第122章 小休止

荷車が突然止まった振動で、アンダースは浅い眠りから目覚めた。何が起ころうとしているのかと彼は緊張し、どこか近くからくぐもった声と、それから荷車が傾いて、誰かが上に載ったドタドタという足音が聞こえた。
何かを引きずる音とドスンという重い音は、恐らく彼が入っている箱の上に置かれていた物が取り除かれたのだろう。それから微かに引きずる音が聞こえ、箱の板の隙間からちらりとたいまつか、あるいはランタンの様な光が見えた後、あたりの音は更にくぐもって聞こえるようになった。彼が立てるかも知れないどんな類の音も覆い隠すために、箱の上にキルトか厚い布が被せられたようだった。

どこか彼の左側から、何かを引きずる大きな音が次に聞こえて、そちら側で光を遮って何か動く物が見えた。

「注意しろ、その箱を落とすんじゃないぞ」と鋭く命じる声が聞こえた――シーカー・レイナードだと彼は思い、恐怖と怒りの入り交じった感情で彼の身体が強ばるのを感じた。荷台の上に上がった誰かが彼の箱を持ち上げ、箱がゆらゆらと持ち上がって、荷馬車からどこかへ移されて地面へ降ろされる感覚に眩暈と震えがした。

「ここでいいっすかね。そっちの重い方です」と聞き慣れない声が、どこか彼の頭の上近くで言った。
「これで全部すか。はあ、お疲れさんです。良い旅を」

彼は再び箱がどこかへ移される揺らぎを感じ、その不定期な振動からくる吐き気を無理矢理呑み込んだ。猿ぐつわを噛まされている間に嘔吐すれば酷いことになるだろう。彼は馬の蹄の音と、きしむ車輪の音を再び聞いた。彼が降ろされた場所がどこであれ、荷車はそこから出て行く模様だった。彼は誰かが、口調からして罵りを発したような呟きを聞いた。オーレイ語だった。

箱を担いでいるのが恐らくオーレイのテンプラーだと気付いた彼は半ば恐慌に陥り、力任せに彼を縛る拘束と格闘したが、彼の手首と足首をざらざらした板に縛り付けている革紐で更に擦り傷を増やし酸欠から頭をクラクラさせただけで、何も得るところはなかった。不満げな呟きと、箱の足元をバンと大きく叩く音が聞こえた。彼は無理矢理身体を静止させた。

数分経った後で箱の動きが変化し、床にドスンと降ろされた。アンダースは眼を固く閉じ、彼をまさに圧倒しようとする純然たる恐怖に掠われないよう、とにかく落ち着いて息をして、外界の音を聞き取り判別することだけに集中した。

複数の人間が歩き回る重い足音、不規則な呻き声と、何かを落とす音か引きずる音――何か他にも運び込まれてきているのだろう、それかあたりを引きずられているか。それから、急に何もかも静まりかえった。

一人の足音が近づいてきた。微かな金属音とカチャリと錠前が開けられる音、それから箱の蓋が開けられた。箱中の暗黒から急に天井の明かりが眼に入った眩しさに眼には涙が貯まり、アンダースは瞬きを繰り返した。レイナードが箱を覗きこんでいた。彼はもう徹底的に気に入らない嫌らしい笑みを浮かべると、手を伸ばしてアンダースの顎を握りしめた。アンダースが箱の中に居る間に回復していた魔法の力が、再び一瞬のうちに奪い去られた。

レイナードは立ち上がってあたりを見渡した。
「お前――手を貸せ」と彼は命じて、それから再び身を屈めてアンダースの拘束を解き始めた。足首から解き始めた二人目の姿が、アンダースの限られた視界の中に映った。

額の紐を解いた後でレイナードはアンダースの髪を掴むと頭を引っ張り上げ、後頭部の猿ぐつわの結び目を解き始めた。アンダースは痛みに呻き、それから二人目の男をまじまじと見た。

