「私にはもう、初っぱなから判ってたわ、あの女がいずれトラブルを起こすだろうって」とアヴェリンが言った。
「あなた達は本当に運が良かったのよ、話の裏付けになる目撃者が充分居たから。そうでなかったら、この大騒ぎのつじつま合わせに利用されていたかも知れない」
「イザベラは俺達を嵌めるつもりは無かっただろうさ」と俺は指摘した。
「ふんっ!」
俺とフェンリスとアヴェリンは、上町の警察署から道を渡って反対側のカフェに座っていた。彼らはその午後一杯俺達を締め上げたが、イザベラがロッカーをこじ開けるのを黙って見ていたという以外に、俺達は何も悪いことはしていなかった。無論、俺達はロッカーの中身については一切知らぬ存ぜぬで通した。
「全く、なんてこと」とアヴェリンが言った。
「だけどもしこれで、クナリに出て行くように説得出来れば、それが一番良いのかも知れない。その処方箋はもう無くなった、そうでしょう?ならカークウォールに留まる意味は無いはず」
「そこはどうかな。アリショクは進退窮まった状態のはずだ。更に彼の部下が半ダース死んで、気分が良くなるとは思えない」
「彼は処方箋を手に入れるか、あるいは撤退するように本国から命じられるまでは、ここを離れることは出来ない」とフェンリスが指摘した。
「その通り。もはや何も失う物は無いと彼が考えた所で、不思議は無いだろうな」
「たった一回でも良い、あの盗人が、彼女自身よりも他人のことを考えていてくれれば」とアヴェリンが歯ぎしりするように言った。
「もしあの女の顔をまた見ることがあったら、私が首根っこをへし折ってやる」
「彼女にまた会うことがあるとは思えないな」
俺はひどく残念に思えた。イザベラは一時俺の恋人だったこともあるが、それよりもずっと長い間、彼女は良い友達だった。彼女が居なくて寂しくなるのは間違いなく、それがどのくらいかというのがようやく俺の身にしみてきた。
「イザベラは、俺達をいつも助けてくれようとした」
「はっ!それも彼女が面白いと思ったからでしょう」
俺は溜息を付いた。
「まあ、彼女といるのは実に楽しかったさ」
そう言うと、俺はコインを数枚テーブルに放り出した。
「家に帰らなきゃな。今晩は俺が料理当番だ」
「いつでも電話に出られるようにしてて頂戴、トリップ」とアヴェリンが言った。
「アリショクはあなたのことを気に入っているようだし、彼を宥めるのにあなたの助けが要るかも知れない」
「トリップ!この野郎、開けろったら!」とヴァリックが文字通りアパートの扉をぶち破る勢いで叫んだ。
俺は冷たいポリッジとコーヒーだけというみすぼらしい朝食を中断して玄関扉を開けた。途端に新聞の束が俺の顔にぶつかった。
「何が…?」
「読め。一面。まだ誰もお前さんに電話を掛けてきてないのか?」
俺は一歩退いてヴァリックを中に入れてやり、折りたたまれたカークウォール・ポストの早版を開いた。
『市長の息子、クナリに誘拐さる。大使館捜索か』
俺は見出しを読み上げた。
「メイカーズ・ブレス、一体昨晩何があったんだ?」
「細かい字まで読んでも、たいしたことは載ってない」とヴァリックが言い、俺はざっと一面を眺めてみた。
「大仰に書いてある割には、何もはっきりしたことが書いてなくてな」
「うーん。まあ、本当に何があったのか知っていそうなやつと話をするには、どこに電話すればいいかは知ってる」と俺は電話に歩み寄ると、交換手にクナリ大使館の番号に繋いでくれと言った。ヴァリックは感心するようだったが、しかし同時にそう楽観的にはなれないようだった。
電話が繋がった。先方のクナリは俺が新聞社の者かと問い、俺は違うと言った。それから俺は名前を告げて、それからさほど待たない内に、アリショクの声が鼓膜を震わせた。
「ああ、ホークか。お前がいつ来るかと不思議に思っていたところだ」
「シェイマスを知っているか?」
「無論だ」
「彼が今どこにいるか、知っているか?」
「否」
「お前達が、彼を誘拐したのではないのか?」
「否。誰が誘拐したのか知りたいものだ」
「その、あーと」俺はヴァリックに新聞を持ってくるように手招きした。
「新聞が言うには、彼は昨晩大使館に入るところを目撃されたと」
「彼はここに居た。それから、彼は父親と話し合うと言って出て行った。家に戻ったのであろうな」
