43.ドラゴン、博物館展示と決定

エメリックは翌朝の9時過ぎに、オシノと11時の面会の約束を取り付けたと電話を掛けてきた。俺は例の本を茶色の紙袋に放り込むと、母さんにエメリックは仕事があるんだから長電話をしないようにと言いながら、受話器を手渡した。
彼女は玄関を出て行く俺に向かって笑いながら黙りなさいと言った。

ギャロウズの受付にいたのは今度は別のテンプラーで、俺の名刺を差し出すと、彼らは何も言わずに門を開けて俺を中に通した。俺は、出来るなら今すぐ背を向けて逃げ出したい気分だった。

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42.大乱戦!ドラゴン、鉱山から排除さる

「ガスカード・デュプイ。妙に聞き覚えのある名だ」とエメリックが言った。
その夜、アンダースが例の金持ちのアポステイトについて情報を聞いてきたと言うので、エメリックにヴァリック、フェンリスが俺の仕事場に座って、皆で彼が来るのを待っていた。

「すると彼は脱走メイジか?」とフェンリスが聞いた。

「いや、そうではないな。以前にどこかで彼の名を聞いたことがある。思い出そうとしているところだ」とエメリックが首を傾げた。

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41.沿岸警備隊、テヴィンター船を撃退

眠気はすっかり消えていたし、もう明け方も間近だった。俺はベッドに仰向けで天井に向かい、漆喰のひび割れと壁の隅のクモの巣が、ゆっくりと明るさを増す光の中で鮮明に見えてくるのを、ただ見つめていた。一体全体どうなってるんだ?あれは八つ当たりか?喧嘩か?何のせいで?誰のせいだ?

それとも、俺は本当に彼を傷つけてしまったのだろうか。

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40.お尋ね者アポステイト、未だ逃走中

(原作者注)この章には成人向け描写が含まれます。

俺はフェンリスの手を掴んで、文字通り階段を駆け上がろうとして、一番下の段で脛を思いっきりぶつけた。それから、アパートの鍵を引っ掴んで危うく落としそうになった。
集中しろ、集中。今一番大事なことは、家の中に入ることだ。
二人とも、何も言わなかった。俺はようやく玄関扉の錠を開け、フェンリスの手を離して先に入ると、アパートの奥に続く扉が間違い無く閉まっていることを確かめた。

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39.不逞アポステイト、上町の大捜索

俺は今すぐフェンリスを追いかけたかった。だが、それがまずい考えだということが判る位は俺にも分別があったし、それに夜が明ける前にやることが山ほど残っていた。倉庫には金の詰まったスーツケースが2つと、船が一隻、それと片付けるべき死体が半ダース転がっていた。
最後の方は別に難しくは無かったが、楽しい仕事でも無かった。俺達は崩れかかった倉庫の壁をさらに崩して死体の服に煉瓦を詰め込むと、湾内に繋がる運河へと放り込んだ。ダークタウンから海へ漂っていく仲間は大勢居るから、彼らも寂しくはないだろう。

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38.上町で銃撃戦、メイジ関与

「あそこにおるやろ、ほら」

週末の昼下がり、大きなガラスウィンドウの中にきらびやかな品々が飾られる上町でも一番の繁華街を、フェンリスは人陰に紛れようともせず堂々と歩いて、銀色の髪が穏やかな冬の日にきらめいていた。
これもまた、ダナリアスとその手下をおびき寄せる俺達の作戦の一つだった。彼の身が危険に晒されることに今更ながら俺は気付いたが、しかしこれは彼が言い出した話だった。

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37.オーレイダンサーズ、大旋風を巻き起こす

メリルは家に着替えに戻り、俺はホースを連れてぶらぶらとハングド・マンへと歩いて行った。俺達がまっすぐヴァリックのスイートへ向かう限り、ホテルの用心棒もマバリ犬を見てとやかく言うことは無かった。実際ヴァリックが指摘するとおり、ホースのマナーはここに来る客の大部分よりずっと良かった。ただ彼は酒を注文しないだけで。

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36.男性片脚切断、ケーブルカー事故

俺達はエイリアネージの、いつも『貸間有ります』と表示の掛かっている、今にも崩れ落ちそうなアパートの前に立っていた。そこがアルリン・ホルムを盗み出した氏族の連中が、連絡先としてテンプラーに告げていった住所だった。
もし表から中を覗き込めば、確かに借りられそうな部屋に見えるだろう、実際の所は大きな元倉庫を薄っぺらい壁で仕切っただけだったが。どこもかしこもゴミゴミと汚らしく混み合っていたが、しかしそれでも、ダークタウンの似たような場所とはどことなく違う活気が感じられた。

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35.膠着状態続く市予算案交渉

俺はもう本当に久しぶりに、心地よく酔っぱらって家路に付いた。今夜の夢の中で、フェイドからの訪問者が俺を悩ませるとは思えなかった。やつらが俺を誘うために使うどんな餌よりも、俺の人生は遙かに素晴らしい。

俺が家に着いたときちょうどギャムレンも道路の反対側から帰ってきたが、彼は俺よりずっと機嫌が悪そうだった。俺達は暗闇に包まれたアパート全体に響くような足音を立てながら、肩を押しつけ合うように階段を上ったが、母さんはギャムレンが夜中だろうと明け方だろうと、ドタドタやかましく足音を立てて帰ってくるのにとっくに慣れっこになっていた。俺でさえ、叔父が俺の寝ている部屋を通って行く間もぐっすり眠れるようになっていた。

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34.ドゥマー市長、市議会改選の遅滞弁明

フェンリスの部屋は、彼の椅子の側に置かれたランプと暖炉で燃える石炭からの明かりで、ぼんやりと明るかった。冷え込む夜には皆、暖炉の火の側へと集まるのが普通で、明け方に山から降りてくる冷たい北東風に吹き払われるまで、カークウォールは濃い煙霧に包まれた。

テーブルの上には3本のワインが出ていて、2本は栓が開けられていたが、空になっているのは1本だけだった。グラスが2つ、それとペーパーバックが開いたまま表紙を上に置かれていて、ヴァリックの「サム・ファルコン」シリーズだと判った。彼はあのシリーズを山のように量産していた。

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