この男はテンプラーではあり得なかった。あまりに若い、痩せ細った、痛めつけられた男だった。彼の衣服は裂けて土ぼこりと黒い血で汚れ、裂け目からは新しい物から消えかけている物まで様々な段階の打撲の跡が覗いていた。赤く生々しい切り傷が彼の額から左頬を覆い、男の動きは明らかに、他にもどこか怪我をして痛みをこらえる様子だった。
レイナードは猿ぐつわをしていた板か何かを取り外して、掴んでいたアンダースの頭を箱に叩き付けた。二人目の男が怯む様子で後ろに下がり、レイナードは男をじろりと睨め付けた。アンダースはその若い男が震える手で、手首を拘束する幅広の紐を解き始めるのを感じた。彼は再び眼を閉じ、二人が彼の拘束を解く間の不快な接触は極力無視して、痛みを少しでも和らげようとしばらくの間ゆっくりと顎を動かした。

「起きろ」とレイナードが唸り声を上げて、箱の横を蹴り飛ばした。

アンダースは眼を開けて一瞬彼を睨み付けた後、箱の側面をもって痛みをこらえながらどうにか起き上がった。何時間もの間同じ姿勢できつく拘束されていたことによる筋肉の強ばりも、きついコルセットも、幾重にも重なったチャントリーのローブも、何の助けにもならなかった。彼は箱の中で身を起こして座り部屋を見回した。

一つの大部屋で、一方の端に積み重ねられた家具の山以外は空だった――どうやら小さな家一軒分の家具のようだと、アンダースは思った――それと部屋の端には大きな暖炉が有り、薪が積み上げられていた。頭上はほとんどが剥き出しの梁と、長年煤に燻された藁葺きの屋根に覆われ、暖炉の上におんぼろの梯子で上り下り出来る、小さな屋根裏部屋があるだけだった。その部屋の壁沿いにはいくつかの寝袋が広げられ、彼が座っている箱と同じような別の箱がその隣に置かれていて――ブライディが入っているのは間違いなかった――その向こうで大きな男達が6人、彼をじろじろと眺めながら待機していた。レイナードが彼の箱の側で腕を組んで起ち、若い男がアンダースの箱の側にうずくまって視線を下に向け、如何なる注目も引くまいとしているように見えた。

アンダースがよろよろと立ち上がると、大きな男達の一人がニヤリと笑って無遠慮に眺め回した。
「最後に女とやってからもう随分経つからな、こいつでも良さそうに見えるぜ。味見しても良いですかね?」  1と男は大声で尋ねた。アンダースには彼の言葉は判らなかったが、その男のにやにや笑う顔つきと、それを聞いた周囲の男達が立てる下品な笑い声から、何かしら嫌らしい意味なのは明白だった。

レイナードは鼻を鳴らした。
「今は駄目だ。後にしろ」 と彼は振り払う手真似と共に冷淡な口調で言うと、箱から足を踏み出したメイジに命じた。
「その服を脱げ。もう役目は終わった」

アンダースは彼を眺めている男達の方を不安げに見やった。この連中の前で服を脱ぐという考えはまるきり気に入らなかったが、しかし彼に選択肢が与えられるようには見えなかった。無論、どこにも身を隠すところなど無かった。

「脱げ、さもなければ部下達に剥ぎ取らせるぞ」とレイナードは脅しと言うよりはむしろ退屈そうな声音で言ったが、どういう訳かそれが余計に恐ろしく感じられた。にやにや笑う男達の目付きも一切助けにはならなかった。アンダースは急いで嵩高いチャントリーのローブを、見物する男達が時折発する言葉は無視して上から脱ぎ始めた。

彼が服を脱いでいる間に、レイナードはもう一つの箱に向かって屈み込み錠前を開けた。彼は蓋を開けて一歩下がり、痛めつけられた若い男の方を振り向いた。彼は手を伸ばして、屈み込んだ男の首筋を掴むとブライディの箱へ文字通り放り投げた。
「女を起こせ」と彼は厳しい声で言うと、部屋の端に積み上げられた家具の方へ向かい、椅子を一つ取りだし、暖炉の側に運んでゆったりと腰を降ろした。彼は椅子にもたれ掛かり、全く寛いだ様子に見えた。