「何について話し合うと言っていた?もし差し支えなければ教えてくれないか」
「お前の問いかけに何の差し支えがあろうか、ホーク」
アリショクの声はどことなく面白そうな、微かに嬉しげな響きさえあった。
「彼はキュンの教えに従う者となった」
俺はその答えに思わず仰け反り、ヴァリックが不思議そうに片方の眉を上げて俺を見た。
「うう、判った」
「彼を見つけよ、ホーク。彼は今や我らの一員、いかなる形であれ彼が傷つけられたならば、必ず我らは報復する」
彼は電話を切った。
俺は受話器を持ち替えると、まるでそれが生きたクモか何かのように、そーっと受け金に降ろした。ベルがチン、と微かに鳴った。
「これは忙しくなりそうだ」と俺は溜息を付きながら言った。
俺はアリショクとの短い会話を掻い摘んでヴァリックに話し、彼もやはり仰け反った。
「するってーと、クナリの所に息子はいないのか。信用できると思うか?」
「ああ。連中は何だってやるが、少なくとも嘘つきではないな。それに市長の息子が転向者となったからには、彼を傷つける意味はますます彼らにはない」
ちょうどその時、フェンリスがやって来た。
「どこから調査する?」と彼は状況の説明を聞いた後で言った。
「さてね、少なくとも最初に訪れる場所の見当は付いてる。クナリの一人がカークウォールでどっかに隠されたのは、なにも今回が初めてじゃあない」
「サラバス」とフェンリスが言った。
「その通り。証拠は無いが、網を広げる前にチャントリーを調査から外しておく必要はあるだろうな」
それから俺とフェンリス、ヴァリックも付き合って三人で下町の教会へと向かった。さらに大勢の人々が押しかけている以外は、前の時と何も変わって居ないように見えた。冬の寒い気候が、避難所を求める貧しい人々を教会の壁の中に追いやり、俺達は次のスープの配給の順番を並んでぼんやりと待つ人々の間を押しのけるようにして進んだ。
しかし、かつて病室だった場所にはベッドも無く、ただのガランとした空き部屋になっていた。
「本当にここだったのか?」とヴァリックが疑わしげに聞いた。
「間違いないさ、救護病室は片付けられたようだが。息子が隠されているとしたら、前と同じあの小部屋の…」と俺は言いかけた。
「あの少年を捜しているのなら、彼はここには居ませんよ」
背後から良く通る声で呼びかけられて、俺達は思わずびっくりして飛び上がった。赤毛に鮮やかなアイス・ブルーの眼をした、チャントリーの男性用制服――黒いローブに、紋様の入った白の前掛けを銀糸の紐で結んだ――を着た男性が立っていた。
フェンリスでさえ、一体彼がいつの間に後ろに来たのか気が付いていなかったようだった。
「ええっと、どういう…」
「言い訳はお止めになることです。ここのシスターが、先般のクナリの発砲事件の直前に『酔っぱらいの叔父』を探しにこの病室を見て回った男性について語ってくれましたよ。大柄な赤髪の男性で、なかなかのハンサムだったと。それと非常に目立つ特徴のある、ご友人のエルフのことも」と彼は言って、フェンリスに礼儀正しい興味の視線を向けた。
「さあて、俺達はここにちょっと捜し物に来ただけでね」と俺は用心しつつ言った。
「私達も馬鹿ではありません」と彼は返した。
「付いてきなさい。ここでは人目に立ちましょう」彼は教会の中を通り抜け、台所や荷物置きの側の俺達がサラバスを連れ出した裏庭への出口に向かった。
「さりとて、何が起きているのか正確に分かっているわけではありませんが」と彼は紛れもなく上流階級の訛りのある口調で言った。
「私はブラザー・セバスチャン。普段は上町の教会で大司教様にお仕えしていますが、このクナリとの……憂慮すべき関わりについて、調査を任されております。あなたは?」
ここは正直に話して、この男に協力させるしか無いように思えた。
「俺はトリップ、トリップ・ホーク。私立探偵だ。今日は市長の息子が誘拐された件について調べに来た」
「誘拐事件については、我々も深く憂慮しています。クナリの『保護』、そしてこの誘拐。およそメイカーのご意志に従う物ではありません」
「するとチャントリーが背後にいるのか?」
「もちろんチャントリーは、全く何の関係もありません!」彼は鋭く切り返した。
