第123章 執念の追跡

アンダースの犬達は容易く上町を通り抜けて行ったが、しかしずっと通行の激しくなる中町では彼らも戸惑い勝ちになり、時折臭いを見失っては側道のあちこちを嗅ぎ回り、それからまた跡を付けるのを繰り返した。夕暮れも近くなった頃ようやく、彼らは下町に程近い路地を入った所の小さな家に辿り着いた。扉は施錠されておらず、家は空っぽだった。犬達はその家から先を痕跡を辿ることは無理なようだった。

セバスチャンの衛兵達はその通りに散らばり、家々の扉をノックしては質問を繰り返した。数分後、二人の衛兵が、セバスチャンとエルフ二人に話をさせるために不安げな表情の女性を連れて戻ってきた。

「衛兵に、あなたが何かを見たと言ったそうだが?」とセバスチャンは彼女に尋ねた。

「は、はい、閣下……ここに住んどった男が、今日の昼過ぎに引っ越してって。何人かの男と一緒に荷車が来て、彼の家具を全部積んで、ぜーんぶ一緒に出てきました」

セバスチャンは眉をひそめた。ゼブランが前に進み出た。
「家具?どんな類の家具があったか、覚えてるかな?」と彼は穏やかに尋ねた。

その女性は肩を竦めた。
「全部見た訳や無いけど。私が買い物から帰ってきた時に、ちょうど荷物を積んどったんです。おーきな箱を幾つか荷車に積んで、ちょうど私がすれ違う時に上にキルトを掛けてました。その上にテーブルを逆さまに載せるために、男が二人持ち上げてて」と彼女は言った。 1

セバスチャンとゼブランは顔を見合わせた。
「その箱はどのくらいの大きさだった?」とセバスチャンが尋ねた。

女はまた肩を竦めた。
「おっきかったよ」と彼女は言って、両手を数フィート広げて見せた。
「このくらいの四角い箱で、私の背丈より長かったね、両端にはロープが付いていて、持ち運びしやすくするためじゃないかなあ、多分」

ゼブランは頷き、さらに女性に幾つかの質問を投げかけて、その男達と、荷車と、それを引いていた一組の馬について驚くほど詳しい描写を聞き出した。セバスチャンは彼女が話し終えた時に心付けとして一ゴールドを渡し、女性は明らかに驚いてとても嬉しそうだった。彼女は幾度も頭を下げてから身を翻し、急ぎ足で彼女の家へと戻っていった。

「その荷車が、今どこにあってもおかしくない――積まれた箱もまだ一緒にあるのか、それともどこか全く別の場所にあるのか」
セバスチャンは暗い声で言った。
「次はどうする?」

ゼブランは静かに言った。
「ここに居る君の上等な衛兵を僕に貸してくれ。そして君は、城に戻って待つんだ。この荷馬車がどこへ向かったか突き止めるにはしばらく掛かるだろうが、約束しよう、見つけられる物なら必ず僕は見つける」

セバスチャンは顔を歪めた。
「私も捜索に参加する、今ここで諦めたくはない」と彼は言った。

ゼブランは首を振った。
「君は捜索を、アンダースを諦める訳じゃない。君がしなくてはならない仕事をする間、ふさわしい人物の手にこの仕事を任せようとしているんだ。この誘拐の首謀者が誰であれ、何か大きな計画の一部だとしたら、このタイミングで他にも動きが有るかも知れない。だから警戒して、出来る限りの準備をしていて欲しい。それに、もし君がアンダースを心配するあまり君の義務を果たさなかったとしたら、それこそ君自身が前に言っていたような、私生活に関する余計な関心を招いてしまうだろう。
僕を信じろ、セバスチャン――フェンリスと僕がアンダースを見つける、少しでも可能性が残っているのなら、必ず」

セバスチャンは大きく息を飲み、少しの間、今は空となった家を見つめていた。更に数回、彼の荒れ狂う感情を沈めるため大きく息を吸った後で彼は振り返った。
「君の言うとおりだ」と彼は沈鬱な声で言った。
「私には義務がある、アンダースのこと以外にも。だが私は…」彼は言葉に詰まり頭を振ると、苦悩に満ちた表情で二人のエルフに向き直った。
彼を見つけてくれ」と彼は二人に頼んだ。「もし、もう二度と……」

ゼブランは頷いた。
「例え僅かでも可能性があれば、僕達が彼を見つける。行ってくれ、セバスチャン。何か判り次第連絡をするから」
彼の言葉は、思いやりに満ちた温かな声だった。

