第97章 愛しき者

原作者注:お待たせして済みません、ゼブランが手こずらせたのです。ですが更新をお待たせしただけの事はあると思います……
翻訳者注:原文に注意書きはありませんが、一応折り畳んでおきます。


「ゼブラン……ちょっと良いだろうか?」エルフが廊下の向こうから歩いてくるのを見て、片手を上げて挨拶しながらセバスチャンは声を掛けた。

ゼブランはにこやかに頷いた。フェンリスが朝駆けから戻ってくるまで、まだ少し時間があった。
「もちろん。何がお望みかな?」

「少し話をしたい。私の部屋に来ないか?」

アサシンはセバスチャンの後に続いて彼の部屋へ向かった。ユアンが数日前、彼の子犬のティーグと共に、いまや彼自身の居室となった廊下の反対側の部屋へ移ってからというもの、大公の居室はずっと静かになっていた。セバスチャンは椅子に腰掛け、ゼブランにも座るよう身振りで示した。

「それで、何を話したいのかな?」とゼブランは腰を降ろしてから不思議そうに聞いた。

「もう怪我もほぼ完全に治ったからには、君の予定について話をしておきたいと思ってね」とセバスチャンは気軽な声で言った。
「私が城の門から君をさっさと放り出したいと思っているとか、そんな事では無いよ!」とセバスチャンは急いで付け加えた。
「全くそんなつもりは無い。ただ、君がまた旅立つつもりがあるのかと思ってね――ソリアを追いかけるか、アマランシンへ戻るとか、あるいはどこでも君が気に掛かる場所へ――それとも、ここに残るつもりはあるだろうか?君とフェンリスが親しい間柄となったようだということは、もちろん私も気が付いているが……」

ゼブランは頭をかしげた。「そう、それは確かに」と彼は用心深く同意した。
「急ぐ予定は無いというのは、認めなくてはいけないだろうね。ソリアとホークが僕の耳に入るところで話した僅かな手がかりからしても、彼らの使命は長期に渡る物となるのは間違い無いし、僕は彼らの最終目的地を知らない、だから今から彼らに追いつける可能性は無い。それに、ヴィジルズ・キープのウォーデンの中には良い友人達も居るけど……」彼は言葉を切り、それから肩を竦めた。
「どうしても急いで戻ってやりたいと思うような、特別近しい関係の者は居ないな。それに君の思うとおり、フェンリスと僕は……とても親しくなった、お互いにね」

「それは良かった。それでだ、あるいはここに留まるつもりは無いだろうか?君の技能を生かせるような仕事がある。ああ、これは君がここに居たいと思う場合にそれを後押しするもので、決して必要条件では無い」と大公は微笑んで付け加えた。
「君に、この仕事を受けるつもりが有ろうと無かろうと、君が居たいだけここに居てくれて一向に構わない」

「それを受けるかどうかは仕事の内容に寄るね。僕は全くもって『元』クロウだからね、もう暗殺の依頼を受けることはしない、もちろん世界から取り除く方が良いと僕自身が信じる誰かなら別の話だけど」とゼブランは慎重に答えた。

セバスチャンは声を立てて笑った。
「その心配は無いよ。引き受けて貰いたいのは殺しでは無い。いや、そのようなことを防ぐために君の技能に頼りたいのだ。アンダースの保安措置を大きく改善して貰った仕事の拡張版と言って良いだろう」

「おや?」ゼブランは不思議そうに尋ねた。

「そう。幾つかある。私はユアン、メリドワン、それにナイウェンを確実に護ってやりたいと思っている、とりわけユアンは両親の経緯から、好ましくない注意を引くかも知れない。だからアンダースのコテージと同様に、彼の居室の保安措置について君に精査して貰いたい。それにこの城の中で、私や彼が普段使用したり、通り過ぎる場所についても。いずれその仕事は、この城の保安に関するより全体的な再調査に発展するだろう。私はジョヘイン・ハリマンとその姪の、私や私の跡継ぎを殺して権力を握ろうとする企みを、また誰かが真似る、その可能性を排除できればと願っている」

