原」があまりに
ツボ過ぎましたwwwwwwwww
話すのもダメ触るのもダメってどんだけw
とかゼブラン思ってそう。
場所もダメなら褒めるのもダメですからwww
うわああああああ
54.txtがきえたああああ
つーか上書き保存した?しちゃった?……
一時間分巻き戻った。寝ます(>_<)ま、頭の中には文章は残ってるから……orz