シーカーは彼の部下達を見やった。
「明日の明け方と共に出発する」と彼は言った。
「完全武装だ。跡を残さず街から出られたからにはもし追跡が掛かったとしても充分に先行しているだろうが、今頃は捜索が始まっているだろうからな。あのロクデナシの大公野郎がやつの愛人を取り返そうと躍起になるのは間違いない」と彼は付け加えると、アンダースを軽蔑する目付きで見やった。

アンダースは奥歯をぎりぎりと噛みしめたが、男の言葉は極力無視して、最後の服を脱いで偽物の乳房を剥ぎ取り、窮屈なコルセットを外そうと後ろに手を回した。結び目を手に掛けるまでに数回失敗し、それから長々しい紐を解いていくのに随分と手間が掛かった。
彼はブライディの箱に目立たぬようにちらりと目線をやり、ちょうどブライディが箱に座って、若い男の肩を強く抱き、頭を彼の肩に当てて、男が彼女の頭と背中を優しく撫でて頭を近くに寄せていた。若い男が彼女を如何にも優しく扱う様子がセバスチャンのことを思い出させ、胸が鋭く痛んで彼は思わず眼を逸らした。

とはいえ、これでシーカー・レイナードがどうやってブラッド・メイジを操っていたかは明らかになった。彼女が心を寄せる誰かを操り、彼の意に沿う振る舞いをさせるための人質にしていたのだった。アポステイト・メイジを匿うものは、例え一般人であってもテンプラーに殺されても文句は言えなかった。この若い男を生かして置くのは、彼女を操るための手段に過ぎないのは明白だった。
そして男の痛めつけられた様子と、街に居たときのレイナードの台詞――『もし俺の命に背いたら何が起きるか、言っておいたはずだな?』――そしてブライディの恐怖に戦く様子と、彼女の男を傷つけないよう嘆願する言葉からすると、この若い男はレイナードが少女を協力させようとするときはいつも暴行を受けていたのだろう。

アンダースはその考えに胸がむかつくのを覚え、同時にかつてジャスティスと一体だった頃に感じたものに似た激怒が沸き上がるのを感じた。テンプラーのお馴染みのやり口、メイジが愚かにも誰かに感情的に執着した時に、やつらが使ういつもの手口。メイジの愛する者を脅すか、あるいは罰することで、メイジを支配し罰を与えるのだった。
カークウォールに居た当時に、彼がこのことについて、一度ホークに語った言葉を思い出した。いつの日か彼のようなメイジが、ホークのような誰かと恋に落ち、そして彼らを引き裂こうとするテンプラーの居ない世界が訪れると。明らかにその日はまだ遠いようだった。ブライディと彼女の愛する男には、そして彼とセバスチャンには。

彼を誘拐するために彼女がブラッド・マジックに手を染めたと言うことも、彼の心を更に暗くした。誘拐その物はさておくとしても、ブラッド・マジックに陥るのは、いかにそのメイジが極限状態に置かれようと決して許されざる行為だった。ブラッド・マジックは悪魔との直取引を意味し、まさにそれこそテンプラーに全てのメイジを抑え付け支配することを正当化させる最大の理由だった。彼らはマレフィカラムとなり、いずれは悪魔の力に圧倒された結果、自らアボミネーションと化した。
仮に彼らがそのおぞましい運命を一時は避けられたとしても、彼らを誘惑し続ける強烈な力がそこにはあった。彼らの力はもはや自らの能力に依存することなく、ブライディが不幸な農夫の血を利用して――幸いなことに、アンダースが見た限りは、あの農夫が実際に危険に晒される程の量では無かったが――ごく限られた魔法の力しか持たぬ少女に、五人の人間を操り彼を捕らえ誘拐するだけの力を与えたように、他人の血を利用することで大幅に拡大されうるのだった。

彼自身も正義の精霊と一体化していたことを考えれば、あるいは彼がブラッド・メイジを非難するのは不公平かも知れなかった――しかし彼がこれまで対峙せざるを得なかったブラッド・メイジのことを考えれば、ブライディを許す訳にはいかなかった。ジャスティスと彼が行ってきた事柄の全てが善いことでは無かったにせよ、彼は決してブラッド・マジックに自らの手を染める程身を落とした事は無かった。一度たりとも、決して、彼自身が以下に酷い扱いを受けようとも。

