第100章 二人の間で

(原作者注)100!100章!100しょーーーーーーぅ!
ここまで読んで下さった皆様に沢山の感謝を。まだもうちょっと続きます……
(翻訳者注)いつもコメントを下さるEMANON様が第100章記念イラストを描いて下さいました!
こちらでご覧下さいませ。Dragonage’s Fragment


廊下を曲がってフェンリスの部屋の扉が視界に入った時、その前に見慣れた顔の衛兵が二人、立っているのに気付いてゼブランは片方の眉を不思議そうに上げた。アンダースの護衛達だ。すると何かの用事であのメイジは彼と一緒に居るに違いない。彼は衛兵達に頷きながら微笑み、フェンリスの部屋へと入っていった。

ウォーリアーとメイジはゆったりと椅子に座り込み、二人ともワイングラスを手に持って、側の低いテーブルにはワインの空き瓶が二本と、ほとんど空になった一本があった。ゼブランが入ってきたのに気付いて二人は顔を上げ、フェンリスは嬉しそうに、アンダースは少しばかり酔っぱらった様子で笑った。

「おや、何だか居心地良さそうだね。僕も混ぜてよ?」とゼブランはフェンリスがグラスを掲げている奥へ行きながら尋ねた。

「もう一本持ってきてくれ」とフェンリスはグラスを取ったゼブランに頼んだ。
「こっちはもうほとんど空だ」

「そうしよう」とゼブランは言って、作り付けの食器棚に並べられたワインから一本を抜き出すと椅子の間のテーブルに置き、それから既に開いている瓶を取って自分のグラスに注いだ。それから彼はフェンリスの椅子の腕掛けに座って背もたれに腕を回すと身をかがめた。

フェンリスはちょっと驚いた様子で、ちらりと気まずい視線をアンダースに向けたが、不意に少しばかり頬を赤く染めるとゼブランに笑いかけ、伸び上がって短く、暖かなキスを交わした。それから彼は顔を赤らめたまま、嬉しそうな顔で椅子に深く腰掛け直した。ゼブランも姿勢を戻し、満足げに彼に笑いかけた。

アンダースはふらりと立ち上がった。
「今のは退出の時間だという合図と見たね」と彼は二人のエルフに微笑みながら言い、ほろ酔いの上機嫌な様子でフェンリスに頭を下げた。
「散歩と会話と、それにワインに礼を言うよ、フェンリス」と彼は言った。

フェンリスは喜んだ様子で頷いた。
「それには及ばない、アンダース」

アンダースは残ったワインを飲み干しながらニヤリと笑うと、グラスをテーブルに置いた。
「ウォーリアー」と彼は言い、小さく手を振って背を向けた。

「メイジ」フェンリスはやはりニヤリと笑いながら、男が立ち去る後ろ姿にそう答えた。

「さっきのは一体何の話なのかな?」とゼブランは閉まった扉を見ながら当惑した表情で尋ねた。

フェンリスは短い笑い声を上げ、栓の開いた瓶を取って残りのワインを自分のグラスに注いだ。

「カークウォールに居た頃、まだ俺がアンダースを嫌っていた時分は――全てのメイジをか、実際の所は――彼を名前で呼ぶのを避けて、大体はただ『メイジ』と呼んでいた」
彼はその当時使っていたのとそっくり同じ、斬りつけるような鋭い調子でそう説明した。

「あーあ」とゼブランは完璧に理解したと言うように目を輝かせた。
「アリスター王が僕を『アサシン』と呼ぶ時の様子そっくりだね」――彼はSの音を強調した尖った口調でその単語を発音した――「それで僕もお返しに、その時々で彼の顔を面白い色合いに染めること間違い無しの呼び名で呼ぶというわけさ」

フェンリスは不思議そうに片方の眉を上げた。
「君はフェラルデン王をからかってるのか?」

ゼブランは大きく歯を見せて笑った。
「もちろんそうだよ。僕達は良い友人だし、時々はただのヒューマンだってことを思い出させてあげないとね、彼にも」

「友人か……」とフェンリスは言い、グラスを回して、中の暗赤色の液体が描き出す模様をじっと見つめながら眉をひそめた。
「彼を懐かしく思うか?他の、フェラルデンに居る知り合いは?」

ゼブランは肩を竦めた。
「少しはね。だけど……」彼は手を伸ばし、フェンリスの手からグラスを取り上げてテーブルに置き、もう一方の手に持った自分のグラスも置いて、再びフェンリスの方に身をかがめた。
「彼らの元に急いで戻りたいかと聞かれれば――いいや、そこまで会いたいとは思わない。とりわけ、今この瞬間は」と彼は言って更に身をかがめると、フェンリスに熱っぽくキスをした。

