第101章 晩餐会

アンダースはひどい頭痛と共に目覚め、唸り声を上げた途端なおさらひどくなった。身動きをするまで彼は、身体の背中と横に掛かる温かな重みがガンウィンでも、その顎でもないことに気づかなかった……セバスチャンが、アンダースの背中にぴったり重なるように横になり、彼の腕がアンダースのウエストを覆っていた。

昨晩の出来事が怒濤のようにアンダースの脳裏に蘇った。フェンリスと飲んで、既にかなり酔った状態でコテージに戻って、それからまた夕食と共に赤を開けて、そのまま夜が更けるまでゆっくり飲んでいた。それからベッドに行って眠れぬままに横になっていたら、突然ガンウィンがベッドから飛び出して吠えた。セバスチャンがろうそくを手に、寝室の奥のクローゼットから現われた、まるで夢か、幻影の中の人物のように……。優しく彼のことを心配する面持ち、その後で起きたこと……アンダースは再び呻き、きまり悪さから顔が真っ赤になるのを感じた。アンドラステの完璧なケツ、彼はまた何と言うことをしでかしたのか!

耳元でくつくつと低い笑い声、そして彼の周りに廻されたセバスチャンの腕が一瞬、固く彼を抱きしめるのを感じた。

アンダースは寝返りを打って男から離れ腹ばいになり、火照る顔を腕の中に埋めた。
「うう、メイカー……本当にすまない、セバスチャン……酔ってるって言ったじゃないか」
彼の嗄れ声は枕に覆われくぐもって聞こえた。

セバスチャンは声を立てて愉快そうに笑い、側ににじり寄った。アンダースは男の手が髪を首筋から除け、温かな唇がうなじに当てられるのを感じて身を震わせた。

「謝らなくていい」とセバスチャンは彼の耳元に、低く、ほんの僅かに嗄れた声でささやいた。
「昨晩起きたことに、私は何も後悔していない」

アンダースは顔を背けてセバスチャンを見つめた。大公の温かな、満足そうな笑みを目にして彼は微笑まずにはいられなかった。セバスチャンの笑みはさらに広がり、眼の端に笑い皺が寄り、それから彼は身を屈めてアンダースの額に一つキスをした。

「さて、私はもう部屋に戻らなくては」とセバスチャンは残念そうに言った。
「また昼食で会おう。ああ、それと晩餐会も――カレン達が明日サークルへ出発する前に、今夜はカレンとその部下、それにメイジ達を招いて正式な晩餐会を開くつもりだ、もちろんイザベラも。お前にも出て欲しい」

アンダースは頷いた。
「判った、そうするよ」と彼は答えた。

「結構」セバスチャンはそう言うと身体を廻してベッドから降り、側のテーブルからろうそく立てを回収して、クローゼットを抜けて彼の居室へと姿を消した。

アンダースは不思議なほどの満足感を感じて笑みを浮かべながら、またしばらくベッドで横になり、それからようやく身を起こした。ボイラーに火を入れて風呂の湯を温める前に犬達を外に出さないと、と彼は考えた。その後で何か朝食を作ろう。それから、今晩着る服について考えよう。


イザベラは立ち上がってシーツを身にまとい、まだ彼女のベッドの中ですやすや眠っている男に微笑んだ。昨夜は可愛そうな青年をとことん疲れさせてしまったようだった。彼女は浴室の快適な設備を調べに行き、実際始めて使ってみてそれが実に心地良く贅沢なものだと判った。もし昨日のうちに浴槽がこんなに大きいと判っていたら……まあ、覚えておきましょう。
いずれにしても下流に戻る準備が整うまでは恐らくあと2日か、3日は掛かると思われたし、セバスチャンがこの贅沢な設備を滞在中ずっと使わせてくれるのなら、もちろん彼女には何の異議も無かった。

彼女は服を探しに寝室へと戻り、せっかく心地良く綺麗にした肌に、洗っていない服をまた身につけなくてはいけないことに顔をしかめた。後で船に戻って、幾日か分の服を忘れずに取ってくるよう彼女は心に決めた。重く湿気ったシーツを剥ぎ取って着替えようとした時、テンプラーがベッドの中で伸びをしながらあくびをして、彼の鮮やかな青い眼がぱっと開いた。彼は一瞬混乱したようだったが、それから彼女の姿を見てにっこりと笑った。

