第76章 熟練の技能

ゼブランは彼の手をフェンリスの肩に置くと、そこの引き締まった筋肉が薄い革鎧の下で動く感触をしばし楽しんだ。もう一人のエルフは横目で彼の方をちらりと見た。
「今晩また僕の部屋に来ない?」とゼブランは優しく尋ねると、人気のない階段を連れ立って下りていきながら、少しばかり彼にもたれ掛かるように身を乗り出した。

フェンリスは何も言わず、ただ頷いた。

「いいね」とゼブランは言うと手を肩から下ろしてそっと背中を掠めると、フェンリスの背筋に沿って、革鎧がぴったりと合わさっていない隙間の下から覗くいかにも魅力的な素肌に、彼の指先でそっと触れ、その撫で下ろす指先の感触にエルフが微かに身を震わせるのを見て密かにニンマリとした。悲しいかな、背中は巨大な剣が背負われていてゼブランはその上までしか隙間を辿れず、剣の上で手を離した。彼は今更ながらこの隙間の存在意義を不思議に思った。普通の鎧ならこれは致命的な欠点と見なされるはずだ。多分、このエルフのリリウム製の紋様と何か関係があるのだろう。

彼らは角を曲がって更に細い階段を下り、広めの廊下に出ると扉を開けて、明るい午後の日差しに照らされた内庭の練習場へと入った。セバスチャンは既にそこで彼の弓の弦を調整しており、アンダースは近くの長椅子に座って、彼の猫は後肢と尻尾をメイジの片側の肩からだらんと垂らし、頭と前肢はもう一方の肩の上と、まるで毛皮の首巻きのように長々と伸びていた。
ゼブランは歩み寄ると彼の側に腰を下ろし、フェンリスはその間に一連の練習用わら人形が並べられた一角へ行って、彼の大剣を留め金から外すと素早く準備運動を始めた。

「良い天気だね」とゼブランは言って、日差しに温められた煉瓦の壁にもたれ掛かった。「庭の方の様子はどう?」

「いい感じだよ、種まき祭りから戻って来たら、僕の庭でも野菜や他の植物の植え付けが出来ると思う」

ゼブランは頷いて、大公が弓を引き絞ると滑らかな動作で続けざまに何本かの矢を放ち、的の周りに小さく密集させるのを眺めた。
「随分と上手い物だね」と彼は感想を述べた。
「昼食の時に練習不足を嘆いていた人にしては」

アンダースは笑った。
「普段の彼はもっと上手いさ」と彼は言うと、フェンリスが手際よく様々な振りや払いを試し、その度に人形から藁がはね飛ばされる様子を眺めた。
「二人とも得意の武器については大したものだよ、君が普段その短剣で見せる技みたいに」

ゼブランはニヤッと笑った。「もちろん、僕の得意とするところだからね」

アンダースは横目でエルフの方をちらりと見ると、声を低めた。
「ところで。僕の見るところでは、君とフェンリスは……?」

ゼブランは更に大きな笑みを浮かべた。
「とても親しい友人。まだ恋人とは言えないけど、鋭意努力中」

「なるほど、まあ、充分注意してね」アンダースは淡々と言った。
「君達のどちらも傷つく所は見たくないからな」

「判っている」とゼブランは言うと、ふと真剣な表情になった。
「彼はとてもひどい経験をして来ているし、本当に沢山の問題を乗り越えないといけない。彼を怯えさせたり、怒らせたりするのは決して賢いことではないね。だから彼との関係はゆっくりと、注意深く進めている。彼には……とても興味を引かれるよ、実際」
彼はそういうと、フェンリスが早くもボロボロになった練習用の人形から更に藁を弾き飛ばしている所を眺めた。彼は静かに微笑んだ。
「僕がいつだって危険な美に惹かれるのは知ってるだろう?彼は、他の誰よりも危険で、しかもとても綺麗だ。単なる見かけ以上にね」

