第72章 引っ越し祝い

彼と彼の動物達がようやくコテージに戻れると聞いて、アンダースは大喜びした。その勢いで彼は唐突に、そこに戻った後で食事会を開きたいと他の人々に提案した。セバスチャンは面白がり、フェンリスは驚くと控えめに喜んで見せ、そしてゼブランはただニヤッと笑った。

「良い思いつきだね」とゼブランは言うと、セバスチャンの方を見た。
「昼食か夕食か、どっちが良いかな?」

セバスチャンは肩を竦めた。
「私が思うにはどちらでも、いずれにせよ食事は城の厨房から運ばれることになるのだし――アンダース、お前はどちらが良いと思う?」

アンダースは三人の前でまるではにかむように微笑んだ。
「夕食かな?そうすれば、食事の後でゆっくり座ってお喋り出来るからね、もしみんながそうしたいなら……」

フェンリスは頷いた。
「楽しそうだ。明日の夕食か?」

「ああ」とアンダースは言うと、彼らが気軽に彼の考えを受け入れてくれたことに喜ぶ様子だった。
「今日の午後に戻った方が良いのかな、それとも明日?」とセバスチャンに尋ねた。

セバスチャンは彼に向かって微笑んだ。
「何時でもお前の良い時に。召使い達には、準備が出来次第お前の物を運ぶ手伝いをするように言っておこう」

「じゃあ今日だ」と彼はきっぱり言った。
「ずっとあそこに戻りたくて仕方なかったからね……大したことじゃないんだけど、例えば自分で朝ご飯を作ったり、どれくらい犬達を外に出すのが楽かとか、あそこの静けさとか」と彼は思い焦がれるように言った。
「それにそろそろ庭の片付けも始めないと行けないし。もう雪解けも始まっているからね、昨年やりかけていたところから」

セバスチャンは短く頷いた。「ならそのように手配させよう」

アンダースは微笑んだ。「ありがとう。フェンリス、今日の授業は休んでも構わないか……?」

「もちろん」とウォーリアーは重々しく答えた。
「その間に俺は散歩にでも行ってこよう、あるいは市場に行っても良いか」

アンダースはそそくさと食事を終えると大急ぎで席を立ち、荷物をまとめに戻った。ゼブランは彼と一緒に立ち去った。

フェンリスは彼らが立ち去った後、不思議そうにセバスチャンを見つめた。
「アンダースはこの数日で、急に元気になったようだ」と彼は静かに言った。

セバスチャンは微笑んだ。
「ああ。私達が……その、彼と私は、ある種の合意に達してね」と彼は言うと、それから難しい顔をした。
「君にはまだ話していなかったが。君は事が起きた時にはサークルに出かけていたし、色々と……その後で困ったことになったのでね。彼が誘拐されるほんの少し前のことだが、アンダースと私は……」
彼は言葉に詰まって、顔を赤らめた。
「まあその。ある晩に私達はかなり酒を過ごして、話をして、その後で……キスをした」と彼は言うと、彼の皿をじっと見下ろして静かに言葉を継いだ。
「その時までは、どれ程彼が私に興味を抱いているか気が付いていなかった。あるいは少なくとも、そういった方面では」

フェンリスはゆっくりと頷いた。
「どうやら、事は上手く進まなかったようだな?」

「いいや、上手く行かなかった」とセバスチャンは静かに認めた。
「彼を退ける際に、私は必要以上にぶっきらぼうな態度を取ってしまったようだ。その後で、どんな風に彼と二人きりで会えば良いか判らなかったのでね、彼が誘拐されるまでお互い顔を合わせることが無かった」
彼は言葉を切ると、彼のワイングラスをしばらくもてあそんだ。

「居なくなって初めて、彼がどれ程私にとって大事な存在となっていたか気が付いた。単なる友人では無いということに。私は……彼のことが好きだ」
彼はようやく、ごく静かな声でほとんどためらうように言葉を継ぐと、それから顔を上げた。
「数日前に彼にそのことを伝えた。私が単なる友人以上の何物にもなれないかも知れないと言うことは、彼も知っている、だがそれでも……それを聞いてとても幸せな気分になったようだ」

微かな笑みにフェンリスの唇が曲がった。
「友情はとても重要だ、例えそれがいかようにも発展しないとしても」と彼は言うと視線をそらせた。
「カークウォールに居た頃には……ホークの仲間達の中で、あの当時は君だけが真の友人だったと思う。ホークはもちろん俺に好意を持って接してくれたし、良い仲間として俺が必要な時に一度ならず助けてくれた、だが……俺には、果たして彼が友人と呼べるものだったのかどうか判らない」