彼女はその笑みが、とりわけ彼が口を大きく開けて笑う顔が好きだった。それから突然彼は口を小さくすぼめて唇を閉じ、今更ながらに彼がいつも気にしている曲がった犬歯を見せまいとした。そんなところも、彼女がこの青年を大いに気に入ったところの一つだった。彼女はベッドの端に腰を降ろし、身を屈めると挑発的にキスをしながら彼をぐいっと引っ張り、驚いた青年が立てる、くぐもった声に笑うと座り直した。

「目が覚めた?」と彼女は喉を鳴らしていった。
「もう少しいられるの、それともすぐに仕事に戻らなきゃだめ?」

「今日の昼過ぎまでは大丈夫」とケランは答え、片手を上げて彼女の髪を優しく頬からよけると、身を起こしてお返しのキスをした。

「良かった」と彼女は言ってシーツを身体から落とし、再びベッドに戻った。結局あのバスタブを彼と使うことになるかも知れなかった……後で。二人とも気持ちよく汗まみれになった後で。


dining-roomセバスチャンは部屋を見渡して満足げに微笑んだ。この大きな食堂を使って最後に公式な晩餐会を開いたのは、もう随分前のような気がした。その時は新年を祝してのパーティで、彼の貴族達と街中の豊かな商人が出席した。そちらは辛抱するためのパーティだった。だがこっちは、彼も共に楽しもうと決心していた。

部屋にはピカピカに鎧を磨き上げたテンプラー達と、ローブ姿のメイジ達――書写室で働くメイジ達は、カレンの一行が連れて来た、以前の彼ら同様に疲れ果て惨めな姿のメイジになにがしかの衣装を寄付して、お陰で皆それなりの格好をしていた――それと大教母グリニスに同行した数名の聖職者達で混み合っていた。セバスチャンは彼女を正式に出迎えるため歩み寄った。

彼女は温かく彼に微笑んだ。
「ヴェイル大公。面白い晩餐会ですこと。お招きに感謝しますよ」

「このような直前のご招待にも関わらず、お越し頂けたこと嬉しく思います、大教母様」 1とセバスチャンは答えて、少しの間会話を交わした、と言ってもこの二人の間で何か真剣な話をする場では決して無かったため、軽い話題に限っていた。彼は友人達が入ってきたのを見て失礼しますと言うと、温かな歓迎の笑みを浮かべ彼らを出迎えに歩み寄った。

ゼブランとフェンリスは二人とも彼らの鎧の代わりに上等の服を着て、実に格好良く見えた。ゼブランの丈の長いチュニックは深緑色で、首回りと裾をデーリッシュ伝統の紋様の刺しゅうが飾り、濃焦茶色のスウェードのレギンスの上をふんわり覆っていて、しなやかな室内履きはやはり焦茶色の鹿革に、緑と金で刺しゅうがされていた。
フェンリスの服は、セバスチャンが彼のために仕立てた覚えのある室内着だった。首回りと手首に繊細な銀糸の刺しゅうが施された明るい灰色のシャツと、黒に近い灰色のレギンスはハンサムなエルフの容姿を一層引き立て、驚くことに彼は丈の短い黒革のブーツまで履いていて、それもまたよく似合っていた。彼の緑と銀のスカーフは、折り畳んで飾り帯のようにウエストに結ばれていた。

アンダースの装いにセバスチャンは大きく笑みを浮かべた。この取り合わせを二人は良く覚えていた。爽やかな春の夜に温かな肌触りの、あずき色の毛織物のレギンスと、濃茶の室内履き、ほとんど白に近いクリーム色のリネンシャツと、首元からはデーリッシュの金色のスカーフが覗いていた。メイジがこの装いを、あの冬の夜を思い出して選んだのは間違い無かった。あのひどく気詰まりな、予想もしない熱気に包まれた、二人がお互いに抱く欲望を否が応にも認めた最初のキス。

