第65章 専門家からの助言

フェンリスは少しためらった後、ゼブランの部屋の扉をノックした。

「誰かな?」と、彼は中から尋ねる声を聞いた。

「フェンリス。もし良ければ君と少し話をしたいのだが?」

しばらくして扉が開かれ、半裸のエルフが現れた。ゼブランはともかくレギンスと室内履きは履いて、片方の腕と肩は未だにかさばる包帯に覆われていたが、それ以外は裸のままだった。いつもは細い三つ編みで綺麗にまとめられ、後ろに撫で付けている髪も、今朝は細い金髪がくしゃくしゃに乱れたままだった。

「どうぞ、入って」彼はにこやかに笑いかけると招き入れた。
「だらしない格好を見せて済まない、アンダースが僕の服と髪を手伝ってくれる前に緊急の用で診療所に呼び出されてしまってね。だけど、どうぞ入ってくれ、話し相手は歓迎するよ」

フェンリスは少しばかりではなく驚いて瞬きをした。
「あのメイジが君の着替えを手伝っているのか?」
と彼は興味を感じて聞いた。

「そうとも。ご覧の通り僕一人ではやり遂げられないし、彼の部屋はすぐここの隣だからね、毎朝ドゥーガルに遙々足を運ばせるよりは、彼自身で手伝う方がずっと理に叶っていると彼は思ったようだよ。もちろん僕の身の回りの世話は、ここの使用人にさせる方がよりふさわしいんだろうけど、アンダースは僕が身近に良く知らない人間を置きたがらないというのを知っているから――とりわけ、こうアンティーヴァに近くてはね。それに、彼は毎朝僕を手助けしながら、どの程度良くなったか様子を見ることが出来る。この忌々しい包帯はもうすぐ外せるそうだよ。まだ充分肩が治りきっていないから、しばらくの間は腕を紐で釣っておかないといけないと彼は言っていたけど」

メイジの行動は実際理に叶っている、そう思ってフェンリスは頷いた。

「とにかく、僕のほうはそういうこと。それで君は何が話したかったのかな?」とゼブランは言うと、彼が割り当てられた続き部屋で、居間として使っている部屋に点在する座り心地の良さそうな椅子の一つに注意深く腰を下ろし、側の椅子に向かって自由になる方の手を振った。

フェンリスはその椅子に近づくと、背の高い腕付き椅子の端に、背筋を固く伸ばしたまま腰を掛けると、再び眉をひそめた。
「実のところ、アンダースのことで君と話がしたかった。より正確にいうなら、彼の安全性について。君とナサニエルが彼の誘拐に成功した以上、俺達が彼のコテージの安全のために施した保安措置が充分でなかったのは明らかだ。俺がテヴィンターに居た頃、ボディガードとして勤めた間に得た知識はそれなりのものだと思っていたが……」

ゼブランは微笑むと、自由な方の手を上げて彼の話を遮った。
「君の保安措置は実際、かなりのものだったと思うよ。もしもっと大人数が侵入を試みていたとしたら、とても効果的に防げただろう。単に僕とナサニエルがああいう行動に非常に長けていただけさ。大勢でやると失敗するようなことでも、上手の一人か二人がやれば上手く行くというのはよくある。それだけだよ。それで、君は僕にあの随分と可愛らしいコテージの保安について、専門家からの助言が欲しいというわけかな?」

「その通りだ」とフェンリスは同意していった。
「セバスチャンは、君がもし良ければ俺と一緒にアンダースの周辺の保安体制について見て回って欲しいと言った――コテージその物と、彼が毎日働いている診療所と。診療所の方が守るのは難しい、何しろ始終人々が出入りしているからな。患者にその家族に友人、しかしながらあそこには常時大勢の衛兵がいる、診療所の中も含めて」

ゼブランは同意するように笑みを浮かべた。
「結構。確かに承った――そうでなくとも、防げるはずの時に、僕が彼女のウォーデンに危害が及ぶことを許したとなれば、ソリアがひどくがっかりするのは間違い無いからね。まず最初に、問題となっている区画を僕自身で視察して回る必要があるね。そうすれば君の取った保安措置について詳しく知ることが出来る。そもそも夜中にちらっと見ただけだったから、明るいうちにしっかり見て廻りたい。その後でなら、例えば僕のような侵入者をちょっとばかり驚かせるには、どこに何を仕掛ければ良いか、良い判断が浮かぶと思うよ」