セバスチャンは温かくフェンリスに微笑みかけた。
「私もほとんど似たような物だと認めなくてはいけないな……ホークを中心とする輪の中で、偶々彼が私に冒険に同行することを望んだから、私の存在が許容されていたといって良いだろう。だが君は……その、ホークと関係の無い所で共に時間を過ごしたのは君だけだった」と彼は静かに言い終えた。
「君との友情が無ければ、私は遙かに孤独な日々を過ごしたことだろうな。そのことには大いに感謝している」

フェンリスはその言葉を聞いて嬉しそうにすると、セバスチャンの意見に同意するように微かに頷いた。
「さて」と彼は言った。
「先も言ったとおり散歩に出かけてこよう。何か小物をアンダースへの贈り物として買っても良いかも知れないな、コテージへの帰還を祝して。上等のワインか、あるいは何かコテージで使えるような物を」

セバスチャンは頷いた。
「それは良い考えだ。私もそうすべきかな。幸いこの午後は空き時間があるし……どうだ、市場に一緒に行こうじゃないか?」

フェンリスは温かく彼に微笑んだ。「喜んで」と彼は言った。


アンダースは満足感に微笑みながらベッドに横になっていた。彼のコテージの、彼のベッド。そう、ここは彼の牢獄だったが、同時に彼の聖域でもあり、彼自身が選んだ場所でも有った。彼は溜め息を付くとごろりと寝返りを打ち、ハエリオニが即座に頭を上げて彼を物欲しげに見つめるのを見てニヤッと笑った。

「お嬢さん、外に出たいのかな?」と彼は言った。

彼女は静かにキューンと鳴いて立ち上がった。ガンウィンはアンダースのベッドにアッシュと一緒に寝ていたが、数回彼の尻尾を大きく振ってベッドの上にパタパタと音を立て、それから彼の腰の上に乗せている顎をもぞもぞと動かして、メイジの顔を感情たっぷりに見つめた。

アンダースは声を出して笑うと、ベッドから立ち上がって裸足で玄関に行きながら、犬達と猫がぐるぐると彼の足下にまとわり付くのを感じてにっこり笑うと、彼らを表へ出してやった。彼はしばらく扉のところに立って、早春の冷たい空気を胸一杯に吸い込み、それから扉を閉めて、朝食のお茶を入れるために湯を沸かし始めた。

ここに戻って来られたのは良いことだ。

最初にゼブランの部屋に飛んで戻って、風呂を使い着替えるのを手伝ったのに始まって、その一日は容易く過ぎて行った。診療所には彼の注意を引く患者が数名居たが、それ以外の者は軽症を訴えるだけだった。彼が早くに診療所から戻ってきた時ちょうどフェンリスが朝の遠乗りから戻ってきて、フェンリスがアリに乗って庭の衛兵詰め所の横を通り過ぎて厩に戻る際に、彼らは手を振って挨拶した。

彼は昼食までの時間を泥まみれの庭を犬達と一緒にうろつき、何をするべきかと考えていた。去年の秋、彼は小道の整備と小さな池の周り、それにコテージ自体の周囲を良い調子で片付け始めていたが、まだまだやるべき事は多かった。庭の適当な場所をきちんと整備して、薬草を育てられるようにするのも含めて――薬用と、料理用と両方の――それと何種類かの新鮮な野菜も、必要だからというより単に彼がそうしたいから。

庭の計画に熱中するあまり彼はほとんど食事の時間に遅れそうになって、ようやく食卓に着いた時には他の三人は既に食事を取り分け終えていた。三人が皆上機嫌な様子なのに彼は気付いた。セバスチャンはテーブルの向こうからアンダースに、コテージに戻った初日がどうだったかと温かく微笑みながら尋ねた。ゼブランは何やらとても上機嫌で、そしてフェンリスの口元も微かな笑みに始終上を向いて曲がっていた。大層愉快な昼食の後で、アンダースは再びコテージに急いで戻るとその夜の夕食の支度を始めた。

