第22章 衰退

第22章 衰退

静かなノックの音にセバスチャンは机から顔を上げ、ドゥーガルが開いた扉の向こうに立っているのを認めた。
「今日はどんな様子だ?」と彼は尋ねた。彼とドゥーガル、そしてシスター・マウラは、アンダースが四日前に倒れてからずっと、毎日交代でメイジに食事をさせ、身体を綺麗にし、床ずれが出来るのを防ぐため姿勢を変えさせていた。セバスチャンはどのみち仕事を終えれば大体はまっすぐ寝室へと行くので夕方から夜を受け持ち、他の時間はドゥーガルとシスター・マウラが交代で分担していた。

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第21章 引きこもり

第21章 引きこもり

セバスチャンは頭を上げ、数回瞬きをして辺りを見渡した。座ったまま眠っていたせいで背と首筋がひどく痛んだ。横を見ると、アンダースはまだ丸くなった姿勢のまま眠っていて、ゆっくり静かに呼吸をしていた。彼が目覚める時には、セバスチャンよりさらに痛みを感じるのは間違いなさそうだった。

彼は立ち上がって伸びをすると、廊下へ通じる扉を開けて外を覗いた。通常の二人一組の代わりに四人が警護しているのは驚くことでは無かった。衛兵の一人に、隊長のセリンに彼が目覚めたことを伝えるよう命じると、呼び鈴を鳴らして朝食の用意をさせ、それから適当な服に着替えるため寝室に‐もちろんそこにも衛兵が居た‐移動した。

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第20章 侵入者

第20章 侵入者

彼はよろめきながらクローゼットの扉を離れ後ろの壁につかまると、反対側に向き直り、壁にもたれて中につり下がった服で顔を覆った。連中が玄関扉を破ろうと殴りつける音が遠くから聞こえ、恐怖に泣き叫ぶのを抑えるのが精一杯だった。彼の目からは大粒の涙が頬を伝って落ちた。嫌だ。どうしてこんな事に?ようやく、この牢獄は少なくとも安全だと思えるようになった今になって……

彼は膝から床に崩れ落ち、両手で弱々しく服を掴んだ。彼は一声えずき上げた後、苦い胃液を吐き出し、それから嘔吐した。片手の服で顔を擦りながらしゃっくりと不規則な呼吸を繰り返し、もう一方の手は震えながら奥の壁をさすっていた。

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第19章 無力

第19章 無力


アンダースは突然目覚めると、凍り付いた。何が彼を目覚めさせたのかよく判らなかったが、良くないことなのは間違い無かった。彼は首筋の毛が逆立つのを感じながら、静かに横たわったまま息を潜め耳を澄ませた。

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第18章 孤独

18章 孤独

アンダースのコテージから回収させた、一番新しい紙の束を見ながらセバスチャンは微笑んだ。荘園への旅行の後、アンダースの描くスケッチのテーマが大きく変わったことが見て取れた。今回は植物の絵はほとんど見られず、数多くの人々が描かれていた。長老が座って笑みを浮かべている姿、穀物の穂を束ねている女や子供達、ホークの顔が一つ、下を向いて何かを眺めていた。その頁の隅には穀物の冠を被った愛らしいムイルンの上半身も描かれていた。

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第17章 収穫

第17章 収穫


暗がりの中、ノックの音でアンダースは飛び起きた。ここが独房ではなく彼の寝室で、今朝は夜明け前に起こされると覚えていてさえも、少しの間彼の胸は痛いほど動悸がした。
「はい?」と彼は答えた。

扉が開き、召使いの少女が食事を載せた盆と明かりの付いたろうそくを手に入ってきた。彼女はアンダースに向かって行儀良く頭を下げ、盆をテーブルの上に置き、部屋のろうそくに火を点すとまた急いで出て行った。扉が彼女の背後で閉まった後、アンダースは座り直して盆の上の朝食を見た。厚くバターを塗った焼きたてのパン、芯をくりぬいて薄切りにされたリンゴが1個、大きなマグカップには湯気の立つ紅茶がなみなみと入っていた。アンダースは急いで食事を済ませると、着替えて広間へと出て行った。しばらくしてセバスチャンも彼の寝室から階下に降りてきて、アンダースの顔を認めると軽く頷いた。

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第16章 昔ながらの風習

第16章 昔ながらの風習


いつものように驚くべき速さで、夏の暑さは秋のひんやりとした空気にその場所を譲った。世界各地からは不穏な知らせが未だに聞こえてきたが、スタークヘイブンに逃げてくる避難民は、セバスチャンが恐れていた洪水のような流れではなく緩やかな流入に留まっていた。それでも彼は必要な時に備えて、避難民キャンプ設置の計画を前倒しで進めることにした。同時に彼は今後二世代に渡る街の拡張計画を公式に発表した。街は既に自ら膨れ上がりつつあり、スタークヘイブンは切実に拡張を必要としていた。

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第15章 礼拝

第15章 礼拝


「どうかな?」アンダースは唇の片隅に笑みを浮かべ、彼の新しいコートの前を手で撫でながら、恐る恐る尋ねた。

スタークヘイブンの教会へ、セバスチャンと共に毎週礼拝に参加しなければならなくなったという知らせを受けて、このメイジはひどく不安を感じているようだった。そこでセバスチャンは礼拝にふさわしい、上等で地味な服一式を新たに揃えて、彼の気を紛らわせてやることにした。上質の生地を使った無地で落ち着いた色の服で、例えば裕福な商人が着るような服だった。このメイジはまるで花嫁のように神経質となっているように見えたが、男の過去についてセバスチャンが知る限りの事からしても、その理由は多少なりとも想像出来た。最後にこの男が教会へ足を踏み入れた時は、そこを爆破するためだったと言うことは改めて思い出すまでも無かった。

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第14章 傷跡

第14章 傷跡


ジャスティスが去ったという事について、セバスチャンをさらに納得させる材料があるとしたら、診療所へのシスター・マウラの参加を、あのメイジがいかに静かに受け入れたかという事実で充分だった。かつてのアンダースなら、チャントリーの監視の下に置かれると聞いただけで天井を突き破ったに違いない。彼女がポーションの調製と膏薬や塗り薬の調合に熟達していると判明した後は、彼は優れた技術のある助手が来て何よりも喜んでいるように見えた。

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第13章 神学上の懸念

第13章 神学上の懸念


セバスチャンはしかめ面を包み隠すと玉座から立ち上がり、訪問者を出迎えた。診療所を開いた時から、この日が来ることを彼は予想していた。しかしスタークヘイブンの、チャントリーの大教母自らの訪問は予想外だった。彼女が単に年長の聖職者を誰か使者として寄こすか、あるいは彼女の立場が与える当然の権利として、彼を呼び寄せるかと考えていたのだった。

「大教母グリニス」彼はそう挨拶すると低い台からも降り、チャントリーにおける上位者としての敬意を示すために彼女の前に片膝を付いた。

「よくお越し下さいました、閣下」彼はつつましく言った。

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