セバスチャンの金庫~DA世界の貨幣価値

パン屋の一番若い息子が掛けだしてくると、その素朴な顔に大きな笑みを浮かべてフェンリスに紙でくるまれた包みを手渡した。フェンリスは少年に微笑むと、銀貨一枚を包みの代価として、それに銅貨一枚を少年の駄賃として手渡し、それから馬を進ませた。

銀貨や金貨、これらは一体現代社会の貨幣に直すと幾らになるのだろうか。
第77章でフェンリスが買うパンの数(菓子パン1個、ソーセージロール2個、甘パン1個、クッキー数個)からすると、銀貨1枚が1000~2000円位だとすると、割と妥当な感じがする。すると銅貨1枚が10~20円となって、少年のお駄賃としては適当だろう。

DA世界では銀貨100枚分が1ソブリン(Sovereign)になる。10万から20万円だとすると、ホークが最初に貯めた50ソブリンは大体数百万円ということになる。冒険隊への投資額としてはちょっと安いような気もするが、まあそこはゲームバランスということで。Act1だけではどうしても足りなくて、例のドワーフ闇金融から必ず借りることになっていても面白かったかも知れないね。

しかしこの計算で行くと、第47章でセバスチャンがデーリッシュの屋台でスカーフ一枚に払った額は10数万円。さて、これはいくら何でも高すぎる。ソヴリンではなく”Gold”と呼んでいることから、スタークヘイブン独自でソヴリン金貨の額面1/10の、普段使い用の金貨があるのでは無いだろうか。
これは特に珍しいことではなく、例えばアンティーヴァにはアンドリス(Andris)という独自の通貨が存在する。Origin中で、ゼブランがアリスター/ウォーデン暗殺ミッションで報奨として提示されたのがアンドリス硬貨5000枚。一体いくらなのか、見当も付かない。

現実世界での(新)ソヴリン金貨も、基本貨幣ではあったが実際に使われるのは珍しかったという。何しろ1枚に金約8gの高額貨幣で、今の価値で言うと15万円くらいだというから使い勝手が悪すぎる。
#実際のところ、純金8gは実勢価格3万4千円前後である。これは金の価値が下がったわけでは無く、1ポンド(=1ソヴリン)の価値が下がっただけ。


カークウォールの雰囲気は明らかに産業革命後の産業都市である。大体のRPGでCotton(木綿)の価値がWoolより低いというのも、ヨーロッパ、もっと言えばイギリス国内で綿花から綿織物が作れるようになった後の価値観。それ以前は、木綿の布ははるばるインド(DA世界では……うーん。どこだろう。明確に植民地とされる地域はないからね。セヘロンは恐らくテヴィンターとクナリが取り合いしている植民地だろうけれど)から輸入される貴重品だった。

DA世界はカークウォールのイメージに始まり、食生活と衣服は明らかに近世のそれであっても、チャントリー体制と各国の政治は中世を色濃く引きずっている。というか混じってる。まあ所詮ゲーム内のフインキ(笑)作りであるし、その方が色々都合が良い。近世に諸侯会議(Landsmeet)が決裂したからと言って決闘は出来ない。踊るだけ。

では近世末期あるいは近代のとっかかり(17~18世紀)と仮定した場合、その時代の封建領主であるセバスチャン・ヴェイル大公の収支について考えてみよう。まずは収入から。

①地代:大公家の荘園で作る農産物の、余剰分を売却した代金は領主である彼の物となる。地代を徴収する代わりに、夜盗や奴隷商人、あるいは国境を接するテヴィンターの侵攻から村を護り、大災害や疫病があれば(この二つはセットだね)大公家が救けてくれる。そうしないと農民はみんな逃げちゃう。
彼は明らかに不在地主なので農民から見れば単なる「地主様」でしか無いのだが、小説内ではその荘園は古くからのヴェイル家の領地で、人的な繋がりもあるということにしている。この辺も中世的。

現実社会の場合は14世紀にペストの大流行があり、ヨーロッパ全体で人口が大幅に減少して、土地を耕す人がいなくなっちゃった。すると農奴(小作農)でも自由民でも、逃げてくれば
「ようこそ良く来たね、ささ、ここの土地で働いてくれたまえ、税金も軽くするよ、もし前の主人が追いかけてきても追い払ってあげるよ」
てなもんで別の領主が匿うようになり、農民の流動性が向上すると共に地位も向上した。

ちなみに17世紀になってもイングランドでペストの大流行があり、ロンドン市内だけで一日に数千人が死亡するという大惨事となっている。DA世界ではもちろんブライトがこれに相当する。この前のブライトは化け物ウォーデンが一年で片付けてしまったため大して人口は減っていないと思われるが、その辺はオスタガーでの死傷者を7年掛けてようやくソートしたアリスター王にでも聞いてみないと判らない。

