第70章 気がかりな興味

明け方には雪はみぞれ混じりの雨と変わっていたが、アンダースの幸せな気分は少しばかりの冷たい雨で台無しとなることは無かった。彼は手早く昨日の服を身につけると、犬と猫を朝のトイレのために中庭に連れ出した。犬達は雨を少しも気にする様子は無かったが、アッシュは毛嫌いする様子で、差し掛け屋根から用便を済ませるに足るほんの僅かな間だけ外に出ると、大慌てで屋内に戻ってきた。猫はアンダースの足を踏みつけその上に座ると、神経質そうに身体を舐めて乾かし、それからようやく犬達が戻って来て、綺麗に磨かれた床のそこら中に水滴と泥をまき散らした。

上階に戻って犬達を乾いた布で拭いてやってから、アンダースはたっぷり時間を取って熱い風呂に入り、きちんとひげを剃って再び新しい服に着替え、デーリッシュの金色のスカーフを首に巻くと一人微笑んだ。それから彼はアッシュを抱き上げ、ゼブランの朝の身繕いを手伝うため隣の部屋に向かった。

寝間着を着たエルフが彼のノックに答えて扉を開け、そしてアンダースの様子を見て微笑んだ。
「今朝の君はご機嫌だね」と彼は言った。

アンダースは肩を竦めた。「今日は良い天気だから」と彼は軽く言った。

ゼブランは重苦しく垂れ込めた暗い雲から冷たい雨が降り注ぐ窓の外をちらりと眺めた。
「その意見には賛成しない人がいるかも知れないな」彼はニヤリと笑ってそう答えた。

アンダースは声を立てて笑った。
「雨は春が来たってことさ」と彼は指摘した。
「フェラルデンで育った者としては、何よりも暖かい季節がありがたいよ」

ゼブランは同感だというように頷いた。
「あそこで何年も暮らした後ではその点には同意するね」と彼は浴室へ向かいながら言った。
「とは言っても冬もまた良いものだよ。暖炉の側で寄り添って仲良くするとか、僕が何より好きなことが色々楽しめるからね」

アンダースはお返しにニヤリと笑った。「そいつは楽しいだろうね」と彼は言った。

「ところで君、君は本当に残酷な男だ」とゼブランはアンダースが彼の寝間着を脱がせるのを手伝っている間に惨めそうな声で言った。
「僕がここに来てからというもの、スポンジで身体を拭うしか出来ないというのに、君だけ風呂から上がりたてのぴかぴかで僕のところに来るなんて……酷すぎる!」

アンダースは大きな声を出して笑い、寝間着を横に放り投げた。
「風呂に入りたい?」と彼は尋ねた。

ゼブランは唸り声を上げた。
「本物の風呂のためなら殺してもいい!誰を暗殺して欲しい?」と彼は尋ねた。

アンダースは愉快そうに鼻を鳴らした。
「誰も。君の腕と肩を気を付けて支えていないと行けないだろうけど、もし僕が手助けしていいなら君にちゃんとした風呂を使わせて、それからまた保定布を巻き直すことは出来るだろうね」

「我が友よ、もし僕の喉を掻き切る前にちゃんと風呂に入らせてくれるなら、今この時点では僕はクロウのギルドマスターからの手助けだって受けるさ。あの隣の部屋の素敵な浴槽を使わせてくれるなら、何だってするよ」
彼は熱心に訴えた。

「じゃあ湯を張ってこよう」とアンダースは彼に面白そうな笑みを浮かべながら言った。

「僕の洗面道具はどこだったかな」とゼブランは言うと、早速背負い袋を探し始めた。


アンダースは注意深くゼブランの腕を固定していた包帯を解くと、優しく肩に、それから副え木をした上腕部に触れて、ゆっくりと治りつつある骨の様子を確認する少しの間彼の手が治療魔法の光を放った。
「少しの間なら、副え木も取って大丈夫だと思う。だけど十二分に注意して、君の腕を一切何にもぶつけたりしないように。折れた骨はしっかり治ってきているけど、まだとても脆いから」と彼は説明した。

ゼブランは判ったというように頷いた。

アンダースは次にゼブランが寝間着の下に履いていたゆったりした半ズボンを脱がせた――彼の保定を外している間にやることを一つでも少なく――それから一番下の包帯の層をゆっくり剥がし、副え木と一緒に横に置いた。ゼブランはしかめっ面をした。もう長いこと固定されたまま動かずにいたせいで青白く痩せ細り、骨が折れてからずっと副え木の当たっていた部分からは死んだ皮膚とかさぶたがポロポロと剥がれ落ちた。アンダースは用心深くゼブランの健全な方の手を取り、折れた手を支えさせると、それから彼を浴室へ連れて行った。