セバスチャンは頷き、二人だけを残して彼らに同行した衛兵全てをエルフに付けると、夕暮れの街を二人の衛兵と犬達に護られて城へ戻っていった。彼は自分の居室にそのまま犬達を連れて戻ったが、動揺するあまりに彼が昼過ぎに知らせを受けてから、そのまま放置していった机の仕事を見る気にもなれなかった。彼は犬達と一緒に居間に座り、膝に顎を乗せて心配そうな表情で彼を見つめるガンウィンの頭を、ただ幾度も幾度も撫でていた。
夕暮れから夜になり、部屋の中は次第に暗くなった。ようやく彼は立ち上がり、ぼんやりとろうそくを付けて廻ると厨房に遅ればせながら夕食を運ぶよう伝えた。夕食の準備が整えられる間に彼は鎧を脱いで着替え、隠し階段を下りて暗くなったコテージからアッシュを連れて上がった。

一人だけの夕食を食べている途中で、ゼブランからの伝言を持って衛兵が一人戻ってきた。彼らはその荷車が街を出た門を見つけ、どの方向へ向かったかも突き止めたということだった。彼らは少なくとも、馬で街から二時間の行程にある街道沿いの十字路にある宿屋まで進んで、そこで荷車を見た者が居ないか調べるつもりだという。恐らく今夜はそこで泊まり、翌朝からまた捜索を再開することになるだろう。

彼らがまだ荷車の跡を見失っていないと判っただけでも安心しても良さそうだったが、しかしそうはならなかった。数時間前に、荷車はすでに街を出ていた。何時間も前に。アンダースを捕まえた者が誰であれ、彼らは既に相当先行している、そしてもしエルフ達が跡を付けるよりも速く旅が出来るとすれば、さらに距離は広がるだろう。一体どこにその無名の荷車があるのか、そしてもちろん広大な田園地帯には、無数の荷車があって……

それでも彼は希望を捨てる訳には行かなかった。アンダースは以前にも姿を消し、そして戻ってきた。彼自身も誘拐され、エルフとメイジによって無事救出された。今度が三度目として無事終わると、彼は信じずには居られなかった、アンダースが救出され、彼らは再会出来ると。
それ以外の結末は、彼の愛する者を二度と見ることが無いかも知れないとは……考えることすら耐えられなかった。

恐らく今夜それ以上の知らせはありそうに無く、彼はようやくベッドへ入った。犬達も寝室に付いて来て、彼らの主人の不在に不安がっているようだった。セバスチャンは眠ろうとしたが、恐怖と心配が彼を揺り起こす合間にうとうとと眠る以上のことは出来なかった。夜明けのずっと前に彼はとうとうベッドから起きだし、再び服を着替えて城の中の礼拝堂に降りていくと、ひざまずいて長い間祈った後、渋々彼の部屋に戻った。
彼は風呂に入り朝食を取り、書斎に行き、彼が読んで、検討して、処置する必要のある書類を片付ける仕事を始めなくてはいけなかったが、そうしようという意欲は少しも沸いてこなかった。


二人の武装したエルフと衛兵の一個分隊に、真夜中に戸口を叩かれた農夫の恐怖は充分に理解出来るものだった。彼らを連れて来たのは、農夫と同じくらい不安げな顔をした近所の男だった。この男は、この年の始めに繁殖用の雄豚を貸してくれた男に礼として子豚を二匹連れて行った帰り、十字路の宿屋で一杯やろうと立ち寄ったのだった。

エルフ達の一行が街から宿屋に到着して、その日の早い時間にそこを通り過ぎたかも知れないという荷車と馬について尋ねて廻った時、彼は既に良い気分で酔っ払っていたので、そのエルフ達の描写とぴったり一致する馬を彼の友人が持っていて、その日は朝早くから街に出かけたと、ペラペラと喋ってしまったのだった。

近所の男も農夫も、エルフと衛兵が彼らには興味が無く、ただ彼らを雇った男達のことと、その荷物をどこに運んでいったかを知りたいだけだと判って大いに安堵した。その農夫は、数日前に十字路の宿屋で若い兄ちゃんと出会った。その若者は大きな荷車を持ち手が空いている男を捜していて、若者の父親が街から田舎の息子のところに引っ越すので、前日に息子とその友人達と一緒に彼の家の古い家具をまとめ、次の日に息子と一緒に街の父親の家に行って、家具を運び出して息子の家まで運ぶ手伝いをして欲しいということだった。
もちろん農夫はその息子の家の場所を覚えていたが、しかし夜では無理だった。夜の暗闇の中では、その人里離れた一軒家を再び訪れるための目印を見つけることは出来ないだろう。