彼が三人を出迎えに歩み寄った時、イザベラも少し遅れて入ってきた。彼女の装いは驚くべきものだった。彼女は、ドレスを着用していた。あるいは少なくとも、厳密に言えばドレスと呼べるであろうものを。クリーム色の滑らかな絹製のコルセットの下は、繊細に透けるスカートが床丈まで彼女の脚を覆い、金糸で刺しゅうされた華麗な紋様と小粒の真珠で飾り立てられていた。
コルセットは両脇を紐で締め、前と後ろ身は実にきわどい領域まで切り込まれ、彼女の暗い色の肌を露わにしていた。彼女はデコルテの上を大量の煌びやかな宝飾品で覆っていて、それが今日の服装をどうにか、露骨に下品に見えるところから救い、単なる突飛な服装に見せていた。とはいえ床までの長さのスカートが覆い隠す、彼女の長い脚の眺めは、普段の膝丈のブーツに袖無しのリネンシャツより、どうしたことかさらに彼女の裸体を想像させるものとなっていた。

セバスチャンが歩み寄る間に、ゼブランはイザベラの衣装に称賛の眼差しを投げていた。
「今宵はとりわけ魅惑的だね、イザベラ」とアサシンは言い、彼女から温かな笑みを勝ち取った。

「それで、あたしの手を取ってどこかに連れて行ってくれるの?だめ?ま、残念」と彼女は言って、彼とフェンリスに心得顔で微笑み、それからセバスチャンに振り向いて温かく笑いかけた。

セバスチャンは皆に挨拶をして、しばらくの間そこで立ったまま話をした。イザベラが最初にその集団から離れて、隅に立っていたテンプラーの一人――カレンの副長、ケランだった――の方へ向かった。その青年は彼女が側へ来てくれたことに嬉しく思うと同時に、少しばかり人の眼が気になる様子だった。その気持ちはセバスチャンにも良く理解出来た。

ゼブランとフェンリスもその内、部屋の静かな隅でワインでも楽しもうとふらりと離れていき、少しの間セバスチャンとアンダースだけがそこに残された。

「その服はいいな」と彼は声を低めて言い、それを聞いてアンダースは自分のゴブレットからワインを一口飲みながら澄ました笑みを浮かべた。

「君がそう言ってくれると思った」とアンダースは答えて、部屋をちらりと眺め、大教母がカレンと話をしているのを見て少しばかり神経質そうな表情を浮かべたが、それから近くのメイジ達の一群を見つめた。羨やむような光が彼の眼に浮かんだ。

「メイジの仲間が懐かしいか、アンダース?」とセバスチャンは静かに尋ねた。
「もし良ければ混じって話をしても良いが」

アンダースは口の隅を曲げて笑った。
「本当のところ僕が懐かしいのはローブだね。人生のほとんどずっと、ローブを着ていたから……何だかちょっと変わった気分だ、レギンスとシャツかチュニックをずっと着て過ごすというのは」と彼は言うと、またメイジ達の方に振り返った。
「それに、僕が歓迎して貰えるかどうかも判らない、他のメイジからね。カークウォールの後ではね」と彼は、僅かに悲しそうな顔付きで付け加えた。

「さて、それを見てみようか」とセバスチャンは言って、先に立って一番近くの集団の方に向かった。彼らのほとんどは城の書写室で働いているメイジ達だったが、カレンと共に来た避難民のメイジも一組居た。彼らは皆セバスチャンと話が出来てとても嬉しそうだった。最初彼らは少しばかりアンダースの存在に不安がっているようで、彼らが時折ちらりとメイジを眺めてはまた眼を反らせる様子からもそれは見て取れた。しかしセバスチャンが話の中でアンダースに意見を聞いて彼を会話に引き込んでからは、彼らは多少気分が楽になった様で彼とも話すようになった。

やがてセバスチャンが会話を終わらせた。そろそろ彼と彼の客人達は長いテーブルに座って、食事を楽しむべき時間だった。儀礼上、彼は食事の間は大教母と騎士団長カレンの間に座ることになっていた。アンダースはテーブルの少しばかり離れた所に着席し、イザベラと名の知れぬテンプラーの間に座った。メイジが落ち着いて振る舞い、イザベラと冗談を交わし、他の彼の側に座っている出席者からの質問にも礼儀正しく答え、充分寛いでいる様子を見てセバスチャンは喜んだ。

品数も多く大層長く時間が掛かったが、幸いにも全体的に見て愉快な晩餐だった。食事が終わった後ほとんどの客人は早々に立ち去り、メイジとテンプラーの一行も彼らに割り当てられた宿舎へと引き上げた。カレンと彼の一行は明日早く、サークルへと旅立つ事になっていた。大教母は別れの挨拶を済ませると、同行した聖職者と一緒に立ち去った。