「まあ、それなら上手く行くことを願ってるよ」とアンダースは言うとゼブランに微笑みかけた。
「もし彼を口説き落とすことに成功する者が居るとすれば、それは君だろうな」

ゼブランは口を歪めて笑った。
「褒め言葉と受け取っておくよ」と彼は言って、セバスチャンの方を眺めた。
「ところで。君とあのハンサムな大公の方はどうなのかな?」と彼は優しい声で尋ねた。

アンダースは微かに頬を赤らめた。
「彼は……彼には義務があるし、誓約もある。今のところ僕たちは友人以上の何でもない」

ゼブランはゆっくりと頷いた。
「それでもとにかく彼のことが好きだと。ソリアと僕のようにね」

アンダースは頷き、彼の目はセバスチャンが的から矢を回収するために歩いて行く姿をずっと追いかけていた。
「ああ。だけど同時に、彼が信ずる物を持ち、それに従っているのを僕は尊敬している。僕は長年の間に教会の中でも外でも、信仰や、法律や、規則に単に口先だけでしか従っていない大勢の人々を見てきた。見咎められることさえなければ、規則を破っても構わないと考える連中さ」
彼は苦々しげに言うと、ふとニヤッと笑った。
「僕自身も少しばかり規則を破ってきたのはメイカーもご存じだ。それで後悔していることもある。だけどセバスチャンは……彼ほど信義を重んじる人は、滅多にいやしない」

ゼブランは判ったと言いたげに微笑んだ。
「信義を重んじる人々――この世界にはそう多くは居ないね。だけどそういう人達に出会った時には、自分がもっと善い人間であったならと思うことになるんだ、そうだろ?」

アンダースは愉快そうにニヤッと笑った。
「そう。それか、連中の首元を締め上げたくなるか」

ゼブランは声を出して笑った。
「言いたいことは判るよ!ソリアと、アリスターときたら……」彼は頭を振った。
「彼らが物事をさっさと、適当に速いこと済ませて終わりにしてしまう代わりに、規則に従って行うために長い廻り道を取る時と来たら……僕はもうそれこそ首根っこを掴んで振り回したくなったよ!だけどそれでも、彼らの髪の毛一本乱すことは出来なかっただろうね」

アンダースはセバスチャンが今度は更に遠い距離から、的に向けて一連の矢を放つ様子を見ながら頷いた。
「セバスチャンと僕は、カークウォールに居る間お互いのことを酷く嫌っていた。全く、ホークが居たからお互い側に居ても我慢出来たという具合でね」と彼は静かに言った。
「だけど君の言っていることは判る。例え彼の誓約が、僕達がただの友人以上になれない理由の一つだとしても……彼にその時が来るまでは、誓約を単に放り捨てるようなことはして欲しく無い。僕に、ここに居て欲しいと彼が望んでいると、彼の人生に僕の居場所を作ろうとしてくれていると判っただけでも、例えただの友人としてでも……」
彼は言葉を切り、幾度か瞬きをして涙をこらえた。

「それは掛け替えのないことだね」とゼブランは優しく言うと、アンダースの肩に彼の手を軽く触れた。
「単なる友情からでも大いなる幸せが得られることもある、本当は友情以上のものが欲しかったとしても」と彼はほろ苦い表情で言うと、アンダースの肩を軽く叩いて手を離した。
「だけどそんな話はこのくらいにしよう。さあアンダース、一体いつまで僕は新年のプレゼントのように包まれていないといけないのかな?」

アンダースはクスリと笑った。ゼブランは彼を嫌そうな顔で見たが、それからニヤッと笑った。
「きっと特定の誰かが僕の包みを解くところを想像しているんだろうね」と彼は言うと、アンダースがお返しにニヤリと笑う面前で戒めるように指を振った。
「もちろん、もしその誰かが望むなら僕は反対しないけど?」とアサシンは無邪気を装った顔で付け加えた。