出来る限り彼の肩と腕を動かすことなく、アサシンを浴槽に浸からせるのはなかなか手間の掛かる作業で、ゼブランがホカホカと湯気の立つ湯の中に静かに腰を下ろす間、健全な方の手に全ての荷重を掛け、かつアンダースが彼の腕を支えておく必要があった。
 それでもようやく彼は湯の中で落ち着き、再び傷ついた腕を自分の手で支えて、その間にアンダースが洗い布を泡立てて優しく彼の身体を洗い始めた。彼らはしばしば位置を変えて、ゼブランも自分で手の届く範囲は洗い、手の届かない所はアンダースが面倒を見た。彼はエルフの髪の毛もきちんと石けんで洗ってやり、メイジの指先が頭皮を擦る心地よさにゼブランはため息をついた。

ゼブランはアンダースが彼を助けて浴槽から出す間も幸せそうに笑っていた。アンダースは彼の身体を乾いた布で拭いてから寝室へと戻り、もう一度新しい包帯を取り出すと、腕に注意深く添え木を当てて包帯を巻き始めた。

「あとどの位僕はこうやって縛られてないといけないのかな?」とゼブランは、アンダースが包帯を巻き治した腕と肩を、彼らが入浴中にうっかり衝撃を与えたりしていないかどうかもう一度慎重に確認するのを見て尋ねた。

「少なくとも後一週間かな、僕が思うには」とアンダースが言った。
「肋骨はもうすっかり良くなっているからそこの支えは要らない、だけど肩はまだ充分じゃないし、上腕部もそうだ。一週間の内には多分上腕部の固定は要らなくなると思う。だけどまだしばらくの間は支えが必要だろうね、特に肩が治るまでの間は」

ゼブランは嫌な顔をしたが、ともかく納得して頷いた。
「君も知っての通り、縛られるのは好きな方なんだけどね、この場合に限っては遠慮したいなあ」と彼は明るい調子で言うと、アンダースが腕と肩を動かないよう固定するために包帯でしっかりと巻いていくのを見守った。

アンダースは面白そうな顔をしたが、ともかく包帯を巻き続けた。ゼブランの縛り付けが完了した後で、彼はエルフの着替えを手伝い、髪に櫛を入れて短いお下げ髪に縛った。

彼の手助けが済んだ後でゼブランは嬉しそうにため息をついた。
「ありがとう」と彼は重々しく言った。
「きちんと清潔な姿になるのはまるで生まれ変わったような気分だよ。もちろん、そこの腕を除いての話だけどね」と彼は付け加えると渋い顔をした。

アンダースは使用済みの包帯を後で洗って再使用するために集めながらニヤッと笑った。
「さて、僕はもう行かないと。また昼食に来るんだろう?」

ゼブランは頷いた。
「もちろん」と彼は言って、アンダースを戸口まで見送った。


アンダースは自室に戻り、彼のために届けられた朝食を急いで食べながら、自分のコテージでの朝食を懐かしく思い出していた。ここの部屋に城の厨房から届けられる朝食は、彼が自分でこしらえる物よりもずっと量も多く美味しかったが、それでも彼は、静かなコテージで紅茶を淹れ、何か食べるものを用意して、自分と猫と犬達だけで摂るいつもの朝食が懐かしかった。彼はコテージの保安対策が見直されて、再び彼が戻れるようになるまであとどの位掛かるのだろうかと思った。

診療所での時間は忙しく過ぎていったが、ほとんどは先日の事故で入院していた患者を診察するだけで、二人が家に戻れることになった。他はいつものように色々な症状を訴える患者が来たが、幸いにも重傷を負った者や重病患者はいなかった。診療時間の終了後、彼はしばらくドゥーガルとシスター・マウラと話をした。診療所は最近かなりの数の入院患者を抱えるようになっており、夜間の看護を助けるための三人目の助手の必要性について彼らは話し合った。

「セバスチャンに、もう一人助手が必要だと知らせることにしよう」と彼は二人に約束すると昼食のために戻っていった。

セバスチャンの部屋に近付くに連れ彼は少しばかり心配になってきたが、とにかく扉の立哨に当たっている二人に頷いて挨拶し、彼の護衛は彼らと一緒にそこへ立った。彼は部屋の中に入ると、セバスチャンが片手を彼の椅子の背に置きテーブルの横で立っているのを見た。彼はアンダースが入ってくると顔を上げ、彼に向けて笑顔を見せた……その心からの歓迎の笑顔が引き起こす感情に、アンダースはほとんど圧倒されそうになり、テーブルまでの短い距離を歩く間に急いで何度か瞬きをしなくてはいけなかった。