フェンリスは嬉しそうな喉音を立てて、唇を離すことなく、手を伸ばしてゼブランの頭を支えた。

結局ゼブランの持ってきたワインはそのままに、彼らはフェンリスの寝室に引き上げた。


寝間着に着替えながら、セバスチャンの脳裏にはアンダースが昼食後に部屋から出て行った時の姿が幾度も甦ってきた。唐突な発言、肩を落とし俯いて部屋を出て行く様子。メイジを追いかけて元気づけなかったことを彼は幾度か後悔したが、あいにくテンプラーとメイジ達の到着に加えイザベラの不穏な知らせの後で、今日の午後は彼にはやるべき事が山のようにあった。

大勢の人と会う予定の合間を縫って彼が訪れた時には、アンダースの枕の上で丸くなっているアッシュと、庭をのんびりと歩く犬達の他はコテージの中は空っぽだった。詰め所の衛兵は彼に、しばらく前にアンダースがフェンリスと一緒に出て行き、まだ戻って来ていないと伝えた。彼は少なくともアンダースが誰かと一緒に居るという事で安堵したものだった。

それから彼は教会でグリニス大教母、カレン騎士団長と共に夕食を摂り、カレンの随分長くなった旅行で、彼と彼の部下がマイナンター川を下り、南方の海岸沿いに旅をする間に出くわした出来事について語り合った。カレンの話が終わり、二人が城へと戻った時には既に夜もかなり更けていた。恐らく彼は明日もまたカレンと話をして、旅行中の気になる出来事について更に詳しく聞く必要があるだろう。

しかしたった今、彼の頭に浮かぶのはアンダースのこと、そしてイザベラの話の後でひどく意気消沈した彼の様子だけだった。彼は自分のベッドの側に長いこと立ち尽くし、それからろうそく立てを取って、のろのろと隠し階段の入り口を覆うタペストリーへ向かうとそれを押しのけ、隠し扉を開けた。螺旋階段を下りながら彼は一度ならず思い悩んでは立ち止まった。
果たしてこれは賢明な行いなのか、果たしてアンダースはどう思うか、果たして……実際、アンダースの顔を見て大丈夫だと確認せずには居られないという、彼の胸を痛いほどに締め付ける欲求以外に、何一つ確信は持てなかった。

ようやく下に降り立ったところでまた、ほとんどろうそくが燃え尽きるまで彼はためらい、それからようやくクローゼットへ入る扉を押し開けた。ガンウィンが一声、吠えるのが聞こえた。

「アンダース?」と彼は呼びながら、クローゼットの中に釣り下げられた服を押しのけ、開き扉を開けた。

セバスチャンが入ってくるまでアンダースはベッドに横になっていて、明らかに今座り直したようだった。ベッドの端に腰を掛けて彼を見上げるメイジの、心から歓迎する表情と暖かな眼の輝きにセバスチャンは思わず息を飲んだ。

「どうして……?」とアンダースはそわそわした様子で尋ねた。

「お前のことが心配だった」とセバスチャンは進み出て、ろうそく立てをベッドの側机に置きながら言った。
「イザベラの話を聞いた後で、お前の……何とも無かったか?」と彼は尋ねると、手を伸ばして軽くアンダースの頬にふれ、一筋こぼれていた髪を耳の後ろに撫で付けた。

アンダースは息を飲み、セバスチャンの顔を見つめた。
「最初は、ちょっとね。だけどフェンリスが訪ねてきて、それから色々話をしてくれた。その後で彼の部屋に行って、ちょっとばかりワインを飲んだ」と彼は言うと機嫌良さそうに笑った。彼は手を上げて頬に当たるセバスチャンの手に重ねた。
「言っとくけど、僕はまだかなり酔ってるからね。ここに戻ってからもワインを飲んだんだ」と彼は言って、セバスチャンの手を取り、その甲に軽く唇を掠めた。

セバスチャンはその暖かな感触に身を震わせた。
「ここに居ても良いか?」と彼はほとんどささやくような声で言った。

アンダースは一瞬彼の顔を見つめて、それから頷いた。彼はベッドの上で腰をずらして後ずさりする間もセバスチャンの手を離そうとはせず、そこに入る以外の選択肢を与えなかった。セバスチャンにしても、そうする以外の考えは無かった。
彼はベッドの上でアンダースの側に横たわった。アンダースは二匹の犬達を見やって、鋭く一つ口笛を吹いた。犬達は立ち上がって、部屋から出て行った。