アンダースの笑みは大きく広がった。
「明日の朝にしよう」と彼は約束した。
「副え木と拘束を外しても大丈夫なくらい、骨は治っていると思う、少なくとも君が腕を吊って激しい運動は一切しないように注意するなら。最初のうちはくっついた骨に負担を掛けないように、本当にごく軽い運動に止めるべきだ。君も入浴の間に見たように筋肉が衰えているのは仕方ないけど、治療魔法で酷い硬直は多少ましに出来ると思う。君自身で武器の練習が出来るようになれば、きっと嬉しいだろうね」

そう彼は付け加えると、フェンリスが二体目の藁人形を分解し始め、セバスチャンも三回目の連射を行う所をじっと眺めた。前回より更に遠くの距離から矢を放っているにも関わらず、最初より明らかに的の周辺に矢が固く寄り集まっている様子が見て取れた。

ゼブランの右手が動いたかと思うと短剣が閃き、セバスチャンが射る隣の的に吸い込まれるように的中した。唐突にナイフが視界に現れた瞬間の驚きから大公の弓が一瞬止まり、次の矢が的から指一本分だけ横に逸れた。ゼブランはアンダースにニヤッと笑った。
「君が僕の練習するところを見ていないからと言って、僕が技能をさび付かせていると思ったら大間違いだよ……まあ、もちろん左腕の動きに頼るものは別だけど」と彼はしかめ面をすると渋々認めた。
「そっちの方は、腕と肩が充分治り次第鋭意努力というところだね」

セバスチャンは、再び矢を集めに的のところへ行くと、彼の弓を背負いゼブランの短剣を手に持ってぶらぶらと彼らの方に歩いてきた。
「驚くべき投擲だ、この距離から」と彼は短剣をゼブランに手渡しながら感心するように言った。ゼブランは白い歯を見せて笑うと短剣を受け取り、短剣は取り出したどこか元の場所へ素早く消え失せた。セバスチャンは肩越しに弓の練習場を振り返ると、再び彼らの方を向いた。
「やれやれ、もっと練習したいところだが今晩もまた別の夕食会がある。ここの貴族達にも、ようやく私が一時の気まぐれではなく、ここにずっと居座るつもりだと言うことが理解出来たようでね。政治工作が本格化してきた」

「僕も一緒に戻るよ」とアンダースは立ち上がると言った。「じゃあまた明日、ゼブラン」

ゼブランは頷いた。
「また明日」と彼は言うと、二人がお互いの腕が触れ合うくらいの近くに連れ立って練習場を出て行くのをじっと眺めた。二人で歩きながらメイジが何か囁き、それに対してセバスチャンが笑って、眼の外側に皺が出来ていた。ゼブランは思わず笑みが浮かぶのを覆い隠した。アンダースにとって、少なくとも二人がお互い引きつけあっていると認められただけでも随分な進歩だろう。

彼は陽射しを仰ぎ見ると、フェンリスが彼の練習を終えようとするところで、その大剣を如何にも滑らかに、ずっと遙かに軽く小さな剣のように軽々と扱う様子を感心して眺めていた。ようやくフェンリスはその馬鹿でかい剣を背に収めて大きく伸びをすると、やおら辺りを見渡した。彼はゼブランがまだそこで待っているのを見て笑みを浮かべると、練習の後で寛いだ、滑らかな微かに跳ねるような足取りで彼の方に歩いてきた。

ゼブランは立ち上がってフェンリスに温かく笑いかけた。
「先に君の部屋に戻って風呂と着替えをしたい?」と彼は聞いた。
「それとも、僕の部屋に来る?」と彼は更に尋ねながら、指を一本伸ばしてフェンリスの腕に覗く素肌を撫で下ろした。この数日間、彼はこういったささやかな接触と、人目に付かないところで時折探るようにキスを繰り返し、そろそろフェンリスとより興味深い行為に進めることを期待していた。ウォーリアーが身を翻して建物の中に戻る前にちらりと見せた熱を帯びた表情は、希望が持てる印だろうか。

