1.遠征隊は地底回廊へ

(原作者注)全てのキャラクター及び舞台背景はBioWareに所属します。これでお金を稼ぐつもりはありません。このお話はいわば “パラレル・ワールド”物です。ゲーム内の年代やストーリーを追いかけるつもりは無いので、細かい点やエピソードは正確ではありません。もちろん物語の舞台はテダスですが、現実社会から有名な世代(“Jazz Age”)の名前を借りています。

あと、セバスチャンは居ません。ごめんなさい。彼のDLCは買わなかったので、書くことが出来ないのです。

(翻訳者注)とりあえず走り出します。メイジのトリップ・ホークとフェンリスに中心を置いていますが、セバスチャン以外は全てのDA2の仲間達が登場します。”狂乱の20年代”のシカゴならぬカークウォールを走り抜ける私立探偵ホークの物語、お楽しみ下さい。



カークウォールでの二年目の夏、俺はレッド・アイアン一家との契約が終わったことを知った。連中の扱いは悪くなかった――とにかく、カークウォールの他の連中と同じくらい悪かったと言う意味だ。メーレンは俺とカーヴァーが望むなら、一家の中でそれなりの地位に着けても良いと確約してくれた。だが俺には自分がモノホンのギャングとして上手くやれるとは思えなかった。それにそうしたら最後、絶対やつは俺の『殺しは無し』という主義を崩しに掛かるだろう。

カーヴァーがオスタガーの前線からぼろぼろになった軍服でびっこを引きながら戻ってきて、俺達がフェラルデンを逃げ出してから、もう二年が過ぎていた。ロザリングの村からどうにかこうにか逃げ出した時の、背後に響く戦車の地鳴り、ライフル砲の音、そして爆発音、今でもありありと思い出せる。ベサニーは、間に合わなかった。あの娘は今ではメイカーの側に居る。あの頃のことを思い出してばかりいるのは、俺の好みじゃ無い。

俺達はカークウォールに着くや否や、叔父のギャムレンはてめえの借金の形に、俺達を年季奉公に売り飛ばした。だが俺達は文字通りからっけつの一文無しで、やつの家以外何処にも行くところが無かった。母さんを屋根の下に居られるようにするには、あのアホウと同居するしかなかった。俺も、カーヴァーと同じ部屋で寝起きするのはありがたくは無かった。下町の貸店舗の二階の、ギャムレンの薄汚いアパートに四人の大人と犬一匹が詰め込まれていた。俺達が描いていた予想図とは随分違っていた。母さんは昔は大金持ちだったと言ったことがある。どうも、俺達には叶いそうに無い夢のようだ。

だがようやくメーレンとの契約が終わって、俺達は自由になれた。カークウォールでの一年で俺もカーヴァーも田舎の兄ちゃんから、ピリッと気の利いたナウでヤングな大人の男になった。多分。まあ、カーヴァーが気の利くやつだとは俺には思えないが、それでもともかく俺はその日の朝やつの後に付いて、金になりそうな仕事の話のために出かけていった。

だが結局、骨折り損のくたびれもうけだった。

「やれやれ、全くの時間の無駄だったな」
大学の重い扉を押し開けて先に通してやると、妖婦未満の娘っ子達は俺に笑いかけた。俺達もその後をついて表通りに出た。カーヴァーは頭を下げ、やつの耳まで真っ赤にしていた。こいつは何でも個人的に考えすぎるのが欠点だ。俺は、カーヴァー以外の大体の連中と上手くやれたが、それにしてもあのテトラス教授と上手くやれる世間は何処にも見当たらなかった。

カーヴァーは俺より肩幅が広く、たったの一インチ程背が高かった。こいつは暗い色の髪の毛と言い、何でも自分のことのように思い込むことと言い、母さんにそっくりだった。俺が16の時に死んだ父さんの方に俺は似ていた。俺は彼から赤毛と法律なんぞクソ喰らえ、というのを受け継いだ――その他にも色々と。

その日の朝も上町は賑わっていた。小綺麗な自動車が朝の光に煌めき、ジャズがどこか近くの店から聞こえてきた。クラクションが鳴り響き、新聞売りの少年が叫び、一分間の間に100人の肩とすれ違うほどだった。
俺は自由だ。誰もここじゃあ俺が誰か知らない。いいね、気に入った。この世界は、俺のメシの種だ。俺はタバコに火を付けて大きく身体を反らせ、通行人が慌ただしくケーブルカーを避けていくのを眺めた。ケーブルカーはベルを鳴らしながら重たげに坂道を登っていった。