セバスチャンは考え込むように眉をひそめた。
「ユアンのためのボディーガードを選ぶのにも、君の力を借りたい。アンダースと同じように、彼も部屋の外に居る時は必ず城の衛兵が護衛として付き添うことになるが、それ以外にも彼の年長の友人であると同時にボディーガードとして、一人か二人の護衛を付けてやりたいのだ、例え彼が自分の部屋にいる時でも。そうすればもし誰かが通常の警護をくぐり抜けて彼の部屋に入ったとしても、間近に彼を護り、他に急を知らせられる者が居ることになる。アンティーヴァでは多くの貴族が、彼らの子供を護る目的で若きクロウを雇い入れていると聞いたことがあるが……?」

「ああ。もちろんいつも効果的とは限らないけれどね、何故ってそういう仕事を受けるようなクロウは当然、まだ未熟な者が多いわけだから。何にしても、君はクロウを雇いたいわけでは無いだろうし、誰かそういった悪意を持つ人物を見極め、止められるような技能を持った者がいいだろうね。ところであの子犬、あれはとっかかりとしてはとても良いね。あの犬は人間が見逃すようなことにも気づくし、もちろん彼の縄張りと主人を護ろうとするし、間違い無く吠える」

セバスチャンは微笑んだ。
「ユアンにもペットが必要だろうと思った時に、そこまで考えていたわけでは無いが。だがあの子犬が大きくなった時に、単にあの子の遊び相手という以外の役目が果たせるのならそれは有難い」

ゼブランは頷くとしばらくの間考え込む様子だった。セバスチャンはじっと待った。

「あの少年のボディガードとして、誰か候補に心当たりはあるのかな?」とゼブランはしばらくしてから尋ねた。

セバスチャンは頭を振った。
「その件に関しては、もしこの仕事を受けて貰えるなら君の判断に任せるべきだろうと思ってね」

ゼブランは面白そうに笑うと頭を振った。
「かろうじて知っているだけの誰かを信用しすぎだよ、君は」
彼はセバスチャンをやんわりと叱った。

セバスチャンはお返しに微笑んだ。
「いいや――私は君を信ずる者の意見を信用しているのだ。アンダースは君を友人と呼んで、心底では善い人間だと言っている。君はフェラルデンの英雄の仲間としてブライトをくぐり抜け、間違い無く彼女も君を高く評価していた。フェンリスも、何かしら信頼出来るところを君に見いだした。どれだけ彼の信頼を得るのが難しいか、私は良く知っているからね。そして私自身、君と出会ってからはまだ短いが、尊敬に値するし信用出来るとも感じた」

ゼブランはニヤリと笑い、面白がるようにも嬉しそうにも見えた。
「判った。やろう。適当な候補者を探すには少しばかり時間が掛かるだろうけどね」

セバスチャンは頷いた。
「結構。この件で君の手を借りることが出来てとても有難い。報酬についても相談すべきだな」

ゼブランは微笑んだ。
「そちらの方はまた今度で構わないかな?僕の方は急がないから。良い部屋に美味しい食事、これといって欲しい物も無い。それに、フェンリスがもうすぐ遠乗りから帰ってくる」

セバスチャンは今度こそニヤリと笑った。
「それで君は彼が戻ってくるところを待ち構えようと思っている。行ってくれ。君の言うように、急ぐ話では無い」

ゼブランは立ち上がり礼をした。
「感謝するよ。君の従兄弟のボディガードに適当な候補が見つかったら君に知らせよう。それと警備体勢に関しての評価と、考え得る改善策についても」
そう彼は言うと立ち去り、慌てて厩へと向かった。


フェンリスは彼のグラスからワインを啜り、ゼブランを眺めながら彼自身の思いに耽っていた。もう一人のエルフは彼の椅子に丸く膝を抱えて座り込み、ワイングラスをテーブルに置いたままで頬杖をついて、暖炉の火に見入るようだった。今日の早い内は彼はとてもお喋りで、セバスチャンが彼に申し出た仕事について話さずには居られないようだったが、一方でこの夕べはひどく静かだった。ゼブランが大公の仕事を引き受けたからには、怪我が治って旅が出来るようになり次第どこかへ旅立つのではなく、スタークヘイブンにもうしばらくは留まることになる、それがフェンリスには嬉しかった。