「アンダース、今朝の診療所はどうだった?」セバスチャンは彼に席に着くよう手振りで示すと、自身も席に着きためらいがちに尋ねた。彼の眼が一瞬アンダースの首元のスカーフに止まった。彼は再びにっこりと笑うと、自分の昼食を取り分け始めた。

「いい調子だったよ」とアンダースは言うと、今朝の出来事の中で印象に残ったことを話して聞かせた。ちょうど彼がセバスチャンに、増加する入院患者の世話をするために三人目の助手が必要だと話したところで、再び扉が開くとフェンリスとゼブランが一緒に入ってきた。フェンリスは堅苦しく背筋を伸ばし、そしてゼブランは何時もの寛いだ様子だった。フェンリスはそそくさと何時もの彼の席、つまりもう一人のエルフから一番遠い席に着き、そしてゼブランはにこやかに微笑んで既にテーブルに着いている二人に頷くと彼の席に座った。

セバスチャンは診療所のために三人目の助手を探すようにしようとすぐに同意し、それから食卓の話題は別の話へと移った。非常に友好的な雰囲気の中で、セバスチャンとゼブラン、それにアンダースがほとんどの会話に参加する中、フェンリスは静かに座ってひたすら食事に集中していた。彼は食事を終えるや否や、アンダースに彼らの読み書きの授業を思い出させて、二人は一緒に席を立った。


彼らがセバスチャンの居室を出るや否や、フェンリスは溜め息を付くと少しばかり緊張を解いたように見えた。

「また図書室を使おうか?」とアンダースは尋ねた。

「代わりに俺の部屋に来て貰ってもいいか?」とフェンリスはアンダースに尋ねた。

アンダースは少しばかり驚いた顔を見せたがともかく頷いた。フェンリスは階段を下りて彼の部屋へと案内し、微かに眉をしかめていたが、しかし彼の部屋に入って扉を閉めるまでは黙ったままだった。彼は再び溜め息を付き、振り向いてアンダースを見た。
「今日は授業は休んで貰っても構わないだろうか?」と彼はためらいながら尋ねた。
「ある事について、君と話を出来ればと思うんだが」

「構わないよ」とアンダースは不思議そうに彼を見つめながら言った。「何のことを?」

フェンリスは彼に近くの椅子に座るよう示すと、しばらくの間難しい顔つきで辺りを行ったり来たりした。
「ゼブランのことだが」と彼はようやく言った。
「その……」彼はまたためらうと、アンダースを見つめた。「君は彼のことを以前から知っていたのだったな?」

アンダースは頷き、少しばかり途方に暮れた顔つきをした。彼はアッシュを膝に降ろすと、訳が判らないと言った顔でフェンリスを見た。
「ああ。僕がフェラルデンを離れてカークウォールに行く以前からね――彼はしばらくの間僕と一緒にヴィジルズ・キープに居たから。何故そんなことを?」

フェンリスは視線を逸らして少しの間唇を噛んでいたが、唐突に彼も椅子の方に向かい、落ち着かない様子で椅子に小さく腰を掛け、両手を膝の上に置いた。
「彼のことを話してくれないか?」と彼は尋ねた。

「いいとも。何か特に聞きたいということは?」

フェンリスはまた難しい顔付きになって唇を噛みしめた。
「判らない。彼のことはほとんど知らん。君が話せること全部、それがいい」

「さてと。彼はアンティーヴァ産まれで、娼婦の息子だった。母親はデーリッシュだったという。父親は……」アンダースは肩を竦めた。
「彼女が初めてあの街に来た時に一緒に居た木こりの男で、恐らくは元々彼女の客の一人だったのだろう――多分彼もエルフだった、何故ってゼブランはまるきりエルフに見えるから。ともかく、母親は彼を産み落として死んだため、彼は7歳になるまで娼婦達の中で育てられた後、クロウに売られた」

「売られた?すると彼も奴隷だったのか?」

「アンティーヴァでは奴隷制度は違法ということになってる。法律上は、クロウはゼブランを年季奉公の見習いとするという証書を売春宿から買い取ることで、7歳になるまでの養育費用と相殺した。だから彼はその証書に掛かった費用と、それから彼のクロウとして受けた訓練に、道具に装備、住む所に食べる物全てに掛かった費用を払い戻すことで、自分自身を買い戻し自由になることが出来る、理屈上はね。だけど普通は、クロウを抜ける唯一かつ現実的な方法は死だ――自然かそうでないかはともかく――だから、まあ奴隷とほとんど違いは無いと言う点で同意して貰えると思う」