彼はまず掃除に掛かった――彼と犬達は今朝の間に庭から大量の泥を持ち込んでいたし、あまりに酷い所は荷物を運び込む前に召使いが掃除してくれたとは言え、長いこと無人だった間にコテージには随分と埃が積もっていた。彼は柔らかい布きれを持ってあちこち動き回り、全てピカピカに磨き上げて、床を綺麗に掃き、玄関をしばらく開けっ放しにしてコテージに新鮮な空気を通した。その後彼は大部屋と書斎の暖炉に火を入れると、熱い風呂に入って身体を洗い髭を剃り、それから彼の限られた服の中で出来る限り格好良い装いに着替えた。

アンダースは今晩の料理を考えたのが誰であれ、良く考えて献立を立ててくれたことに気づいて喜んだ――何名かの召使い達が手分けして持ってきた夕食のための料理は、普段彼らが大公の居室で供するような料理とは大分違っていた。様々な温料理、あるいは冷製の料理の小さな皿を並べ立てる代わりに、彼らは大きな鍋を運んで暖炉の火床に掛け、鍋の中にはたっぷりと牛肉と大麦、ハーブに根菜類のシチューが入っていた。
 他にも焼きたての皮がパリッとしたパンが一塊と、バターが壺一つ分、蜂蜜の入った小さな瓶に、様々なチーズ、幅広い取り合わせの瓶詰め野菜や果物と、一回の食事に充分な量を遙かに超える数が届けられた。農家のご馳走の豪勢な拡大解釈版だった。

いったん出ていった召使い達が再び戻ってくると、今度は大きな箱を担いで来て、その中には藁に埋もれて相当の数のワインが入っていた。大公殿下のお言いつけですと彼らはアンダースに説明した後で、それらを全て壁の造り付けの棚にきちんと納め、再び箱を担いで出ていった。彼のコテージには適当なワイングラスが無かったが、彼らはそれもきちんと持ってきていた。
 シチューはすぐに温まって再びくつくつと煮えだし、壁の棚には各種瓶詰めがずらりと並べられ、その横のトレイにはパンとチーズが沢山盛りつけられ、さらに今日のシチューと合うワインだと言われた瓶が数本並んでいた。
 テーブルの上も美しく整えられた――召使い達が料理と一緒に持ってきた、深みのある青色に輝くずっしりとした陶器の皿に、ピカピカに磨かれた白銅製のナイフにフォーク、パリッとのり付けされた真っ白なテーブルクロスは無地の厚手のリネンで、ナプキンとお揃いだった。テーブルの中央に飾られたガラス製の花瓶には早咲きのクロッカスが活けてあり、花瓶の周りを淡い色の蜜蝋で作られた上等の細ろうそくが囲み、更に太い一連のろうそくが壁沿いの棚の上に並べられて、暗くなり次第火を灯すだけとなっていた。部屋中が美しい眺めと良い香りで満たされた。彼は再び立ち去ろうとする召使い達に、惜しみない贈り物に礼を言って、彼らはお返しに微笑みながら小さく頷いて立ち去った。

それからまもなくして、彼はガンウィンが歓迎の声で吠えたてるのを聞き、そして今日の客人が現れた。彼らは皆隠し階段からでは無く庭を通って登場した。正面玄関を通って堂々と彼の小さな家へ入場するためにわざわざ余計な労力を掛けたことで、彼らの入場はどことなくより特別なものとなった。彼は嬉しさに頬を赤く染めると彼らを出迎え、テーブルへと案内した。

セバスチャンは部屋の中と並べられた食事を満足げに見渡した。
「これは大したものだな」と彼は言った。

アンダースはニヤッと笑った。
「僕の手柄だと言えればいいんだけどね、あいにく僕は少し掃除をしたのと沢山邪魔をしたのを除けば、みんな城の召使い達がしてくれたことだ」

フェンリスは微笑み、セバスチャンとゼブランは声を出して笑った。

「この食器は気に入ったか?」とセバスチャンが興味ありげに聞いた。

「綺麗だね」とアンダースが答えた。「実に深みのある青色で……」

「良かった」とセバスチャンは言うと再びにっこり笑った。
「この大皿と鉢と、それとワイングラスは私からの贈り物だ、何時でもお前が友人を呼んでちゃんとした食事を楽しめるように。それとここの掃除に来る召使い達には、ワインの在庫を揃えておくように申しつけてあるから、そちらも楽しむと良い」