どれ程彼がここに留まって欲しいと自分が願っているか、ゼブランが居なくなった後のことを考えてみるまで彼ははっきりと自覚していなかった。もう一人のエルフ無しでの人生を、彼は想像出来なかった。というよりは、想像出来たとしても、そんな人生は望まなかった。彼はゼブランに、ここに留まって欲しかった。彼と共に。そして何より彼が思い悩んだのは、ゼブランが彼と居たいと思っているのか、あるいは単に現時点で特にどこか他へ行きたいとも思っていないからスタークヘイブンに留まっているだけなのか、彼には判らないことだった。

彼は次第に不安が増してくるのを感じ、残りのワインをグラスから一気にあおると二杯目を注いだ。アンダースかあるいはセバスチャンに助言して貰った方が良いかも知れないと彼は思った。アサシンがスタークヘイブンから、彼から去って行くと考えただけで感じる、このほとんど絶望的な不安について。

唐突に彼はワインのグラスを置くと立ち上がった。ゼブランは近付いてきた彼を不思議そうに見上げた。彼は身を屈めてゼブランの顎の下に指を置き頭を傾けさせると、貪欲に彼の唇を求め、舐め、甘噛みし、徹底的に貪り尽くし、ゼブランに唸り声とも呻きとも付かない欲望に満ちた声を上げさせた。アサシンは手を伸ばしてフェンリスの銀髪を彼の指に巻き付かせ、ソファの上に膝立ちとなり、同時にフェンリスも半分肘掛けに腰を降ろして、もう一人のエルフに向かって屈み込んだ。彼は片腕でゼブランを抱き寄せ、アサシンがその舌で彼の口を貪るに任せた。

ようやくゼブランが少しばかり身を引き、フェンリスを探るように見つめ、しかし片手は優しくウォーリアーの髪を撫でていた。
「今晩はもう火の側でぼんやりするのは飽きたということかな?」とゼブランは面白そうな笑みを唇に浮かべながら尋ねた。
「続きはベッドの中にしない?」

フェンリスは頷き、立ち上がって一歩後ろに下がり身体を離してゼブランに立ち上がるための空間を与えた。ゼブランは微笑み、一瞬つま先立ちになるとフェンリスの唇に短くキスをし、それから先に立って彼の寝室へと向かった。


▽折り畳み部を表示

フェンリスがその長身をベッドに横たえる姿に、ゼブランは賛嘆の眼差しを走らせた。荘園の厩でのあの素晴らしい密会の後、彼はフェンリスの裸体を幾度も見ていたが、その異国情緒溢れる美しさは初めて見た時と変わらぬ強さで彼の心を打った。オリーブ色の肌、純白の髪、謎めいた紋様に被われた引き締まった長身、エメラルド色の瞳はもはや彼の側で不安を見せることはなく、欲望に満ちて彼を誘っていた。彼の面前で何の気取りも無く自らを晒すフェンリスの姿に、ゼブランはほんの少し前まで、このエルフがいかなる行為にも深いためらいを感じていたことを思い出して、心の底から温かな感情が込み上げるのを感じた。彼は本当に、長い道のりを辿ってここまでやって来た。

今夜こそ、残る数少ない障害をフェンリスがついに乗り越える時かも知れない、そうゼブランは考えた。彼は期待に笑みを浮かべると片手をフェンリスの胸に置き、側に屈み込んで優しくついばむようにキスをした。

事はゆっくり進めることだ。新たな領域に進む前にフェンリスを徹底的に興奮させれば、駆り立てられた欲望が過去の恐怖を乗り越える助けになるかも知れない。それで彼はかなりの時間を費やして、幾度も長く深いキスを繰り返し、焦らすようにもう一人のエルフの身体中に触れて欲望を煽った。

