第32章 受容

第32章 受容


フェンリスは足を見下ろして眉をひそめると、考え込みながら彼の長い足指をもぞもぞと動かし、それからベッドの側から滑り降りて固い石の床に降り立った。足の裏はまだ柔らかかったが、実際もう全く痛みは感じなかった。十分治った、と彼は判断した。もっともあのメイジが同意しないのは疑う余地も無かったが。
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第31章 渋々ながら同意

第31章 渋々ながら同意


アンダースは壁に沿って座り込み、彼の膝を両腕で抱いて額を膝の上に休めると、しばらくの間そこで身を震わせていた。クンクンという小さな鳴き声と、冷たい鼻先が彼の耳を突っつき、彼は驚いて小さな笑い声を漏らすと頭を上げ、片手を犬の首筋にやって宥めるように撫でた。
「大丈夫だよ、ガンウィン」と彼はかすれた声で言った。
「僕はただとても、とっても疲れているだけだから」

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第30章 討論

第30章 討論


フェンリスは部屋を見渡すと眉をひそめた。この部屋はいささか、気に入らなかった。彼が予想していたより遙かに大きく、ずっと上等の部屋で、どうにも……落ち着かないものを感じた。ともかく彼はベッドの上でより楽な姿勢を取ると、側の椅子に寛いだ様子で座っているセバスチャンの方に顔を向けた。
「あのメイジ」と彼は言った。

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第29章 巧妙な拷問

寝室から大部屋へ歩いて戻りながらアンダースは疲れた様子で彼の額を片手で撫で、アッシュがもう片方の手に抱えられて、ゴロゴロ言いながら彼の指先を舐めていた。

「お前も休んだ方がいい」とセバスチャンが静かに言った。

「判ってるよ。ドゥーガルとシスター・マウラに、フェンリスについて話をしておかないと」と彼は言った。
「彼に触るべからずの話や、他諸々を説明しておかないとね」

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第28章 フェンリスの話

第28章 フェンリスの話


彼は目を開けた時、自分がどこに居るのか判らなかった。広い、白い壁の部屋。薬の臭い。背の下にある硬い台……どれも身の竦むような記憶を呼び起こすものだった。抑えつける暇もなく彼は身震いし、痛めつけられた筋肉の抗議に食いしばった歯の隙間から息を漏らした。彼の足は酷使による損傷から、ズキズキと焼けるように痛んだ。

「彼が目覚めた」聞き慣れない男の声が言うのが、どこか近くから聞こえた。

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第27章 解毒剤

第27章 解毒剤


アンダースは彼の長い足で可能な限り、しかし護衛を置いてきぼりにしたり、胸に抱えたアッシュを落とす事の無いようにしながら城の敷地内を大急ぎで走っていた。どんな緊急事態なのかと彼はいぶかしく思った。彼の護衛が告げたことと言えば、騎乗した近衛兵*1が衛兵詰め所に現れて、大公の命により彼を可能な限り急いで診療所に連れてくるように、暗殺未遂事件があったと言ったという事だった。そして彼らは再び駆け足で戻っていったという。

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第26章 欺瞞

第26章 欺瞞


マイナンター川沿いの街道から、街の外壁を取り囲む道路へと続く幅広の小道を、馬が勝手に辿っていくのに任せてセバスチャンは考えに沈み込んでいた。彼の護衛も同様に馬に乗ってゆっくりと付いてきていた。この日の朝早く、彼はメイジ達を収容するために適当と思われる建物について、近場の二つを見にいく事にした。街から数マイルほど下流に下ったところにある荘園にはかなり大きな屋敷があり、最初に検討候補として上がっていた。その屋敷は状態も良く保たれていたが、川に非常に近いうえに、単なるヴェイル一族の手軽な夏の別荘以外の何物でも無く、侵入者を阻止できるような防御は何も無かった。

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第25章 遙かなる凶兆

第25章 遙かなる凶兆


アンダースは教会に行くために、彼の上等の服を身に付けていた。彼はセバスチャンと共に初めて教会に行った時よりも、まだ落ち着かないものを感じていた。テンプラーが、更に悪い事にはシーカーが、彼の後をスタークヘイブンまで追って来ているという事を知った後では……例えセバスチャンと一緒にであっても、城の敷地から離れる事により不安を感じていた。 続きを読む

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第24章 新しい合意

第24章 新しい合意


起き上がる前のひどい様子とは裏腹に、アンダースは驚くほど素早い回復ぶりを見せた。目を覚ました次の日には、彼は既に一人で起き上がってベッドの周囲で動く事が出来る様になり、彼の身体には既に肉付きが戻りつつあった。セバスチャンがその事に触れた時、彼は顔をしかめて見せた。

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第23章 覚醒

第23章 覚醒


何かが彼の顎を舐めていた。こそばゆかった。彼は無視して、それまでのようにフェイドの周縁で平穏に漂い続けようとしたが、しつこく舐められ続けて無視出来なかった。それから、ゴロゴロと喉を鳴らす音が耳元で聞こえた。

彼が眼を薄く開けると、灰色の毛皮の子猫が彼の胸の上に屈み込み、半目を閉じて彼の顎を一心不乱に舐めている姿が目に入った。驚いて息を吸い込むと、子猫はピンク色の舌の先端を出したまま凍りつき、大きく目を開けた。子猫はしばらくの間じっと、大きな緑色の眼で彼の琥珀色の眼を覗き込んでいたが、再び顎を舐め始めた。

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