フェンリスは足早に進み、彼の長い足はゼブランを簡単に引き離した。ゼブランは、あるいはみっともなくても走って追いつき彼の部屋に来るのか来ないのか尋ねるべきかと心配になったが、その時ウォーリアーは唐突に立ち止まってゼブランの方を振り返った。
「ああ」
フェンリスは唸るようにそう一声言うと、背筋を伸ばしたまま今度はゆっくりした速度で歩き出し、その声の低く深い響きはアサシンに全身に心地よい震えを送り込んだ。ゼブランは期待に有頂天にならないよう苦労しつつ、黙って彼の側を付いていった。

ゼブランの部屋の扉が彼らの背後で閉まるや否やフェンリスはその長身を回転させ、一瞬のうちに紋様が明るく輝いて彼は小柄なエルフの背を壁に押しつけると、頭を下げてゼブランの唇を貪るように求めた。ゼブランは一瞬身を固くして、その唐突な動作に対するほとんど反射的な防御反応を抑えつけた。

フェンリスは一瞬間を置いて僅かに身を引くと、ゼブランの反応を心配するようだった。ゼブランは勇気づけるように彼に笑いかけると、良い方の手を伸ばし白銀の髪を梳くようにして頭を抱き寄せキスを続けた。彼は誘いかけるように唇を開き、そしてほんの一瞬ためらった後フェンリスは初めてその誘いに乗った。フェンリスの舌が口の中を貪欲に跳ね回り、彼を抱きしめる力がさらに強まるにつれて、ウォーリアーの篭手の鋭い先端が彼の肩先と背の舌に食い込んだが、ゼブランはただ彼を励ますように喉を鳴らした。

ゼブランは内心左腕が使えないことに悪態を付くと、髪から手を離してもう一人のエルフの肩に腕を回し、さらに彼の方へ引きつけた。それから彼は右脚に体重を掛けて左脚を持ち上げ、その脚で彼の姿勢が許す限りフェンリスの身体を掻き寄せた。彼らの股間の明らかに硬さを増した膨らみがお互いにきつく押し付けられるにつれ、フェンリスは呻き声を漏らし、彼の舌はゼブランの口のあらゆる窪みを貪欲に探っていた。

ようやくフェンリスが唇を離すと、その青い輝きも消えていった。彼はまるで……ほとんど怯えているようだとゼブランは思った。彼は左脚を下に降ろして片手でフェンリスの背中をゆっくり宥めるように撫でて、温かく彼に笑いかけた。
「とても、素敵だったよ」
ゼブランは彼の言葉のあらゆる音節に出来る限りの称賛を込めて低く囁きかけ、フェンリスが恥ずかしそうに微笑んで顔を赤らめるのを見て、さらに笑みを大きくした。彼は手を伸ばして優しくフェンリスの頬を撫ぜ、指先で顔に掛かる髪を寄せるとエルフの耳の端を軽くなぞった。

「ほら、こっちに座ろう」
彼は忙しく頭を回転させると、今日のところは寝室を避けることにして優しくそう言い、フェンリスを長椅子へと誘った。元奴隷にとってベッドは嫌な記憶が至る所に埋まる地雷原であるだろうし、この後何が起きるにせよ、それを完璧な、少なくとも彼の力の及ぶ限りフェンリスにとって快いものとしたかった。

フェンリスは導かれるままに長椅子の方へ向かうと、彼の剣と手袋を自ら外し、丁寧に横に置いてから腰を下ろした。ゼブランは長椅子の上に膝を付くと、フェンリスの右太腿にまたがるように座った。フェンリスは恐る恐る両手を上げて、ゼブランの上半身を支えるため両側に手を廻した。ゼブランは再び温かく彼に微笑みかけると、それから身を乗り出して優しくキスをした。彼は右手をフェンリスの首元に置き、手に伝わる激しく興奮した鼓動を感じ取った。ゼブランは再び、今度は唇のやや外側にキスをすると、それから今までに一度だけ試したように、喉元の紋様にそっと唇を這わせた。