ゼブランが彼を絶頂の寸前まで持って行き、それから手を離し興奮が冷めるに任せても、何もせずただ抗議するような眼を向けたのは、フェンリスの彼に対する信頼の証だった。一度では無く幾度も繰り返して、もう一人のエルフがベッドの上で身を悶えさせ、手はシーツを握りしめ、眼を閉じ頭を枕の後ろに大きく反らせ、すすり泣く声で求めるまで、両手と口を駆使して彼はフェンリスを責め立てた。ゼブランは手に滑らかな油を取ると、フェンリスが呻きながら彼自身を取り囲む手の中に幾度も突き上げ、更なる刺激を求めてシーツの上で足掻く間に、焦らすように軽く、優しく触れてそれに油を伸ばした。

フェンリスが興奮に気を取られている間に、ゼブランは手早く彼自身の前準備を済ませ、再び手を離して後ろに下がった。欲求不満の涙がフェンリスの眼からは溢れ、欲望と混乱にすすり泣きの声を上げていた。ゼブランはベッドの上に腹ばいになって彼を抱きしめ、頬にキスをしながら耳元に愛情溢れる言葉をささやき、彼の首筋、胸、腕に沿って優しく撫で下ろした。

「しーっ、今度こそ……本当にとても気持ち良くなるよ」と彼はフェンリスの耳元でささやいた。
「楽にして、僕を信じて」

フェンリスはこっくりと頷き、ゼブランを一瞬固く抱きしめると再び横になり、息を切らし小刻みに震えながらゼブランの言うとおりにした――彼を信じた、今度こそ、この甘い拷問を終わらせてくれると。

ゼブランは彼にまたがり、身を傾けてもう一人のエルフの鎖骨をなぞるように唇を掠め、彼を宥めるように両手で引き締まった腹から横へと撫で下ろし、ゆっくりと腰へ降ろした。彼は再びフェンリス自身を手に取り、もう一人のエルフが再び快感に我を忘れるまで顔を注意深く見つめながら、良い香りの油で滑らかに滑るそれを優しく擦った。

頃合いを見計らってごく慎重に彼は自らの姿勢を変え、片手でフェンリス自身の位置を合わせながら、もう片方の手で手早く自らをもう一度解した。それから彼はゆっくりと身体を沈め、フェンリスが徐々に彼の中に滑り込んでいった。彼を押し広げ、そして彼を満たしていくにつれて僅かに下唇を噛み、痛覚と快感の入り交じる自らのうめき声を押し殺すと、ゆっくり、ほんの少しずつ自らの身体を沈み込ませていった。フェンリスは驚いた声を上げ、背を反らせながら彼の中に突入れ、ゼブランは快感に思わず声を上げた。さらにフェンリスはもう一度突き上げ、彼の両手がゼブランの腰を抱きしめた。

一瞬何もかも上手く行くように思え、二人は一緒に動き出した、しかしすぐにフェンリスが快感とは違う呻きを漏らし、盲目的な恐怖に怯える叫びと青白い光を放った。ゼブランの身体が突然激しく押しやられ、ベッドから放り出された。彼はどうにか無様に床へ叩きつけられるのは防いで一回転すると立ち上がり、不安げにフェンリスを見つめた。

エルフは両手と両膝を付いて固く身体を丸め、まだ青白い光を放ちながら震えていた。ゼブランはベッドによじ登り、もう一人のエルフの逆上した様子に自らも打ちひしがれる思いだった。彼はフェンリスの側に屈み込み、一瞬彼に触っても大丈夫だろうかとためらった。

「フェンリス?フェンリス、ごめんよ、ミ・クエリード 1、君を怖がらせるつもりは無かった」と彼は言って、フェンリスの肩を両腕で緩く抱き、ウォーリアーが彼の思うとおり、拘束ではなく慰めようとしているのだと思ってくれるよう願った。

