第107章 到着

セバスチャンは寝室の鏡に映った自らの姿をもう一度眺め、一つ溜め息を付くと身体を翻した。彼が下流に置いた見張り台から、今朝最初の知らせが届いた。マイナンター川を西へ、スタークヘイブンに向かってやってくる大司教の船が視界に入ったという。見張り台を順に上ってくる知らせから判断すれば、彼女が街に入る前にどこかで停泊しない限り、今日の午後遅くには到着すると思われた。

彼は彼女が上陸する際に歓迎の印として岸壁で出迎えるよう計画していた。無論、これは非公式の挨拶で――公式の歓迎会は明日か、到着の時刻によっては明後日に、貴族達と街の有力者を大勢招いた大規模なものを城で行う予定だった。計画は立てたものの、彼自身は少しも楽しみには思えなかった。若い頃でさえ大がかりな公式のパーティは彼の好みでは無かったし、長年の教会での静かな生活を送った後ではなおさらだった。

彼は居間に戻り、アンダースの姿を見て微かに眉をひそめた。男は暖炉の側の椅子に座り片手に本を持っていたが、本に少しの注意も払っていないのは明らかだった。大司教がスタークヘイブンに近付きつつ有るという知らせを先週受け取ってから、このメイジは次第に神経を尖らせていった。心を落ち着かせるため彼は再びアッシュを至るところへ連れ歩くようになり、今日は両方の犬達も一緒に連れて来ていて、少しばかり青ざめた硬い表情でゆっくりと猫の背中を撫でていた。セバスチャンは歩み寄って彼の側で立ち止まると、手を伸ばして軽くその頬に触れた。

「本当にここに居て大丈夫か?」と彼は顔を上げたアンダースに尋ねた。

アンダースはどうにか弱々しい笑みを浮かべた。
「なんとかね。君は僕を無防備で放り出していくわけではなさそうだから」

セバスチャンは彼に微笑み返した。
「とんでもない」と彼は答えた。彼がオディール大司教を出迎えに出ている間、アンダースはユアンとナイウェンと共にユアンの居室に留まり、さらに二人のエルフも同席して、普段に倍増する数の衛兵がそこを護ることになっていた。セバスチャンは本当に何事かが起きるとは予想していなかったが、もし万が一彼の予想が外れた場合、もし港の岸壁で最悪の筋書きが実現した場合に備えて、彼は跡継ぎの子供達に可能な限りの防御を与えておきたかった。
さらに彼は、隊長以下全ての衛兵に対して、いかなる理由であれ彼自身が城に戻らなかった場合、フェンリスの下に事態の収拾に当たるようはっきりと指示を出し、また今日ユアンの居室を護衛する衛兵達には、祭りの間に起きた誘拐事件で彼の救出作戦に携わった衛兵を特に選ばせていた。彼らは皆、先の事件の間にフェンリスを聡明かつ有能な指揮官だと認めていたから、彼の指揮に何の疑いも無く従うだろう。

しかし彼は心から、何事も無いことを望んでいた。これは単なる非公式の出迎えで、彼らは一言二言挨拶を交わし、それから新しい大司教は街の大教会へと向かい、次の最終目的地であるタンターヴェイルへ向かうまでの間そこに滞在することとなるだろう。正確には、最終目的地と思われる街へ――現時点でのオーレイとの敵対関係を考えれば、彼女がさらに西へ、ネヴァラ・シティに近いうちに訪れることは、およそあり得る話ではなかった。

彼はそれから友人達と静かに昼食を摂った。誰も取り立てて話をしたい気分ではなかった。彼は最初にオディールと面会する時に、ゼブランを同行できないものかと考えていた。このアサシンは政争渦巻くアンティーヴァの中心に育ち、そこを離れた後は長くフェラルデンの非常に込み入った情勢のただ中で過ごしたことから、政治というものの本質を、あるいは若い内に教会へ捧げられた彼にも増して深く理解していたし、オディールという女性に対するゼブランの読みを聞ければ彼としても有難かった。
しかしゼブランをセバスチャンが最も居て欲しいと思う場所――アンダースと子供達を護る部屋――から引き離すのはどうかという問題以外にも、このエルフを彼の随行員に加えるというのは、また別の問題となり得た。如何にエルフが主張しようと、生きた『』クロウなどあり得ないと言うのがこの時代の常識であり、見る者には当然彼が現役の暗殺者を随行していると見られるだろう。およそ政治的に賢明な行動では無かった。