フェンリスは溜め息を付き、頭を後ろに傾けて半ば眼を閉じると、首元を大きく開けてゼブランの好きに任せた。アサシンはさらに唇と舌と歯で優しく首回りを探索した後、ゆっくりと下へと唇を滑らせた。ざらついて盛り上がった線に、あるいはその間の柔らかな素肌に、優しく触れてフェンリスがどのように反応するかを注意深く記憶に留めながら、彼はもう一人のエルフが以前に喜んだと覚えていることを繰り返した。

ゼブランは革鎧の端に沿って手を降ろすと、襟元を閉じている最初の留め金で手を止めた。彼は少しばかり後ろに座り直し、その留め金を弄びながらウォーリアーの反応を眺めて、それから身を屈めると優しく留め金を外しながら、V字型に露わになった首元の柔らかな皮膚に舌を這わせ、革の端からその下に指先を差し入れた。
彼はゆっくりとたっぷり時間を掛けて、幾度となく安心させるようにキスを繰り返しながら、フェンリスの上半身にぴったりと密着した上着を脱がせ、胸甲を外し、さらに頑丈な革のベルトを緩め、ウォーリアーの滑らかな胸とそこに彫り込まれた紋様を彼の指と唇で隅々まで探索出来るように上着を後ろに折り畳んだ。時折紋様が青白い光を放つと、彼は動作をすぐに止めて、フェンリスが落ち着きを取り戻して先を続けても大丈夫と見定めるまでじっと待った。

フェンリスはゼブランが乳首に触れてもてあそぶと鮮やかに反応して、快感に呻くと眼をほとんど完全に閉じ、背を反らせて大きく息を吸い込んだ。ゼブランが頭を下げて片方の先端を舐め軽く吸った時、フェンリスは大きく喘ぐとアサシンの腰を掴む手に力を込め、紋様が再び明るく輝いた。今度はゼブランは動作を止める代わりに、両方の乳首を行き来し舌先で優しく舐めては吸い、それを幾度も繰り返した。

それから彼は片手を降ろして、フェンリスのレギンスの前の膨らみを優しく掌で覆った。革に覆われた膨らみがさらに硬さを増し、フェンリスはテヴィンター語で何か唸ったかと思うと呻き声を上げて、彼の腰が円を描くように動きゼブランの手に向かって彼自身を強く押し付けた。

ゼブランはきつく張り詰めた革のレギンスに手を添えてそこを揉み、ウォーリアーはそれに応じて荒い呻き声と喉の奥から発せられる喘ぎを漏らした。彼は再びまっすぐ座り直すと、フェンリスの唇を貪るようにキスをした。ウォーリアーは彼の腰から手を離し、ゼブランの髪に手を絡ませて頭を引き寄せた。そして初めて、今度はフェンリスが誘いかけるように彼の唇を開いた。ゼブランは彼の舌先でフェンリスの下唇をつつき、吸ったり軽く噛んだりとたっぷり弄んで、高まる欲求不満の呻きをエルフから引き出した後、ようやく、ついに彼の下の先端をもう一人のエルフの口に滑り込ませて、優しくあたりを突き回すと同時に、掌でフェンリスの固く張り詰めた勃起を覆うと、今度はさらに手に力を込めて撫ぜ廻した。

ウォーリアーは嗄れた荒々しい叫び声を上げると、彼の腰を勢いよく前に、ゼブランの手に向けて動かし、眼は固く閉じられ、頭をがっくりと後ろに倒すと彼は革のレギンスの中で自らを放出した。ゼブランはそのまま優しく撫ぜ続け、宥めるように愛情のこもった言葉を呟きながら、フェンリスの絶頂とその余波が治まるまで、彼の頬に、閉じられた眼に、そして唇に軽くキスを繰り返し、そしてようやくウォーリアーは長椅子にどさりと寄り掛かった。