フェンリスはゆっくりと頷いた。
「俺が視察の案内をしよう。俺は城内のほとんどの場所と、敷地内及び城壁に自由に立ち入りを許されている。君はいつなら都合が良い?」

ゼブランは肩をすくめた。
「もし君がちゃんと服を着るのを手伝って貰えるなら、今からでも?この包帯はいくらかさばっていても、雪の中を歩く時に充分だとは思えないからね」

フェンリスは少しばかり身を強ばらせたが、やがて短く頷いた。
「それなら出来る」彼は慎重に答えた。「俺は昔、従者としても働いたことがある」

「素晴らしい!」とゼブランは快活な笑みと共に言うと、立ち上がって彼の寝室へと向かった。

フェンリスは寝室の状況に、彼の眉が幾分つり上がるのを感じた。乱れたままのベッド、汚れた衣服が部屋の片隅に積み上げられ、もう一方の端には空のワインの瓶が沢山集められていた。実際、相当な数の瓶だった。

ゼブランは、まるで彼の寝室がナグの寝床のような有様であることにたった今気付いたかのように、微かに顔を赤らめて溜め息を付いた。
「この取り散らかした様子は、気にしないでくれ」彼は済まなそうに呟いた。
「さっきも言ったとおり、馴染みのない使用人が僕に近付くのは好きじゃないし、今の状態では僕自身で掃除をするにも限りがあってね……とは言っても、多分これよりは何とか出来たかもしれないな」

フェンリスはごく微かな笑みが唇の隅に浮かぶのを覚えた。
「実を言うと、俺が考えていたのはカークウォールで俺が住んでいた、元主人の古い邸宅の部屋のことだ。俺はそこに主人の元を逃げ出してから7年住んでいた。だが俺はそこが好きでは無かったし、ましてや手入れする理由なぞ無かった。ダナリアスはいつも彼の部屋をチリ一つ無い状態に保つよう厳命していたから、あの屋敷を滅茶苦茶にするのは、実に愉快だった」

ゼブランはゆっくり頷いた。
「そういった行動はとてもよく判るよ。とはいえこれは、」と彼は言うと、部屋を眺めて再び顔をしかめた。
「これよりは何とかしなくてはならないな。ソリアが今の僕を見たら、がっかりするだろう」
彼は静かに言うと、近くのテーブルの側に転がっていた空の瓶を見おろして、そっと自由になる方の手で触れた。

「彼女が居ないと寂しいな」とフェンリスは静かに言った。

「ああ、とても」とゼブランは同意した。
「彼女と出会ったのは、ブライトの年の初め頃だった。僕はフェラルデンに残る最後のウォーデン、彼女とアリスターを殺すために雇われた。そして……失敗した。彼女は僕を殺しても当然だったのに、その代わり僕を赦した。僕は彼女に忠誠を誓約し、それからというものはずっと彼女の側に居た。離れるのは本当に希な時だけだった。なのに今は……」
彼は言葉を切ると、深く溜め息を付いた。

「なのに彼女は、僕の誓約を取り消して、どこかへ行ってしまった。今の僕はまるで当てもなく彷徨う船のようなものだ。あちこち彷徨ってはいても、目的地もなければ進路も定まらない。彼女に置いて行かれた今、僕はどうすればいいんだろうな」
彼はもの悲しい様子で尋ねた。

フェンリスは落ち着かない様子で身体を左右に動かしたが、やがて静かに言った。
「生きていく、それだけだ。時にはそれしか出来ないこともある」

ゼブランは彼に視線を投げかけた。
「ああ、経験者の意見のようだね」と彼は言うと、再び顔を横に向けた。
「まだ綺麗な服がいくらか残っていたはず、とは言っても洗濯の方を後で何とかする必要がありそうだけど……」

そう言いながら彼はほとんど空になった背負い袋を覗き込み、中を漁って一枚のシャツを取り出した。長い間袋の底に置いてあったため、くしゃくしゃの皺だらけで、彼はシャツと袋をもう一度眺めると自信無さげに顔をしかめた。
「後でより、今すぐの方が良いかな」と彼は付け加えた。

フェンリスは鼻を鳴らすと、再び唇に微かな笑みを浮かべた。
「もし君が良ければ……俺の部屋を世話してくれている係の女性を呼んで来ようか。それで彼女が君の部屋を掃除する間、俺がここで付き添おう」
彼はためらいがちに、そう提案した。
「視察は昼食の後でも構わないし」

