俺が眼を開けると、ズボンだけ履いたジェサンが俺達の身体を綺麗に拭いているのが眼に入った。彼はまた俺にまたがって座り、俺のシャツのボタンを元通りにはめていた。
「おかえり」とジェサンは気取った口調で言った。
「うう……ここのしきたりじゃあ、この後はどうするんだ?」
「かわいい人、さっきも言っただろう?これは仕事じゃないんだ。内気なフェラルデンの坊やに手ほどきをしてあげただけ。それに僕も楽しめるなんてそう有ることじゃあ無いんだよ、知ってた?」
俺が眼を開けると、ズボンだけ履いたジェサンが俺達の身体を綺麗に拭いているのが眼に入った。彼はまた俺にまたがって座り、俺のシャツのボタンを元通りにはめていた。
「おかえり」とジェサンは気取った口調で言った。
「うう……ここのしきたりじゃあ、この後はどうするんだ?」
「かわいい人、さっきも言っただろう?これは仕事じゃないんだ。内気なフェラルデンの坊やに手ほどきをしてあげただけ。それに僕も楽しめるなんてそう有ることじゃあ無いんだよ、知ってた?」
アリショクは俺が言うべきことを全て聞き、俺達の司法制度を少しばかり嘲った後で、俺に出ていくように言った。まただ。一体やつに何を期待していたのか、自分でもよく判らないが、それにしても少しくらいは感謝して貰っても良いんじゃ無かろうか。まあしかし、彼が悪い知らせを伝えた者を射殺しようと思わなかったのは有難かった。
「奥様」そう言うと、フェンリスは驚くほど優雅に上半身を傾けて礼をした。これもテヴィンターの連中が彼に叩き込んだ訓練の賜だろうかと、俺は感心して見つめた。
母さんも、こんなに礼儀正しい挨拶は予想していなかったと見えて多少気勢を弱めると、フェンリスを上から下まで困惑した表情で見つめた。
「まあ、理想的な自己紹介が出来る様子ではないようね。お会いできて嬉しいとは言わないでおきましょう」
「それはごもっともです」とフェンリスが恭しく答えた。「お気になさらず」
カーヴァーは慣れないオールで悪戦苦闘しながら、ダークタウンの倉庫内からゆっくりとカークウォール湾へと漕ぎ出した。メリルはマジスターのふかふかの毛皮の帽子が大いに気に入った様子で、船の舳先にちょこんと腰を掛け、あたりを見渡す彼女は大層可愛らしかった。マジスターは小舟の底にうつ伏せでへたり込み、フェンリスの片足に頭の後ろを押さえつけられて、ただ胸を抱え込んで何か呻いていた。時折フェンリスが彼の頭を持ち上げては、船がどちらの方角かを聞き出していた。
「隅に座ってしかめっ面をするだけなら、何だって君はここに来たんだ?」
「他の誰も文句は無いようだ、君を除いてはな」
どうもこいつは、あまりいい考えでは無かったようだ。図書館での出来事の興奮と、街から金が貰えるという期待に舞い上がった俺は――実際のところ金では無くて銀だったが、それが何だっていうんだ――あまり深く考えずに、このちょっとしたパーティを提案した。そのせいで俺達はみんなハングド・マンの何時ものテーブルの周りに座り、アンダースとフェンリスがいがみ合うのを聞く羽目になったという訳だ。
俺達が上町に戻ったときには街灯に灯りが点っていた。裁判所に警察、市庁舎は皆同じ区画にあり、ケーブルカーから降りながら俺は市庁舎の立派な柱を感心して見上げた。フェンリスと俺はお互いに、いずれそのうち相手を叩きのめしてやるという暗黙の了解に達していて、上町へと帰る道のりはごく平穏なものだった。
俺はその日を待ち望んでいたが、何故そうなったかという理由については考えまいとした。
誓っても良い、フェンリスのことはすっかり忘れてしまおうと俺は努力した。あれもこれもみんな、俺の頭が一時おかしくなってただけだ。あのエルフを上に乗っけなくても、俺は山のような揉め事を抱えていた。
だが事の成り行きは俺の思うようには行かず、そして揉め事はどうやらあちらから、俺を見つけて飛び込んでくるようだった。
翌朝には、昨晩の出来事は全て遠くの夢だったように感じられた。だが間違い無く、現実だった。俺は翌月分の家賃を払うに充分な金を持っていたし、新聞の一面は昨晩の上町での事件を叫び立てていた。テンプラー、教会で虐殺さる――俺は頁をめくった――上町の火災現場で発見された死体、テヴィンター諜報員と判明。記事は何か大がかりかつ国際的な陰謀を示唆し、メレディス長官はブラッド・メイジの仕業だと非難していた。
真実は、新聞記事より奇なり。
俺は後部座席に落ちていた帽子を拾い上げて、走り寄ったメリルに大きく振った。
「あなたのお車です、マダム」
「まあ、本当にありがとうトリップ。あなたがケーブルカーから飛んだ時は、まるで大きなコウモリみたいだったわ。車にぶつかる前のほんの数秒だけは」
「なるほど」メリルと全く同じ見方をするやつは、この世に二人といないだろう。
メリルは無事、エイリアネージに落ち着いた。俺の仕事場からそう遠くないところだ。一族が送金しているのか、それとも最初から大金を持ちだしたのかは知らないが、彼女は一度も仕事の有無を気にするようには見えなかった。それ以外にも、彼女が本気で気に掛けた方が良いんじゃないかと、心配になることは沢山あった。