前に一度、ケーブルカーが自動車と衝突するのを見たことがある。交通事故と言うらしい。フェラルデンに住んでいた時には想像すら出来なかったことだ。世界は広い、たまには立ち止まってじっくり考える必要がありそうだ。

カーヴァーはまだ拗ねていた。

俺は弟を元気付けようとした。良い兄貴なら誰でもそうするだろう?
「なあカーヴァー、やつは俺達を救ってくれたんだぜ。あのタカビー野郎の命令を6ヶ月も聞きたいのか?幾ら新聞がやつの冒険旅行が宝探しだって書き立てても、俺なら信用しないな。やつはお前の頭ほどもある金ぴかのダイアモンドを見つけるかも知れないぜ、だけど俺達にゃその磨き賃だって出やしない。そもそもなんだってあの仕事をそんなにお前が受けたがっているのか、俺にはさっぱり」

「俺達は霞を食って生きられる訳じゃ無いぞ、トリップ!それに金ぴかのダイアモンドってなんだよ、意味判んねえよ。兄貴は上町で綺麗な女を眺めてぶらついてればいいさ、もしそうしたきゃな。だけど俺は、母さんにひもじい思いをさせるのはごめんだ。それにあの家から出るんだ。ギャムレンは母さんをイライラさせている。俺ももう沢山だ」

くそったれ。母さんをダシにしやがった。まあ、ギャムレンについてはその通りだが。

やつは更にその線で押してきた。
「兄貴は俺達の怖れを知らぬリーダーなんだろ。長男坊だ。父さんが後を任せた男だ。大体、俺達が真っ当な筋で真っ当な仕事を探せないのも、もしテン――」

「その口に靴下を突っ込まれたいか、カーヴァー?」俺は唸った。人混みの中でテンプラーのカーキ色の山高帽と制服を探すのは俺の第二の本性になっていたし、誰が俺をやつらに売るか判った物では無かった。カーヴァーにぺちゃくちゃと喋らせていたら、いずれそうなるだろう。
「いいか、俺に考えがある」

カーヴァーは両腕を前で組んだ。

「俺にはまだ私立探偵免許がある、そうだな?ギャムレンを表の部屋から追い出して、表に看板を出すよ。母さんをあの家から出せるようになるまで、俺達でまた浮気者の旦那を追いかけて、無くなった宝石を探せばいい」

「俺達?」

俺は顎をしゃくった。
「もし貴殿がご多忙で無い限りは」

「すると兄貴の壮大な計画では、表の部屋全部を兄貴の仕事場に使うってのか?」

カーヴァーにはもう少しうまい餌が要るようだった。
「それにだ、俺はそっちで寝ることになるぞ。俺達の部屋はお前が一人で使ったら良い。ギャムレンは居間で寝るさ」

カーヴァーは考え込むように見えた。
「ふーむ。判ったよ。ただ一つ問題がある」

「一つだけか?ありがたいこった」俺は下水の溝に吸い殻を放った。

「兄貴の免許はフェラルデンのだろう、カークウォールのじゃない。それに大体、あれは偽造品だ!」

「その通り、フェラルデンの免許であるが故に、ここカークウォールの連中は偽造を見抜けない」
俺の論理は、いつも通り完璧だった。
「それに、下町の連中がそんなこと気にするもんか。もしそれでお前の気が済むなら、カークウォールの免許を取るために金を貯めたって良い。金さえ工面できればアヴェリンが書類の方は何とかしてくれるだろう」

カーヴァーはようやく話に乗った。そうなる前にどれだけぐだぐだ言ったところで、結局やつは何時だって乗ってくる。
「判ったよ、兄貴の言うとおりにしよう」

「元気出せよ、おい。何も悪い事なんて起きやしないさ」


カーヴァーと俺は、言うまでも無く、俺達の計画を親愛なる叔父には話さなかった。だからやつがカードに負けて――大体毎晩のように――帰ってきた時には、やつの持ち物は全部居間に運び出されて、俺の物が表の間に移されているのを見ることになった。叔父はすぐ不機嫌を露わにした。

