第108章 正装

その日の昼食も、またひときわ静かだった。
「そこのピクルスを取ってくれないか」あるいは「ワインはどう?」というような会話以外、四人とも特に何を言うこともなく、皆この後の懇親会と晩餐を思って自らの考えに沈んでいた。

考え込む様子だったセバスチャンが、食事が終わり皆それぞれ立ち上がって部屋から出て行こうとした時ようやく顔を上げた。
「アンダース。私と一緒に来い」と彼は言った。
「お前に贈り物がある」

アンダースは驚いた顔をしたが、セバスチャンが立ち上がり、部屋から出て行くフェンリスとゼブランを見送る間その場で待つと、それからセバスチャンの後に続いた。二人は大公の寝室に行き、セバスチャンがざっくりと織られた生成りの布にくるまれた、大きな包みを彼の衣装棚から取り出して、アンダースに微かな笑みを浮かべながら手渡した。
「午後からの集まりで、お前にも新しい服が入り用だろうと思ったのでね」と彼は説明した。

アンダースはにっこり笑い、包みをベッドに置くと結び目を解き始めた。
「また新しい服?僕はもう充分に持ってなかったかな?」と彼は面白そうに笑いながら尋ねたが、包み布を開いて、その中に丁寧に畳まれた衣装を見た途端彼の手が止まった。それから彼は静かに衣装を持ち上げ、驚きに声にならない叫びを上げた。

包まれていたのはローブ一揃えだった。滑らかなつやのある、ほとんど黒に近い濃い青色のアンダーローブ 1と、その上に着るローブ、繊細な模様が織り込まれたつややかなダマスク織の絹製で、緑色の――ユアンの家中のように深緑ではなく、より浅いアスパラガスのような緑で地元では『スタークヘイブンの緑』と称され、大公家当主の家中と衛兵のみが身に付けるお仕着せに使われている色だった。ローブとアンダーローブの裾は金色の紐で絡げられていた。
包みの中には柔らかな白狐の毛皮で出来た小さなケープもあり、アンダースはそれを見て彼の古いローブの、あの羽根の肩当てを思い出して思わず笑みを浮かべた。ローブ全体としてはごく簡素な様式で、多くのメイジ達が着ているローブに比べれば地味にさえ見えたが、しかしそれはセバスチャンからの贈り物で、その上スタークヘイブンの緑に彩られ――それはこのローブに、仕立て屋の精緻な腕前と上質の布地が生み出す美を越えた美しさをもたらしていた。

「ローブを着てみろ」とセバスチャンは温かく彼に笑いかけて言った。
「どんな風か見てみたい」

アンダースは一瞬ためらった後服を脱ぎ始めた。彼が下着のみとなって、それからローブを着始めるのをセバスチャンは嬉しそうに見守った。最初はアンダードレス、袖無しの服で腰と首回りには引き紐が入っていて緩み無く締められ、脚周りはレギンスというよりはスリットの入った長いスカートのようだった。それからアンダースは長袖のローブをその上に着た。首筋から腰周りまでずらりと連なったボタンで留められるようになっていて、その下の長いスリットからアンダーローブが覗いていた。ローブの裾には細い金属の鎖が縫い込まれ、動作に従って優雅な輪郭を形取るための重しになっていた。無論、背後にもスリットが入り、その上に布地が覆い重なっていた。アンダースはもし必要ならこのローブを着たままでも馬に乗ることが出来ただろう。同じ緑色の布地で作られた飾り帯をウエストに締めて、最後に小さなケープを肩に掛け、短い金鎖の両端に付いた留め金で、彼の正面でケープを止めた。

セバスチャンは歩み寄って、メイジの首筋で詰まっていた緑の襟を引き出し、白い毛皮の上に調えた。彼はしばらく立ちつくし、アンダースの肩に手を置いたまま見つめて嬉しそうに微笑んだ。
「格好良いぞ」と彼は言い、身を前に屈めた。

アンダースは眼を閉じて唇を軽く開け、手を上げてセバスチャンのシャツを握りしめ、彼にキスをするに任せた。唇が離れた後で彼はセバスチャンに笑いかけた。
「すると、君が着替えに掛かるところを僕も見て良いのかな?」と彼はかすれ声で尋ねた。

セバスチャンは声を出して笑い、彼に向かって白い歯を見せてニヤリとした。
「お好きなように」と彼は言い、それから一歩下がって彼のシャツを脱ぎだした。アンダースは温かく彼に微笑み、後ろに数歩下がってセバスチャンのベッドの端に腰を降ろし、手慣れた様子でローブの裾を調えシワにならないように引っ張った。彼はローブの贅沢な生地を片手で撫でると、再び顔を上げてセバスチャンがレギンスの紐を緩めるところを見守った。セバスチャンはレギンスを引き下ろしながらニヤっと笑い、片方の眉を上げた。
「お気に召したかな?」と微かにいたずらっぽい響きの声で彼は尋ねた。