「ですが、あるいはメイカーのご意志を誤って解釈した個人が、何らかの関わりを持ったという可能性は有ります。私は大司教様からの命により、先般の事件について調査を行っていました。各地区の教会が救護のための病室を設けるのはチャントリーも認めていることですが、クナリ一人のために隔離病室を作ったというのは、どうも腑に落ちませんでした」
と彼は静かに言うと、通り抜けてきた病室の方に手を振った。
「この教会で調査を続けていたところで、今日あなたを見かけたと言うわけです。ところで、以前そのクナリを保護していた教母の、ペトリースですが」と彼は俺の顔を見た。
「もうここには居ません。上町の大聖堂でお仕えしています」と彼は淡々と穏やかな声で言った。
「もちろんこの情報が、あなたの役に立つとは思えませんが…?」
「もちろん。ありがとう、ブラザー・セバスチャン。電話をお借りしても?」
「いいえ。別の場所のをお使いになる方が、よろしいでしょう」
と彼はきっぱりと言った。
俺にも、彼の意図は良く理解出来た。もしチャントリーの一員がこの件に関わりがあるとしたら、トカゲがしっぽを切るように彼らも末端の一部を切り捨てると言うことだろう。
俺達は彼に礼を言うと立ち去り、近くの喫茶店に席を取ると、俺が電話を掛けに行く間ヴァリックとフェンリスが昼食を注文した。
「大聖堂。本気で言ってるの、トリップ・ホーク?」とアヴェリンが電話の先で唸った。
「君と同じくらいね。それで君は警察バッジを持ってる」と俺は言いながら、視界の片隅でフェンリスがアップル・パイの一切れにかじり付くのを羨ましく眺めた。
待てよ、俺は彼が羨ましいのか、その口に入るパイが羨ましいのか、どっちだ?
運が良ければ、きっとこの揉め事を全部アヴェリンの肩に乗っけてしまえるだろう。俺としては、下手に首を突っ込んでアリショクに大聖堂へと行軍する口実を与えるのはごめんだった。
「用は済んだ」と俺は言って、昼食のテーブルに座り込んだ。
「と思うのか?」とヴァリックが聞いた。
「おや、なんだってそうひねくれた見方を?今より悪くなる訳が無いだろう?」
俺達が昼下がりの下町を、ぶらぶらと歩いて家に戻った時、アヴェリンが深刻な顔をして待っているのが眼に入った。俺は小走りに彼女に近付き、彼女も数歩進んで俺達を出迎えた。
「ホーク、あなたに話があるの。中で。今すぐ。あなたの手が借りたい――いいえ、この街があなたの助けを必要としている」
こんなに動揺した様子の彼女を見るのは初めてだった。そばかすの下の頬は蒼白で、眼には冷たい怒りがあった。
俺は口答えせず、扉を開けて皆を中に入れた。
「あなたの情報は役に立ったわ、トリップ」とアヴェリンが言った。
「だけど、遅すぎた。シェイマスは死んでいた」
「何だって?」
「彼は死んでいた。検視が済むまではと、どうにか新聞社を押さえているけど、最終版で速報が出るのは間違いないわね」
彼女はそう言いながら仕事場の中をうろうろと歩き回り、俺達は注意深く彼女の行く先から退いた。
「署長は夜間外出禁止令を出すと言ってる。事務の女性達は全員帰宅を命じられた。私にも帰れと言ってきたけど、冗談じゃないわ。だけど、どこにも行くところが無いの」
彼女はどうしようも無いというように肩を竦めた。
「クナリの街への脅威が現実化しようかと言うときに、下町の私立探偵以外に頼るべき人が居ないなんて」
「ちょっと待った」と俺は言った。
「どんな風に彼は死んでいたんだ?本当に大聖堂の中だったのか?」
「ええ。そうよ。誰かが昨晩から今朝の礼拝までの間に彼を連れ込んで、刺し殺した。猿ぐつわをかまされ、両手も縛ってあったわ」
「処刑か、そうすると。喧嘩じゃあないな。そもそも誰かが彼を誘拐した訳だし」
「つまり、あなたの忌々しいクナリが責めを負うべきでは無いと言いたいのね?」
アヴェリンは随分と疲れたように見えた。
「大聖堂と言いだしたのは彼らじゃないからな。下町の教会で会ったブラザーだ。それに、クナリは彼を傷つけようとはしない。彼は転向した」
アヴェリンは鋭く息を飲んだ。
「彼は転向した」と彼女は繰り返した。
「火種はますます大きくなって来るみたいね」
「彼らはこのことを知っているのか?」と俺は尋ねた。
「すぐにでも知ることになるわ。クナリが、容疑者リストの第一位なの。私が署を出たとき、署内の半分がたが、この件に関して大使館の調査に向かう刑事達を応援するために招集されていた」
