第92章 安らぎ

アンダースは腰を屈めてユアンの額に手を触れ、異常に冷たくも熱くもないことにほっとした。彼は背後の扉が開いたのを聞いて背をまっすぐに伸ばして振り返り、セバスチャンが入ってくるのをみて微笑んだ。

「彼の様子は?」
彼は静かに側に来て幼い従兄弟の側に立ち、顔を見下ろしながら声を潜めて尋ねた。

アンダースは疲れた笑みを見せた。
「まあ大丈夫だ。命の危険は無くなった。剣は内臓を逸れていたし、傷の方は治したからショックと失血からも良い調子で回復している」と彼はささやき声で答えて、まだ酷く青白い顔で眠る少年を見下ろし、上掛けのシーツの皺を伸ばした。
「子供というのは信じられないほどの回復を見せるから。多分彼も、他の大人達よりずっと先に快復してそこらを走り回ってるだろうね。ともかく、肉体的には。精神的には、メイカーだけがご存じだ」

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | 4 コメント

第91章 魔術と狂気

翻訳者注:大量の流血と一部グロテスクな表現があります。


フェンリスは襲撃予定地点を見渡して、ゼブランに意見を聞いた後で、落ち着いて皆に命令を下した。アンダースとゼブランは峡谷に掛かる橋から一番近い藪に潜み、ゼブランは道のすぐ近く、アンダースはその後ろに数名の衛兵と彼の犬達に護られて隠れることになった。
フェンリスと衛兵数名は街道を挟んで反対側で待機し、そしてデイン率いる衛兵の主部隊がその地点から少しばかり道を進んだところで待ち構える。彼らの馬とアンダースの猫は少し離れた森の中で安全に待機することになった。

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | 2 コメント

第90章 憑依

セバスチャンは翌朝遅くになって、驚くほど良く休めたと感じながら眼を覚ました。彼はベッドから立ち上がると、扉の側にまだ衛兵が一人、静かに立っているのに気付いた。昨晩の衛兵とは違い、この男はより黒い髪と眼をしていて背も低かった。

眠って居た間に召使いが部屋に入って来たに違いなかった。昨晩目にしなかった四角いテーブルが運び込まれており、その上に覆いの掛かった盆が置かれていて、暖炉には暖かく火が入り、その側に湯気の立つ湯が入った缶が置かれ、側の小さな洗面台には洗面用具が一揃いあった。彼は洗面器に幾らか湯を注ぐと、しばらくの時間をひげ剃りに費やした。
続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | 2 コメント

第89章 旅の計画

セバスチャンは四人の衛兵に囲まれ、疲労によろめきながら長い階段を上っていた。彼の気分は、アンダースが生きていて――無事で、この近くに居る!――しかも友人達が既に救出を試みてくれているという高揚と、果たして彼らの救出が間に合うのかという恐怖の間を行き来していた。真夜中の突然の連行は、恐怖を否応なしに増大させた。これが良いことの前兆とは少しも思えなかった。

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | コメントは受け付けていません。

第88章 密かに

「もうすぐです、サー・フェンリス」と古参衛兵のデインが静かに囁いた。
「その荘園の館は、あの向こうの、森になっている丘の上にあります」と彼は付け加えると、片手を手綱から上げて指し示した。
彼らは運が良かった。追跡を始めて二日、天候はずっと晴れて乾燥しており、この辺りの滅多に使われない街道を、セバスチャンを拉致した大部隊が移動した足取りを追跡するのは容易かった。大公を連れ去った一行の行く先が、彼の従兄弟のゴレンが住む地方に違いないと地元出身の衛兵が確認するまでには、それほど時間は掛からなかった。

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | 2 コメント

第87章 執念深い相手

ゴレンの衛兵達がようやく主街道からそれて飾り立てた門をくぐり、木の植えられた丘を廻る道を辿ってそれなりの大きさの邸宅に到着した時、セバスチャンは馬の背の上で半分以上眠っているといっても良かった。彼は一度もここに来たことは無かったが、この二日半彼らが旅をしてきた距離と方角から言って、恐らくここは彼の従兄弟のゴレンが昨年、スタークヘイブンの街から逃げ出した後に引きこもった田舎の荘園に間違い無かった。

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | コメントは受け付けていません。

第86章 嫌な考え

ゴレンの部下の一行はあたりが暗くなってからもさらに進み、さらにかなり時間が立った後、狭い側道を辿り主街道から幾らか離れた空き地で、彼らはようやくその夜を過ごすために停止した。セバスチャンはその日の一連の出来事から頭が麻痺したような気分を味わっていて、紐を解かれ馬から下ろされた時も抵抗しようとはしなかった。男達は彼に食べ物と水を取らせ、用便をさせてから再び身動きの取れないように縛り上げた。灯火の輪の向こうに見張りが二名、加えてセバスチャンの見張りのために、常に少なくとも三名が交代で立っていた。

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | 2 コメント

第85章 必死の手段

身体の奥深くの凄まじい痛みと、耳に響き渡る轟音。最初彼には何も見えなかったが、それからまた一瞬何かが見えた、随分遠くから彼を見下ろしている顔、まるで彼が深く暗い井戸の底にいて、彼らを見上げているような。彼らの口元が動いていたが、音は届いて来なかった。あの顔は知っているはずだ、誰か判るはずだ……しかし彼が眼の焦点を合わせられる前に、再び彼らは暗闇の中に消えていこうとしていた。

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | 2 コメント

第84章 再びの降伏

アンダースは彼の畝の最後まで辿り着くと振り返り、広大な畑を見渡した。この畑に種を蒔いている人々の列は、最初に皆一斉に始めていても、種蒔きの経験がほとんど無い人々が結構居たため最後に辿り着くまでには不揃いになっていた。この作業が特段難しい訳では無かったが、畝を立てた畑の上を適当な速度で足を進めながら、両手に握った種を重なるところも隙間も出来ないように、手首のひねりを利かせて均一に薄く蒔いて行くというのは、やはりそれなりに練習が必要だった。

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | コメントは受け付けていません。

第83章 新しい麦わら

(原作者注)最終警告:この先に男性同士のエロいシーンがあります ―もしあなたがここまで読んできてくれた方なら、大丈夫だとは思いますが。
(訳者注)もしどうしても気になる方は、飛ばして次の章へお進み下さい。第84章 再びの降伏


ゼブランは健康な方の腕を馬房の外から扉の上に乗せて、フェンリスが彼の馬に何やら囁いているのを見ていた。彼は微笑みながら、もう一人のエルフと馬が描き出す絵のような風景を見つめていた。彼らの顔はほんの数インチの近くにあって、ウォーリアーは右手で馬の首をいとおしげに撫で下ろし、左手は馬の頬に当てられていた。ようやく彼は馬の首元をとんとんと叩くと振り返って、ゼブランと目が合い顔を赤くした。
「すまない」ウォーリアーは何やら不安げにそう言った。

続きを読む

カテゴリー: Eye of the Storm | コメントは受け付けていません。