アンダースもニヤッと笑って、大公の姿を頭からつま先まで今一度じっと眺めた。
「うーん」と彼は考え込むように言った。
「気に入った」

セバスチャンは大声で笑い、それから彼の衣装棚に歩み寄ると、普段鎧の下に着るぴったりとしたレギンスと、着心地の良いよう詰め物の入った鎧下を取り出して身に付けた。その上に小さなフード付きの黒革の服、さらに小さな金属片を編み込んだ裾長の上着、そして最後に全て白いエナメル地に金の縁取りのされた、小さめの胴鎧と左肩当て、すね当てを身に付けた。

アンダースは首を振った。
「そんなに重ね着して、良く蒸し焼きにならないものだね?」と彼は面白そうに尋ねた。

セバスチャンはニヤリと笑った。
「お前達が着るローブについて同じことを聞きたいものだ。まあしかしその答えは、私はどんな天候の元でもこの鎧を着るのに慣れているということだな」

セバスチャンは櫛を取り上げて彼の髪を小綺麗に整えると、それからアンダースを見て眉をひそめた。
「お前の髪も調えた方が良いな」と彼は櫛を振った。
「私がやっても?」と彼は、ほとんどはにかむように言った。

アンダースは彼に微笑みかけた。
「いいとも」と彼は言ってセバスチャンが歩み寄る間に、ベッドの端に座りながら出来る限り横を向いた。

セバスチャンは髪を結んでいる紐を解き、しばらくの時間を掛けて金髪を梳った。アンダースは頭皮の上を注意深く櫛が動く感覚、軽く頭に触れて彼の髪をまっすぐに整え、分け目を付けて後ろにまとめ、再び手際よく紐で縛る男の手の感触に目を細めた。セバスチャンは紐を結び終えると指先をアンダースの顎に当てて彼の方に振り向かせると、身を乗り出し彼の唇へ再び静かにキスをした。

「さてと。準備は出来たかな?」とセバスチャンは優しく彼に笑いながら尋ねた。

アンダースはうっすらと笑った。
「どうやらそうみたいだ。ただアッシュを連れて行ったものか、どうかと思ってね」

セバスチャンはニヤリとした。
「そうしたければ連れて行けばいい。彼ひとりぼっちにはならないだろうから。ユアンはティーグを連れて行くぞ」

アンダースは鼻を鳴らした。
「じゃあ連れていこう」と彼はきっぱりと言うと、ローブを見下ろして難しい顔付きになった。
「君は本当に、僕が今日これを着ていても大丈夫と思うか?」

セバスチャンは温かく彼に微笑んだ。
「ああ。お前にローブを着るのを禁じていた頃は……私はお前が何者か、あまり目立たせたくは無かった。多少はお前の保護のためもあったが、ほとんどは私自らの怒りのせいだった。もうその怒りはとうの昔に消え、お前がここに居ることも既に知られている。ならお前が何者であるのかを隠したり控えめに見せる理由は何も無い、アンダース。もしお前がローブを着たければ、着れば良い」

アンダースは深く息を吸い込むと微笑んだ。
「なあ、僕は以前にアマランシンで、どうしてずっとローブを着ているのか、ずっとテンプラーに見つかりやすくなるのにって聞かれた事があるんだ。その時僕は、自分を何か別のものであるフリをするよりは、隠し立てをしない僕自身で居たいと言った。変わる必要があるのは僕じゃない、世界の僕に対する見方だと。僕は……またあの頃の僕に戻りたい、そう思う。ローブをありがとう、それに僕に思い出させてくれたことにも」

「どういたしまして」とセバスチャンは言い、彼は手を伸ばして再びアンダースの頬に軽く当てた。
「お前は、その頃のお前に毎日近付いていると思う。私はそれが嬉しい」と彼は言った。彼は身を屈めて、しばらくの間アンダースの頭に彼の額を押し当てた後、再び身を起こした。
「さて、私はもう行ってパーティの用意がきちんと整っているか見にいかなければ。パーティに来る時間までお前はここに居ろ。護衛が時間になったら、呼びに来てくれる」