フェンリスが驚くほどの素早さで動き、一瞬ゼブランは彼がまた判断を誤ったかと不安になった。ウォーリアーにベッドへ押し付けられて、彼は身を強ばらせ自らの防御反応をどうにか押さえつけようとした。それから彼は、フェンリスが攻撃では無く、安らぎと、慰めを求めて彼の腕の中に飛び込んだのに気付いた。ウォーリアーの両腕はゼブランを固く抱きしめ、彼は泣きながら銀髪の頭をアサシンの肩に埋めていた。

ゼブランは彼自身の腕をもう一人のエルフに廻して、両手で円を描くように優しく背中を撫でさすり、謝罪と慰めの言葉を耳元にささやき続け、ようやくフェンリスは落ち着きを取り戻すと、震えは次第に収まって疲れ果てたように身動きしなくなった。やがて顔を上げたフェンリスの泣きはらした目は赤く、頬には涙と鼻水で幾本もの筋があった。こうも打ちひしがれたエルフの姿に、ゼブランは自分の心臓も強く締め付けられるのを感じ、彼の恋……大切な友人をこうも傷つけた自分に一瞬嫌気が差した。

「すまない」とフェンリスはしゃがれた声で言った。「俺は……」

「いいや、ミ・コラゾン 2、謝らなくてはいけないのは僕だ、君じゃ無い」とゼブランは彼の言葉を遮った。
「あれは僕の間違いだった、君のじゃない。まずいことになるかも知れないと僕は知っていた、知っていたのに君に警告しなかった。だから僕のせいだ。謝るのは僕の方だ」
彼は心から後悔するように言うとフェンリスの顔を両手で包み込み、頬にくっきりと付いた涙の跡を優しく親指で擦った。
「僕を許してくれるか?」

フェンリスは大きく息を吸い込み、それからこっくりと頷いた。ゼブランは俯いてもう一人のエルフの額にキスをして、また両腕で彼を抱きしめた。かなりの間、彼らはただお互いに抱き合い、フェンリスの身体がゼブランを覆い、頭はアサシンの肩の上に置かれていた。

世界中で最も居心地の良い姿勢という訳では無かったが、ゼブランは自らが次第に眠りに引き込まれるのを感じ、フェンリスも恐らく既に眠ったものと思っていた。しかしそれからもう一人のエルフが身を動かし、実際のところは彼はまだはっきり目覚めていて、単にしばらくの間自分の考えか記憶に沈み込んでいただけだと気が付いた。フェンリスは身をよじって身体のほとんどをゼブランの上からずらし、頭だけがまだゼブランの肩に乗っかって、片腕で胸を覆っていた。ゼブランもより居心地の良い姿勢になるよう身を動かした。

「気分は良くなった?」と彼は恐る恐る尋ねた。

フェンリスは頷いた。「ああ。その、すまなかった…」

「しーっ。君の謝罪は無し。悪いのは僕だと言ったろう」とゼブランはやんわりと彼を叱った。

フェンリスは鼻を鳴らすと頭を傾け、顎と言うより頬をゼブランの胸に当てた。彼はしばらく、微かに眉根を寄せてゼブランの顔を凝視していた。しばらくして彼の頬はパッと赤くなった。

ゼブランは怪訝そうに片方の眉を上げた。
「何を考えているのかな?」と尋ねる彼の声には、微かに愉快そうな響きが混じっていた。

フェンリスは微かな笑みに口元を歪めた。
「君のことを」

「おや?どうしてかな?」

フェンリスの頬は真っ赤になった。彼は再び身をよじって頭をベッドに降ろし、脚を軽く曲げて、ゼブランを片腕で少しの間抱きしめた。彼は再びしばらく黙り込み、それからようやくためらいがちに話し出した。

「時々、ダナリアスの奴隷だった頃に俺にされたことの悪夢を見ることがある。彼やヘイドリアナや、それ以外に俺を借り出すことを許された相手から。それが最近……時には……」
彼は再び言葉を切り、それからまた顔をゼブランの肩に埋めた。

アサシンはそこの皮膚にフェンリスの紅潮した顔から熱気が伝わるのを感じ、何かウォーリアーが話そうとしていることが、彼の心をひどくかき乱していると知った。彼はまた、エルフの背中を優しく撫でた。