フェンリスが言葉を挟んだ。
「テーブルクロスとナプキンにナイフフォークは俺からの祝いだ」と彼は重々しく言った。

ゼブランがまた笑った。
「僕も何か持ってくることにして良かったよ」と彼は言うと、彼らが外套を掛けたところに戻って背中のポケットから大ぶりのスズメッキの缶を取り出した。
「紅茶だよ」と彼は自慢げにアンダースに缶を手渡しながら言った。
「君がアマランシンに居た時、このブレンドの紅茶が好きだったのを思い出してね。ここの地元の店で見つけたから昨日買ってきた」

アンダースは彼らの思いやりに胸が一杯になった様子で、早速缶の蓋を開けて、中身から立ち上るベルガモットの爽やかな香りを嬉しげに嗅いだ。
「みんな本当にありがとう」と彼は言った。「僕は……本当に何と言ったらいいか……」

「『さっさと飯にしよう』というのはどうかな?」とゼブランが言って舌舐めずりをし、他の三人は大笑いをした。

「そうだね、早く食べよう」とアンダースが笑いながら同意した。

数分の間は少しばかり皆入り乱れて、テーブルを囲んでぐるぐる回りながら料理を盛りつけた。セバスチャンは大鉢を持って暖炉からシチューを取り分け、フェンリスはパンを切って皆に手渡し、その間にアンダースがピクルスと香辛料の入った瓶を開けてテーブルに揃えた。ゼブランは片手で出来ることは何か無いかと少しばかり考え込んだが、その時フェンリスが口を開けたワインの瓶を手渡した。彼は有難く受け取り、皆のグラスをワインで満たした。

皆は美味しい食事を大いに楽しみ、軽い話題を語り合った――コテージのこと、アンダースの庭の計画、種まきの季節になるまでは後何日くらいか、等々。

「この時期の季節の移り変わりは実に速い、皆も見たように」とセバスチャンは言った。
「おそらく後2週間か、遅くとも3週間のうちには種まきが出来るくらい暖かくなるはずだ」

「また別の祭りがあるんだろうね?」とアンダースは興味深げに尋ねた。

セバスチャンは白い歯を見せて笑った。
「そう。他に取り立てて緊急の用件も無いようだから、私も自分の荘園に行くつもりだ、秋と同じようにね。もちろん君たちを皆招待するよ――本当に楽しめる祭りだ」

ゼブランは大きく口を開けて笑った。
「大昔の話だけど、僕はスタークヘイブンの種蒔き祭に参加したことがあってね。うん、実に楽しい行事だった。喜んで君の招待を受けさせて貰うよ」

充分食べ終えたところで、皆手分けして料理を片付けた――シチューは火から下ろされ、パンとチーズは清潔な布にきちんと包まれ、瓶類はもう一度蓋をされた――それから何本かのワインとグラスと共に彼らはアンダースの書斎に移動し、思い思いの席に座った。アンダースとセバスチャンは低いテーブルを挟んで両側にあるお揃いの肘掛け椅子に座り、ワインをその間において、フェンリスは彼のいつもの席の低い長椅子に座った。犬達も階段を走り上がって来て、ガンウィンは即座にフェンリスの側のいつもの場所に長々と寝そべった。ゼブランは、ちょうどそこに腰を下ろそうとしていたところだったが、動きを止めると犬をじろりと見下ろした。

フェンリスは彼の顔を見上げて、それからごく微かな笑みを浮かべると犬の方に身体を寄せて、反対側に席を空けた。ゼブランはにっこりと笑うと、注意深く二人の間に隙間を空けながら彼の隣に座った。

彼らはまた暫くの間、美味しいワインと会話を楽しんだ。アンダースとフェンリスがしばらくゼブランに、一般の人々にもっとメイジを受け入れて貰うための彼らの考えを説明し、セバスチャンはゆったりと座って話に耳を傾けていた。

ゼブランは彼らの意見に賛成して頷いた。
「良い考えだね、それなら他の人達もメイジをより怖がらないようになるだろう。ブライトの年の間、ソリアの仲間には二人のメイジが居た――アポステイトが一人と、フェラルデンのサークルからヒーラーがもう一人」

「ウィン」とアンダースは頷くと答えた。
「彼女は僕の教師の一人だった。あまり僕のことは評価していなかったと思うけど」

ゼブランは頷いた。
「実に意志堅固というか、石頭な女性だった。だけど勇敢で、僕らの冒険の間本当に役に立ってくれたよ。だが彼女の大きな功績にも関わらず、ブライトが終わったもやはり不信の目で見られて、サークルに戻らざるを得なかった。その後すこし経って、彼女はカンバーランドで開かれた、独立を主張するメイジ達の大会合に参加した――彼女は道理を説くために向かったと、僕は聞いたけど。その後どうなったかは君たちも知っている通りだ」とゼブランは憂鬱そうに言った。