アンダースは頷いた。二人は居間に戻り、アンダースはセバスチャンが立ち去るのを眺め、それから手近の本を取ると腰を落ち着けて待つことにした。


セバスチャンはひな壇の上の、王座の側で立ったまま部屋を見下ろした。彼の貴族達と最も裕福な商人達、そしてギルドマスター達が着る高価な服が、大きな部屋を煌びやかな輝きと色彩で埋めていた。まだ半分ほどの招待客しか到着していなかったが、新しい大司教が入場する際に彼女を待ち受けるに相応しい程度の混み具合とはなっていた。彼は数分前に彼女が城に到着したとの知らせを聞いていて、今この瞬間、彼女が部屋に入ってきてもおかしくなかった。

Ceremonial mace彼がそう思うや否や、正面の扉の側で立つ伝令官が、儀礼用の杖の石付きを床に打ち付けた。
「フリーマーチズ大司教、オディール閣下。スタークヘイブン大教母、グリニス師……」彼は次々と、一行に同行する高位の聖職者の名と肩書きを良く通る声で告げた。

セバスチャンはひな壇から、特別な挨拶の印として床面まで降りてオディールを出迎えた。彼は頭を下げ、彼女も頭を下げ、二人は堅苦しい公式の挨拶を良く通る声で交わしあった。

彼の目配せに応じて二つ目の華麗な椅子が運ばれ、王座のすぐ近くに置かれた――隣にではなく、少しばかり横前方で彼と向かい合うような角度で、あまり儀式張らない設えに――そして彼は彼女がひな壇に上がる数歩の間礼儀正しく腕を差し出して、彼女を椅子に座らせ、それから彼も自らの王座に座った。グリニスとオディールの随行者で格上の者が数名、オディールの椅子のすぐ下に並んで立ち、残りの者は部屋の壁際へ引き下がった。彼ら二人は礼儀正しく、社交儀礼としてスタークヘイブンの滞在はどうか、オーレイからの長旅はどうだったか、等々取るに足らない内容の会話を交わした。

「ユアン・ヴェイル卿、レディ・ナイウェン・テイラー・フィッツヴェイル 2、メリドワン・テイラー夫人、およびお付きの方々」
伝令官が彼らの入場を告げた。セバスチャンは再び立ち上がり、ユアンが一行から唐突に抜け出して長い絨毯に沿って彼に駆け寄り、既に彼の腰まで有る大きさの、子犬のティーグがその足下を競うように走ってくるのを見て微笑んだ。少年がパーティに相応しい立ち居振る舞いを教わっているところを彼は見たことがあったが、明らかにようやく出席できた喜びからすっかり忘れ去ってしまったようだった。

セバスチャンは急いでひな壇から降りて、少年がセバスチャンに向かって飛び込んで来るのを捕まえて抱き上げ、腕の中で起き上がった時に少年の顔に浮かんだ開けっぴろげな笑顔に、思わず彼も歯を見せて笑った。
「このいたずら坊主」と彼は静かに言った。
「行儀が悪いぞ」

「ごめん、セバスチャン……えっと、ヴェイル大公」とユアンは言った。
「忘れてた」

セバスチャンは鼻を鳴らし、少年を床に降ろして彼の手を取り、ナイウェンが礼儀正しい歩調を保って彼らのところまで粛々と歩いてくるのを待つ間、少年に温かく笑いかけた。彼はナイウェンの手も取って、大司教に紹介するため二人を連れてひな壇へ登った。

「閣下、私の従兄弟、ユアン・ヴェイル卿を紹介致します。そして彼女が、私の姪に当たるレディ・ナイウェン・テイラー・フィッツヴェイルです」と彼は堅苦しい口調で言った。

「こんにちは、閣下」と二人の子供は声を揃えて良い、適切な角度で大司教に向かって頭を下げ、彼女は微かに笑って二人に頭を下げ、その後でセバスチャンは二人をメリドワンとピックのところに戻し、彼らはぐるりと部屋を廻って行った。セバスチャンは席に座りながら微笑んだ。

さらに招待客が到着し、幾らかはセバスチャンと大司教に挨拶するため前に進み出たが、残りの者はそのまま部屋の側へ移って、後からまとめて紹介されるのを待った。

「ブラックマーシュのゼブラン・アライナイ男爵 3と、およびスタークヘイブンのサー・フェンリス」と伝令官が呼ばわった。

セバスチャンは思わず両眉が上がりそうになるのを感じ、強いて表情を平静に保った。ゼブランは男爵だったのか?彼からは一度もそんな事は聞いていなかった。それから彼は、二人のエルフが絨毯の上をひな壇に向かって歩いてくる様子に、再び眉が高く上がりそうになるのを感じた。多分ゼブランが、色々手配したのだろうと彼は想像した。二人の装いはまさに劇的な効果を示していた。