「時には、君のことを夢に見る」とフェンリスはようやく、ささやくように言葉を絞り出した。
「君が……ああいうことを俺にしている夢を。それでも夢の中では、俺はもし相手が君なら大丈夫だと判っていて、怖ろしいとも思わない」
彼はまた頭をもたげ、何やら決心したようにゼブランの胸の上に置いていた片手を動かしてアサシンの片頬を包み込んだ。
それをやってみたい。君が俺を……その、反対では無くて。試せないだろうか?」

ゼブランは一瞬驚いて瞬きをした。
「君がやりたいと思うことなら何でも、ミ・ヴァリエンテ 3

「今からでも?」まるで切迫するような表情でフェンリスが尋ねた。

ゼブランはやや心配げに顔をしかめた。
「今から?また別の夜にした方が良いのじゃないかな?」

「いいや」驚くほど断固とした声でフェンリスは言った。「今夜だ。駄目か?」

ゼブランは微笑み、身体を少し動かしてフェンリスの唇に優しくキスをした。
「君がそう言うのなら」と彼は柔らかな声で言うと、再び微笑んで片肘を付いて身を起こし、指を一本立てた。
「ただし!これはちゃんとやらなくてはね。最初からまるっきり新しく始めよう、隣の部屋のあの罰当たりなくらい豪華な浴槽に君と一緒に浸かって、すっかり綺麗になって寛いだところで、ゆっくり慎重に事を進める。いいね?」

フェンリスは頷いた。二人はベッドから這い出て、ゼブランが先に立って浴室へと向かった。彼は手早く浴槽に湯を張り始め、この部屋が城の中で、ドワーフ監修による素晴らしい給湯配管がされている区画にあることを感謝した。彼は少しばかりの香油を湯に垂らし――彼好みの、白檀にほんの微かなジャコウの香り――それから先に浴槽に入った。彼はフェンリスの身体を支えられるように、自分の身体の前の、脚の間に座らせた。彼らはしばらくゆったりと湯に浸かり、時折優しくキスを交わした。
湯が冷め始めると、ゼブランは蛇口を足先で蹴飛ばして湯を追加し、それから洗い布と石けんを手にとって泡立てると、フェンリスがとりわけ触れられるのを好む部分に特別な注意を払いながらウォーリアーの身体を洗い始めた。フェンリスは明らかに喜ぶ表情を見せ、しばらくすると一つ唸り声を上げて洗い布を奪い取り、身体を廻してゼブランの方に向くとお返しに洗い始めた。ゼブランはニヤッと笑い、二枚目の洗い布を掴み取ると、しばらくの間二人は楽しく、身をよじっては競い合うようにお互いの身体の大好きな部位を洗いあった。

その内に洗い布は忘れられて、二人は長々とキスを交わし、フェンリスの腕はゼブランの首回りに、そしてゼブランの腕はフェンリスの腰に回された。二人とも温かな浴槽の中でふざけ合って、つるつると身体を滑らせる間にかなりの興奮を感じていて、キスを幾度も繰り返す間も彼らの勃起は心地良く二人の間で触れ合っていた。もし水中でのセックスがどれ程厄介なことか知らなかったとしたら――水は大抵どんな潤滑剤もあっという間に流し去るため――ゼブランはこの場でフェンリスを抱いてしまう誘惑に駆られたかも知れなかった。

その代わりに彼はようやくキスを止め、フェンリスの頬を紅潮させた幸せな表情に暖かく微笑みかけた。彼の恐怖も明らかに洗い流されたようだった。
「おいで、もう風呂は十分だ」と彼は優しい声で言った。二人は助け合いながら浴槽から出て、浴室に沢山置かれている大きな柔らかいタオルで水気を拭き取った。