「連中を呼び戻せ」と俺は言った。
「今までアリショクを我慢させていたのは、例の処方箋だ。シェイマスの件に関する調査も言い訳も、彼は聞く耳を持たないだろうな。市長の息子を自ら望んでの転向者として得ることが出来れば、処方箋の一件の埋め合わせになるかもと期待していたんだが」
「じゃあ俺達に出来ることは何も無いな」とヴァリックが声を上げた。
「もしクナリと警察が大喧嘩をするつもりなら、俺達は遠巻きにして眺めているのが賢明だ」
「戦略的に言えばその通りだ」とフェンリスが言った。
「彼らは大使館の中に押し込められている。この一件が片付くまでは何週間もかかるかも知れないが、彼らがそこに居る限り他の誰も傷つく事は無い」
「なら、そうなることを願っておいた方が良いのかもな」と俺は言った。
俺達は居間のラジオの近くに集まり、その日の午後ずっと放送に耳を傾けていたが、ワロップ・マレットの試合中継も、その後に続く最新音楽の時間も、臨時ニュースで中断されることはなかった。だがそれも安心材料にはならなかった。
俺はただ家に籠もって、そう、まるでギャムレンのように何もしないでいるのは実に気に入らなかった。だがヴァリックの言葉が正しかった。わざわざ出かけて行って民間人の標的を増やした所で、何になる?警察の邪魔になるだけだ。
「トリップ?トリップ、中にいるの?いるって言って頂戴」
「居間にいるよ、メリル。入って来いよ」と俺は呼び返した。
メリルは文字通り仕事場を飛び抜けて居間の入り口で急停止すると、大きくあえいで息を付いた。
「ああ、創造主様感謝します。ここにあなたが居るかも知れないと思ったの、どうしてかは判らないけど、本当に。ただいつもそうしているように思えたから」
「メリル、訳が分からないぞ」と俺は優しく言った。
「落ち着いて、何が起きたのか話してくれ」
彼女の髪は帽子の下でぺったりと額にひっつき、まだ彼女はゼイゼイと息を弾ませていた。
「メリル、まさかエイリアネージから走ってきたのか?何だって車を使わなかった?」
「とんでもないわ」と彼女が言った。
「誰にも気付かれたく無かったの。彼らが何をしようとしているのか、判らなかったから」
「彼らって誰だ?」と俺は聞いた。
「クナリよ」
「エイリアネージに?」とアヴェリンが鋭く問い返した。
「彼らは大使館に居なくてはいけないはず」
「どこから来たのか判らないわ。家の外で叫び声が聞こえて、大勢の人が走り回っていた。エルフの中にも、キュンに従うべきだって言っている人がいて、それであちこちで喧嘩が。私は少しの間他の人と一緒に人混みに紛れていたんだけど、クナリが市場の広場に大勢出てきたの。革製の前垂れだけを付けて、身体に色を塗ってた」
「死に装束だ」とフェンリスが呟いた。
「彼らは戦いの内に死のうとしている」
「それに銃も持っていた」とメリルが付け加えた。
「他の連中も、大勢死なせようとしているようだな」と俺は言った。
「彼らは群衆に向かって何か言っていたか?」
「その人達が言うには、私達には選ぶ権利があるって」とメリルが言った。
「キュンに従い自由となるか、断って奴隷のままでいるか」
「彼らは征服した領土の住民に、常にそう提案する」とフェンリスが言った。
「カークウォールはクナリに征服された領土では無いわ!」とアヴェリンが鋭く抗議した。
「未だ、今のところはね」と俺は付け加えた。
「おいおい、トリップ」とヴァリックが言った。
「連中が街全体を支配出来るわけがないだろう。クナリを全部集めても精々、数百人と言う所じゃないのか?」
「それで何人のエルフがあそこに住んでる?」と俺は指摘した。
「連中にも勝つつもりは無いだろうさ、だが連中が引き上げる前に一体何人の人々が傷つくことになるか、考えても見ろ」
「何か計画があるの?」とメリルが俺の顔を見た。
「いいや。これはちょいと俺の書類棚には収まりそうにないな。フェンリス、何か考えはないか?どうすればやつらを止められる?」
「アリショクは、君に敬意を抱いているようだ」とフェンリスが考え込むようにしながら言った。
「それはおそらく君の……純然たる決意のせいだろうな」
「どういう意味だ?」と俺は聞いた。