StarSapphireゼブランは、ぴったりとした黒色のレギンスを太腿まで覆うブーツにたくし込み、ブーツには無数の飾り金を付け――どちらかというとイザベラの趣味に合いそうな――その上はほとんど光り輝くばかりの純白の、絹製のシャツが彼のブロンズ色の肌を引き立てていた。彼は青の飾帯を腰から右肩に掛け、一組の短剣が帯を貫いて差し込まれていた。装飾的な剣で、金色の柄はドラゴンの頭を型どり、それぞれ牙を剥いた口の中には大きなスター・サファイアがはめ込まれていた。飾帯の肩口はほとんどセバスチャンの掌の大きさほどもある、犬の形をした金のブローチで留められていた。マバリ犬だった。

フェンリスは頭からつま先まで、艶消しの黒と煌めく銀色の装いだった。スエード革の漆黒のレギンスの、外側の縫い目は銀色の紐で飾られ、ビロードの黒地の上着は首回り、裾、手首と至る所に手の込んだ銀糸の刺しゅうが施されていた。背筋を伸ばし、ゼブランの後ろを油断のない表情と歩調で進む長身のエルフは……ひどく物騒な、客人というよりむしろボディーガードのようにさえ見えた。

ゼブランはゆっくりと、床に敷かれた絨毯の上をゆっくりと王座の正面まで歩き、それからセバスチャンと大司教に向けて頭を深々と下げ、次いでより浅い角度で大教母に礼を送った。フェンリスは三人に向けて僅かに頷いただけで、あたりに警戒の目線を送っていた。

「セバスチャン・ヴェイル大公、閣下、大教母」とゼブランは彼一流の人好きのする笑顔で二人の女性に笑いかけた後セバスチャンに振り向き、ほとんど期待するような表情を顔に浮かべた。

「ゼブラン男爵」とセバスチャンはにこやかに彼に笑いかけて言った。
「出席頂けて嬉しく思います」

ゼブランは白い歯を見せて笑った。
「お招き大変感謝致します」と彼は言った。
「私の滞在中のお持て成し、まさに非の打ち所もございません」

セバスチャンは再び笑った。
「そのくらいは当然のことです。ですがまた後で話しましょう」

「もちろんです」とゼブランは言ってまたもやセバスチャンと二人の聖職者に深々と頭を下げ、それから身を翻してぶらぶらと歩み去り、フェンリスが足音一つ立てず後ろに従った。

「あのエルフは何者ですか?」と眉をひそめてその後ろ姿を見やりながら、大司教オディールが尋ねた。

「フェラルデンのゼブラン・アライナイ男爵――ブライトの間、英雄の仲間だった一人です」とセバスチャンは答えた。ゼブランがあのような見せびらかしを行った理由はまさにこれだった。そのお陰で、セバスチャンは彼とソリア・マハリエルとの繋がりに言及することが出来た。
「彼はフェラルデンの英雄の要請で、私の城の客人となりました」

オディールはその言葉に少しばかり驚き考え込む様子であったが、それ以上尋ねようとはせず、代わりに彼女の注目は扉に向けられ、そこからはちょうどテンプラーとメイジの一群が入ってくるところだった。
「それであの者達は?」と彼女は、微かに鋭い響きの声で尋ねた。

「ああ、私はここに小さな書写室と学校を開いていますが、ここへ避難して来た者達のうち何名かがそこで働いています。彼らが写字生として自ら働くことで、他のより安全な場所に居る同僚の費えを相当抑える助けになりますから」と彼は軽い調子で答えた。
「そこで働くテンプラーに、今日この席に出席させても良かろうと思いましたのでね。そして彼らは自らが責任を持って守護すべき者達を放って行くようなことは致しません、無論ですが」

「無論その通り」と彼女は素っ気なく言い、彼らが大きな部屋の中に入り、テンプラーとメイジが一組となってそれぞれ他の客人の中に混じり合うのを、微かに眉をひそめて眺めていた。

セバスチャンは二つ目の、より小さな一群がテンプラーとメイジの後から続いて入ってくるのに気付き、アンダースの姿を見つけて小さな喜びの波が押し寄せるのを感じた。男は彼のローブを着て、アッシュを腕に抱え先の一団に従って歩き、その後ろにドゥーガルとシスター・マウラ、そして最近入ったという助手の少女が付き従った。シスター・マウラはチャントリーのローブに、一方ドゥーガルと新しい少女はアンダースの新しいローブと良く合う色合いの、新品のお仕着せを着ていた。彼らは二人とも、アンダーローブと同じ黒青色をしたレギンスにスタークヘイブンの緑のチュニックを着て、首回りと裾を金色の紐で結び、スタークヘイブンの紋章である雄鹿を簡略化した絵柄の、白糸の刺しゅうを左胸に付けていた。一行の後ろにはアンダースの護衛が、普段よりやや警戒する様子であたりを見回しながら付いて歩いていた。