フェンリスはゆっくり頷いた。

「ともかく、そうして彼はクロウとして訓練を受けた――大層危険かつ過酷な過程で多くの見習いが命を落としたという、彼もそのことについてはほんの僅かしか話したことが無いけど――それから何年もの間クロウの一員として働いた。彼は一体何年働いていたのか話したことが無いし、何しろエルフだから、まあ、君の方が僕よりもまだ彼の年齢を当てられるんじゃないかな。
 彼と彼のパートナーはクロウの中でも名声を得るようになったらしい――そして多くの人が羨むような結構な暮らしも得た。金箔で飾られた鳥かごの中でね」
アンダースはそう付け加えると顔をしかめた。彼は俯いてアッシュの顎をしばらく掻いてやった。

「それから彼は恋に落ちた」とアンダースは静かに続けた。
「別のクロウで、彼同様エルフだった。リナという名前の。そして彼女は殺された、彼の面前で、パートナーの手に掛かって。何か裏切り行為を働いたという理由だったが、とはいえ裏切ったのが本当に彼女だったのか、パートナーだったのか、それともまた別の誰かまでは僕は知らないけど。
 実際この話は彼から聞いたわけでは無くて、オグレンから、しかも二人とも相当酔っ払っていた時に、どうしてゼブランがソリアの仲間となる事になったかを聞いただけだから。とにかく、リナの死の後で彼もまた死を望むようになった。彼は結局アリスターとソリア、フェラルデンに残る最後のグレイ・ウォーデン二人を暗殺するという契約を請け負った。自殺行為だと見なされるようなものだった、グレイ・ウォーデンというのは生き延びる事に掛けては実に有能だから」

フェンリスはゆっくり頷いた。
「テヴィンターでは、もしグレイ・ウォーデンを倒したいのなら少なくとも一人頭に5人から10人を用意して、しかもその大半を失う覚悟が要るというのが常識だった」

アンダースはフェンリスに向かって短く笑った。
「妥当な見積もりだろうね、まあ。ゼブランは暗殺の際に他の手も借りたけれど、それは地元のちょっとしたやり手連中や、荒くれ者が精々だった。彼は暗殺が失敗して、誰かが彼を殺すことを望んでいた。そしてその後、ソリアが彼の命を救い、彼は彼女に仕えることを誓った。だけどその時点では彼はまだ死を望んでいたんだと思う。そして彼女とアリスターの気違いじみた計画に参加すれば、遅かれ早かれ希望が叶うと思ったのだろうね」

「しかし彼は生き延びた」

「ああ、彼らはみんな生き延びた。ソリアはどうやら時に応じて最高の手助けを得るコツを掴んでいたようだね。グレイ・ウォーデン自身がそうで有るように、彼らの敵が死ぬ間に上手く生き延びる才能を持った人々からの助けを。彼女の仲間は誰一人、怪我でもテイントでも死ななかった、あの狂気の沙汰としか思えない冒険の中で。そしてアーチ・ディーモンを倒しブライトを終わらせた。その時は君も知らせを聞いたか?」

「ほんの少しだけな」とフェンリスは答えた。
「ブライトは俺がフォグ・ウォーリアーと一緒にセヘロンで暮らしている時に始まったはずだ。それからダナリアスが……俺を回収して、その後逃げ出してカークウォールに来るまで、ブライトに関する本当の知らせというのは何も聞くことが無かった。そしてカークウォールに来た時には、もう終わっていた」

「ソリアが、全域がダークスポーンの軍勢に埋め尽くされたデネリムの街を、僅か三人の仲間と一緒に戦い抜いてアーチ・ディーモンに辿り着きやつを殺したというのは?」

「それも聞いた。そのうちの一人が、後にフェラルデン国王となったんだろう?」

「その通り。アリスター・セリン、マリク王の庶子で、やはりグレイ・ウォーデンだった。他の二人はドワーフのオグレン、さっき言ったね、それとゼブランだった」

フェンリスは頷いた。「すると彼は非常に優秀な戦士だろうな」

「そう。恐らく全世界でも指折りのアサシンだろう――それに間違い無く、彼はクロウから抜けて、その直後の僅かな期間より長く生き延びている、唯一の人物だ。クロウは彼を殺そうとしては、惨めに失敗し続けている。とはいえ僕が褒めているなんて彼に絶対言わないでくれよ、ただでさえ彼は相当な自惚れ屋だから」
アンダースはそう微かな笑みを浮かべて言った。
「彼は一方で、大層幅広い中から相手を選ぶ、とても手際のいい恋人でもある。僕の考えが確かなら彼は、ああ……ひょっとして君にもう口説きを掛けているとか?」