昼食の後で彼は友人三人と共にユアンの居室へ行き、皆が部屋に落ちつくのを見届けてから波止場へと向かった。彼は波止場近くの倉庫の事務所を借りて適当な待機場所に仕立ててあり、大教母もそこへ招待していた。彼が到着してからしばらく後に大教母も到着し、二人は砂糖衣の掛かった小さなケーキと紅茶を挟んで静かに語り合い、そしてとうとう大司教の船団が見えたとの知らせが届いて、二人は随行者と共に桟橋へ出発した。あくまでも非公式の対面という形式上、彼らに同行する者の数はごく僅かだった。グリニスには年輩の聖職者が数名、そしてセバスチャンは貴族と商人ギルドから各二人ずつの代表者と、僅かな衛兵を伴っていた。

二人は手慣れた様子で歩調を調整して時間を見計らい、彼女の船団の最後の船が波止場へと停泊した、その直後に到着するようにした。テンプラーの小部隊が上陸し、大司教の幟が帆柱にはためくひときわ大きな船から、道板が波止場に伸びた所の左右に整列した。華麗なオーレイ様式の、白い布地に覆われた相当な大きさの輿が船倉から持ち上げられ、そして静かに桟橋に降ろされ、担ぎ人達の一群が船から下りてきてその周りに並んだ。そしてようやく、教母にシスター達が船室を出てデッキに列を作った。

当初セバスチャンはどこに大司教が居るのか見つけられず、聖職者の一行が道板を渡り始めてからようやく彼女の姿を見つけた。オディールは小柄でほっそりした女性で、既に大司教の地位を得た人物としては驚くほど若く見えた。彼自身より10歳以上の年上とは思えず、濃茶色の髪はほんの僅かに白くなり始めたところだった。その長い髪は固くお下げ髪にまとめられ、彼女の背中で膝まで達していた。

彼女とその一行が降り立つと同時に、彼と大教母グリニスは前へ進んだ。居並ぶテンプラーの間に、彼の衛兵を後に残して入らざるを得ないのは良い気分ではなかったが、他に選択肢は無かった。ここで彼女のテンプラーに対する不信感を示せば不作法と取られるだろう。
セバスチャンとグリニスは随行者を従えて道板の下で立ち止まり、オディールが波止場へ降り立つまで待つと、彼らは揃って彼女に頭を下げて礼をした。グリニスは低位の聖職者がより高位の者に対する礼として深々と頭を下げ、一方セバスチャンはずっと浅く、頷くより僅かに深い程度に彼の頭を下げ、一国の長として大司教の役割――つまりディヴァイン自身のこの地における身代わりであり、ディヴァインはテダスにおけるメイカーの代理人であるとされていた――を認めていると示すに相応しい態度を取った。オディールは、返礼として彼とグリニスに頷いて見せた。

この場に佇む三人の最高位者として、最初に口を開くのは彼の役目だった。
「オディール大司教、我が国スタークヘイブンにようこそ、心より嬉しく思います。長旅の途中で立ち寄られましたからには、ぜひ正式に歓迎致したく思います――明日の午後、私の城で懇親の席を設けました。その後に晩餐会を、もしよろしければ」

オディールは堅苦しく頷いた。
「ありがとうございます、ヴェイル大公。大変結構かと。よろしければ私はこれで失礼して、教会へ向かうことに致します。大教母グリニスと話がございますし、ご想像の通り長旅で疲れていますので」

「もちろんです」とセバスチャンは言うと、再び彼女に頭を下げた。
「それでは、明日の午後、またお目に掛かれるのを楽しみにしております」

彼女は感謝のしるしに頷いて見せ、それで彼は大教母グリニスと彼女の供を後にしてその場を立ち去った。彼女の側から立ち去りながら、思わず彼の唇から静かな溜め息が一つ零れた。どうにか上手くやれたようだと、彼は思った。彼女はあれこれ要求したり、あからさまに対立的な態度を取ることはなかった。最初の一歩としては、まあ安心出来る方だろう。

彼は叶うことなら城に走り戻りたかったが、しかし強いて落ちついた歩調を保ち、彼に同行した四人の代表者達が一行から別れ、それぞれの職場や私邸へと戻る際には立ち止まって丁寧に別れの挨拶をした。城へ戻り、上階の彼の私室へ戻る階段を登りながら思わず彼は足を速めた。

彼がユアンの居室に入っていった時、部屋には深い沈黙が降り、部屋中の皆が、二匹の犬に子供達さえ彼を見つめた。

「それで?」とゼブランが、片方の眉を高く上げて尋ねた。

「どうにか上手くいった」とセバスチャンは言った。
「皆今夜夕食に来てくれ、その時に話す」と彼は付け加えて、アンダース、ゼブランそれにフェンリスの顔を一人一人見つめた。彼らは頷き、それから彼は自室に戻る前にしばらく子供達と過ごそうと、ユアンとナイウェンの方に振り向いた。


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