ゼブランはしばらく考え込んだが、やがて頷いた。
「そうしてくれるとありがたい。君には判ると思うけど、僕がヴェイル大公と彼の使用人を信用していないという訳ではないんだ、ただ……ここはアンティーヴァに、とても近いからね。クロウが僕がここに居ると知ったとしたら――その時には、誰かが必ず僕に手を出して、僕を殺そうとするのは間違い無い。僕の頭に掛かっている懸賞金をクロウが撤回することはあり得ないし、随分な大金になっているからね。いずれまたどこかの青二才の馬鹿者が、自分なら彼を殺して名を上げ富を手に入れられると考えるだろう。前にも起きた事があるんだ。連中はしばしば召使いとして忍び込むか、あるいは召使いにそうさせようとする」

彼は一瞬わびしい顔つきになった。
「掃除を命じられた部屋の客人よりも自分の子供や愛する者を大事に思ったこと以外、何の落ち度もない誰かを殺すのは、嫌なものだよ」

フェンリスは頷いた。
「その女中を呼んでこよう」と彼は穏やかに言った。

彼らは居間に戻ると、ゼブランは元の椅子に腰掛け、フェンリスが呼び鈴の紐を引いて廊下へと出た。呼び鈴に応えてやってきた使用人と短く話をした後、彼は再び部屋に戻ってゼブランの隣に座った。少しばかりすると扉を静かにノックする音が聞こえ、フェンリスが立って行くと彼の呼び寄せたメイドを中に入れた。

そのメイドはやや年嵩の、ずんぐりした優しい風貌の女性で、緩やかな団子髪にまとめた明るい茶色の髪が数本、彼女の丸っこい顔の周りで踊っていた。彼女はゼブランを心配そうにちらっと見たあと、笑みを浮かべながらフェンリスに頭を下げた。
「お呼びですか、サー・フェンリス?」

「ああ。セラ・マーサ、こちらはセバスチャンの客人のサー・ゼブラン。彼の部屋を片付ける必要があるのだが、彼の持ち物の中には色々、不注意な者が触ると危険なものがあり、誰にでも触らせる訳にはいかないという話だ。それで俺は、あなたがいつもとても丁寧に俺の部屋を片付けてくれているのを思い出した」

マーサは温かくフェンリスに向かって微笑むと、ゼブランを興味深げにじっと見つめた。
「すると、あなたはクロウ?」
彼女は彼の包帯の周りから覗く入れ墨を大まかな手振りで示しながら、用心深くいった。

「ご承知の通り」と彼は言うと、彼女に向かって頭を軽く下げた。

「私、充分注意いたしましょう、それとあなたが触るなと仰る物には絶対触れないようにいたします」と彼女は厳かな口ぶりでいった。

ゼブランは彼女に人好きのする笑顔を見せた。
「ありがとう。まず始めに、洗濯物を片付けて頂きたい……悲しいかな、着る服がもう無くなってきていてね。僕の背負い袋と、武器とベルト、あるいは革製の鎧には触らないように。他の物は全部大丈夫だよ」

マーサは頷くとそそくさと寝室に行き、数分後に服の山をシーツでこぢんまりと束ねた物を抱えて戻って来た。
「またすぐ後で、残りのお掃除に戻って参ります」というと、二人に向かって頭を深く下げ部屋から急ぎ足で出て行った。

「これはお見事」とゼブランが穏やかに言った。
「君にも礼を言うよ」

フェンリスは肩をすくめた。
「何でも無いことだ。俺も自分の服や装備を触らせる人々にはやかましく言う方だが、彼女はいつもまさに俺の言う通りにしてくれて、とても満足している。だから彼女なら、君が何故今まで他の召使いを近寄らせなかったか、理解出来るだろうと思った」

ゼブランは頷いた。
「さーて。掃除が全部片付くまで君と何を話そうか?」
彼は愛想良く尋ねた。
「馬の話とかどう?武器については?それとも、君と大公殿下がアンダースの保安のために実施した今現在の保安措置について、僕に話してくれるというのは?」

フェンリスは頷いた。
「最後の話が良さそうだ」と彼は同意した。


もう一人のエルフが彼の部屋の扉に現れた時、ゼブランは驚くと共に嬉しく思った。もっとも、彼が客を迎えるのに相応しい状態だったなら更に嬉しかったのだが。アンダースから彼を手助けする時間を奪った今朝の事故と来たら、全く忌々しい!少なくとも彼はどうにか寝間着を脱いで、ざっと身体をスポンジで拭き、ようやっと服を着始めたところで、思わぬ客人が扉をノックしたのだった。