身体はほかほかと温かく、髪の毛はまだ湿気ったままで心地良い香りと一緒に二人は寝室に戻った。ゼブランは手早く寝具を整え直し、一緒にベッドに横たわると再び幾らかの時間を掛けて、唇と手で互いの身体に触れ合った。フェンリスが十分寛いだと判断したところで、ゼブランは滑らかな油が入った小さな瓶を手に取った。それを見た途端にもう一人のエルフの身体に緊張が走り、ゼブランは手を止めた。
「止めても良いよ、もし君が望むなら」と彼は提案した。

フェンリスは注意深く瓶をじっと見つめながら首を振った。
「いや。俺は……やってみたい。頼む」

「判った」とゼブランは頷き、身を乗り出して勇気づけるように彼にキスした。
「いつでも考え直して構わないよ。もしやっぱり耐えられないと思ったら僕に知らせる、そしたら僕達はそこで止める、いい?」

フェンリスは頷いた。ゼブランは注意深く彼の姿勢を変え、顔を上に肩と頭の後ろに沢山枕を入れて、ゼブランが何をしているかいつも見られるようにした。この姿勢の方が腹ばいになるよりフェンリスに与える緊張がより少ないだろうから。しばらくフェンリスがまた落ち着きを取り戻すまでキスを繰り返し愛撫して、それから少しばかりの油を手に取った。
彼はフェンリスの側に膝を着いて座ると、キスを続けながら片手をもう一人のエルフの緩く立ち上がる男根を優しく手に取って擦り、フェンリスの緊張がほぐれるまで待った後、さらに手を後ろへ滑らせ柔らかな皮膚に包まれた球をやわやわと揉んだ。そしてさらに手を後ろに伸ばした時、再びフェンリスが身体を強ばらせ、臀部の筋肉がぎゅっと締まった。

ゼブランはフェンリスの首筋から唇を滑らせて鎖骨、さらに肩にかけてキスを続け、その間にも優しく勇気づける言葉をささやき、空いた片方の手でエルフの首の後ろを包み込むと軽く揉みほぐすように手を動かした。ようやくフェンリスは震えながら溜め息を付き、身体の力を抜いた。

彼はゆっくりと優しくフェンリスの身体を慣らし、幾度もキスを繰り返しては勇気づける言葉をささやき、もう一人のエルフが驚いて快感の呻き声を上げる、その場所を身体の中で探り当てるまでたっぷりと時間を費やした。そして彼はフェンリスの両脚の間に膝を着き、口ともう一方の手で、フェンリスが限界を超える寸前まで彼自身をさらに刺激しながら、内側に入れる指を増やし徐々に慣らしていった。

それから彼はフェンリスの両脚をさらに広げ、持ち上げる間だけ身体を後ろに動かし、脚を折ってエルフの腹の方へ押しやった。
「少しの間そんな感じで、脚を降ろさないで」と彼は静かに言った。

フェンリスの眼は大きく広がり、僅かに心配する表情が浮かんだがそのままの体勢を保ち、ゼブランはまた身体の位置を変えて、彼自身の位置を注意深く合わせ、それから緩やかに身体を傾け始めた。彼はフェンリスが緊張し、強いて自らを落ち着かせようとするのを感じ取り、エルフの顔に相克する感情が過ぎるのを眺めた。そしてごくゆっくりと挿入し、フェンリスに彼自身が深く、さらに深くへと押し込まれて行く感覚を受け入れ、慣れる時間を与えた。彼自身が全て入った後で一旦彼は動きを止め、片手を二人の間に伸ばしてフェンリスのものを手に取った。挿入の間にフェンリスの勃起は少しく萎えていたが、ゼブランの熟練した手が前の興奮をすぐ取り戻させた。

「まだ何ともない?」とゼブランは静かに尋ねた。フェンリスはためらいながらも頷いた。ゼブランは勇気づけるように彼に微笑んだ。
「じゃあ動くよ」と彼はそっと警告して、再びゆっくりと動き始めた。彼はフェンリスの顔を注意深く見つめ、もう一人のエルフが次第に今彼の身体に起きていることを楽しみ始めたのに気付いた。彼の額のシワは滑らかに消え、頭は後ろに傾いて眼は閉じられ、次第に深くなっていく呼吸に口は僅かに開いていた。ゼブランは微笑み、一突き毎に注意深く彼自身の角度を変えて、指でさっき探り当てたその場所を探そうと試みた。