彼らは先を進む一行から離れて部屋の一方へ向かい、長い壁に沿って立ち並ぶ客人の群れに紛れ込んだ。オディール大司教は彼らの姿に気付いたようには見えなかったが、グリニスの考え深げな視線からすると、大教母は気が付いたようだった。

些細な会話が時折先のように中断される以外はだらだらと物憂げに続き、それから正式な紹介を行う時間となった。伝令官がまた彼の飾杖を、数回大きく床に打ち付けて静粛にとの合図を送り、それから懇親会の開始を告げた。セバスチャンは立ち上がってオディールに片腕を差し出すと彼女に連れ添って床まで降り、大教母も従って彼女の側に立った。メリドワンが二人の子供を連れて現れ、ユアンとナイウェンの後ろに立った。彼らは実際はまだ幼いため主賓として並ぶ必要は無かったが、しかし彼らにも進行を見せておき、そしてスタークヘイブンの貴族や重要な市民達と顔馴染みになっておくのは良いことだった。

その頃には客人は自然と所属や身分別に列を作り、貴族とその配偶者の最初の列が、セバスチャンと大司教に適当な引き合わせと紹介を受けるため前に進み始めていた。実に長ったらしく、退屈な儀式で、隣の宴会場から漂い始めた美味しそうな匂いによっても少しもマシにはならなかった。既に晩餐会の最初の料理が、いつ食事が始まっても良いように並べられていた。幸いにも、大広間に居る招待客の全てが紹介されるわけではなく、貴族達と格の高いギルドマスター達、それに最も有力な商人が数名というところだった。ゼブランは男爵位の故に貴族の列で最後の方に現れ、フェンリスもまだ堅苦しく、彼の背後で歩いて居た。

ようやく紹介の列が終わり、セバスチャンは再び大司教に腕を差し出して、晩餐会の席へと向かった。今夜は四品からなる晩餐で、それでも全部で二時間以上は掛からなかったはずだったが、まるでだらだらと永遠に続くようにさえ思われた。最後にオディールが立ち上がってセバスチャンに温かなお持てなしに感謝する旨の言葉を述べた。
彼も立ち上がって同様に返礼の言葉を述べ、形式通りの別れの挨拶、そして彼女と随行団は立ち去った。セバスチャンは残りの客人達に同じく別れの挨拶をすると、彼自身の居室の静けさとプライヴァシーを求めてそそくさと立ち去った。

彼は明日教会に行って、公式な会合を彼女と持たなくてはいけないだろう。今日の歓迎会を彼は待ち望んでいなかったが、明日の会合はなおさらだった。


次章はすごーく長い上に込み入った話なので、更新が遅れると思います。

Notes:

  1. 適当な日本語が無いが、要するにローブの下に着る薄い生地の服。日本で言えば肌襦袢か。
  2. FitzVael: ~様のご子息というような意味で、貴族の姓に付く場合は庶子と認められた子であることを示す。ちなみに”Alistair FitzTheirin” と言うのはあくまで同人界のお約束で、ゲーム内では庶子扱いすらされていなかったようだ。可哀想なアリスター。
  3. Bann:フェラルデンの称号だね。一応上からThyrns:公爵(マク・ティア家とクースランド家だけ、かな)、Arls:伯爵(ハウ家、イーモン家、あと幾つか)、Bann:男爵(いっぱい。ティーガンもBann)となるようだ。
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第108章 正装 への2件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    >二人の装いはまさに劇的な効果を示していた。

    あー、もうアレだ、これはここで二人してタンゴを
    踊るべきですね。映画「ブエノスアイレス」みたいに。
    あとはどうなっても知りませんがw

  2. Laffy のコメント:

    ぶふっw
    想像して思わず吹き出した、大広間の赤絨毯(いや赤とは書いてないけど)の上で?w
    だけどゼブランはタンゴ、フェンリスはワルツしか踊れなかったらどーすんだろう。

    あー109章半分でけた。書いててつまんないなあ、延々と台詞が続くし。
    (いや待て、昨日90%地の文で嫌だとか言ってなかったか)
    ソリア・タブリスってあるけどこれマハリエルの間違いだろうね、タブリスは確かシティ・エルフのはず。
    あーオディールが間違って覚えているんだよ、って可能性もあるか?んー。

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