第130章 歴史の授業

アンダースは痛みにたじろぎながら、フェンリスが馬の鞍と荷袋を積み上げて作ってくれた低い背もたれに寄り掛かった。彼の太腿の腫れて血の滲む傷口を綺麗にして、湿布を当てる作業はひどく痛かった上に、このくそったれの傷をきちんと治せる力が戻るまでは痛み続けるだろう。
ゼブランが手当てをしてくれる前もズキズキと疼いていたが、今では『疼く』と言うのはもはや充分な言葉ではなく『火箸を突っ込まれて腹をえぐられるような』痛みに近くなってきた。アンダースは眼をつぶって休みながら、この世を去ったシーカーが矢が抜くや否や力を消し去って治療をさせなかったことについて、それとそもそも彼の脚に矢を突き立てたテンプラーに向けても、心の中で選りすぐった強烈な罵倒を投げかけた。

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第129章 用心深い降伏

ギュロームはアンダースの方をちらりと見おろし、微かな笑みが彼の顔に過ぎった。
「ウイ」と彼は答え、魔法の力による半球状の防護壁を取り囲む人々の方に彼の注意を戻した。実に強固な防護壁だった――周囲で叫ぶ人々の声さえかろうじて聞こえるだけだった。フェンリスの様子からすると、彼は壁を剣で突き破ろうとしていてゼブランが宥めているようで、衛兵達は散開して出来る限り半球を取り囲み、事の展開を見守っていた。
「アントニー?」と大柄なテンプラーが心配そうな声で尋ねた。

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Storm over Thedas: ギュロームとアントニー

原作者注:この二人は”Eye of the Storm”に登場するオリジナル・キャラクターです。物語に登場する前の、彼らの姿を少し覗いてみましょう。


ギュロームはひどく不機嫌な気分で、食堂の隅に腰を降ろした。エリスが居てくれたら。彼ら二人は、まだギュロームが図体ばかりでかい青二才だった頃から何年も組んで一緒に戦った友だった。しかしエリスは引退し、田舎の教会で隠居することになってしまった。年老いたテンプラーにありがちな重篤なリリウム中毒のせいでは無く、怪我のせいで。ほんの些細な怪我を軽視したことが仇となってひどい壊疽を起こしてしまった。本当に忌々しい、そんなくだらない理由で彼の様な立派な男が脚を無くし、ほとんど命さえ失い掛けたとは。

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第128章 驚き

アンダースは眼を閉じ、彼の後方に現れた人々の存在をうっかり露わにしてしまわないよう、無理に呼吸を整え落ちついた表情を造った。救いの手であらしめよ、彼はそう思い垣間見た姿を考えた。後方遠くに見える草に覆われた明るい丘陵を背景に、森の影に潜む暗いシルエットでしか見えなかった。しかし彼らは鎧を着て武装した男の形に見えた、そして間違い無くその内の一人は、細身の小柄な姿はエルフだった――ゼブランであってくれと彼は必死に願った。フェンリスについては判らなかったが――しかしもしあれがゼブランだったなら、もう一人のエルフもどこかあたりにいるはずだ。だがあのウォーリアーはエルフにしては背が高く、ほとんどヒューマンと同じ背丈のため、遠くに見える人影をちらりと見ただけで見分けるのは簡単では無かった。

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第127章 厄介な立場

声が聞こえた。瞬間的に古い習性が蘇り、アンダースは目覚めた瞬間から今彼がどこに居て、何が彼を目覚めさせたのか、じっと横たわったまま推し測ろうとした。再び声がした、言葉が聞き取れる程近くは無かったが、その声音は――それに誰が話しているのかも判った。シーカー・レイナードの冷酷な声、ギュロームの、イライラした声音。再び声が途切れ、彼はただそこにじっとしていた。間違い無く彼らが近くに居るからには、物音を立てて彼の隠れ場所を教える危険は冒せなかった。また足音が聞こえて、彼は息を潜めた。近くに居る。すぐ近くに。

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第126章 逃走と追跡

彼らが曲がり角を曲がると前方に光が見え、フェンリスは馬を止まらせた。前方に空き地、その中に動くものが見えた。ゼブランは彼の隣で止まって、彼らの前方の道路で一体何が起きているのか見定めようと、あぶみの上で身を乗り出し前を凝視した。

「武器構え」とフェンリスは衛兵に命じて、彼自身の剣の留め金を緩めた。馬の上で使いやすい武器では無く、今のところそれだけにしておいた方が良かった。
「前へ」と彼は号令し、彼らは狭い道の上で出来る限りの隊形を組むと、騎乗したまま前進した。

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ウクライナ及び幾つかのIPアドレスを遮断しました

唐突に全アクセス数が10倍に跳ね上がったので何事かと思ったら、コメントスパマーの来襲でした…orz
とりあえずウクライナ(UA)とロシア(RU)と、正体不明スパマーのIPアドレスを遮断。同時に1ヶ月以上前の記事についてはコメント欄を閉じております。
もし不具合がありましたらご連絡、ってこのページも見えないから連絡のしようも無いよね!
多分引っかかるのはウクライナとロシアだけだと思うけど。

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第125章 忌まわしい誤算

暗闇の中閉じ込められ、身動き出来ないまま目覚めた彼は、一瞬ひどく狼狽えた。同じ姿勢を長時間取らされたせいで身体中の筋肉が痛み、不自然な方向に固く伸ばされた腕は強ばり、足首と膝をきつく固定した革紐に彼の脚はほとんど麻痺していた。夢も見ずに熟睡していた彼が何故突然目覚めたのか、原因を認識するまでにはしばらく掛かった。すすり泣き哀願する声――すぐ側からのブライディの声だった。突然バンと、拳か爪先で木を叩く音がした。

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第124章 嗜虐

警告:この章には監禁、同意無しの緊縛、暴行の暗示に関する表現が含まれます。


その日はまだ夜も早いうちに、シーカーの率いる一行は再び細い小道に沿って、小さな森の奥深くへと曲がりくねった道を進んで行った。目的地は十字路から奥まったところにある、元宿屋と思われる家の残骸だった。中庭を区切っていた壁は既に崩れ落ち、かつて生け垣であったと思われる部分に残るものは、腐った木の杭を覆い隠すように生い茂るイバラとツタだけだった。アンダースの手首ほどもある若木が生け垣の内側にも生え、森がゆっくりとこの荒れ果てた廃墟を飲み込みつつあった。

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第123章 執念の追跡

アンダースの犬達は容易く上町を通り抜けて行ったが、しかしずっと通行の激しくなる中町では彼らも戸惑い勝ちになり、時折臭いを見失っては側道のあちこちを嗅ぎ回り、それからまた跡を付けるのを繰り返した。夕暮れも近くなった頃ようやく、彼らは下町に程近い路地を入った所の小さな家に辿り着いた。扉は施錠されておらず、家は空っぽだった。犬達はその家から先を痕跡を辿ることは無理なようだった。

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