第12章 初日
アンダースは不安げに掌を太腿の側に擦り付けると、彼の寝室にある小さな鏡を覗き込み、髪の毛がきちんと撫で付けられていて、頬も滑らかに剃ってあるのをもう一度確かめた。彼はちゃんとした格好で診療所の初日を迎えたかった。
彼は着ている服を心配そうに眺めた‐清潔で、きちんとした上等な服だが‐アンドラステの美味そうな尻に誓って、彼がどれほどあの古い懐かしいローブを着たいと思ったことか。あれを着ていればもっとずっと落ち着いていられただろうに。
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第12章 初日
アンダースは不安げに掌を太腿の側に擦り付けると、彼の寝室にある小さな鏡を覗き込み、髪の毛がきちんと撫で付けられていて、頬も滑らかに剃ってあるのをもう一度確かめた。彼はちゃんとした格好で診療所の初日を迎えたかった。
彼は着ている服を心配そうに眺めた‐清潔で、きちんとした上等な服だが‐アンドラステの美味そうな尻に誓って、彼がどれほどあの古い懐かしいローブを着たいと思ったことか。あれを着ていればもっとずっと落ち着いていられただろうに。
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第11章 予防策
庭の扉がきしむ音を聞いて、アンダースは素早く顔を上げた。召使いが訪れるような時間では無かった。
「アンダース」
「セバスチャン」彼はそう答えると、その男が白いエナメル製の鎧を着ているのを見て少し驚いた。ここに辿り着いてから、その鎧を着た姿を見たことが無かったのを彼は思い出していた。
「すると、診療所の準備が出来たのか?」
「もうすぐだ。中がどんな風になっているかお前にも見せて、もし何か変えた方が良いものや追加したい物があれば、作業が終わる前に考えておいた方が良いだろうと思ってな」
アンダースは頷くと厚い革の手袋を脱ぎ、刈りばさみと一緒に手押し車の上に載せた。
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第10章 落ち着く場所
セバスチャンは窓枠に腰を下ろし、外を眺めた。アンダースが再び庭で働いていた。たった一人での仕事にしては随分と進んでいた。コテージの周辺は既に片付けられ、次に草木に覆われた小道を元の姿に戻そうとしているようだった。セバスチャンはしばらくの間その男が働く様子を眺め、それから手の中のくしゃくしゃの紙に注意を戻した。アンダースが書き捨てた頁を全て集めて彼の元に届けるよう、コテージの清掃に割り当てられた召使いに彼は密かに命じていた。 続きを読む
いやはや、失礼致しました。
このブログのフォントが “font-family: Georgia, “Bitstream Charter”, serif” という訳の分からない設定(デフォルトですがな)になっていたことに気が付かず、しかもFireFoxでは一応明朝体のフォントで見えるため、「ま、良いか」と放って置いたのですが、IE9で見たら「なんじゃこりゃー」だったという……。これじゃまるで中華似非日本語サイトだよ(T_T)。
きちんとCSSを設定し直して、メイリオが入っていればメイリオ、なければ何かゴシック体の日本語フォントで表示するように致しました。
8月11日また修正。メイリオが入っていると「何をどうしても和文の斜体表記が出来ない」のでした。やむを得ずメイリオ削除w
第9章 好奇心
セバスチャンは扉を開けると、空となった部屋に入り辺りを見渡した。アンダースがこの数日間、この部屋を使用していたという痕跡はほとんど残っていなかった。あれほどまでに身の回りの清潔さに無関心で居られる男にしては、結構几帳面な性格のようだと彼は思った。彼は寝室を通り過ぎ‐ベッドは既に片付けられ、剥き出しのマットレスだけが残っていた‐居間の方へと戻った。
第8章 質素だが実用的な
セバスチャンの姿をアンダースが再び目にしたのは数日後の事だった。彼はその間を静かに過ごしていた。朝食後は何か書き物をするかスケッチをして過ごし、昼食の後は例の運動場の周りを散歩した後、図書室で夕方まで本を読んだ。食事は部屋まで届けられた。おそらく召し使い達が食べているものと同じ簡素な食事だったが、しかしグレイ・ウォーデンの身体の要求を満たす充分な量が与えられた。
厨房には間違いなく彼の恐るべき食欲について情報が伝わっているのだろうと、彼は少しばかり恥ずかしく思った。セバスチャンが彼自身や彼が必要とする物について気に掛けているという、また新たな証拠。あの男から与えられるとは想像もしていなかった心配りだった。 続きを読む
第7章 順応
時間はのろのろと過ぎていった。召使いが昼食を持って現れると、彼の書いたリストと余った紙*1と筆記用具を持ち去った。その後、部屋の中で彼に出来ることと言えば、座っているか歩き回るか、考え事くらいだった。そして自らの考えに思い悩むというのは、現時点では彼が出来るだけ避けたい事だった。
午後も半ばを過ぎた頃になって、彼は扉を開け護衛に表に出してくれるように頼んだ。彼らはダンジョンから抜け出した後セバスチャンが彼を連れ出した小さな運動場へと向かった。しかしそこで、たった一晩暗闇に閉じ込められただけで、以下に容易く彼の心が折れてしまったかを思い出すのは、部屋の中で思い悩むのと同じくらい最悪の気分だった。 続きを読む
第6章 後悔
アンダースは、彼の部屋の中を静かに歩いていた。とても質素な禁欲的とさえ言える部屋は、背の高いベッドの側に敷かれている小さなラグカーペット以外は、むき出しの石壁と木の床で覆われていた。割り当てられた3つの部屋の内、最初の1つは最も大きく、こぢんまりとした暖炉のある居間となっていて、その片隅には小さなテーブルと椅子が一脚、それに傷んではいるが居心地良さそうに詰め物がたっぷり入った肘掛け椅子が置かれていた。
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第5章 診療所
セバスチャンが城の外庭を静かに歩く後ろを、アポステイトと彼の護衛は付いて歩いていた。彼は城の外壁の片隅に立っている、古い石造りの馬屋へと向かっていた。L字型をした建物に囲まれるように小さな中庭があり、城の外壁の隅に作られた見張り塔の根本を、外からの出入り口が通り抜けていた。馬に乗った一人、あるいは徒歩の二人がぎりぎり潜り抜けられる程の幅で、重そうな落とし格子の付いた小さなアーチ型の門が、L字の下側と外壁の間にまたがって設置されていた。彼はその小道を通って中庭に辿り着くと、彼らを取り巻く低い建物を指し示した。
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第4章 量刑宣告
衛兵がアンダースを連れて戻ってきた時、彼はちょうど朝食の席に着いたところだった。この男が、羽根の肩当てが付いたぼろぼろのローブ以外の服を着ている姿を見るのは……とても奇妙な感じがした。髪の毛は結ばれておらず、風呂に入ったせいでまだ湿気っていた。
彼は男の痩せ細った様子に気づき、独房の中で手の付けられていなかった水と食物の事を思い出し眉をひそめて、近くの椅子を指し示した。
「座れ。食うんだ」
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