エルフと衛兵達は農夫の家で泊まることになった。エルフ二人は家の床にゴロ寝し、衛兵達は厩の屋根裏で藁にくるまって眠った。夜明け前の灰色の光の中、道が見えるようになるやいなや彼らは皆起きだし、怯えていた農夫も彼の荷馬に乗って、西へ向かう主街道から数マイル離れた、曲がりくねった田舎道の先にある林に囲まれた小さな一軒家へ、間違い無く彼らを案内した。その場所に到着した頃には、既に日は高く昇っていた。

エルフ達の一行がその後で彼を解放してくれて何よりもホッとしたし、大きい方のエルフが彼の助力に丁寧に感謝し、金貨を一枚手渡した時はなおさらだった――先の父親の引っ越しを手伝うために街へ往復した手間賃の四倍だった。
しかしエルフ達と衛兵が彼の居るところで漏らした言葉の端々からして、あのごま塩頭の年寄りはそもそも若者の父親などではなく、おまけに彼らは何かを盗み出したようだった。そしてその男達がさらに痕跡を隠すためであれ、彼の喉を掻き切る程のことは無いと思ったお陰で、幸運にも生きていられたのだと。

友達か村の知り合いでなければ二度と仕事は受けるものかと、固く決意して農夫は家路についた。一度火傷をすれば二度目は慎重になるというが、例えそれが金ぴかのコインのためであっても、彼の喉を切り裂かれるだけの価値は無かった。

ゼブランが家の中を探索し、ここで何があったか見つけ出そうとする間、邪魔をしないようフェンリスと衛兵達は戸口の外に残り、不安げに部屋の中を見渡していた。フェンリスにも幾つかの痕跡が見て取れた。部屋の隅に無闇に積み重ねられた家具と、暖炉でまだ燃え残っている薪、そこここに散らばるパン屑とチーズの外皮の欠片、暖炉の側で互いに向き合った二つの椅子。

フェンリス自身にも幾つか簡単な推測は出来たが、無論ゼブランの方が鋭い観察力と豊富な経験を元に、ずっと多くの情報を引き出すことが出来るに違いなかった。彼は小柄なエルフが小さな屋根裏部屋へ続く階段を登り、数分の間姿が見えなくなった後、顔をしかめて戻ってくるのを見つめた。

「ここに居た連中は、僕達より数時間以上先行しているとは思えないな」とゼブランは言った。
「あの農夫は、家具を運び降ろす時に全部で四人の男を見たと言っていた――年寄りと、彼の『息子』と、二人の友人。恐らくここにはその倍の人数が居たと思う」

フェンリスは不思議そうな顔をし、ゼブランは部屋の中でぐるりと手を振って説明した。
「天井裏にはベッドが一つあった。使用された形跡がある、それもごく最近、二人の人物によって――シーツに残された形跡からして、男性と女性だ」
彼は振り向くと、戸口の反対側の長い壁沿いを示した。
「そしてそこの床の埃に付いた跡からは、寝袋が六つ置かれていたことが判る。すると少なくとも八人がこの家に居たことになる」

フェンリスは頷いた。
「何か、アンダースがここに居たという証拠は有ったか?」

ゼブランは頭を振ると、顔をしかめた。
「いいや。犬達が僕らを連れて行った家から運び出された二つの箱の、どちらかに彼が入っていただろうという推測以外は、何も。犬達を連れてくれば良かったと今になって後悔しているよ、そうすれば何かここで、もっとはっきりした証拠が見つかったかも知れないからね。だけどもう後悔しても遅い、連中にこれ以上差を付けられないためにも、出来る限り急いでこの跡を追わなくては」

彼らは中庭に戻り、家の裏側に回って、数日間何頭かの馬が留められていた痕跡を容易に発見した――草は噛みちぎられ、馬糞の山と数多くの蹄の跡が、柔らかな土の上に残っていた。彼らが馬に乗って出発した跡を辿っていくのもやはり容易かった――馬達があたりに広がる野原を踏みつけて行った幅広い踏み跡が残っていた。

フェンリスは、昨晩街を出発してからのことをセバスチャンに伝えるよう衛兵を一人走らせて、それから彼らは再び追跡を開始し、馬達の体力が持つ出来る限りの速度で走らせた。少なくとも彼らは皆替え馬を伴っていて、定期的に馬を乗り換えては休息させることが出来た。運が良ければ、彼らが追跡している連中はそこまで準備はしていないかも知れなかった。