②商業税:当然商売の利益からも税金は取る。個別に取るのではなくて、商人あるいは職人ギルドの自治権を認め保護するかわりに、ギルドが大公家に上納金を納める。だからギルドマスターというのは街の有力者なんだね。あるいは他の下級貴族が何か商売を始めて儲ければ、当然そこからも上前は跳ねる。お前誰のシマで商売させて貰ってると思とんねん。
だから他にもっと商売に都合の良い国があれば、貴族も逃げる。ハリマン卿がスタークヘイブンの貴族のはずなのにカークウォールに私邸を持っているのは、そのためかも知れない。
それどころか王様さえ逃げ出したりする。17世紀初頭のスコットランド王、後のイングランド王ジェームズ一世が、
「スコットランドよりイングランドの方が居心地いいなあ、綺麗な男いっぱい居るし、贅沢出来るし」
と長居した挙げ句に議会と大げんかしたのは有名な話。
#この王様はバイセクシャル。正妻との間に子は7人(6人とも)、その他男性の愛人が居たことが明らかになっている。教会は怒ったが、何しろ王権神授説の人なので、気にしなかったのだろう。

③国外貿易:以前にも本館の方でちらっと書いたが、カークウォールの主産業は明らかに鉄・鉄鉱石・石炭、あるいはそれから作られる鋳物などの工業製品っぽい。しかしスタークヘイブンの産物については、実はゲーム本篇中では全く情報が無い。
小説内で言えば、牧畜が盛んなので恐らく毛織物や乳製品、それにもちろん上質のワイン等々と思われる。最大の取引先であったカークウォールがああいうことになっちゃって、実は困っているかも知れない。さらに逃げてきた職人を保護して産業を発達させつつある。

⑤他色々:要するに金が取れるところからは何でも取る。粉挽きのために水車を作れば水車の使用代、パン釜を建てれば釜使用代、橋を架ければ通行税、結婚を認めるかわりに結婚税。ちなみに初夜権というのはこの税金を取りたてるための名目の一つで、実際に行使されたとする記録は残っていない。
Originsのシティエルフ導入クエストはこの話が下敷きになっているが、デネリム伯の息子は典型的な悪代官であって、普通の領主はそんな事はしない、多分。

金地金から金貨を鋳造するときに、ちょっとだけ多めに他の価値の低い金属(銀とか銅とか)を混ぜて、差額を儲けるということもあったようだ。もちろんあまり露骨なことをすればDA世界なら目利きのドワーフ商人がすぐに見抜いて、貨幣価値が下がるだけであるが、1/100、あるいは1/1000ならどうか。そういえばヴァリックの父親がオーズマーを追放されたのは、この秤量試験を誤魔化したからだったね。

では出費の方はどうか。
①税金:チャントリーに払っているはず。但しこれは、収入の方の①地税の1/10だけしか払っていない可能性はあるね。それとグレイ・ウォーデンにも、古の約款があれば払っているかも知れない。

②人件費:小説内では大公家の各種事業に大勢の人を雇って働かせている。間違いなく国内最大の雇用主。馬牧場、犬舎、ブドウ農園、街の拡張計画(公共事業!)、アンダースの庭の池さらいのための臨時雇い、他諸々。もちろん城の召使いに衛兵達、さらには小さいながらも常備軍もあり、お仕着せを始め衣食住全て面倒を見て、更になにがしかの賃金を払っている(賃金帳簿がちゃんとある)。もちろん現代社会に比べれば格段に安かっただろうが……。無料診療所に掛かる費用など、年間総予算の中ではさしたる額では無いかも知れない。アンダースは囚人なので賃金無しw
治安維持はセリン隊長率いる衛兵隊が担当しているようだ。彼らは街中のみならず国内くまなく巡回しているようで、時々避難民の一行にぶつかったりしている。また基本的に地元の猟師や農家の二男、三男なので、そこらの地理には詳しい(という設定にしておくと後々楽)。

常備軍も一応あるらしいが、儀仗兵に毛が生えた程度、かも知れないね。フェラルデンの場合は志願兵だったが、スタークヘイブンもおそらくは志願兵と傭兵が少々だろう。その程度にしておかないと財政が持たない。

③お買い物:毎日の食事、衣服、城の中の調度品、ろうそく、薪、その他諸々。大公家御用達の服屋に馬具屋、刀剣工、靴屋、革職人、全て彼が消費することで商売が成り立っている。アッシュが上等のカーペットを長い毛だらけにしたり、タペストリーを引っ掻いたりすれば当然その補修も必要になる。
だから節約とか粗食とか清貧とかDIYとか、近代の美徳はむしろ悪徳に近い。他の人の仕事を奪い収入を無くすことになるからね。とはいえ、度を過ぎた贅沢はやはり非難の的となった。


贅沢な食事と軽い労働の結果の肥満、「恰幅の良い」姿は貴人の象徴であって羨望の的だった。現代社会でもその風潮は残ってるね、すぐお隣の国の三代目に。ということで、セバスチャンも中年太りになるのはまず間違いない(いやー止めてー(T_T)

エルフはどうなんだろうか。彼らがほっそりしているのはデーリッシュにしてもシティエルフにしても、厳しい生活で充分な栄養が取れないだけなのか、それとも体質的な物なのか?その前に小説内に登場する二人とも、どう考えても長生きできそうには無いが……。

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