いや。彼がこの場で気の毒に思う人物はただ一人、ブライディの若き恋人だった。彼が犯した悪事は、ただメイジと恋に落ち、テンプラーに発見されたときに彼女を護ろうとした、それだけだろうから。

コルセットもずり落ち下着と靴下だけの姿となって、ようやく彼は半日ぶりに深々と息を吸うことが出来た。彼はレイナードの方に振り向き、背中の傷跡を見たシーカーの眼に浮かぶぎらぎらとした輝きに、大きく身を震わせた。

「椅子を取ってきて座れ」とレイナードは家具の山を指し示して命じると、彼の正面数フィート先の床を指さした。
「そこだ」

アンダースはわざと従順なフリをして言われたとおりに従った。椅子を家具の山から引きずり出した時には、ブライディも箱から出て、彼女の若い恋人と身を寄せ合って部屋の隅の床に座り込み、出来る限りいかなる注意も引くまいとするかのようだった。暖炉の火が大きく熾され、二人のテンプラーが簡素な食事の用意を始めていた――紅茶と、バターを塗ったパンと、チーズの切れ端と乾燥肉と、乾燥させた果物が幾らか。一人の男が湯気の立つマグカップと、錫製の大皿に一人分の食事を載せてシーカー・レイナードのところへ運んで来た。シーカーは紅茶をすすりながら、一言も口を聞かずアンダースを見つめて考え込む様子だった。

アンダースはその食事の皿を見つめずにはいられなかった。彼は朝食の後何も口にしておらず、そしてもう夜遅い時間となって酷く空腹だった。カークウォールの当時、ジャスティスと一体だった頃は辛うじて生命を保つに必要な食べ物があれば充分だったのと違って、今の彼は通常の、つまり大量の食事に慣れていた。紅茶の微かな香り、乾燥肉の匂いでさえ口に唾が沸き、どれほど胃袋が空っぽか痛いほど感じることになった。彼の腹が持ち主を裏切って大きく不平を鳴らし、彼は顔を赤くした。

シーカー・レイナードの口の片隅が微かな笑みに曲がった。彼はゆっくり着実な速度で食事を食べ、パンの皮と切れ端だけを残して全て平らげた。それから彼はマグを床に置いて立ち上がると、アンダースに近づいた。シーカーは手を伸ばして指先をアンダースの髪に差し入れ、まだ彼の髪を団子に結わえている紐を引っ張った。

「こいつ、可愛らしい髪をしてるじゃないか?」 と彼はアンダースの髪を指で梳きながら彼の部下の方を見やって言った。アンダースは男達が笑ったりキスの真似事の音をする間、指の感触に身震いを抑えようと歯を食いしばった。誰かがオーレイ語で何か言って更に男達は笑い、アンダースはその言葉が理解出来ないことに感謝した。
唐突にレイナードは身を翻して、紐を床に落とすと手を振った。
「誰かこいつに食わせろ」と彼は言って、屋根裏部屋に上がる階段を昇る途中で動きを止めた。
「何か服も見つけてやれ。ブライディ― 来い」と彼は付け加えると、階段を昇って姿を消した。

ブライディは怯えた様子で立ち上がった。部下の一人が不気味な声で笑い、彼女は頭を低く垂れると梯子を這い上って、レイナードの後を追って暗がりに姿を消した。彼女の恋人は部屋の隅で膝を上げて座ったままその上に頭を付けて、両腕を膝の周りに回し、固く身を丸めていた。
一人の男が皿に食事を盛ってアンダースに持ってきた。彼は食事を皿ごと飲み込めそうだったが、強いてゆっくりと食べるように心がけた。男達のうち四人は寝る支度を始め、二人が部屋の中で見張りに付くようだった――一人が入り口近くの床に座り込み、もう一人はレイナードが座って居た椅子を火の側に近づけてから腰を降ろした。彼はテーブルの上に脚を投げ出して椅子を後ろに傾け、ゆっくりと食事を取るアンダースを腕を組んで眺めていた。

