第111章 警告

セバスチャンがアンダースと共に彼の居室に戻ってきた時、既に昼食の準備は整い、ゼブランとフェンリスが静かに待っていた。セバスチャンは二人に頷いて座り、他の三人も席に着いた。彼らは黙ったまま料理を取り分け、アンダースは辛抱強く待ち、ゼブランはセバスチャンの顔を不思議そうに眺め、フェンリスは僅かに顔をしかめて三人の顔を見比べていた。

「まあ」とセバスチャンはようやく、難しい顔をして彼の皿を見下ろしながら言った。
「君達に今日の会談がどうだったか話しておくべきだろうな」

彼はオディールに対する彼自身の反応は話さず、ただ会談の内容を率直に他の者達に語った。アンダースはぞっとした表情を浮かべ、ゼブランは僅かに厳しい目つきをした外は、グリニス同様硬い無表情を保ち、一方フェンリスはまるで今にも攻撃を受けると予想するかのように油断無く警戒する様子に見えた。

「その話を受けるつもりは無い、そうだろう」
彼が語り終えた時アンダースは言った。問いかけでは無かった。セバスチャンの先ほどまでの行動を見ていて、彼が既に理解した事柄を単に声に出して確認しただけだった。

「ああ、受けるつもりは無い」とセバスチャンは同意して、ゼブランの顔を見た。
「この提案を断るまでに、後一日、あるいは二日以上の猶予は無いだろう。一旦話を断れば、オディールは私に敵対する行動を起こすかも知れない。彼女が語ったフェラルデンに対する計画からすれば、君に対しても行動を起こすかも知れないな、アライナイ男爵

ゼブランの唇は面白がるように、ほんの微かに曲がった。
「僕の称号をああも大っぴらに誇示したのは拙かったかも知れないね」と彼は穏やかに言った。
「だけどあの時は、良い考えのように見えたんだけどな」

アンダースは不思議そうにゼブランを見つめた。
「そもそも、一体どういう訳で君が男爵になったんだ?僕がヴィジルズ・キープを出た時にはそうじゃ無かったよね」

ゼブランはニヤッと笑い椅子に座り直した。
「もちろん、全部アリスター王のせいだよ。僕の友情に対して彼がどれ程高く評価しているか、どれ程僕の忠誠心を信頼しているかということを、とりわけ彼の貴族達とクロウに対して示すためにやったことだ。彼がソリアを説得して、アマランシン伯の領地にある小さな一角、誰も欲しがらないような土地を僕に分けさせたってわけさ。君も覚えているのは間違い無いと思うよ、アンダース、あの北東の海岸にある、呪われた沼地を?」

アンダースは頷いた。ブラックマーシュのことは彼は決して忘れないだろう。そこがもうどれ程徹底的にムカツク場所だったかという事以外にも、そこはソリアがジャスティスを仲間とし、彼女とその一行が――アンダースも含めて――ヴェイルを通じてフェイドに行かざるを得なくなった場所でも有った。
「どこよりも素敵な保養地だ、とは言えないな?」

ゼブランはニヤッと笑った。
「さてね。僕がそこに住んでいる訳じゃないからね。ああ、もちろん時折訪れては居るよ、厳密に言えばあそこは僕の領地で責任が有るわけだから。古い村とお屋敷の廃墟が有って、それから今ではごく小さい、新しい村が出来ている――同じ場所では無くて、もう少し丘の上の、平らで乾いた土地に――ソリアが言うには、君達はそこでドラゴンの幽霊の類と戦ったとか?」と彼は付け加えて、アンダースが頷くのを見てからさらに説明を続けた。

「そこには全部でも数家族が住んでいる、ほとんどがブライトの間に他所から移り住んだ人達だ。入り江で漁をして、沼で狩りをしたり食用の草を集めたり、適当な季節にはちょっとした密輸もやってる。もちろん僕は目を瞑っている、連中が僕の屋敷の維持費を払ってくれている間は――小さいけど大層快適なコテージだよ、実際のところ、それほど君のと違いは無い――それに時折密輸品の中からアンティヴァン・ブランディも届けてくれるとなればね。
まああまり長い間あそこに居ることは無い、なんたって田舎過ぎるからね。だけどお陰でフェラルデンの社交界にそれなりの地位が持てるし、ほんの少しばかり収入もあって、何よりアリスターが僕に一番与えたかったもの――祖国となった、もうアンティーヴァは生きている限り戻って良いところでは無いからね」

セバスチャンはゆっくりと頷き、興味ありげにゼブランの顔を見た。
「もし君がフェラルデン王に、私がここで話した内容を伝えたとしたら、彼は信用するだろうか?」

「もちろん。そして行動を起こすだろうね、テンプラーとなるために育てられた者として、彼はあそこが公に見せる顔と、聖職者達の間で渦巻く策謀が必ずしも一致しないのは良く知っている。何より、彼は自国内のチャントリーの影響力にいつも注意を払ってきた。何分フェラルデンでは、チャントリーがそこに住む人々を無視してオーレイの側に立ったという素晴らしい歴史があるから」
彼はそう顔をしかめながら付け加えた。