セバスチャンは鼻を鳴らしてアンダースに微笑みかけた。
「実に便利だな」と彼はまじめくさって言うと、アンダースの方へ身を屈めてキスをした。彼はただお休みという代わりの、ごく慎み深いキスのつもりだった――だがアンダースが彼を引き寄せ、メイジの引き締まった腕がセバスチャンの筋肉質の肩を、驚くほど強い力で抱きしめるに従い、そのキスは急速に慎み深さとは正反対の方向へ発展した。

アンダースの唇はワインの味がした。セバスチャンはアンダースの上に少しだけ覆い被さるような体勢で、彼らのキスはいつ終わるとも知れず続き、舌は互いの口をもの憂げに探索し、絡み合い、そして時には代る代る相手の唇を吸い、軽く噛んだ。彼は唸り声を上げ、アンダースがそれに答えて喉の奥で呻く音を聞いた。我に返った時に彼は初めて、自らの疼く股間をベッドに擦り付け始めて居たことに気が付き、どうにか自制心を取り戻して身を起こし、キスを終わらせた。アンダースの唇は長いキスのせいで濡れて膨らんでいた。間違い無く、彼自身の唇も同じ状態だったろう。

彼らはお互いを探るように見つめあった。どちらもここで止めるには忍びず、しかしどちらもこの先へ進む用意はなかった。

ようやく身を動かしたのはアンダースで、片手を上げてセバスチャンの頬に包むように当て、唇の上で親指を一度だけ、拭うように動かした。
「駄目だ」と彼は静かに言った。

セバスチャンは頷いた。
「駄目だ」と彼も、少しばかり残念そうに同意して、寂しげに微笑んだ。彼らは身を滑らせてお互いから離れ、セバスチャンは横向けに転がって、どうにか彼の勃起をより目立たなくするために片膝を上げた。アンダースは仰向けに横たわり、真上の天井を見つめていた。セバスチャンはメイジの勃起が見るからにシーツを持ち上げる様子に気付かずには居られなかったが、アンダースがいつの間にか彼の方に顔を向けて、その視線の方向を捉えたのに気付き顔を赤らめた。

「見たい?」とアンダースが突然、訝しげな口調で尋ねた。
「それとも、君の誓約を破ることになるかな?」

セバスチャンは息を飲み、一瞬彼の顔をじっと見つめた。
「そうはならないだろう」と彼はようやく、ためらいがちに認めたが、次を言おうとして言葉がつっかえた。ああ、見たい。

アンダースは唇の端を歪めてにやっと笑い、起き上がるとズボンの紐に親指が掛かるまで寝間着の裾をめくった。彼は尻を持ち上げてズボンを膝上まで一気に降ろし、それからベッドの上で身をよじって半分セバスチャンの方を向いた姿勢で横になり、下の脚はまっすぐ伸ばして、上側の脚は膝を折って、下の膝の裏側で足裏をマットレスに付けた。彼は頭を片肘の上に乗せ、もう片方の手は身体の側で寝間着の裾をたぐり寄せ、彼自身をセバスチャンの凝視に晒した。

セバスチャンはアンダースの静かな表情をしばらく見つめていたが、それから視線を下へと動かし、誇らしげにそそり立つ男根を凝視した。彼が見るところ、それは結構な大きさと良い色をしていて、腹部に向けて上向きに反り返り、ほんの少し片方に曲がっていた。赤みを帯びた金色の薄い体毛が、アンダースのへその下からその根元のカールした茂みまで繋がっていた。彼が見守る内にもそれはさらに硬さを増していくようで、メイジは明らかに彼の凝視に興奮を覚えており、彼もそれに応じて自らの股間が張り詰めるのを感じた。
彼は身を固くして、自らの手を伸ばして男のものに触れようとする激しい衝動と戦い、ただその包皮がどれ程柔らかいかを、その中に包まれたものの熱と硬さを、根元でカールする毛のしなやかさを、突き出た先端から今にも零れそうな透明な滴の滑らかさを想像していた。

彼は再びアンダースの顔を見た。欲望に大きく広がったメイジの瞳は暗い茶色に見え、頬は紅潮していた。かなりの間、彼らはただお互いを見つめていたが、それからごく微かな笑みがアンダースの唇に浮かんだ。彼は再び身を起こし、セバスチャンに向かって膝を付いて座る姿勢を取った。彼の手から離れた寝間着の裾はまた膝まで覆っていたが、セバスチャンはその張り出した布地と、メイジが前屈みになるにつれて先端から広がる小さな染みに、ひどく気を取られていた。気が付くとメイジの右手の指先が、セバスチャンの唇に触れていた。