「あのガキ共が――」もちろん、やつが怒りに行ったのは母さんだった。俺もカーヴァーもやつより大きかったし、叔父をコケにしてるのは俺達兄弟が共通する数少ない点の一つだった。俺がどうにか書類棚を新しい仕事場に納めようと四苦八苦している時に、やつのわめき声が聞こえてきた。「俺の持ち物の置き場所を勝手に変えやがった、俺の家だぞ!お前達皆をただで住まわせてやってる、俺の家だ!家族の絆に甘えるのも大概にしたらどうなんだ、リアンドラ」

「何か言いたいことがあったら、叔父貴よ、俺の目の前で言ったらどうだ?」
俺は台所の戸口にぬっと立って―これも一種の才能だ―言ってやった。やつは多少おとなしくなったが、大騒ぎを止めようとはしなかった。

「おい、いいかトリップ、これには何かこの上なく真っ当な理由があるんだろうな?さもなきゃ俺が…お、お前を放り出して…」

「俺は金を稼ごうとしてるんだ」と俺は言った。この場を切り抜けられる唯一の方法だ。

「お前を…あん?金だと?それで、どうやって?」

「前の商売をまた始めるのさ」と俺。
「俺がここに居ない時はあんたが電話を取ってくれるだろう」およそこいつがやりそうな事では無かったが。

「トリップはフェラルデンで私立探偵だったのよ」と母さんがハムとコーンのかき揚げを作る手を止めて、俺の襟元を真っ直ぐに直しながら言った。
「とっても腕が良いの。何時だって無くした物を見つけたし、困ってる人を助けたわ」
これが俺の母さんだ。俺達に限りない信頼を置いてくれる。
「ほら、もう喧嘩は終わり?お座りなさい。晩ご飯はもうすぐよ」

その『晩ご飯』という言葉に俺のホース、あーつまりマバリ犬、(まるで馬みたいってことで、まあヘボな冗談だってことは判ってるさ)が飛んできて眼を輝かせ、寸詰まりの尻尾を振り回した。母さんは声を立てて笑い、彼に順番が来るまで待ちなさい、もう油かすは食べたでしょうと言った。

ロザリングに居た頃の家族の食卓と比べれば、大勢の顔が欠けていた。父さん、それにベサニー。だけどこれで我慢するしかない。もっと苦しい生活をしている人だって、大勢居るんだ。


翌朝カーヴァーは俺の手伝いをぶっきらぼうに断って、港での荷運び人夫の日雇いを探しに出かけていった。それで俺は一人で表にハシゴを掛けて、戸口の上の看板掛けに俺が昨晩書き上げたささやかな看板を取り付けた。この日はひどく暑くなりそうだった。俺の額からは汗が流れ落ち、キャベツのマリネの臭いが近くのエイリアネージから漂うスパイスの香りを打ち消していた。

金が入り次第仕事場に扇風機を付けてやる、俺は心に堅く誓った。

「ふん、ここの大家が同じ家をダブって売ったとは思いたくないがね」

俺はグラグラする梯子からほとんど落ちそうになり、鋳鉄製の看板掛けを握りしめてどうにか身体を支えた。肩越しに振り返ると、そこに俺の方を見上げているドワーフが居た。

良い笑顔だ、それに上等で仕立ての良いスーツ。より正確には、下町には上等過ぎるスーツ。少なくとも下町の合法な商売人としては。俺は最初こいつが、みかじめ料の件で来たのだと思った。商売を始めてからたったの1.5時間で早速強請に来るのは大した物だが、この街じゃあ何があってもおかしくは無い。この推測は、彼が奇妙な形のケースを肩に担いでいることでも補強された。あの中にトロンボーンが入っているという方には、俺なら金は賭けない。

俺は梯子から滑り降りて男に向き直った。彼は掛けたばかりの看板をじっくり眺めていたが、やがて振り向いた。

「私立探偵だって?ふん、あんたなら一つの店で二つの商売の謎が解けるかもな」

俺は肩越しに、後ろの空き店舗に振り返った。
「あの店か?」

訪問者は頷いた。
「そう。俺はあの場所を借りたところなんだが」

「ああ、それなら何の問題も無い。俺の店は二階だ。まさか一階が…そこの店は、俺達が二年前にここに越してきてからずっと空き家だったからね。あんたの看板掛けを勝手に使って悪かった。俺はトリップ・ホークだ」