アンダースは同意の印に頷いた。
「オーレイに占領されていた頃のフェラルデン大司教は、オーレイとの協同関係で悪名高かった。彼女は実に熱心な弁護人でもあって、オーレイが侵攻に成功したのは明らかにメイカーのご意志の表れである、とありとあらゆる手を使って正当化して、だからフェラルデン人は我慢してそれを受け入れるべきだ、とね。オーレイは間違い無く似たような理屈を立てて、テダス全土を支配することこそ彼らの運命であると言いだすだろう。あそこは領土を広げたくて堪らない連中の集まりだ」

「ああ」とセバスチャンは顔をしかめながら同意した。
「もしネヴァラがここと彼らの間に無かったならば、もう何世代も前にオーレイがマイナンター川両岸を一掃しようとしていたのは間違い無いだろうな。その件でいうなら、ネヴァラも相当な領土拡張論者だが、彼らは既に西にオーレイ、北にテヴィンターを抱えている。三つ目の前線を東に抱えようとするほど彼らは馬鹿では無い」

「他にも君が話をしておくべき人々がいる」とフェンリスが考え深げに言った。

「おや?」とセバスチャンが不思議そうに尋ねた。

「そう。カレンと、カークウォールから来た彼の部下達――彼らは既にチャントリーの権威に背を向けている、彼らがメレディスに逆らい、護るべき対象を彼女の殺戮から護った時に。もしオディールが、メレディス騎士団長を優れた指導者だったと信じるなら、彼女のテンプラーはカレン達にとって危機となるだろう。ここのサークルのロレンス騎士団長や、メイジ達にしてもそうだ」

セバスチャンは頷いた。彼はオディールの到着に先立ち既にカレンとロレンスと短い時間ではあるが話をしていて、チャントリーが彼らに対して何らかの行動を起こすのでは無いかと心配していると知っていた。
グリニス大教母はセバスチャンの目的と計画に共感を示していて、彼らテンプラー達が必要な量のリリウムを継続して受け取れるよう手配をしていた。さらに、カレンとロレンス双方の配下にある多くのテンプラーは、スタークヘイブンへ到着する以前から自主的に、この危険で習慣性のある物質の摂取を止め始めていた。しかし回復不可能なほどの中毒になっている者もまだ多く、オディールがリリウムの供給を、彼らに対する強力な支配手段として使うことも考えられた。

「アヴェリンにも警告しておくべきだろうな」とアンダースが言った。

「それとペンタガスト家にも、もしどうにかして彼らに伝言を送る方法が見つけられればだが。今から私が直接使者を送るのは危険だ」とセバスチャンが眉をひそめて、考え込むように言った。

「ネヴァラからの避難民の中には、出来るだけ早く故郷に戻りたいと思う人達がいるよ」とアンダースが言った。
「去年の冬に診療所へ訪れたあそこの避難民には、元は裕福な商人だったり、一定の地位にあった人々も居た。二人か三人そういう人を見つけて、君のためにペンタガスト家のしかるべき人物へ伝言を伝えるなら西に戻る旅費を出そうと言えば、きっと乗ってくるはずだ」

「彼らは別々に出発させるべきだね、間隔を開け、他にも同じような者が居るとは知らせないで」とゼブランは難しい顔をして付け加えた。
「彼らは必ずしも信用出来るとは限らないし、どこか途中で捕まえられるかも知れないし、単純に旅の途中で危険な目に遭うかも知れない」

「君の言うとおりだろうな」とセバスチャンは頷いて言った。
「判った。出来るだけ多くの人々に、出来る限り内密に警告を送ろう。オディールには私から二度目の会談を明日行いたいと伝える。それから戦争の引き金となるようなことの無いよう、どうやって彼女の提案を断るか考えなくてはなるまいな」と険悪な表情をして付け加えた。

「僕も手紙を書こう。もし用があれば僕の部屋にいるよ」とゼブランは言って立ち上がった。どうするというように彼はフェンリスを見て、フェンリスも立ち上がると彼の後に付いて出ていった。

二人が立ち去った後、アンダースはセバスチャンの顔を見つめた。

「しばらくの間お前の庭で働こうか」とセバスチャンは立ち上がりながら言った。
「考えている間、何か手を動かすものが欲しい」

アンダースは頷き、セバスチャンが昼食の前に着ていた簡素な服にまた着替えている間にコテージへ戻って、彼も庭仕事に向いた服に着替えた。

彼らはその日の午後ずっと、作業に必要な言葉を交わす以外はほとんど、彼ら自身の考えに沈んだまま黙々と働いた。


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第111章 警告 への2件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    沼地の王ソルカナーとはゼブランのことだったのか…(違
    じゃあさしづめフェンリスが銀毛のライオンでアンダースが
    翡翠の魔道士か。

    ……‥………セバスチャンは神聖なる評決の呪文でも
    唱えててください。暇そうだしv

  2. Laffy のコメント:

    暇じゃ無いYO!
    殿下は色々忙しいんだよ、畑仕事とかお祈りとかアンダースとイチャイチャとか。
    …………うわああああ思い出したよ、それもう後2章先だよ、
    どーすんだよう、あああああ。

    ……えーすいません、大分更新遅れると思います(^^ゞテヘ

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