彼は深く椅子に腰掛け、フェンリスが抑制の効いた深く快い声で語るのを聞きながら、初めてエルフを見た時の記憶を思い出し全身を心地よい震えが走るのを感じた。暗色の毛皮に覆われた白いたてがみの巨大な馬が、激しい雪を突いて音もなく幻影のように現れ、その上には異なる二つの存在では無く一体であるかの如く、暗色の外套を着た白い髪のエルフが楽々と乗っていた。まるで伝説の中の不思議な生き物のように。

その戦士が馬から軽々と飛び降りて巨大な両手剣を背中から抜き放った瞬間、ゼブランは自らの身を守ることを一瞬忘れた。両手剣はそのエルフ自身の背丈よりも長く――そして彼はエルフにしては相当な長身で、まっすぐ立った時にはほとんどヒューマンの背丈に匹敵した。ゼブランはようやく彼の短剣を投げたが、襲い来るエルフはそれを俊敏かつ優雅な動作で躱し、ゼブランはその光景に息を飲んだ。
そしてエルフの皮膚に刻まれた淡色の紋様が突然、まるでリリウムの結晶が放つような光に輝き、彼らの周囲の雪を青白い光で満たした。このような時に目にするとは予想さえしなかった目前の美にゼブランは魅了され、彼の首を切り飛ばそうとする刃を避けることも、身を屈めることも忘れていた。アンダースの叫び声とフェンリスの常人離れした反射神経、そして彼の卓越した剣技がかろうじて彼の命を救った。確かに彼は重傷を負いはしたが、死んで苔むしていくより、生きて快復する方が遙かに好ましいのは間違い無かった。

彼はこのエルフが自らの際立つ美しさに果たして気が付いているのだろうかと思った。その風変わりな紋様と異国情緒溢れる銀白色の髪が無かったとしても彼は素晴らしかった。そしてそれらを加えた時には……彼はまさしく卓越した美を放っていた。澄んだエメラルド色の眼と黒みを帯びたオリーブ色の肌、際立って対照を成す輝くように白い髪、秀でた容貌、どんな小さな動作にさえ伺える、抑制の効いた強靱さと優雅さ……しかしながら彼には欠点もあった。肩と背を丸く竦め、常に膝を曲げている様子は、彼のすらりとした長身を極力小さく見せ、彼がまるで襲いくる殴打に常に怯ているようでさえあった。彼は話す際にも滅多に相手と眼を合わせることは無く、いつも視線を横に逸らすか、あるいは下に向けて床を見つめていた。声や表情に感情を表すことはほとんどなく、希に見せる笑みといえば彼の唇に浮かぶ微かな曲線か、あるいは唇の片隅がぴくりと歪むのに限られていた。時に彼は、信じられないほどに身動き一つせず、まるで些細な動きでさえ、彼に注意を引きつけると恐れているかのようであった。

ゼブランは無論、とりわけ残虐で支配的な主人を持つ使用人や奴隷達の中に、こういった行動や仕草を見たことがあった。彼らの主人は、まっすぐな姿勢や眼を合わせることを挑戦と見なし、彼らの所有物が統制を乱している証拠と見なした。彼らの注意を引くことは決して賢明では無かった。確かフェンリスは、主人の元を逃れて7年になると言ったか?それでもまだ、今になってさえその男は彼の振る舞いを強く支配していた。

しかしながら、このエルフが大公と共に昼食を摂っている時には、より自信に満ちた、彼自身らしい振る舞いを見せる姿を見せているのをゼブランは確かに見たことがあった。明らかに彼は大公に大きな信頼を置いていて、彼の居るところでは充分寛ぐ事が出来るようだった。ゼブランはふと、この二人があるいは恋人同士なのでは無いかと考えたが、それからすぐその考えを打ち消した。ヴェイル大公は彼にとって非常に興味深いことに、その素振り、表情、目線や口調から様々な矛盾する信号を発していたが、しかし少なくともフェンリスに対する態度は、ゼブランの見る限りにおいては、常に単なる友人に対するそれであった。信頼する友人なのは間違い無い、そう、しかし何かそれ以上深い関係が二人の間にあるとは彼には思えなかった。

一方、大公のアンダースに対する態度は……ゼブランは一瞬顔がニヤッとするのを片手で覆い隠した。あの二人が毎日の昼食の席で、ひどく慎重にお互いを見ないようにしているのを見るのは、彼にとって唯一かつ最大の娯楽となっていた。あの二人が強く引かれあっているのは彼にとって火を見るよりも明らかで、同時に彼らが共にそのことに気詰まりを感じているのも、また明らかだった。一体彼らはいつまで彼らの感情を否定し続けられるだろうか。そういえば彼は、大公が未だにチャントリーのブラザーであり、純潔の誓いも含めて、誓約に縛られているというのを耳にした事があった。はっ!ハンサムな男性の、何と言う無駄遣いか。