「カンバーランドの大虐殺」とアンダースが静かに言った。*1
「ああ、僕はアマランシンにウィンが立ち寄った時にソリアと一緒に居た、ちょうどカンバーランド行きの船に乗り込む前でね。僕はあそこのメイジ達が推し進めている考えは大きな災難を招くだろうって彼女に話した覚えがある。まさしくその通りになったと聞いて、僕は本当に腹が立った」

「その時に私も何か聞いたように思うな」とセバスチャンは静かに言った。
「会合に参加したメイジ達は皆殺された、確かそうだったか?」

「ああ」とアンダースが答えた。
「参加したメイジ達の中に、ブラッドマジックを使って会合を支配しようとするマレフィカラムが居るという理由で、テンプラーには誰がマレフィカラムで、誰が操られていて、誰が無実なのか見分けが付かないからと……メイジ達全員を殺そうとした。だけど、その理由を裏付ける実際の証拠が有ったとは聞かなかった。何にせよ、生き残ったのはテンプラー達だけだった」
彼はそう苦々しく言った。

「その後メイジの大きな会合は開かれることが無かった、カンバーランドでの出来事は、自分達のサークルの外でメイジ達が大勢で集まることがどれ程危険か、まざまざと示す事になった」

「ソリアはその話を聞いて大きな衝撃を受けたようだった」とゼブランが静かに言った。
「彼女とウィンはいつも意見が合うという訳では無かったけど、あの老婦人を彼女は尊敬していたし愛してもいた」

「そうだな。ウィンは床の中で静かに息を引き取るような死に方を望む人じゃなかった」とアンダースが言った。
「あの年で、あのような大冒険に他の皆を差し置いて彼女を行かせるようグレゴールを説得した手際の良さと来たら!」

ゼブランは白い歯を見せて微笑んだ。
「本当だな。もっと彼女に相応しい最後であったならと思うけれど――様々な面から見て立派な女性だった。だけど君の言うとおりだ、彼女ならよぼよぼになって床の中で死ぬよりも、価値のある戦いの中で死ぬ方を選んだだろう」

彼は彼女のために黙って乾杯した。アンダースと他の二人も同じようにした。

「さてと」ゼブランは静かに言った。
「今晩は実に楽しかったけど、僕はもう自分の部屋に戻った方が良さそうだ。美味しい夕食をありがとう、それに会話とたっぷりのワインにも」と彼は言って立ち上がった。

フェンリスも素早く立ち上がった。
「俺も君と一緒に歩いて戻ろう」と彼は申し出た。

ゼブランは温かく彼に笑いかけると頷いた。フェンリスも感謝と別れの挨拶をして、エルフ二人は連れだって出ていった。

セバスチャンはアンダースに微笑みかけた。
「私もそろそろ戻るべきかな」と彼は優しく言った。
「今晩は久しぶりに実に楽しい夜だった」

アンダースも頷いて二人は立ち上がり、空のグラスと瓶を持って階下に降りた。彼らはグラスをカウンターに置き、それからセバスチャンは外套を取り上げた。

「じゃあ、おやすみなさい、セバスチャン」とアンダースは言った。
「贈り物を本当にありがとう。それと……他のことについても」

セバスチャンは頷いて、微かに頬を赤らめると長いことあらぬ方を見つめていた。
「私も贈り物を選んでいて楽しかった」と彼は言うと外套を着た。
「また……こういった夜があると良いな」とアンダースの方をちらっと見て、彼の手を取ると軽く握った。
「おやすみ」と彼はややしゃがれた声で言うと、身を乗り出してアンダースの頬に素早くキスをし、それから身を翻して急ぎ足でコテージを出て行った。

アンダースは彼の背後で扉を閉めながら、まだ微笑んでいた。


*1:ここの内容はゲイダーさんの小説”Dragon Age:Asunder”での経緯とは異なっている。この話が書かれたのはゲイダーさんの本が出版される何ヶ月も前なので仕方が無い。しかし、会議の最中の乱入、参加者の殺戮(全員では無いにせよ)と似ているところがあるのは面白い。
片やCanon、片や単なるFanficでも、同じ世界観の中で同じキャラクターを動かすと似たような結果となると言うことか。

カテゴリー: Eye of the Storm パーマリンク