アンダースは彼の力が再び奪い去られる感覚に眼を覚ました。部屋の中は暖炉の石炭と、扉の周囲から漏れ込む夜明け前の灰色の光と、その側に一つだけある、小さな窓からの光にうっすらと照らされていた。ブライディがフィリップと一緒に部屋の隅に戻っていて、二人が一緒に丸まって眠っていることに彼は気付いた。それも長い間では無かったが――彼を目覚めさせたテンプラーは、既に彼らの方へ向かっていた。

部屋の全員が起き出し、食事を摂ってから――フィリップとメイジ二人は、テンプラー達が大急ぎで摂った食べ残しの、固いパンの欠片とチーズの皮を投げ与えられた――あっという間に再び彼らは出発の準備を整えた。昨晩アンダースにシャツを渡したのと同じ若いテンプラーが、レギンスを彼に手渡した。
アンダースはマウラのローブから紐を取ってぶかぶかのレギンスのベルト代わりとし、ローブも同じ紐でくくって持っていくことにした。一番上に着るローブはきついコルセット無しでもどうにか着られたから、少なくとも必要な時の着替え代わりにはなると思われたし、昨晩同様に寝床代わりに敷くことも出来るだろう。彼はコルセットを置きっぱなしにして、もし誰か彼らの跡を付けてくる物が居れば手がかりになるかもと期待したが、あいにくシーカーとテンプラー達は立ち去る前に効率良く家の中を片付けた。彼らが家を出たときには、古ぼけた家具の山と、朝食の食べかすだけが家の中に残された。

少なくとも彼もブライディも、今日の旅は箱に詰められることはないようだった。とにかく、今のところは。しかし箱自体は、大型の荷馬の背に他の荷物と一緒に括りつけられていた。アンダースとブライディ、それにフィリップは皆馬に乗ったが、メイジ達は逃亡を防止するため鞍に縛り付けられ、三人の馬は前を行く馬と紐で結ばれていた。まだ暁の光が東の空に輝くうちに、彼らは出発した。

テンプラーとシーカーは皆、それなりの鎧に身を包んでいた。もちろんテンプラー正式の鎧のような目立つ装いではなく、どこにでもいる傭兵や歩兵が着るような材質も型式もバラバラの鎧だった。彼らは田園地帯を横切り、大まかに南西の方向へと進んだ。時折小道に沿って進むこともあったが、大体はシーカーは休耕地であろうと作物の生えた畑であろうと、気にも掛けずに馬を進めていた。もし誰かが彼らに気付いたとしても、不平を言うなどしないだろうとアンダースは考えた。重装備の武装集団は、およそ農夫が関わり合いを持ちたいなどと思うものでは無かった。

その日は空に太陽が高く昇るに従ってどんどん気温が上昇した。もし彼がシャツとレギンスだけでも暑く思うのなら、重装備のテンプラー達は炙られているようなものだろうと、アンダースは心の中で快哉を叫んだ。それにセバスチャンが彼に乗馬を習わせたのは本当に良かった。彼が折に触れて練習を続けていたことも――彼はフェンリスほど心底馬好きでは無かったので、主に厩の練習場でぐるぐる廻るだけであっても――お陰で鞍擦れによる痛みは無かった。ブライディとフィリップの表情に浮かぶ苦痛の影から見て、彼らはそれほど幸運ではないようだった。

彼らがようやく小休止を取る頃には日は既に空高く昇り、レイナードは部下達を、草に覆われた野原の間を縫うように曲がりくねる、小川に沿って立ち並ぶ一連の木立へと導いた。彼は馬から下りるや否や、まだ鞍に縛られたままのメイジ達の方を指さした。
「弱らせておけ」と彼は単調な声で命じると、実行されたかどうかを見もせず身を翻した。

「待った!」テンプラーがそうする前にと、アンダースは声を張り上げた。

レイナードは凶悪な表情を浮かべて振り向いた。

「彼らは鞍擦れを起こしている」とアンダースは二人の方に頷いて見せながら急いで説明した。
「先に彼らを治療させてくれ。頼む」

レイナードは考える様子すら見せず、頭を振った。
「駄目だ。尻の皮を撫でておけばいい、連中の健康状態など俺の知ったことか」と彼は言って、アンダースを指さした。
「それとお前、俺に尋ねられたこと以外でその口を開くな。さもなくば猿ぐつわを噛ませるぞ。判ったか?」

アンダースは顔を真っ赤にした。
「判った」と彼は声を軋らせていった。

「弱らせろ」とレイナードは厳しい声で繰り返してまた身を翻した。

魔法の力を消し去られ馬から降りた後で、メイジ達とフィリップは剥き出しの土の上に転がされ、他の二人のテンプラーが見張りに起つ間に、他の連中が食事の用意をして食べ始めた。またもや三人の囚人達には、テンプラー達の食べ残しのパンくずとチーズ少々が与えられただけだった。フィリップが、自分の食べ物のうち幾らかをブライディの方へそっと押しやるのにアンダースは気付いたが、その痩せ細った様子から、彼が随分長い間ろくに食べていないのはあきらかだった。恐らく、ブライディがまだ診療所の中に住んでいた間ずっと、あるいはそれ以前からも彼はテンプラーの手中にあったのだろう。