もちろん、彼はあの大公がチャントリーへと送り込まれる以前は、純潔などという形容詞からはほど遠い生活を送っていたと言う話も聞いていた。そのことは恐らく、他のシスターやブラザー、ほとんどが孤児として教会の中で育てられた者達より、誓いを守ることをずっと難しくしたに違いないと彼は密かに考えた。恐らく一度も経験したことのないものを断つ誓いを為す方が、かつて大いに享受した快楽を断ち切るのよりもずっと容易いだろう。その記憶はいつまでも彼を誘惑するだろうから。

ゼブランは彼の現在の主人役から、彼の現在の客人へと無理矢理思考を引き戻し、思索に耽るのを止めてフェンリスが衛兵達の事、その巡回路、決められた様式について語る言葉に耳を傾け、それらを全て脳裏に刻みながら時折頷いた。

ようやく彼の部屋は綺麗に片付けられた。ワインの瓶は全て厨房に引き上げられ、ベッドはきちんと清潔なシーツで整えられ、シーツからはどこか保管されていた場所からくるハーブの芳香が漂っていた。メイドは彼の元に数点の服を持ってやって来た。洗い立てで、微かに快い暖炉の煙の匂いが漂い、パリッとアイロンが掛けられていた。こうも素早く出来上がったからには、直接火にかざして乾かしたのに違いなかった。彼女はシャツを一枚持ち上げて彼に見せた。
「こちらはベッドの上に置いておきますね」と彼女は言った。
「残りの服は、全部お洗濯してから明日までにはお持ちします、それでよろしいでしょうか?」

「申し分なし」とゼブランは満足そうに微笑むと彼女に言った。
「ありがとう、セラ・マーサ」

彼女は顔をほころばせた。
「何でもありませんわ」彼女はそう請け合った。
「もしまたお掃除が必要になりましたら、私に名指しで御伝言下さい、いつでも参ります」

「そうしよう」と彼は答えた。

彼女が立ち去るや否や、聞き慣れたノックの音と共にアンダースが急ぎ足で入ってきた。彼はフェンリスがそこにいるのを見ていささか驚いた様子だったが、それから彼の方にちらりと微笑みながら頷いて見せると、ゼブランに向き直った。
「遅くなって悪かったね」と彼は言った。
「今朝の事故はひどい物だった。荷を積み過ぎた馬車、滑りやすい坂道、まずい時にまずい場所に人が居て……」彼は言葉を切ると、唇を固く結んで疲れた様子で頭を振った。
「とにかく、もうほとんどお昼の時間だ、君を着替えさせて身繕いをしないとな」

フェンリスは立ち上がった。
「それでは、また昼食の時に会おう」と彼は言った。
「その後で視察に出かけられるだろう、ゼブラン」

「もちろんだとも」とゼブランはにこやかに同意した。「また後でね」

カテゴリー: Eye of the Storm パーマリンク

第65章 専門家からの助言 への4件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    まさかの前後編www

    すでにフェンリスの逃げ道がないように見えるのは
    気のせいでしょうかwコテージの安全より自分の身の
    安全が先だと思うのwww

  2. Laffy のコメント:

    ゼブランめ…………( ̄_ ̄|||) ドヨーン お前のせいだよお前のせいで前後編になったんだよ少しは加減しろよこの馬鹿エルフ!ハァハァ

    アンダースくんがちゃんと帰ってきたのでお着替えは無しでした♪

  3. EMANON のコメント:

    ゼブラン(゚∀゚》)<ボクの辞書に加減という言葉は載ってないよ!

    なにせ煩悩と本能が先行してますからねぇ…w

  4. Laffy のコメント:

    地底回廊拝見致しました(^.^)
    いいないいなー。ウサギ食べたい。私も野営集団に入りたかったのですが親が
    「あそこは耶蘇の手先や、あんなん入ったら親の言うこと聞かんようになる」
    と入れてくれませんでした。
    耶蘇てw YWCAとごっちゃになってたみたいねww

    子供の頃、家の前の田んぼに大きなアメリカザリガニがいっぱいいて、もう大喜びでバケツいっぱい捕まえて、家の前に七輪を出して焼いて食べた記憶が(注:大阪市内です)
    ということでフェンリスにザリガニ食べさせてやってwww

    フェンリス「断る」

コメントは停止中です。