俺は手を差し出し、ドワーフは握手を返した。しっかりした、良い握り方だ。俺はこの男が何の商売をしているのかさっぱり検討すら付かなかったが、随分人当たりの良さそうなやつだったし、彼の看板スペースを俺が取っちまったことについても気を悪くしたようには見えなかった。

「ヴァリック・テトラスだ。その顔からすると、お前さんは多分俺の兄貴に会ったことがあるみたいだな。何故って俺の前に兄貴に会ったやつは、みんな同じ顔をするからさ」

俺の笑い声はちょっとばかり残念そうに聞こえたかも知れない。
「俺の弟と一緒に雇ってくれないかと、昨日会いに行った所だ」

「ああ、それで説明は付くな」

「さてと、これからご近所さんになるだから、上がって一杯飲んでいかないか。この看板もどうにかしないとな。下にもう一つ掛けるとか?」と俺は上の戸口を指して言った。

「どっちも良い考えのようだ」と彼は狭い階段を後に続いて、俺達のアパートに入った。

「それとここに住んでるのは俺だけじゃない」と俺は彼に警告した。
「つまり、法的にはこの場所は叔父貴の持ち物だ。俺達も住んでる、今のところは」 何時までかは未定。やれやれ。

「あんたはフェラルデン人か、そうだな?あの辺の訛りがあるような気がする」

「ああ、そんな風に言われたこともあるね、もし帰りの切符をくれてやると言われても、もうあそこにはなーんにも残っちゃいない」

俺は彼がその奇妙なケースをそっと壁に持たせかけるのを眺めた。
「ところで、下で何の商売を始めるつもりかな?」俺は綺麗なコップが無いかとあたりをつつき廻しながら尋ねてみた。正直に言うと、掃除も洗い物も全部母さん任せだ。

「本屋さ」 ヴァリックはそう答えた。

「俺の推理もまだまだだな。本屋とは思いも付かなかった」

ヴァリックは声を立てて笑った。
「お前さんの推理も当たるかも知れないぜ。俺は何でもやって来たからな。多分来週あたりは本屋に変わって宝石を売ってるかも知れん」

俺は男の目を見つめた。「盗品か?」

「おう、そいつは答えにくいな」

それで判った。こいつは故買屋[だ。多分完璧に合法って訳じゃないから、本屋の方が質屋よりよけいな注目を引きにくいんだろう。判ってるやつだけが知っていれば良いわけだから。俺の知ったことでも無かった。誰かが二階に銃弾をぶち込もうとしない限り、好きな物を売れば良いさ。

結局、その日の午前中ずっと、台所中のフルーツ・ジュースとソーダ水を飲み干しながら俺とヴァリックは駄弁っていた。このドワーフと来たら、俺がこれまで聞いた事も無いようなとびきりの馬鹿話を、身体の中に山のように詰め込んでいた。この男は一種の天才だと俺が気付くまでにそれほど時間は掛からなかった。こいつは本を売るより、ホラ話を売った方が儲かるんじゃ無いか?

「他人の本を売ってる場合じゃ無いだろう、ヴァリック。自分で書かなきゃ駄目だぜ」

「これは大層ご親切に、いずれそうするかもな。俺に時間が出来た時に」

母さんが昼食のために家に戻って来て、俺はもうそんな時間になったのかとびっくりした。

「ヴァリック・テトラス、俺の母親のリアンドラだ。母さん、ヴァリックは今朝下の店に越してきた人だ。本屋を開くって」

「まあ、それは良かったこと。肉屋や皮鞣し屋になったらどうしようかと何時も心配だったのよ。ぜひ昼食を食べていって下さいな」

「奥様」ヴァリックは両手を挙げていった。
「とんでもないことです。トリップは今朝からずっと歓迎してくれましたからね、私めにお二人を昼食に連れて行かせて下さい。無論、私のおごりで」

そんな風に、彼は俺達の家族の一員となった。

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1.遠征隊は地底回廊へ への1件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    新シリーズキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

    うふふふふf楽しみにしてまs(ry

    まさかこっち来るとは思ってませんでしたw
    しっかしホークさんガラ悪ィw

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