「仕事を請け負ったとき、君はそれを最後までやり遂げる。横道に逸れたり、買収されたり怯んで投げ出すような事は無い。一方彼らは、キュンの教えにそれと同じように純粋な信念を持って奉仕する。アリショクは、君の姿に類似点を見いだしたのだろう」
「もし俺がキュンに仕えていたら」と俺は歯の隙間から押し出すように言った。
「あの忌々しい電気首輪に繋がれて、俺の役割は奴隷として仕えることだけだと言われていただろうよ。いや奴隷よりまだ悪いな、物として」
フェンリスは同意の印に頭を軽く下げた。
俺は溜息を付いた。
「だがともかく、その敬意を何か利用できないかな?彼に出て行くよう説得する方には?」
「君は彼を目標から離れるよう説得することは出来ない。最善でも、目標の向きを変えるくらいだろう」
「なるほど」俺は立ち上がった。
「やって見る価値はあるか。大勢の人が死ぬ前に、何かして見なきゃあならん」
「その処方箋を私達が持っていないのは本当に残念だわ」とアヴェリンが言った。
「それが有れば、随分交渉出来たでしょうに」
「何とか間に合わせるさ」と俺は言った。
「少なくとも、彼に処方箋がどうなったか知らせることくらいは出来そうだからな。どこに行ったか言うことは出来ないとしても」
俺はラジオを切って帽子と外套を手に取った。後ろを振り返ったとき、皆が同じことをしているのに気付いた。俺は皆にここで待っているように言おうとしたが、そうしたところで無駄だと言うこと位は判っていた。
「メリル、俺達を人目に付かないようにエイリアネージの市場まで連れて行けるか?」と俺は聞いた。
「やって見るわ」と彼女が言った。
下町は妙に静かだった。どうやってか噂が広まったに違いない、恐らくはメリルのようなクナリの最新の遠征軍に従わなかったエルフを通じてだろう。俺達は人一人通るのがやっとと言うような細い路地から路地へと辿り、時折別の方角へと向かう人々に出くわした。俺達は立ち止まって、短く眼で合図すると互いに譲り合って道を進んだ。
エイリアネージに入ってから、俺達は歩調を緩め、泥とゴミ屑を避けながら通った。ヴァリックはぼんやりと左手に抱えたビアンカのケースをパチンパチンと開け閉めしていた。
「叫び声が止んだようね」とメリルが小さな声で言った。
俺は頭を傾げて耳を澄ませた。何かが聞こえた――まるで海の近くにいるようなざわめき。俺はメリルの先に立ち、音のする方角へと向かった。それから、路地が市場の広場に突き当たるところで急停止すると、広場の中央を見つめた。
ヴァリックが言ったようにクナリは数十人といった所で、その周りに数百人のエルフが居た。彼らのほとんどは間に合わせの武器を手に抱えていたが、中には弓を持っている者さえ居た。話し合いの時間はとっくに過ぎていたようだった。
クナリの中でさえひときわ背の高いアリショクが、彼らを率いて先頭に立っているのが見えた。軍勢はゆっくりと、しかし断固とした決意を持って坂道を登っていた。その大通りは下町を通り抜けて、上町の市庁舎へと繋がっていた。
これを止めなくてはいけない。俺は考える前に走り出し、影から日の当たる場所へと飛び出した。フェンリスが俺のすぐ後ろに続き、他の友人達もそれほど離れることなく付いてきた。
俺は指を二本口に当てると鋭く口笛を吹き、その甲高い音が途切れのない足音のざわめきを切り裂いた。アリショクが足を止め、後ろに続く人々は彼に従おうと互いにつんのめった。彼は角のある頭を傾けて辺りを見渡した。軍勢を見守っていた後ろのエルフ達が俺達に気づき、人々が道を空けた。
アリショクは俺の方に向き直った。この距離では彼の表情は判らなかったが、彼はいささか驚いているように見えた。
俺は口元に両手を当てると大きく叫んだ。
「何をしようとしているのか、判ってるのか?」
アリショクは開いた方の手――ショットガンを抱えていない方の――を大きく振り、人々に道を空けるように示すと、俺に向かって近くに来いと手招きした。
ああなんか気づいたら残りちょっとに~~~~~~!
そしてセバスチャンさん何やってるんですかw
ゲスト出演ですかそうですかw
EMAMONさま、コメントありがとうございます(^.^)
おほほほ、チャントリーから出張でございますわ>セバスチャン
あと13章ですが、この後は怒濤のように話が進みます。
しかし一方に進まないフェンリスとホークwww