彼の友人達だけとなったところで、セバスチャンは彼の居室に引き上げて夜が更けるまで話でもしようと提案した。どういうわけか彼は居室に戻る道すがらイザベラに腕を差し出すことになり、アンダースがその後ろに、そしてエルフ二人が最後尾に並んで歩いていた。ほとんど部屋の前まで来たところで彼はくすくす笑う声を聞き、顔を上げると寝間着姿のユアンが廊下の向こうから彼の方へまっしぐらに走ってきて、子犬のティーグ 2と、ナイウェン、それに彼女の母、さらに少年の衛兵達がその後を追って来た。

イザベラの腕を放して、セバスチャンは少年の行く先を遮り笑いながら彼を抱き上げた。
「どこへ行くのかな、このいたずら坊主は?」

「僕もパーティに行きたかった!」とユアンは大きな声で言った。

「ああ!それはそれは、もし聞いていたら招待したのだが」と彼はまじめくさって言った。
「だけどもうパーティは終わってしまったよ」

他の人々もその時にはようやく追いついた。メリドワンは顔を赤らめていた。
「申し訳ありません」と彼女は彼に向かって頭を下げながら言った。
「私がナイウェンを着替えさせている間に、飛び出してしまって」

セバスチャンは安心させるように彼女に微笑んだ。
「構わないよ」と彼は言って、少年に向けてしかめ面をした。
「乳母に心配を掛けるのは良くないぞ、判ってるだろう」

ユアンはほんの少しだけふくれっ面をしたが、それからにっこり笑って肩越しにメリドワンに振り返った。
「ごめんなさい、メリー」と彼は言った。

セバスチャンは歯を見せて笑い、少年を降ろして彼の片手を握り、メリドワンに温かく笑いかけた。
「子供達と一緒に私の部屋に来てはどうかな?ベッドに入る前に少しばかり」

彼女は同意の印に頭を下げ、それから彼は再び居室へ向かって歩き出した。一行に入れて貰ったことでどれ程ユアンが興奮し嬉しそうな顔をしているか、彼にもよく判った。本当に、この少年ともっと一緒に過ごす時間を作るようにしなくては、と彼は決心した。彼は子供達と近い間柄になりたかった、彼と父親の間の遠く隔たった冷たい関係ではなく、彼と祖父の間のように暖かく近しい関係に。

皆が席に着いて適当な飲み物が配られるまでにはしばらく時間が掛かった。セバスチャンは皆が落ち着いたところで辺りを見渡して微笑んだ。

ナイウェンはイザベラの隣に座って、明らかにドレスに見とれる様子でスカートの真珠の飾り付けと刺しゅうをおずおずと眺め、イザベラは手に持ったワインはまるきり忘れたまま身を屈め、繊細な飾り付けのあれこれを少女に説明していた。メリドワンはその近くで寝椅子の端に腰を降ろし、もう一方の端にはアンダースが、そして二人の間ではユアンが、メイジの顔を見上げてティーグの何やら込み入った物語を熱心に語っていた。子犬は二人の膝の間に長々と腹ばいになり、顎をユアンの膝に、後半身をアンダースに載せていた。フェンリスとゼブランは暖炉の側の長椅子に一緒に座って、ゼブランは親しげに背の高いエルフの側にもたれ掛かっていた。

セバスチャンも寝椅子の近くの肘掛け椅子に腰を降ろし、メリドワンと話が出来るようにした。彼は彼女と子供達が新しい部屋に移ってからどうしているかを尋ね、三人が皆新しい居室に大喜びしていると聞いて嬉しく思った。それから彼はユアンの語る、ティーグの新しい物語に聞き入った――少年と子犬が既に特別な親友となっているのは明らかだった――その後で、メリドワンがもう子供達はベッドに入る時間だと言った。

彼らが扉から出ていくのを見送った後、セバスチャンは戻ってアンダースの隣に座った。イザベラは席を立って彼の側に座った。
「それで、セバスチャン――あの可愛らしいナイウェンちゃん――あれはあなたの娘?」

「メイカー、違う!」とセバスチャンは驚いて叫んだ。
「いいや、彼女は私の真ん中の兄、ニコラスが産ませた子だ」

「あーあ、それで少なくとも彼女があなたととっても似ている説明は付くわね、あなたの女性版ね、ともかく」とイザベラは笑いながら付け加えた。
「それでどちらがあなたの跡継ぎなの?女の子、それとも男の子のほう?」