「口を開けて」とメイジはごく優しい声で言ったが、しかしその声に潜む響きには、セバスチャンを何も考えることなく従わせるものがあった。アンダースの指が彼の口に滑り込み、メイジの親指と小指が彼の顎を支えた。セバスチャンはためらいながら口を閉じその指を吸った。アンダースは喉の奥で満足げな音を鳴らし、指をセバスチャンの舌に向けて軽く曲げると、ゆっくりと指を抜き、そしてまた口に差し入れた。
セバスチャンはメイジの顔を見つめながらその指を舐め、吸い、男の指が口を緩やかに出入りする動きが鋭い快感の戦慄となって背筋を走り抜け、直接彼の股間へと伝わるのを感じて思わず身を震わせた。アンダースの指は僅かな塩味と、微かな石けんの香り、爪の下に挟まった小さな砂粒からは土の味がした。

「もういい」しばらくしてアンダースは擦れた声でそう言った。セバスチャンは再び口を開け、メイジは濡れた指を引き出した。もう片方の手で寝間着の裾をまた持ち上げて、彼は右手で彼自身を包み込み、セバスチャンの唾液をそれに滑らかに広げた。

その光景にセバスチャンは舌が上あごに貼り付くのを感じ、彼自身の勃起ももはや痛いほどに硬くなった。アンダースの手がその軸を上下に擦り始め、それを見守る彼の呼吸も荒くなった。
彼はただ身動き一つせず、メイジの手が彼自身を滑らかに上下し、次第に速度を増していくのを凝視した。アンダースの呼吸も、ゆっくりと自らを絶頂に近づけて行くに従って次第に深く、速くなった。

セバスチャンはまたアンダースの顔を眺め、自分の心がメイジが見せる姿態の間で引き裂かれるのを感じた――メイジの頭は軽く後ろへ傾き、快感に眼は半ば閉じられ、喘ぐ口元は僅かに開き――そして彼自身を上へ下へと、幾度も繰り返し擦り上げる手は、まるで催眠術の様な効果を与えた。彼の心はアンダースの手が、セバスチャン自身の疼く男根に同じ動きをするのをありありと脳裏に描き出した。
彼は片方の手でシーツを握りしめ、もう片手は頭を置いた枕の下で固く握り拳を作った。彼の腰がアンダースの手の動きに同期してけいれんするように小さく動き出すのを感じ、自らの手を伸ばして彼自身に触れようとする激しい欲望の波と戦った、いや、ただ腹ばいになってベッドにそこを擦り付けるだけでも、何でも……

アンダースは大きく喘ぎ、身を起こして自らの手の中に彼自身を激しく突き上げていた。
「セバスチャン!」メイジは喘ぎ声で言うと再び眼を大きく見開き、彼を凝視する男を見つめた、その眼差しには、生の、剥き出しの熱気と欲望があった。

アンダース」 セバスチャンの呻く声は彼の満たされぬ欲望に擦れ、彼自身に触れようとする欲求を抑え込もうとするあまり、彼の爪先までもがきつく曲がっていた。

そしてアンダースは絶頂に達し、背を大きく反らして握りしめる手の上に精液を迸らせ、指の間から彼の太腿へと滴り落ちた。セバスチャンはその光景に思わず身を震わせて呻き、彼自身ももう、すぐそこまで……彼は眼を固く閉じ、熱く火照った頬を枕に埋めて、ただひたすら身体を動かさず、息を整えようとした。彼はアンダースが立てる物音にぼんやりと気付き、恐らく彼が身体を拭いて服を整えているのだろうと思った。

ようやく彼が落ち着きを取り戻して、アンダースの方に再び眼をやった時、メイジはセバスチャンの方を向いて側に横たわり、心配そうな表情を浮かべて彼の顔を眺めていた。セバスチャンは安心させる様に彼に微笑み、お返しにメイジの顔には暖かな笑みが浮かんだ。

「お前は時に悪魔のような男になるな」とセバスチャンはまだ嗄れた、荒々しい声で言った。

アンダースはニヤリと笑い、身体を回転させてセバスチャンの額にキスをし、それからまた仰向けに横になった。彼はまだシーツを固く握りしめたセバスチャンの手をそっと外して、自分の手の中に握った。セバスチャンは笑みを浮かべ、その手を引き寄せてキスをすると、ため息を一つ付き、ようやくゆったりと横になった。

二人の間で互いの手を結んだまま、彼らはすぐに眠りに落ちた。

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