フェンリスは顔を赤らめると視線を逸らせた。
「ああ。昨日彼は俺に……その、ハンサムだと言った。俺の周りに始終姿を見せるし、随分と……」彼の声は小さくなり、どういう言葉が適当かよく判らず眉をひそめて考え込んだ。

「いちゃつきたがる?」とアンダースは尋ねた。

「そう。彼は何時もあんな風なのか?」とフェンリスはほとんど困り果てた様子で尋ねた。

アンダースは再び微笑んだ。
「うん。他の人が息をするように彼は色目を使うと思ったらいい。反射だね。だけど彼は同時に……とても真剣でもある、いちゃつく相手にはね。もしそれが迷惑だったら、そう言えば彼は止めるし、それによって少しでも怒ったりするようなこともない。誘惑されるのを望まない相手に押し付けるようなことは彼はしないよ」
とアンダースは説明すると、再び笑みを浮かべた。
「だけど滅多に彼が『ノー』と言われることはないだろうけど。彼はその点にかけては熟練しているから」

フェンリスは再び顔を赤らめた。「その、君と彼は……?」

「いいや」アンダースは言うと、一瞬懐かしそうに微笑んだ。
「いや、僕はアマランシンに居る間は徹底的に女性ばかり相手にしていたからね――僕が女たらしで、彼は両方誘惑すると言う点で違いはあったけど、ほとんどゼブランと同じくらい悪名高かったよ。一度か二度彼に興味を持ったのは確かだけど、それから彼はソリアと一緒に長い旅に出て、その後……まあ、僕はジャスティスと一体となるとそこから逃げ出した」

フェンリスはゆっくり頷いた。
「彼に戸惑っている」と彼は認めた。
「俺は……どうすれば良いのか自信が無い。彼と単に話している時は一緒に居るのは楽しいが、しかし……」

彼は言葉を切ると、しばらくの間顔を背けて黙り込んだ。それからごく小さな声で、また彼の頬が赤くなるのを感じながら言葉を継いだ。
「どうしたら良いか判らない」と彼は繰り返した。

アンダースはしばらく黙り込んでいた。
「彼と話をすることだ」と彼はようやく静かに言った。
「ゼブランはとても他の人の話を聞くのが上手だから。もし君が単に彼の友人で居たい、それ以上のことは何も望んでいないというのなら、そう話せば彼は受け入れるだろう――そういう方面の誘惑を退けたからと言って、君を無視するようなことはしない人だ。それにもし、君が彼に興味を持ってもっと良く知りたいと思ったなら……その方面も彼はとても上手だということだよ、僕が今まで聞いた全ての話からするとね。どちらでもないと、よく判らないと言う場合も、やはりそう話すことだ。彼はとても根気の良い人でもある。
ゼブランは……実に複雑な人物だけど、とても良い人だよ、心底ではね」

フェンリスはゆっくり頷いた。
「ありがとう」と彼は言った。「君の言ったことをよく考えてみよう」

アンダースは微笑んだ。
「どういたしまして。さて、元の計画に戻って、読み方の授業を始めようじゃ無いか?」

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第70章 気がかりな興味 への4件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    ハイ、フェンリス君8割がた堕ちてますねー。

    お薬出しときますから、帰ってよく休んで
    くださいねー。あ、お薬はワインじゃなくて
    ちゃんとお水で飲んでくださいねーv

  2. Laffy のコメント:

    おーわーらーなーいー

    いやもう陥落してますから>フェンリス砦
    後は城主が気付くのを待つだけでwww

    お薬はワインじゃなくてちゃんとお水で

    ああハルシオンとかあっちの方の?そりゃワインは危ないよねえ。

    あ、どこだっけか地底回廊で以前→依然になってました。

  3. EMANON のコメント:

    やだわ恥ずかしいッ!←バカ
    ご私的アリガトウゴザイマスw修正しましたw
    マッタク何回読んでもこのザマだよチクショウッ!w

    っていうか、フェンリス砦ってこう、ちゃちい土嚢を
    申し訳程度に積んだだけというかなんというかw
    そらあっさり踏み越えられるわなあw

  4. EMANON のコメント:

    そしてまた↑間違えてる件orz

    すいません日本語不自由で・・・ちょっと吊ってきます・・・

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