第4章 量刑宣告

第4章 量刑宣告


衛兵がアンダースを連れて戻ってきた時、彼はちょうど朝食の席に着いたところだった。この男が、羽根の肩当てが付いたぼろぼろのローブ以外の服を着ている姿を見るのは……とても奇妙な感じがした。髪の毛は結ばれておらず、風呂に入ったせいでまだ湿気っていた。

彼は男の痩せ細った様子に気づき、独房の中で手の付けられていなかった水と食物の事を思い出し眉をひそめて、近くの椅子を指し示した。

「座れ。食うんだ」

アンダースは一瞬不安そうな顔をしたが、ともかくその椅子に近寄った。彼が椅子を引くやいなや、召使いがテーブルに皿とナイフ・フォークを並べた。彼はテーブルの中央の大皿から、料理を大量に取り皿に盛ると食べ始めた。

ここの厨房は、少なくとも4人前以下の量の料理を提供することは出来ないかのようだった。

チャントリーの簡素な食事に慣れた後で、ここスタークヘイブンで毎日のように彼の前に現れる豪勢かつ膨大な量の料理を、セバスチャンは正直持て余していた。しかしながら、食事の質を落とし少量にしろなどと要求すれば調理人の機嫌を損ねるかも知れないと、彼はやや意地悪く考え、食べ残した料理が全くの無駄にならないことを願うだけに留めていた。

ともかく、アンダースが皿に取りわける料理の量から判断して、今朝の食べ残しが普段より大幅に減ることは明らかだった。一回り小さくなった体格の男が取り分けた食事の量と、それを詰め込む速度はほとんど恐るべき物だった。それから彼は、アンダースがグレイ・ウォーデンであったことと、彼らの有名な常人離れした食欲について思い出した。

二皿目に手を付け始めてからようやく、アンダースは周囲の状況に気づいたようで、顔を上げるとセバスチャンを見つめた。
「これは、あの有名な死刑執行前の最後の食事か?」彼はやや心配そうに尋ねた。

「いいや」セバスチャンはそう言うと自分の皿を押しやって、椅子に深く腰掛けた。彼はしかめ面をして、アポステイトの顔を黙視した。

この男をその犯した罪の元に殺せば、彼の復讐への欲望は満足させられるかも知れなかったが、カークウォールで失われた多くの命に対して何一つ償いとはならなかった。そしてもし彼が、この男の犯した罪に対して罰を与え痛めつけようと望んだなら、単に彼を独房に閉じ込め鍵をそこらに放り捨てて、彼自身の恐怖と狂気から死に至るまで放置する以外、何の手間も掛からなかっただろう。しかしそれもやはり、彼の命を全くの無駄にすることに違いはなかった。

そしてエルシナ大司教は、いつも人々や、物や、技能が無駄にされるのを大層嫌っていた。彼のアーチャーとしての技能が無駄になるよりはと、ホークと行動を共にする事を喜んで許したのも、その証拠だった。

そう。考えられるこの男の使い道は一つしかなかった。カークウォールでの彼の行動の結果として引き起こされた恐怖と死に対して、僅かにでも償いをさせる方策でもあった。

「お前のための場所をここに設ける」彼は大きく息を吐くと、穏やかな抑制された声音で言った。
「この城の側に場所を用意し、かつてダークタウンでお前が開いていたような無料診療所を開く。必要な器具、消耗品及び人員を知らせるように。私が手配させよう。スタークヘイブンには既に避難民が到着し始めている。カークウォールから逃げて来る人々は、恐らくこれから押し寄せる大勢のほんの先駆けに過ぎない。彼らの多くは既に傷つき、病を抱えている。お前にその手当と治療をさせることにする」

彼は椅子から立ち上がると、しばらくの間あたりを行き来し、再びアンダースに向き直った。
「お前には常時護衛を付ける。私の許しがない限り、城の中庭と、お前に割り当てられる部屋、診療所、及び運動と休息のための運動場以外に立ち入ってはならない。また以下のことは禁止する」彼は怒りを僅かに現し、声を高めていった。

「私以外の誰であろうと治療と診察に必要な範囲を超えて話をしたり、治療以外の魔法を使ってはならない。以下のことはとりわけ、固く禁じる。カークウォールでの出来事と、お前のそれに対する役割、メイジ、テンプラー、」次第に彼の声は大きくなった。
「サークル、チャントリー、権利、自由、これらに関してお前の意見を語ってはならない!判ったか!」彼の声は最後には吠え立てるような大声となった。

アンダースは身を竦ませ、椅子の上で縮こまった。「判った」彼はごく小さな声で答えた。

セバスチャンは頷き、「取りあえずここに居ろ」と言った。彼の声は再び抑制された穏やかな物に戻っていた。「食事を片付けてしまえ」

彼は衛兵に振り返った。「お前達はもうすぐ交代の時間だな?次の当番に、この男がしばらくここに居ると伝えろ。彼の食事が終わったら、ここに居ても良いし、明け方に居た運動場に出させても良い。私の書斎に、彼を三時間後に連れてくるように。その時までに、今後彼を置いておく部屋について決めることにする」

「はい、殿下」年かさの方の衛兵が答えた。

彼は背を向けると立ち去ろうとした。

「セバスチャン……」アンダースが呼びかけた。

彼は立ち止まると振り返った。「何だ?」

アンダースは一瞬だけ彼の目を見て、「ありがとう」そう言うと再び自信なさげに目をそらした。「君は……僕が予想していたよりずっと慈悲深い」

セバスチャンは鼻を鳴らすと身を翻して立ち去った。これは慈悲の心などではない、彼は自らにそう言い聞かせた。あの男から僅かでも役に立つ所を取り出そうとしているに過ぎない。

暫く後になって、城の周囲を歩いて、誰でも出入り自由な診療所を設置するのに適当な場所について執事と話し合っている最中に、アンダースが心底彼に殺されると予想していた事を、彼は唐突に理解した。彼はひょっとすると、そうされることを望んでさえいたのかも知れなかった。

死を望むほど彼の人生が辛いものであるのなら尚更、彼は生かしておかなければならない。

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