「服は?」とアンダースは数分後に尋ねた。男は唸り声を上げたが、頭を巡らせて横たわっている四人のうちの一人に、静かに声を掛けた――どうやら一行の中でも一番若手の様だった。彼は顔をしかめたが座り直して、彼の荷物をほじくり返し、小さく畳んだ服をアンダースに投げて寄こした。アンダースの足元の床にぽそりと落ちた服は、染みだらけの古着だったが、ともかく清潔なシャツの様に見えた。テンプラー達の肩幅を考えれば、まるでテントを被っているように見えるに違いないとアンダースは思ったが、ともかく皿の上のひとかけらまで片付けるとすぐに彼は身を屈めて服を拾い上げた。

椅子の脚がドスンと落ちる音を聞いてそちらを向くと、監視役の男が眼に奇妙な光を称えて彼を見つめていることに気がついた。
「傷がある」と男はゆっくりと、まるで一言ずつ言葉を拾い上げているように、ほとんど理解出来ない位の強いオーレイ訛りで話した。
「鞭打たれた、ウイ?」

アンダースは服を広げる手を一瞬止めて彼の方を見た。
「ああ」と彼は用心しながら答えた。

男は少しばかり驚いた様子で頷いた。
「その沢山の鞭、死んでないのは運が良かった、な?」

アンダースは鼻を鳴らした。
「最初から鞭打たれなかったらもっと運が良かっただろうよ」と彼は苦々しげに言った。

その男はニヤリと笑ったが、それから別の見張りが何か低い声で言うと、頭上の屋根裏部屋を指し示し、最初の男は笑顔を消した。
彼は隅でうずくまる男の方を振り返った。
「お前、フィリップ――片付け」と彼は言って、再び椅子を傾け黙ってアンダースを眺めやった。

フィリップは立ち上がって、出来る限り静かに部屋の中を歩き回り、皿とマグカップを集め、残った食べ物を貪るように食べた。屋根裏部屋から一度、くぐもった泣き声が聞こえ、彼は立ち止まって凍り付くと天井を見上げた。彼の顔に浮かんだ剥き出しの悲痛と怒りの表情にアンダースは思わず眼を背けた。彼は皿とカップを全て集めて部屋の隅の洗い桶に入れ、拭き取って全てを片付けた後、また隅に戻ると部屋に背を向けて床の上で身体を丸めた。その衣服の背に滲む血の跡は、この部屋で鞭打たれた傷跡を持つのはアンダース一人ではないことを示していた。

アンダースはしばらくしてから最初の男に振り向いた。
「僕は一晩中ここに座っているのか?」と彼は静かに尋ねた。

「ああ?ノン。横になれ、もしそうしたければ」とその見張りは静かに言って、床の上を指さすと、その指を彼に向けた。
「魔法無し。魔法使う、俺達はお前を殴る、ウイ?」

アンダースは疲れたように頷きゆっくりと立ち上がった。彼が脱ぎ捨てたローブはまだそこに置き去りになっていた。他に寝床として使えるものも無かったので、彼はアンダーローブを冷たい床の上に敷き、より厚い生地のローブを彼の上に重ねて横になった。恐怖に滲む彼自身の汗の他に、微かに薬剤室の匂いがした。その薬の匂いに、不思議と彼は心慰められる思いがした。

彼は長い間眼を閉じたまま、最初の二人の見張りが次の二人を起こして交代するまでただ横になっていたが、それからようやく落ち着かない眠りに滑り落ちていくのを感じた。

彼が置かれている状況は、良好とは思えなかった。


Notes:

  1. 本文ではここはオーレイ語で脚注に翻訳文が付いているが、いちいち下を見るのは面倒なので全部日本語で統一する。斜体の部分は外国語だと思って下さい。
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第122章 小休止 への2件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    ゲスい。あまりにもゲスいw

    ゼブラン先生、とっととこいつら足の先っちょから
    おろし金でおろしちゃってください。
    フェンリスにノシイカにされる方が先かナーw

    大公様はお祈りしててくださいねーwww

  2. Laffy のコメント:

    原文も一応そんな感じなので、出来る限り日本語でも言葉の端々にゲスさを滲ませておりますw
    さあ次は124章だ、ゲスさ倍率ドン! さらに倍!!
    ……嬉しくねえww

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