フェンリスの眼が突然パッと開き、驚きと快感の叫びが彼の唇から漏れた。ゼブランはニヤリと笑い、まさにその角度でその場所を幾度も繰り返し突いた。フェンリスの両手はシーツを握りしめ、背を反らせて幾度も大きく叫んだ。ゼブランは自らの絶頂も近いことを感じ、再び片手を伸ばして二人の間に挟まれたフェンリスのものを、再び擦り始めた。既に限界に近かったフェンリスは、ほんの数回ゼブランの巧妙な手に撫でられただけで大きく叫び声を上げ、絶頂を迎えると背を反らせて身体を震わせながら、彼の腹部の上におびただしい精液を迸らせた。

今や短く不規則に、ゼブランもほんの数回突き上げただけでしゃがれた叫びと共に頂点に達した。少しの間彼はフェンリスの上に覆い被さり、まだ彼の体内に覆われたままで、その親密さを満喫していた。彼は奇妙な戦きがウォーリアーの身体を走り抜けるのを感じて顔を上げ、フェンリスが眼を閉じたまま静かに泣いていて、その頬が再び涙に濡れているのに気付いた。
驚愕して、彼は自らを抜き取るとフェンリスの側に座り込み、またしてももう一人のエルフを抱きしめたものかどうかとためらった。彼は今度は両手で頬を包み込むことで妥協し、そしてフェンリスが眼を開けると頭を傾け、二人の眼が会った。

「何かまずいことが?フェンリス?大丈夫か?」と彼はおろおろした声で尋ねた。

フェンリスはこっくりと頷いた。
「ああ」と彼は言うと、身体を回転させて起き上がり、彼の両腕をゼブランに回して力強く抱き寄せた。
「何も、まずいことは無い」
彼は顔をゼブランの髪に埋め、低く、震えた声でそう答えた。

「ならどうして君は泣いているんだ?」とゼブランは聞き、おずおずともう一人のエルフに両腕を回した。

「判らない」とフェンリスは言い、長い間そのままじっとしていたが、やがてゼブランを抱く腕に力を込め、まるで決して離すまいとするかのように彼を強く抱きしめた。

ゼブランは、フェンリスは自分の心を乱す原因を知っているような気がしたが、それが何であるにせよ、ウォーリアーにはまだそれを話す準備が無いようだった。ゼブランはさらに尋ねることはせず、ただ肉体的な接触が与えうる限りの慰めを与えようと、お返しにしっかり抱きしめた。ようやくフェンリスは腕の力を緩めると、どぎまぎして気まずい様子を見せた。ゼブランはその様子は如才なく見なかったフリをして、代わりに枕を整え直し、優しくフェンリスの身体を導いて横たわらせ、共にシーツの下で居心地良く寄り添った。

二人とも、波乱に充ちたこの長い夜の後で疲れ果てていた。お互いの手足を絡ませながら彼らが眠りに落ちるまで、それほど長い時間は掛からなかった。

△畳む


Notes:

  1. mi querido:愛する君
  2. mi corazón:愛しい人
  3. mi valiente:勇敢な君
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第97章 愛しき者 への3件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ←声もなく舞っている

    ところで、自サイトにリンクページを作ろうかと
    思い立ったのですが、こちらのサイトをリンクさせて
    頂いてもよろしいでしょうか?

    検索避けしているので誰も来ない僻地では
    ございますが、お願いできれば嬉しゅうございますv

    ってこの章で言うか!なあ!なあってばよ!

  2. Laffy のコメント:

    >>EMANONさま
    ああもう全然オッケーです、リンクフリーでございます。
    こちらの方はどういたしましょ、リンク張らせて貰ってもよろしいでしょうか?

  3. EMANON のコメント:

    >リンク張らせて貰ってもよろしいでしょうか?

    うわあああああいよろしくお願いいたしますv
    もうジャンピング土下座でもなんでもしますw
    ありがとうございますv

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