セバスチャンは難しい顔をした。
「正直なところ、まだ決めていない。ナイウェンはより近しい血縁だが、彼女の出生は承認されていなかった。私の家族はそれを知らされる前に皆死んでいたし、兄が彼女を認めようとしたかどうかも今となっては判らない。私とて彼女の存在を知ったのはつい最近のことだ。それ以外ならユアンの継承権は多くの点でより正統と言えるが、彼は遠縁の従兄弟である上、多くの者が彼の母親の件で悪く言うだろう」

「彼の母親って?」とイザベラは不思議そうに尋ねた。

アンダースが口を挟んだ。
「彼女の名前はジョハンナ、あのジョヘイン・ハリマンの姪だった。

「そして同じくブラッドメイジだ」とフェンリスが指摘した。

「はーん、なぜ人々がとやかく言うかは判ったわ」とイザベラは同意した。

「幸い、今すぐ急いで決めなくてはいけないことでも無い」とセバスチャンは言った。
「それにまだ他にも候補者がいるかも知れない。未だに私は城の記録係に家系を調査させているところだ、ハリマン一家による抹殺を免れた人々の中で、より近しい分家に当たる者がいないか。ヴェイル家から離れて他の家に嫁いだ、あるいは婿入りした者は大勢居るが、そういった者達に対しては、最初の数代を除けばどうしても注意が疎かになるからね。恐らくここや、あるいはフリーマーチズの、姉妹都市の貴族にもかなりの数の私の従兄弟がいるだろうし、その中にはユアンよりも正統性を主張しうる者がいるかも知れない、単に姓が違うというだけでね。皆これから分類しなくてはいけない」

イザベラは頷いた。
「分類するといえば――あなたと積荷のことで話がしたかったのよ、セバスチャン。とりわけ、あたしの船に積んでいる荷物のことで。少しばかり『冬のワイン』が手に入れられればと思ってるんだけど、ある筋からの情報では大部分がここの、しかも大公家のワイン農場でしか作られていないとか?」

セバスチャンは微笑んだ。
「少し融通出来るかも知れないな、もし君の荷物で何か私の興味を引くような物があれば」

「その同じ筋からの話では、あなたはカカオが好きなそうね――カレン達と出会うちょっと前に、テヴィンターの奴隷商人が偶々幾らかカカオを寄付してくれたのだけど。興味無いかしら?」

セバスチャンは白い歯を見せて笑った。
「大いに。明日の朝にでも、取引の話をしようか?」

イザベラは頷いた。
「もちろんそれでいいわ。さあ、もう引き上げないと――昨日の晩は随分遅くまで起きていたし。それに、今晩もね」と彼女は付け加えると、立ち上がりながらウインクをした。

「俺達も引き上げることにしよう」とフェンリスは言った。ゼブランは頷き、二人も共に立ち去った。

アンダースは微笑んだ。
「さて、僕の退出の合図も出たようだ」と彼は言った。

セバスチャンは不本意ながら頷いた。彼はアンダースに今晩ここに留まるよう、思い切って尋ねられればと思っていたが、やはりそれは賢明な考えとは言えなかった。彼は立ち上がってアンダースに続いて寝室に入り、長いお休みのキスを交わした後、アンダースは隠し階段を下りて彼のコテージへ戻っていった。

セバスチャンは寝間着に着替えながら、まだ口元から笑みがこぼれるのを感じていた。

Notes:

  1. 原文では公式な挨拶に相応しく”Your Reverence”と言っているが、定訳の「尊師」には妙な色が付いてしまっているため大教母「様」で誤魔化す。
  2. Tighe: アイルランド語のTadhgから、詩人という意味。
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第101章 晩餐会 への2件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    ユアン&ナイウェンかわえええぇぇぇぇw

    おっさんおばさん放っといてにゃんことわんこと
    子供たちだけで遊びましょーーーよーーーwww

    あ、ゼブランとイザベラさん、あんたら特に立入禁止w

  2. Laffy のコメント:

    もうね、イザベラがいつアブナイ事を言い出すかとひやひや。
    もうすぐ、また一人可愛いのが来ますよーーw

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