これ程少ない食事では、彼自身も痩せ細って見えるまでそれほど時間が掛からないことをアンダースは承知していた。僅か一日食べ物が不足しただけでも、彼の体内の余分なエネルギーはあっと言う間に消えうせていた。このままでは彼の猛烈な新陳代謝が、僅かばかりの体脂肪をまるで温泉に降る雪のように溶かし去り、そして翌日の同じ頃には既に体調を崩し始めるだろう。

それでも彼はその件でシーカーに話を持ちかける気にはなれなかった。例えどんな小さな事であれ彼自身の身体に関する情報を、よほどの緊急事態でない限り自らシーカーに提供するつもりは無かった。そう、黙って飢えに耐え、彼の身体が衰弱する前に救助の手が来るのを望む方がまだマシだ。彼は大木を背に座り込み出来る限り身体を休めながら、ぼんやりと指で土の上に悪戯書きをして時が過ぎるのを待った。

食事と小休止の後で彼らは再び馬に乗り旅を再開した。やはり南西方向ではあったが、どちらかというと太陽を背に南へと、遠くのヴィンマーク山脈を目指して進んでいた。シーカーが山脈を越えようとしているのか、あるいはその近くまで行ったところでまた西へ進み、山の麓を抜けて廻り道をするつもりなのだろうか、とアンダースは思った。


ゼブランは立ち上がった。
「全部で十人。足跡から見て七人は鎧を着た男、三人は普通の服で、スカートか、あるいはローブを着ているのが一人だけ。そして間違い無く、アンダースがその中に居たと思う」と彼は言うと、一本の大木の根元の、土が剥き出しになった地面を指さした。

フェンリスはその近くによって身を屈め、そして笑顔になると大きく頷いた。
「間違いなさそうだ」と彼は同意した。

誰かが土の上に、指で悪戯書きをしていた。足跡がその大部分を掻き消していたが、それでも残る絵はセバスチャンを知るものならすぐに見分けが付いた。彼の頭と顔の左側、それに鎧を着けた左腕を見て取ることが出来た。

ゼブランはゆっくりと傾きつつある太陽を眺めやった。
「彼らはここで昼食を摂ったようだ、すると僕達はほんの2,3時間遅れていることになる。昨日より少しばかり差が縮まったよ。アンドラステ様の御加護があれば、もっと差を詰められるだろう。少なくとも、連中はとてもはっきりした痕跡を残してくれている。農家の畑を横切ってこうもあからさまな踏み跡を付けて行くとは、随分とご親切な話だ」と彼は話すと、彼の『ブサイク』に乗り換えるため鞍を持ち上げた。

フェンリスもアリの背に鞍を置いてひらりと飛び乗りながら考え込む様子だった。
「連中が俺達を惑わせようとしているという可能性は無いだろうか?」

「多分、今のところは無いだろうね、アンダースが彼らと共に居るという明らかな印が見つかったからには……だけどもし僕が追跡者から逃れようとするなら、こんなはっきりした跡を残していくよりもっとマシなやり方が考えられるね……例えばどこかの時点で集団を二つに分けて、一つはこれまでのように明らかな足跡を残し、一方のより小さな集団は出来る限り跡を残さないように別の方向へ向かう、というように。
連中を率いているのが誰であれ、僕がその立場に立った時ほど悪辣なやつで無いことを願おうじゃないか」と彼は厳しい表情で付け加えた。「念のためにね」

フェンリスは頷き、彼らの一行は再び追跡を再開した。

Notes:

  1. この女性の台詞は、一部スコティッシュ風綴り方になっている。
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第123章 執念の追跡 への2件のフィードバック

  1. EMANON のコメント:

    もういっそゼブランが四つん這いになって
    地面に鼻くっつけて臭いをたどるべきv

    まてよ、そしたら綱は誰が持つんだ。フェンリスか。
    そうか。そうなのか。

    ……………………いやゼブランが喜ぶだけじゃんorz

  2. Laffy のコメント:

    一家に一台、いや違う一人欲しいですな>ゼブラン

    ……さーて自己逃避でもすっかあ。
    DA2起動。くそ真面目ホーク&セバ ライヴァルリー猛進中。
    でもジェサンにはちゃんと会いに行くよww

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