Storm over Thedas: ギュロームとアントニー

原作者注:この二人は”Eye of the Storm”に登場するオリジナル・キャラクターです。物語に登場する前の、彼らの姿を少し覗いてみましょう。


ギュロームはひどく不機嫌な気分で、食堂の隅に腰を降ろした。エリスが居てくれたら。彼ら二人は、まだギュロームが図体ばかりでかい青二才だった頃から何年も組んで一緒に戦った友だった。しかしエリスは引退し、田舎の教会で隠居することになってしまった。年老いたテンプラーにありがちな重篤なリリウム中毒のせいでは無く、怪我のせいで。ほんの些細な怪我を軽視したことが仇となってひどい壊疽を起こしてしまった。本当に忌々しい、そんなくだらない理由で彼の様な立派な男が脚を無くし、ほとんど命さえ失い掛けたとは。

今度は彼が、誰か新人と組まされることになっていた。例えレミ 1が信用出来る男を寄こすと約束してくれても、少しもありがたくは無かった。兄には兄の意見があり、レミが信用する誰かは必ずしも彼が信用したいと思う男とは限らなかった。とはいえ、レミの選ぶ男なら少なくとも彼らを裏切ることは無いだろうと信じはしたが。

彼は溜め息を付いて自分の皿の上のジャガイモをつつきまわし、それからもう一口かじった。今日はほとんど食欲が無かった。あまりに心配事が多すぎた。もしレミが判断を誤り、彼の新しい相棒が信用のおけないやつだったとしたら?その時に彼らを待ち受ける運命は――とりわけ彼を――もし、シーカーズが彼らの正体を見破ったなら……

食欲を完全に失った彼は皿を前に押しやって立ち上がった。彼は食堂から立ち去ろうと振り返り、そしてほとんど別のテンプラーと正面衝突しそうになった。ひどく若い男で、ようやく成長期を抜けたばかりのようなひょろ長い体格をしていた。
メイカー、このくちばしの黄色いヒヨコはなんだ。何だか宣誓をさせる年齢が毎年若くなってるんじゃ無いか……?

「おおっと、すみません!」と若い男が叫び、朗らかな笑みを浮かべて彼を見た。
「ギュロームさん?」

「そうだ」と彼は、この若造がさっさと退いてくれれば食堂から出られるのにと思いながら訝しげに答えた。

もう一人の男の笑みが大きくなった。
「良かった!そうだと思ったんだ――僕はアントニーです」と彼は言った。
「あなたの新しい相棒です」

「お前……」彼は叫んで、その若造をもう一度見た。「馬鹿を言うな」と彼は素っ気なく言った。
この……この子犬が相棒としてふさわしい訳が無いだろうが!一体全体レミは何を考えて……

アントニーは彼の不信の目を少しも気に掛けた様子は見せず、ただギュロームが立ったばかりの席に向けて手を振った。
「さあ、一緒に座りませんか?」と彼は行儀良く尋ねた。
「少なくとも少しくらい話をさせて下さい、僕があなたの相棒として相応しく無いと決める前にね」

ギュロームは鼻を鳴らしたが、渋々席に戻った。少なくとも彼はこの男と話をするくらいはしてやらないといけないだろう、彼自身の価値を認めさせる機会を与える位のことは。
そしてそれは、その後何千回となく続いた、アントニーが彼を説き伏せて何かをやらせる繰り返しの最初の一回に過ぎなかった。この青年は実に、説得力があった。


ギュロームは彼の両手剣を井戸の壁に持たせかけ、空の水桶を降ろしてから幾度も縄を手繰り井戸の冷たい水をくみ上げた。彼は頭から水をかぶり、髪の毛から胸へ水が滴り落ちるのを感じて大きく溜め息を付くと、再び桶を井戸に投げ込んだ。彼は桶からじかに水をごくごく飲み、幾らか残った水を頭に掛けて、側にやって来たアントニーに空になった水桶を手渡した。

「良い練習だった」とギュロームは彼は額に貼り付いた髪の毛を払いながら、満足げに言った。
「盾の使い方が実に上手いな、お前は」

アントニーは縄を手繰りながら頷いた。
「いい教師に恵まれたからね」と彼は言って、それから微笑んだ。
「それに盾で上手く庇わないと、僕のこの可愛い顔に傷が付きでもしたら大変だ、だろ?」

ギュロームは鼻をならしたが何も言わなかった。アントニーは実際かなり魅力的な男だった、整った顔立ちに漆黒の髪、濃い青色の眼……しかしそんなことをこいつに言える物では無かった。とりわけ、彼らが知り合ってからまだ本当に短いからには。
「お前はヒゲを生やした方がいい」と彼は言った。

「何だって?それで君みたいに全身毛だらけになれって?」とアントニーはニヤリと笑って尋ねると、頭から桶に一杯の水をかぶった。

「そうすればお前ももっと大人びて見えるだろう」
アントニーの筋肉質な胸板を流れ落ちる水滴を見つめないようにしながら、いかにも分別ありげにギュロームは指摘した。彼は茶色掛かった金髪の胸毛にみっしりと覆われた自分の胸を見おろして、手で胸と腕に付いた水滴を払い落とした。

「まあね、だけど僕がすごく若く見るせいで、皆油断してくれるんだよ」とアントニーは指摘して朗らかな声で笑うと、もう一杯水を汲み上げようと桶を戻しながら小さな声で言った。
「それに、ほら、あの最近入った台所のとっても可愛らしいメイドだけど、ヒゲが無い方がきっと好きじゃないかな。朝飯の時に彼女がじっと僕のことを見つめてただろ?」

ギュロームはニヤリと笑った。
「彼女が見つめていたのはお前じゃ無いだろうな」と彼は穏やかに言った。

「うん?何故判る?」とアントニーは縄をたぐり寄せながら振り向いた。

ギュロームは彼の方を振り返り、重い水桶を軽々とたぐり寄せるアントニーの筋肉をほれぼれと眺めた。
「お前を見ていた訳じゃ無いのは確かだ」と彼は言うと立てかけておいた両手剣を取った。
「昨日彼女と同じベッドで過ごしたのはこの俺だ。お前の言うとおり、とっても可愛い」と彼は付け加えると、口元の笑みを隠してスタスタと歩み去った。


Notes:

  1. ギュロームの双子の兄、テンプラーの偉い人。
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