彼はまぶたをぴくりとさせて、ようやく美しいエメラルド色の眼を開き、その瞬間の呆然とした彼は心痛むほどに繊細に見えた。ゼブランは再び彼に向かって身を乗り出すと、彼の頬を優しく安心させる様に撫でながら、またもや心の中で二本目の腕が無いことに悪態を付いた。今この瞬間、もう一人のエルフを身体を通じて安心させるために彼がやりたいことは山ほどあり、しかし実際には出来ることはほんの僅かだった。

「大丈夫?」と彼はしばらくしてから穏やかな声で尋ねると、彼の手で再びフェンリスの露わになった胸に触れ、そこの激しく脈打つ鼓動も、ウォーリアーが深く安定した呼吸をするにつれて既に収まりつつ有るのを感じ取った。

フェンリスは瞬きをすると、数回唾を飲み込んでからしゃがれた声で答えた。
「ああ」と彼は言うと、それから顔を真っ赤にした。
「その……先に風呂に行かないと」

ゼブランは彼に温かく微笑みかけると、手を上げて再び頬を撫でた。
「そうだね」と彼は優しく囁いた。
「また後で来てくれる?他に何も無くても、少なくとも夕食とちょっとお喋りのためにね」

フェンリスは短く頷き、横を向くと身体を起こした。ゼブランは用心深く後ずさりして立ち上がると、ウォーリアーが鎧を身にまとい、金具を手早く締め直すのを眺めた。椅子から起き上がって剣と手甲を取る間に、フェンリスの顔に浮かぶ内心を覆い隠すような様子が少しばかり心配になった。

ウォーリアーは彼を神経質そうな表情で見つめた。それから突然、控えめな笑みがフェンリスの唇の隅に浮かぶと、彼は身を屈めてゼブランの唇に軽くキスをした。彼は姿勢を戻すと再びそっぽを向き、頬はまた真っ赤になっていた。
「ありがとう」と彼は低く力強い声で言うと、それから急いで立ち去った。

ゼブランはニヤニヤと顔をほころばせながら、フェンリスが出ていった後扉がきちんと閉まっていることを確かめると、彼も慌ててその部屋を出て行った。彼は自分自身の、まだ片付いていない差し迫った欲求を処理する必要があったし、それから夕食の前に身体を洗って身繕いを整えなくてはいけなかった。今夜は食事と酒と、お話だけにしておこう、彼はそう思った。まあ、もうちょっとだけ仲良くしても良いだろうけど。彼はウォーリアーの心の準備が出来る以前に事を進めるつもりはなかった、とりわけ既に彼が素晴らしい進歩を見せているからには。


セバスチャンの専用弓”Starkhaven Longbow”は現代のリカーブボウという弓に似ている。コンパウンド・ボウというやつも見てみたが、これはなんか私の知ってる弓と違うw 構造上例え非力な女性でも強い弓が引ける仕組みになっていて、アメリカでは狩猟用の実用道具だそうだ。
あれ?弓って元々そうだっけか。

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第76章 熟練の技能 への2件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    ウチのshibusawaから伝言でございます。

    >心の中で二本目の腕が無いことに悪態を付いた
    「てめぇ、真ん中の足が腕3本分じゃねえのかよォォオオ!ボケェェ!」

    申し訳ございません、下衆な野郎で。
    あとでよく叱っときますんで、堪忍してやって下さいv

  2. Laffy のコメント:

    Shibusawaさま、EMANONさま、コメントありがとうございます(^.^)
    うははははh、真ん中の足ってえっと何かな、そんなに大き*censored*
    イザベラちゃんに再会したときも「狙いが悪いからよ、良かったじゃん使い道出来て」と言われてますね。
    果たしてブツは良いのか悪いのか。そこの描写は有りませんwアンダースは有るんだけどww

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